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第四章・興国の王女
321.水無月の思い出2
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「マクベスタも、その……とっても似合ってるわ」
話を逸らそうと、私は更に続ける。
「編み込みって言うの? そのヘアアレンジも素敵だわ。耳飾りもよく似合ってるし、服も淡い色合いで綺麗。本当にカッコイイよ、マクベスタ!」
やっぱり、こうして見ると彼は王子そのものだ。立ち居振る舞いと言い見た目といい。女の子の理想を一つずつ編みあげて完成させたような、理想の王子様のような人。
ここに百人女の子がいたならば、間違いなく九十人はマクベスタとの結婚などを夢見るであろう、眩しさである。
「……そっ、そうか。それは良かった。アミレスの気に召したようで何よりだ」
マクベスタが柔らかく目元を綻ばせ、ホッとしたように肩を撫で下ろした。
「実はこの髪型、カイルがしてくれたものなんだ。もののついでに頼んだら、本当にやってくれてな。あいつはやっぱり凄いよ……何でも出来て、本当に凄い奴だ。憎らしい程にな」
「へぇ、彼が。でも彼、今日は用事あるから結婚式は無理って言ってたのに」
「忙しい中、間を縫ってわざわざ来てくれたんだ。そして軽いセットと化粧だけしてすぐ飛んで帰ったよ」
「わあ、本当に忙しいのね、あいつ……」
マクベスタの魅力を更に上げるようなヘアアレンジだったから、まさかとは思ったが……本当にカイルが絡んでいた。
多分喜んでヘアアレンジしに来て、満足したから大人しく帰ったんだろうな。自分の才能の使い方を良く心得ているじゃないか、カイルめ。
「あっ、そうだ! ねぇマクベスタ。写真撮りましょ、写真!」
「写真……と言うと、あの一瞬で絵にするあの魔導具の事か」
「バドールとクラリスの思い出を残してあげたくて、実は持って来ていたの。後で皆で撮ると思うけど……せっかくおめかししてるんだから、二人でも撮りましょうよ」
カイル作の大容量ハンドバッグからおもむろに魔導具のカメラを取り出し、マクベスタも誘ってみる。
カイルから誕生日プレゼントにこれを貰ってからというものの、人に見られないよう気をつけつつ、皆の写真を撮ってきた。
そうしていると、皆もこのカメラの存在を知り、ファンタジー世界らしく誰もがその技術に驚いていた。
そんなかなり希少なカメラをわざわざ外に持ち出すなんて真似、普段ならしないのだが……今回は特別だ。だってバドールとクラリスの結婚式だもの!
「これ自撮り難しいのよね……マクベスタ、ちょっと屈んでもらってもいい?」
「っえ、あっ……う、うん。分かった」
マクベスタの腕を引っ張り、体を密着させる。このカメラ、自撮りそのものが難しい上に写る範囲が中々にシビアなので、複数人で写真を撮ろうとすると、こうしてくっつかないと駄目なのだ。
カシャッ、という音が鳴る。
程なくして撮られた写真がカメラから出てきたのだが──、
「ふふっ、ブレブレじゃないの」
「上手く撮れなかったんだな……なあ、アミレス。お互いに撮り合った方がいいんじゃないか?」
「そうね……どうせなら一緒に撮りたかったんだけどなぁ、仕方無いか。私には映える自撮りなんて撮れっこなかったみたい」
二人で肩をくっつけ合い、ブレて肝心の服がほとんど見えない写真を覗き込んでは、肩を窄める。すると、マクベスタがひょいとカメラを取ってはこちらに向けて、
「ほら、撮るぞ」
カシャッ、とさっそく写真を撮った。
半端な写真を残す事はアミレスへの失礼に当たる。だから可能な限りちゃんとした顔で写らないと。慌てて笑顔を作り、ついでに顔の横でピースも作ってみる。
出て来た写真に視線を落とし、マクベスタが柔らかく笑った。もしかして半目で写ったりしちゃった? と私が不安になる間も、マクベスタは楽しげに写真を見つめるだけで。
「それ、もしかして変に写ってる? それなら今すぐ捨てるから、渡してちょうだい」
「捨てるのか? なら……渡さない方がいいな」
「え、どうしてよ! 自分が不細工に写ってる写真なんて、誰も残したくないに決まってるでしょ?」
「全然不細工じゃないから安心しろ」
「じゃあなんで渡してくれないのよーっ!」
マクベスタが写真を持つ手を高く掲げやがったので、どれだけ背を伸ばしても写真には手が届かなかった。
くそぅ、この男……いつの間にかまた背が伸びてるじゃないの!!
全然届かない。ジャンプしたら届くかもしれないけど、反射神経が凄まじい彼にそれを見抜かれ、マクベスタにまでジャンプされたら結局届かない事だろう。
というか、どうして私の写真を持っておこうとするのよ。写りが悪い疑惑だってあるのに。
新手の嫌がらせかしら。
「はははっ、そう睨むな。大丈夫だよ──写真の中のお前も、凄く可愛いから」
花々の愛を集める太陽のような、明るく温かい笑顔。
ゲームで見た彼の笑顔ととても似ているのだけど、でもどこか、確実にゲームの彼とは違うその笑顔に……私の心は、形容し難いわだかまりを作り出した。
「……そんなの、当たり前じゃない。だってあのシルフが昔からずっと可愛いって言ってくれてたのよ? 私はとっても可愛いんだから」
何故か強く鼓動するそれを落ち着かせようと、私はなんとも自信過剰な台詞を吐く。紅茶に角砂糖の山を作るような、なんとも強気な行動だった。
「まあ、それはそうだな。お前は世界で一番可愛くて、世界で一番魅力的だよ。だから、この写真はオレが貰おうかなーと。だってお前は要らないんだろう?」
「要らない……というか、写りが悪いなら捨てるってだけで。そうじゃないなら捨てずに自分で持っておくわよ」
だから早く写真を渡しなさい、と手を出して圧をかける。しかしマクベスタは写真を持つ手を顎に当てて、ふむ……と悩む仕草を見せるだけだった。
「…………どうすれば、この写真をオレにくれるんだ?」
「え?」
「何か交換条件などがあるならば、言ってくれ。オレに叶えられる範囲ならば、お前の望むままに条件を飲もう」
「そこまでして私の写真が欲しいの?」
「ああ」
「もしかして、何か理由でもあるの?」
マクベスタは驚きの発言を繰り返した。あのマクベスタがここまで食い下がるという事は、もしやそれ相応の理由があるのでは……と、あいきゅーいちおくの私は気づいた。
どうやら図星だったらしい。マクベスタは少し肩を跳ねさせて、僅かに視線を泳がせた。やがて、彼は絞り出すように口を開いた。
「……そう、だな。あれだ、母上がな……久々に氷結の聖女様の顔を見たいと言っていたんだ。うん」
「貴方のお母さんが? うーん……まぁ、そういう事なら…………写真だって事は言わないでよ? そう言う絵だって事にしてね」
「っ! あぁ、了解した」
私が渋々了承すると、マクベスタは嬉しそうに頷いた。
お母さんに友達の顔が見たいって言われたら、そりゃあ確かに本人には言いづらいよね。そこに、写真っていうなんとも便利なものが舞い込めば……そりゃあ千載一遇の機と捉えるだろう。
最初からそう言ってくれたら良かったのに。そう思いながら呆れ半分に見つめた彼の顔は、喜色に満ちていた。
話を逸らそうと、私は更に続ける。
「編み込みって言うの? そのヘアアレンジも素敵だわ。耳飾りもよく似合ってるし、服も淡い色合いで綺麗。本当にカッコイイよ、マクベスタ!」
やっぱり、こうして見ると彼は王子そのものだ。立ち居振る舞いと言い見た目といい。女の子の理想を一つずつ編みあげて完成させたような、理想の王子様のような人。
ここに百人女の子がいたならば、間違いなく九十人はマクベスタとの結婚などを夢見るであろう、眩しさである。
「……そっ、そうか。それは良かった。アミレスの気に召したようで何よりだ」
マクベスタが柔らかく目元を綻ばせ、ホッとしたように肩を撫で下ろした。
「実はこの髪型、カイルがしてくれたものなんだ。もののついでに頼んだら、本当にやってくれてな。あいつはやっぱり凄いよ……何でも出来て、本当に凄い奴だ。憎らしい程にな」
「へぇ、彼が。でも彼、今日は用事あるから結婚式は無理って言ってたのに」
「忙しい中、間を縫ってわざわざ来てくれたんだ。そして軽いセットと化粧だけしてすぐ飛んで帰ったよ」
「わあ、本当に忙しいのね、あいつ……」
マクベスタの魅力を更に上げるようなヘアアレンジだったから、まさかとは思ったが……本当にカイルが絡んでいた。
多分喜んでヘアアレンジしに来て、満足したから大人しく帰ったんだろうな。自分の才能の使い方を良く心得ているじゃないか、カイルめ。
「あっ、そうだ! ねぇマクベスタ。写真撮りましょ、写真!」
「写真……と言うと、あの一瞬で絵にするあの魔導具の事か」
「バドールとクラリスの思い出を残してあげたくて、実は持って来ていたの。後で皆で撮ると思うけど……せっかくおめかししてるんだから、二人でも撮りましょうよ」
カイル作の大容量ハンドバッグからおもむろに魔導具のカメラを取り出し、マクベスタも誘ってみる。
カイルから誕生日プレゼントにこれを貰ってからというものの、人に見られないよう気をつけつつ、皆の写真を撮ってきた。
そうしていると、皆もこのカメラの存在を知り、ファンタジー世界らしく誰もがその技術に驚いていた。
そんなかなり希少なカメラをわざわざ外に持ち出すなんて真似、普段ならしないのだが……今回は特別だ。だってバドールとクラリスの結婚式だもの!
「これ自撮り難しいのよね……マクベスタ、ちょっと屈んでもらってもいい?」
「っえ、あっ……う、うん。分かった」
マクベスタの腕を引っ張り、体を密着させる。このカメラ、自撮りそのものが難しい上に写る範囲が中々にシビアなので、複数人で写真を撮ろうとすると、こうしてくっつかないと駄目なのだ。
カシャッ、という音が鳴る。
程なくして撮られた写真がカメラから出てきたのだが──、
「ふふっ、ブレブレじゃないの」
「上手く撮れなかったんだな……なあ、アミレス。お互いに撮り合った方がいいんじゃないか?」
「そうね……どうせなら一緒に撮りたかったんだけどなぁ、仕方無いか。私には映える自撮りなんて撮れっこなかったみたい」
二人で肩をくっつけ合い、ブレて肝心の服がほとんど見えない写真を覗き込んでは、肩を窄める。すると、マクベスタがひょいとカメラを取ってはこちらに向けて、
「ほら、撮るぞ」
カシャッ、とさっそく写真を撮った。
半端な写真を残す事はアミレスへの失礼に当たる。だから可能な限りちゃんとした顔で写らないと。慌てて笑顔を作り、ついでに顔の横でピースも作ってみる。
出て来た写真に視線を落とし、マクベスタが柔らかく笑った。もしかして半目で写ったりしちゃった? と私が不安になる間も、マクベスタは楽しげに写真を見つめるだけで。
「それ、もしかして変に写ってる? それなら今すぐ捨てるから、渡してちょうだい」
「捨てるのか? なら……渡さない方がいいな」
「え、どうしてよ! 自分が不細工に写ってる写真なんて、誰も残したくないに決まってるでしょ?」
「全然不細工じゃないから安心しろ」
「じゃあなんで渡してくれないのよーっ!」
マクベスタが写真を持つ手を高く掲げやがったので、どれだけ背を伸ばしても写真には手が届かなかった。
くそぅ、この男……いつの間にかまた背が伸びてるじゃないの!!
全然届かない。ジャンプしたら届くかもしれないけど、反射神経が凄まじい彼にそれを見抜かれ、マクベスタにまでジャンプされたら結局届かない事だろう。
というか、どうして私の写真を持っておこうとするのよ。写りが悪い疑惑だってあるのに。
新手の嫌がらせかしら。
「はははっ、そう睨むな。大丈夫だよ──写真の中のお前も、凄く可愛いから」
花々の愛を集める太陽のような、明るく温かい笑顔。
ゲームで見た彼の笑顔ととても似ているのだけど、でもどこか、確実にゲームの彼とは違うその笑顔に……私の心は、形容し難いわだかまりを作り出した。
「……そんなの、当たり前じゃない。だってあのシルフが昔からずっと可愛いって言ってくれてたのよ? 私はとっても可愛いんだから」
何故か強く鼓動するそれを落ち着かせようと、私はなんとも自信過剰な台詞を吐く。紅茶に角砂糖の山を作るような、なんとも強気な行動だった。
「まあ、それはそうだな。お前は世界で一番可愛くて、世界で一番魅力的だよ。だから、この写真はオレが貰おうかなーと。だってお前は要らないんだろう?」
「要らない……というか、写りが悪いなら捨てるってだけで。そうじゃないなら捨てずに自分で持っておくわよ」
だから早く写真を渡しなさい、と手を出して圧をかける。しかしマクベスタは写真を持つ手を顎に当てて、ふむ……と悩む仕草を見せるだけだった。
「…………どうすれば、この写真をオレにくれるんだ?」
「え?」
「何か交換条件などがあるならば、言ってくれ。オレに叶えられる範囲ならば、お前の望むままに条件を飲もう」
「そこまでして私の写真が欲しいの?」
「ああ」
「もしかして、何か理由でもあるの?」
マクベスタは驚きの発言を繰り返した。あのマクベスタがここまで食い下がるという事は、もしやそれ相応の理由があるのでは……と、あいきゅーいちおくの私は気づいた。
どうやら図星だったらしい。マクベスタは少し肩を跳ねさせて、僅かに視線を泳がせた。やがて、彼は絞り出すように口を開いた。
「……そう、だな。あれだ、母上がな……久々に氷結の聖女様の顔を見たいと言っていたんだ。うん」
「貴方のお母さんが? うーん……まぁ、そういう事なら…………写真だって事は言わないでよ? そう言う絵だって事にしてね」
「っ! あぁ、了解した」
私が渋々了承すると、マクベスタは嬉しそうに頷いた。
お母さんに友達の顔が見たいって言われたら、そりゃあ確かに本人には言いづらいよね。そこに、写真っていうなんとも便利なものが舞い込めば……そりゃあ千載一遇の機と捉えるだろう。
最初からそう言ってくれたら良かったのに。そう思いながら呆れ半分に見つめた彼の顔は、喜色に満ちていた。
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