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第四章・興国の王女
311,5.赤熊の百合 番外編
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「あー、マジで疲れた……殿下も急にガキみたいに暴れやがって…………」
王女殿下達が帰った後、ディオは椅子にどっかりと座り、酒を飲んだ後のような乾いた声を漏らしては天井を仰いでいた。
突然、王女殿下が執事のルティさんと一緒に逃走したので、俺達全員がその捕獲に駆り出された。シルフ様とララルス侯爵とシャンパージュ嬢による指示は的確で、何度か惜しい所まで行ったのだが……結果は奮わず、毎度ルティさんには逃げられてしまった。
時間にして一時間近く彼等を追いかける羽目になり、いくら鍛えたと言っても俺達はもうボロボロ。ユーキと俺なんか割と早い段階で脱落してしまったからね。
結局、野生の勘でジェジが王女殿下を発見し、『へへ、捕まっちゃった』と笑う彼女をシルフ様達の元に連行してこの逃走劇は終幕。
街中を走らされたディオは頬に青筋を浮かべて王女殿下に詰め寄っていた。イリオーデやマクベスタ王子はと言うと、何故か王女殿下ではなくルティさんに詰問していたな。
……それにしても、本当に見れば見る程ルティさんはサラに似てたなぁ。俺含め、サラを知る面々は皆初めて会った時なんかめちゃくちゃ驚いてたし。
笑った顔やムスッとした顔がサラそっくりで、見ててとても懐かしくなった。サラは今頃どこで何をしているのか…………元気なら連絡の一つでも寄こしてくれたらいいのに。
話を戻そうか。激しく疲労した夕方を経て、今は夜。晩御飯を食べようかとディオの家に皆で集まっていたのである。
「でも楽しかったじゃないか。昔、クラリスの父親から皆で逃げ回ったのを思い出したぞ」
「あっ、こらシャル! その事は忘れなさいよ! あんなクソ野郎の事なんか!!」
シャルが懐かしい思い出を話題に挙げると、すぐさまクラリスは目を釣り上げて食ってかかった。そんなクラリスを宥めるように、バドールが「まぁまぁ」と優しく語りかけていた。
その後、バドールとユーキが作ってくれた晩御飯を皆で食べて、時刻は夜の十一時。
寝る前に少し話があったので、ディオの姿を捜していたのだけど……家の中にはなかった。外かな、と思い捜しに出て数分とかだろうか。
あの空き地に、ディオはいた。
俺達が初めて会った場所。親も兄弟もいない俺達が身を寄せあい偽物の家族になった場所。俺達の始まりの場所。
あの日と同じように。古びたベンチに座って、ディオは月を見上げていた。
「ディオ、こんな時間に何してるの?」
「ん、ラークか。ちょっとバドールとクラリスの事で色々と考え事してた」
相変わらず世話焼きだな、と苦笑しながら彼の隣に座る。
「バドールの奴、俺達があれだけお膳立てしてやったのに、それに全然気付かずチャンスを何度も逃すからなぁ。いつになったらクラリスに求婚するつもりなんだろうね、あいつ」
「シュヴァルツからこの仕事言い渡されて、もうかれこれ半年近く経ってんのにな。未だ進捗はなし! 俺達は一体いつになったらこのお膳立て係を卒業出来んだァ?」
ガシガシと頭を掻き乱すディオを見て、乾いた笑いが漏れ出てしまった。
一生懸命、バドールとクラリスの為に皆で作戦を立てたり後押ししたり。確かにこの半年は慣れない事を沢山して来たなーと、ふと思い出し笑いをしてしまったのだ。
「バドールもここまで来るとわざとなんじゃないかって疑うぐらいだよね。『ランディグランジュ領の式場を押さえる準備は出来てるから、いつでもオーケイ!』って王女殿下には言われてるけど……それ以前の問題なんだよなあ」
「つぅーか、あの人は何でそんなにバドールとクラリスの結婚に前のめりなんだよ……たまに、『好きな人いないの?』とか『さぞモテてるんでしょ~~』とか言って来るが、あの人も年頃のガキらしく恋愛ごとに興味あんのかねェ……?」
はぁ……と大きなため息をつくディオに、ふと疑問を投げかける。
「じゃあ、そう言うディオはどうなの? ディオは恋愛ごとに興味あったりする?」
眼帯で隠されていない、彼の濃紺色の瞳が見開かれる。全く予想外の質問に、かなり戸惑っているようだ。ディオは気まずそうに視線を泳がせて、
「…………興味ねぇよ。んな余裕だってねぇし」
何とも聞き取りずらい、木々のさざめきに掻き消される程の小声で答えた。
昔から子供達の事ばかり考えて、働いたり鍛えたりとそればかりにかまけてきたディオらしい答えだった。せっかく容姿も良い方で女にモテる感じの……なんて言うの、ワイルド? な雰囲気に成長したのに。
本人がこれだからなぁ……まぁ、そこがディオらしいと言えばディオらしいんだけども。
「何笑ってんだよ。つぅかお前こそどうなんだ? 女の誘い断る時、いっつも好きな人がいるから~~とか言ってるだろ、お前」
フフッ、と笑っていたのをディオに見られたらしい。ディオはそれに気を悪くしたようで、俺の横腹を小突いてはわざとらしく話を振ってきた。
どうやら、これ以上は触れて欲しくないのだろう。ホント……見かけによらず純粋なんだから。
「返答によっては街の女共が騒ぎ出すぜ?」
どこか冗談交じりに彼は問うてくる。まるで、まだ俺に逃げ道を残してくれているかのように。
だからこそ、俺は。
不器用なこの優しい男に、これ以上嘘をつきたくない。
「……いるよ。もうずっと、昔から」
「……え? マジで?」
ディオが狐につままれたような顔をする。
「しつこく聞いといて、そんなに意外?」
「いや、だって……そんな素振り無かったろ、お前」
「はは。じゃあそれだけ俺の演技力が高かったって事だ」
「~~~あぁもうっ、それって俺の知ってる奴か?」
お菓子を没収された時のメアリーとシアンのように、ディオはどこか拗ねたような言い方をした。
「まあ、そうだね。というかどうしたの? もしかして……俺が秘密にしてたからって拗ねてるの?」
自然と綻んだ口元を律して、俺は話を続ける。ディオはギクリ、と肩を跳ねさせて視線を僅かに泳がせる。
「別に、拗ねてなんかねーし。お前が俺の知らねー所で恋愛してようが? 俺には関係ねーし」
そして開き直ったかのように、ディオは文句を垂れるようになった。ちなみにこれは、五割ぐらい機嫌が悪い時の兆候である。
図星だったらしい。相変わらず、こういう所は子供みたいだ。
「それはどうか分からないよ?」
「はあ? どういう事なんだ?」
ディオは訝しげに眉を顰めた。
今にもちぎれてしまいそうなぐらい痛む心臓。もう、今この時この鼓動が止まってしまってもいい。だからせめて、これだけは俺自身の口から伝えておきたかった。
「だって、俺が昔からずっと好きなのは──……他でもない君だから」
ああ、言ってしまった。
本当は言うつもりのなかったのに。シャンパージュ嬢のひたむきな恋心に触発されて、勢いのままここまで来てしまった。
……もう、後戻りは出来ないな。
かつてない程に目を点にして、あんぐりと口を開いているディオを見て、俺は来る所まで来てしまった事を強く実感した。
「え、っと……つまり、あれか。お前が、俺を……好きと。それは、あのー…………キスしたいだの、そういう意味合いで?」
正直、否定されたり嫌悪される覚悟もあった。
だけどディオは……明らかに動揺しながらも一つずつゆっくりと丁寧に噛み砕いて、理解しようと務めてくれていた。
それが本当に嬉しくて、そんなディオだからこそ好きになったんだ。と腹の底から湧き上がるような喜びと愛おしさに目頭が熱くなってきた。
「方向性で言えば、その通りかな。でも俺はこれまでずっと気持ちを隠し通して来たんだよ? そういった欲は今の所、特に無いかな」
「なる、ほど。ぁー……これ、どう反応すりゃいいんだァ……?」
これは心から困惑している時の表情だ。
「…………なァ、ラーク。正直、俺、今どうしたら分かんねぇんだ」
「……うん」
ディオが真剣な声音で口を切ったから、俺も真剣にその話を聞く。膝の上で作った握り拳が、僅かに震えているけれど……それすらも気にならないぐらい、ディオの言葉に集中していた。
「男が好きだって言うのに偏見はないが……それでもいざ告白までされて、俺も今まで通りに出来る程無神経じゃねぇよ。だから悪ぃ、今まで通りにお前に接する事は……多分、無理だ」
「……大丈夫だよ。最初から覚悟してたから」
突然告白して困らせているのは俺なのに、ディオはあまりにも誠実だった。眩い程に誠実なディオの姿に、俺は告白した事への罪悪感を覚える。
こんなにも良い奴なのに。こんなにも、いい人なのに。俺の身勝手な気持ちの所為で困惑し懊悩する羽目になってしまっている。
それが凄く、申し訳なかった。
「だから頼む、時間をくれ。色々と整理する時間と、お前の気持ちにちゃんと答えを出す為の時間。今の俺には、家族だから無理……って答えしか出せねぇ。でもそれだとお前に失礼だろ。だからちゃんと、お前の事を考えて答えを出す為の時間をくれ」
ディオは真剣な目でそう言い切った。
どう考えても、気持ち悪いだとかで一蹴した方が楽なのに。それでもディオは、そうやっていつも、相手の事ばかり考えて行動するよね。
どこまでも誠実で、優しくて、不器用なその言葉に──視界が潤み、声が震える。
「~~っ、ほん……とに、そういうとこだぞ、ディオぉ……っ!!」
みっともなく泣き出す俺を、ディオはギョッとしたような顔で慌てて宥めようとする。
「ちょ、泣くなって何歳だよお前!」
「にっ……じゅ、ご……」
「ああそうだな同い歳だな!!」
「おれ、だって、はっさいとかの……ときから、ディオのこど、すき…………だっら、がら……っ」
「八歳?! おま──はちっ、え?! 何年…………ちょ、え?!?!」
何で告白した時より驚いているんだ。昔からずっと好きだったって言っただろ。
あーそうだよ、十七年近くずっと、ディオに片想いしてたんだよ俺は! くそっ、そんなに驚く事か!!
……なんて、脳内で喧嘩腰になっても意味は無い。意味は無いって分かってるんだけど、思わずにはいられない。
……──やっぱり。どうしようもないくらい、この不器用な男が大好きなんだな、俺は。
王女殿下達が帰った後、ディオは椅子にどっかりと座り、酒を飲んだ後のような乾いた声を漏らしては天井を仰いでいた。
突然、王女殿下が執事のルティさんと一緒に逃走したので、俺達全員がその捕獲に駆り出された。シルフ様とララルス侯爵とシャンパージュ嬢による指示は的確で、何度か惜しい所まで行ったのだが……結果は奮わず、毎度ルティさんには逃げられてしまった。
時間にして一時間近く彼等を追いかける羽目になり、いくら鍛えたと言っても俺達はもうボロボロ。ユーキと俺なんか割と早い段階で脱落してしまったからね。
結局、野生の勘でジェジが王女殿下を発見し、『へへ、捕まっちゃった』と笑う彼女をシルフ様達の元に連行してこの逃走劇は終幕。
街中を走らされたディオは頬に青筋を浮かべて王女殿下に詰め寄っていた。イリオーデやマクベスタ王子はと言うと、何故か王女殿下ではなくルティさんに詰問していたな。
……それにしても、本当に見れば見る程ルティさんはサラに似てたなぁ。俺含め、サラを知る面々は皆初めて会った時なんかめちゃくちゃ驚いてたし。
笑った顔やムスッとした顔がサラそっくりで、見ててとても懐かしくなった。サラは今頃どこで何をしているのか…………元気なら連絡の一つでも寄こしてくれたらいいのに。
話を戻そうか。激しく疲労した夕方を経て、今は夜。晩御飯を食べようかとディオの家に皆で集まっていたのである。
「でも楽しかったじゃないか。昔、クラリスの父親から皆で逃げ回ったのを思い出したぞ」
「あっ、こらシャル! その事は忘れなさいよ! あんなクソ野郎の事なんか!!」
シャルが懐かしい思い出を話題に挙げると、すぐさまクラリスは目を釣り上げて食ってかかった。そんなクラリスを宥めるように、バドールが「まぁまぁ」と優しく語りかけていた。
その後、バドールとユーキが作ってくれた晩御飯を皆で食べて、時刻は夜の十一時。
寝る前に少し話があったので、ディオの姿を捜していたのだけど……家の中にはなかった。外かな、と思い捜しに出て数分とかだろうか。
あの空き地に、ディオはいた。
俺達が初めて会った場所。親も兄弟もいない俺達が身を寄せあい偽物の家族になった場所。俺達の始まりの場所。
あの日と同じように。古びたベンチに座って、ディオは月を見上げていた。
「ディオ、こんな時間に何してるの?」
「ん、ラークか。ちょっとバドールとクラリスの事で色々と考え事してた」
相変わらず世話焼きだな、と苦笑しながら彼の隣に座る。
「バドールの奴、俺達があれだけお膳立てしてやったのに、それに全然気付かずチャンスを何度も逃すからなぁ。いつになったらクラリスに求婚するつもりなんだろうね、あいつ」
「シュヴァルツからこの仕事言い渡されて、もうかれこれ半年近く経ってんのにな。未だ進捗はなし! 俺達は一体いつになったらこのお膳立て係を卒業出来んだァ?」
ガシガシと頭を掻き乱すディオを見て、乾いた笑いが漏れ出てしまった。
一生懸命、バドールとクラリスの為に皆で作戦を立てたり後押ししたり。確かにこの半年は慣れない事を沢山して来たなーと、ふと思い出し笑いをしてしまったのだ。
「バドールもここまで来るとわざとなんじゃないかって疑うぐらいだよね。『ランディグランジュ領の式場を押さえる準備は出来てるから、いつでもオーケイ!』って王女殿下には言われてるけど……それ以前の問題なんだよなあ」
「つぅーか、あの人は何でそんなにバドールとクラリスの結婚に前のめりなんだよ……たまに、『好きな人いないの?』とか『さぞモテてるんでしょ~~』とか言って来るが、あの人も年頃のガキらしく恋愛ごとに興味あんのかねェ……?」
はぁ……と大きなため息をつくディオに、ふと疑問を投げかける。
「じゃあ、そう言うディオはどうなの? ディオは恋愛ごとに興味あったりする?」
眼帯で隠されていない、彼の濃紺色の瞳が見開かれる。全く予想外の質問に、かなり戸惑っているようだ。ディオは気まずそうに視線を泳がせて、
「…………興味ねぇよ。んな余裕だってねぇし」
何とも聞き取りずらい、木々のさざめきに掻き消される程の小声で答えた。
昔から子供達の事ばかり考えて、働いたり鍛えたりとそればかりにかまけてきたディオらしい答えだった。せっかく容姿も良い方で女にモテる感じの……なんて言うの、ワイルド? な雰囲気に成長したのに。
本人がこれだからなぁ……まぁ、そこがディオらしいと言えばディオらしいんだけども。
「何笑ってんだよ。つぅかお前こそどうなんだ? 女の誘い断る時、いっつも好きな人がいるから~~とか言ってるだろ、お前」
フフッ、と笑っていたのをディオに見られたらしい。ディオはそれに気を悪くしたようで、俺の横腹を小突いてはわざとらしく話を振ってきた。
どうやら、これ以上は触れて欲しくないのだろう。ホント……見かけによらず純粋なんだから。
「返答によっては街の女共が騒ぎ出すぜ?」
どこか冗談交じりに彼は問うてくる。まるで、まだ俺に逃げ道を残してくれているかのように。
だからこそ、俺は。
不器用なこの優しい男に、これ以上嘘をつきたくない。
「……いるよ。もうずっと、昔から」
「……え? マジで?」
ディオが狐につままれたような顔をする。
「しつこく聞いといて、そんなに意外?」
「いや、だって……そんな素振り無かったろ、お前」
「はは。じゃあそれだけ俺の演技力が高かったって事だ」
「~~~あぁもうっ、それって俺の知ってる奴か?」
お菓子を没収された時のメアリーとシアンのように、ディオはどこか拗ねたような言い方をした。
「まあ、そうだね。というかどうしたの? もしかして……俺が秘密にしてたからって拗ねてるの?」
自然と綻んだ口元を律して、俺は話を続ける。ディオはギクリ、と肩を跳ねさせて視線を僅かに泳がせる。
「別に、拗ねてなんかねーし。お前が俺の知らねー所で恋愛してようが? 俺には関係ねーし」
そして開き直ったかのように、ディオは文句を垂れるようになった。ちなみにこれは、五割ぐらい機嫌が悪い時の兆候である。
図星だったらしい。相変わらず、こういう所は子供みたいだ。
「それはどうか分からないよ?」
「はあ? どういう事なんだ?」
ディオは訝しげに眉を顰めた。
今にもちぎれてしまいそうなぐらい痛む心臓。もう、今この時この鼓動が止まってしまってもいい。だからせめて、これだけは俺自身の口から伝えておきたかった。
「だって、俺が昔からずっと好きなのは──……他でもない君だから」
ああ、言ってしまった。
本当は言うつもりのなかったのに。シャンパージュ嬢のひたむきな恋心に触発されて、勢いのままここまで来てしまった。
……もう、後戻りは出来ないな。
かつてない程に目を点にして、あんぐりと口を開いているディオを見て、俺は来る所まで来てしまった事を強く実感した。
「え、っと……つまり、あれか。お前が、俺を……好きと。それは、あのー…………キスしたいだの、そういう意味合いで?」
正直、否定されたり嫌悪される覚悟もあった。
だけどディオは……明らかに動揺しながらも一つずつゆっくりと丁寧に噛み砕いて、理解しようと務めてくれていた。
それが本当に嬉しくて、そんなディオだからこそ好きになったんだ。と腹の底から湧き上がるような喜びと愛おしさに目頭が熱くなってきた。
「方向性で言えば、その通りかな。でも俺はこれまでずっと気持ちを隠し通して来たんだよ? そういった欲は今の所、特に無いかな」
「なる、ほど。ぁー……これ、どう反応すりゃいいんだァ……?」
これは心から困惑している時の表情だ。
「…………なァ、ラーク。正直、俺、今どうしたら分かんねぇんだ」
「……うん」
ディオが真剣な声音で口を切ったから、俺も真剣にその話を聞く。膝の上で作った握り拳が、僅かに震えているけれど……それすらも気にならないぐらい、ディオの言葉に集中していた。
「男が好きだって言うのに偏見はないが……それでもいざ告白までされて、俺も今まで通りに出来る程無神経じゃねぇよ。だから悪ぃ、今まで通りにお前に接する事は……多分、無理だ」
「……大丈夫だよ。最初から覚悟してたから」
突然告白して困らせているのは俺なのに、ディオはあまりにも誠実だった。眩い程に誠実なディオの姿に、俺は告白した事への罪悪感を覚える。
こんなにも良い奴なのに。こんなにも、いい人なのに。俺の身勝手な気持ちの所為で困惑し懊悩する羽目になってしまっている。
それが凄く、申し訳なかった。
「だから頼む、時間をくれ。色々と整理する時間と、お前の気持ちにちゃんと答えを出す為の時間。今の俺には、家族だから無理……って答えしか出せねぇ。でもそれだとお前に失礼だろ。だからちゃんと、お前の事を考えて答えを出す為の時間をくれ」
ディオは真剣な目でそう言い切った。
どう考えても、気持ち悪いだとかで一蹴した方が楽なのに。それでもディオは、そうやっていつも、相手の事ばかり考えて行動するよね。
どこまでも誠実で、優しくて、不器用なその言葉に──視界が潤み、声が震える。
「~~っ、ほん……とに、そういうとこだぞ、ディオぉ……っ!!」
みっともなく泣き出す俺を、ディオはギョッとしたような顔で慌てて宥めようとする。
「ちょ、泣くなって何歳だよお前!」
「にっ……じゅ、ご……」
「ああそうだな同い歳だな!!」
「おれ、だって、はっさいとかの……ときから、ディオのこど、すき…………だっら、がら……っ」
「八歳?! おま──はちっ、え?! 何年…………ちょ、え?!?!」
何で告白した時より驚いているんだ。昔からずっと好きだったって言っただろ。
あーそうだよ、十七年近くずっと、ディオに片想いしてたんだよ俺は! くそっ、そんなに驚く事か!!
……なんて、脳内で喧嘩腰になっても意味は無い。意味は無いって分かってるんだけど、思わずにはいられない。
……──やっぱり。どうしようもないくらい、この不器用な男が大好きなんだな、俺は。
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