だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

306.青い星を君へ5

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「それじゃあ、もしかして今日は一日ハイラとメイシアと一緒にいられるの? 暫く会えてなかったから嬉しいわ!」

 侯爵になったハイラと、次期伯爵のメイシア。私だって王女だし、全員責任や常々仕事が伴う立場なので中々昔のように過ごす事が叶わなかった。
 だから、こうして久々に訪れたチャンスに私は思わず、プレゼントを貰った子供のように喜んでしまった。
 私の言葉に、ハイラとメイシアの表情が固まる。そして何か考え込むように俯いた。

「違うよ、おねぇちゃん。ハイラとメイシアは忙し──……」

 そんな二人を尻目にシュヴァルツが口を開いた途端、

「姫様! 私も、久方ぶりに姫様と一日を共に出来る事がとても嬉しく思います」
「是非、わたし達もアミレス様の視察に同行させてください!」

 ハイラがシュヴァルツの口を勢いよく塞ぎ、にこやかに捲し立てた。それに続くように、メイシアはこちらに駆け寄って来ては私の手を取り、笑顔を作る。
 ハイラによって口を塞がれているシュヴァルツが、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしているのが少し気になるが……まあいいや。メイシアとハイラと久々に一緒に過ごせるんだから!

「……ねぇハイラ。忙しいんじゃなかったの」
「……姫様があのような表情であんなにも可愛いらしい事を仰っているのに、仕事などしてられません」
「お前等ほんとにブレねぇな。てかそろそろコレ、離してよ」
「ああすみません。余計な事を喋りそうだったので」

 遠くでハイラとシュヴァルツがコソコソと話している。その詳しい内容は分からないのだけど、シュヴァルツの目がジトーっとしているので、あまりいい内容ではない事だけは分かる。

「恋する女ってやっぱ怖いな……」
「確かに怖いね……勢いが」

 カイルが何かを呟いたかと思えば、それに同意するかのように隣でシルフが頷いている。その様子を眺めていると、メイシアがくいっと私の手を引っ張って。

「あの、アミレス様。視察はいつ頃からですか?」
「えっと、確かー……」
「昼過ぎからの予定です」
「だそうよ。昼過ぎから西部地区に向かう予定ね」

 いつからだったかと言い淀んでいた時、アルベルトがスっと横から入って来ては要点だけ告げて、静かにまた後ろに控える。

「そうですか。では、わたしは現地集合という事にさせていただいてもいいですか? 少し、片付けなければならない仕ご…………いえ、準備がありまして!」
「そうなの? 護衛とかそういうのもあるだろうし、昼過ぎに迎えに行こうか? 私はイリオーデとルティを連れて行くだろうから、戦力なら十分貸せるわよ」
「アミレス様直々にお迎えだなんて……! そんな、申し訳ないです」
「いいのよそんなの気にしなくて。正直なところ、私が少しでも多くメイシア達と一緒にいたいだけだもの」
「……っ!?」

 それに戦力なら私だって自信がある。万が一にもメイシアを危険な目に遭わせるような事態にはならないだろう。
 だから安心して欲しい。申し訳ないとか思わず、どんどん私を使ってちょうだいな。

「あ、アミレス様はいつもそう……っ、わたしをどれだけめちゃくちゃにすれば気が済むんですかぁ……!」

 急にどうしたのかしら、この子。耳まで真っ赤にして、頬に両手を当てて……いや、凄く可愛いんだけども。
 すると、メイシアが少し潤んだ大きな瞳で熱っぽくこちらを見上げて来た。錯覚だと思うが、一瞬彼女の瞳孔がハート型に輝いているように見えた。
 十中八九気の所為だけれど、それ程にメイシアの表情が恋する乙女のようだったんだと言えば分かってもらえるだろうか。

「私、何かしてしまったかしら?」
「うぅ……自覚が無いのが恐ろしいです……」

 メイシアはうっとりしたような顔で、批判なのか褒め言葉なのかよく分からない呟きを零す。
 自覚? と首を傾げていた時、ひょこっとマクベスタがやって来て。

「話の途中ですまない。アミレス、もし良かったらオレも今日は一緒に行動してもいいだろうか? 前に西部地区に行ったのは半年近く前だから……オレも、西部地区がどうなっているのか気になるんだ」
「勿論いいよ。マクベスタと出かけるのも何だか久しぶりね。最近特訓も一緒に出来てなくて、ちょっと寂しかったのよ」
「…………すまん。オレの実力では、お前の相手など務まらないからな。暫し自主練習をして、もう少し実力がついてからと思っていたんだ」
「そんな事ないわよ。貴方はとっても強いんだから! 何回も言うようで、耳にタコが出来てしまってそうだけど……貴方はいずれ確実に兄様以上の最強の剣士になれるんだから。そう自分を卑下しすぎるのもどうかと思うわ」

 マクベスタは目を丸くして、その直後、嬉しそうに目元を綻ばせた。

「お前がそこまで言ってくれるのなら、もっと頑張らないとな」

 左手を愛剣の柄に乗せ、右手を口の前に置いて彼はくしゃりと笑った。ゲームでも見たマクベスタの仕草と表情に、私とカイルはやや興奮気味になる。
 だがここでふと思う。最近……というか数ヶ月前から、マクベスタの雰囲気が何だか少し変わった気がする。
 元々彼はそこまで表情豊かな訳ではないのに、最近は目が合う度に優しく笑いかけてくるし、以前よりも社交的になっているように思える。それ自体はとてもいい事だし、マクベスタももう十六歳だもんね、大人になったんだなあ。と思っていたのだけど。
 なんというか……こう、何かが違うのよね。違和感っていうの? ミステリアスというか、影がある感じというか。
 まあ、マクベスタ自身は元々薄らと影のあるキャラクターだからそれ自体はおかしくない。でも彼の闇部分になる筈だった祖国オセロマイトの滅亡は私が阻止したから、マクベスタは純粋無垢な明るいキャラクターになった訳だ。
 じゃあなんで、今目の前にいるマクベスタはこんなに変な感じなんだろう。

「……ねぇ、マクベスタ。もしかして何かあっ──」

 どうしてもこの疑問が胸につっかえるので、マクベスタに話を聞こうとしたのだが、そこでシュヴァルツの声に阻まれて。

「メイシアー、一旦帰るならそろそろ送るけどぉ」
「あ、えっと。それではアミレス様、またお昼頃に!」

 シュヴァルツに名前を呼ばれ、メイシアがぺこりと頭を下げて踵を返す。
 メイシアと共にハイラとディオも一旦帰るようで、シュヴァルツが瞬間転移で三人を送りに行った。
 まあ、マクベスタはまだすぐそばにいるのだから、聞き直せばいいかと思ってマクベスタを見上げる。彼はすぐに私の視線に気づいたようで、柔らかく微笑んだ。

「ねぇ、マクベスタ。最近何か変な事とかあった?」
「変な事? また随分と唐突だな……特に無いが、どうかしたのか?」
「……ううん、何でもない」

 マクベスタは至っていつも通りだった。それが何だか、酷く歪で……疑いは晴れないまま、私の中に残り続ける。
 この違和感は何なのだろう。そう思いじっとマクベスタの顔を見つめていたら、マクベスタが何かに気づいたように目を少し見開いて、

「少し目を閉じてくれないか、アミレス」

 目と鼻の先まで顔を近づけて来た。それに少しドキッとしながらも、戸惑いつつ言われた通りにぎゅっと目蓋を閉じる。
 一体何なんだ急に! 何なんだろうかこの乙女ゲームみたいなシチュエーションは!
 目を閉じているから何が起きようとしているのか全く分からない状況で、恋愛経験皆無の私はいたずらに鼓動を早くする。
 こんな状況で有り得るシチュエーションを、なけなしの乙女ゲーム知識から必死に引っ張り出しては、更に鼓動を早くした。

「…………よし、取れたぞ。もう目を開けても構わないよ」

 温かいものが目の辺りに触れたかと思えば、彼の声が遠ざかる。恐る恐る目を開くと、マクベスタの指には小さい光がキラリと見えて。

「目の横に睫毛がついていたんだ。突然目を閉じろだなんて言って、困惑させて悪かったな」
「あ、そ……そうなんだ。どうもありがとう……」

 ドキドキしたのが申し訳無くなるぐらい、親切な理由だった。というかよく気づいたわね。私の髪って結構不透明度が低めだから、光を受けたりしないと肌についた睫毛なんてそうそう見えないと思うのだけど。
 最強の剣士になる予定の男はやっぱり違うわ~~。

「それじゃあ、昼前までにオレも自分の用事を片付けておくよ」
「ああうん。分かったわ、また後で」

 マクベスタがそそくさと部屋を後にすると、その背中を追うようにカイルも出て行った。ナトラも「我も仕事に戻るかのぅ」と呟いて、掃除に向かったようだ。
 そうして。部屋には私とセツ、シルフとイリオーデとアルベルトが残った。
 そこで気づく。シルフがめっちゃ不機嫌。腕を組み唇を尖らせて、ボクは不機嫌ですと顔に書いている。
 そのままススス……と静かにこちらに近寄って来ては、背後から両腕でしっかりとホールドされた。

「──ボクも行く。絶対にボクもついていくからね」
「え? でもシルフが街を歩けば流石にめだ……」
「ついていくもん。絶対、何が何でもついていくから」
「いや絶対目立つ……」
「ついていくから!」

 まるで幼い子供のようにシルフが駄々をこねる。何がそんなに気に障ったのか、シルフはこんな感じで暫くの間ワガママモードだった。
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