だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

279.戦いの前に3

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「確か私は、この戦いはあくまでもこれは目的の為の手段の一つに過ぎないから、出来る限り怪我人が出ないようにしよう……って言ってたじゃない?」
「ンなの絶対無理だろって言った覚えがあるな」

 ヘブンの言葉に、うんうんと首を縦に振る面々。

「あれ、やめる事にしたわ。こんなのお門違いの八つ当たりだと思うけれど、ここの人達には死なない程度に痛い目に遭って欲しいの」

 領民達のレオとローズへの態度と扱いが、どうにも私は気に入らなかった。だから一度、勝手にお灸を据えてやろうと思ったのだ。
 私の言葉にイリオーデ達は唖然としていた。私がこんな風にキッパリと『痛い目に遭って欲しい』と言った事が意外だったのだろうか。
 まぁ、普段はこんな事言わないものね。なので逆に、イリオーデとアルベルトはこれを相当な事だと判断したらしく。

「畏まりました」
「仰せの通りに」

 二人はその場で跪き、例え見た目が変わろうともいつもと全然変わらない様子を見せた。発言を撤回して非難されるかもと思っていたから、いつも通りの流れに少し肩透かしを食らった。
 そこで、ずっと静観していたスコーピオンの面々が口を開く。

「それなら言われた通り思い切りやるけどさ、そこんとこアンタ的にはどんくらいやって欲しいわけ?」
「そうだな。五体満足で家に帰してやるのか、それとも腕の一本や二本は斬り落とすのか。その辺りも明確に指定しろよ」

 ラスイズの質問を補足するように、マノが淡々と話す。
 確かに。死なない程度に痛い目に遭って欲しいって、かなり曖昧だものね。もう少し明確に指定しておいた方がいいのか。

「そうね……騎士と兵士は体が商売道具だし、四肢には手を出さないであげて。やるなら胴体を狙いましょう。領民達は…………同じように胴体狙いでお願い。あくまでも死なない程度に痛い目に遭って欲しいだけだから」

 我ながらなんと最低最悪な発言なのか。とても、一国の王女の発言とは思えない。

「胴体ね。的が大きくて狙いやすいわ! 死ななければ何してもいいのよね!」
「ホウミーは弓だもんね、そりゃあやりやすいでしょうけど……わたしは大剣だから胴体だけしか狙っちゃいけないなんて難しいわ」
「オバラ、やり過ぎちゃ駄目よー?」

 私の極悪発言なんてどうでもいいとばかりに、ホウミーとオバラの姉妹がキャッキャウフフなやり取りをしていた。
 闇組織スコーピオンの構成員だから、多分こういう感じの発言や人間には慣れてるんだろうな……引かれる覚悟だったから、こうして何も言われないというのは結構ありがたかったりもする。

「ま、とにかくだ。アミレスがそう言うのなら俺達は相手が死なない程度に暴れりゃいいだろ。よーし、俺も魔法ぶちかますぞー!」
「お前に魔法使われたら死者も余裕で出るに決まってんだろォが。自分テメェの能力考えやがれクソガキ」

 銃の形をしたサベイランスちゃんを手にウキウキと肩を踊らせるカイルに、ヘブンが辛辣なツッコミを入れる。
 多分、城を破壊したのを目の当たりにしたんだろうな……ヘブンの表情は怒りや不満と言うより切実さに染まっていた。

「ところで。もうそろそろ戦闘が始まると思うが、円陣を組んだりはしないのか?」
「「は?」」

 ノウルーの発言に、私とカイルは驚愕する。

「一時的なものとは言え、俺達は仲間として背中を預け合うんだろ。信頼関係を築く為にも、円陣を組むべきじゃァねぇのか?」

 彼は至極真面目に話している様子だった。これどうすればいいの? とヘブンに視線を送ると、無言で顔を逸らされた。
 あ! こっちに丸投げしやがったな!? 貴方の部下でしょう!?

「……そこまで言うなら組むわよ。ほら皆円になって~~」

 もうなるようになれと。教師のように皆に呼び掛ける。
 戸惑いながらもちゃっかり私の両隣を陣取る従者二人。団結力が凄い。

「ほらアミレス。何か掛け声くれよ」
「え、私?」
「当たり前じゃん。お前がリーダーなんだから」
「うそん……」

 円陣を組むと、カイルからとんでもない事を丸投げされた。絶対そういうのはカイルの方が適任だと思うんだけどなぁ。
 だがカイルの言葉にも一理あるので、仕方無く掛け声を考える。こんなのただの一度もした事ないから、何を言えばいいのか全くもって分からないのだけど。

「……皆、いい感じに合わせてね」

 もう何も思いつかないし、適当にやるしかないわ! と深呼吸をする。

「作戦名はー!」

 突然大きな声を出した私に何人か驚いていたのだが、

『命大事に!』

 前々から話していた作戦名だったからか何と言葉が一致した。こんな事ってあるんだな。

「正義も大義もー!」
『踏み躙れ!』

 確かにこんな感じの事も作戦会議で話してたけど、だとしてもよくもまあ全員この言葉が出て来たわね。

「私達がー!」
『悪役だ!』
「全力でいくぞー!」
『おーー!!』

 何故か円陣は成功した。ここにいる人達の察しスキルが半端なくて成功したが……円陣というにはあまりにも酷い出来に、私は苦笑してしまった。

「……何この酷い円陣」
「圧倒的おまいう案件ですぞ、アミレス氏」

 ボソリと呟くと、カイルがすかさず正論の火の玉ストレートをぶつけて来た。
 そうやって軽口を言い合う時間はあっという間に終わり、ついにこの平原は戦場へと変わる。たったの十人という人数で五百人近い人間を相手にするなどかなり無謀な真似だとは思う。
 それでも、私にはこうする事しか出来ない。これしか思いつかなかった。
 だから私は悪になる。剣を構え、無辜の民を傷つける。
 そんな、氷の血筋フォーロイトらしい極悪非道な茨の道を進む。

「さぁ、いきましょう。誰一人として死ぬんじゃないわよ」

 白夜を構えて私は敵影を睨んだ。
 ──私の目的の為だけに、これより無意味な戦いが始まる。


♢♢


「…………見つけた。あの要塞に、ローズと王女殿下が……」

 襲撃者の逃亡先たる要塞を捉え、レオナードは思考を巡らせる。
 彼は戦えない。それは彼自身がよく理解している為、レオナードは本隊の後方にて指揮官として立っていた。本来ならば前線で軍を率いる事が出来れば良かったのだが、生憎と彼には戦闘能力がない。
 ならば安全性を考慮して後方にて待機するのは自明の理というものだろう。

「レオナード様。右翼隊の蒼鷲騎士団、左翼隊の黒狼騎士団共に準備は整った模様です」
「そう。分かった……そろそろ攻撃開始かな」

 紅獅子騎士団団長ムリアンの報告を聞き、レオナードは拡声魔導具を使用した。

《──皆、難しい事は考えなくていいよ。とにかく今は……忌まわしき襲撃者を排除する事だけを考えようか》

 アミレス達は、当然レオナードが何かしらの作戦を立てて自分達に立ち向かう事だろうと思っていた。レオナード程の天才がいて、そうしない方が不思議だからだろう。
 しかし、実際はそうではなかった。
 レオナードは何一つ作戦を立てていない──……否、立てた事には立てていたものの、それを一切周りに共有しなかったのだ。

(きっと、右翼隊と左翼隊を用意した事から挟撃を狙っていると思われるだろう。本隊はあくまでも陽動で本命は右翼隊と左翼隊だって。まあ、そんなつもりは全くないけど)

 拡声魔導具で指示を飛ばす傍らで、彼は冷静に考える。

(大隊程度の人数で同時に三方向から敵拠点を攻め、まずは魔導師を始末する。敵陣営には少なくとも……城を破壊した魔導師と、王女殿下達をたった一人で倒した男と、翼の魔力なんてものを持つ者がいる。その三人だけは真っ先に仕留めないと、また逃げられる可能性がある。そうなれば、ローズと王女殿下を無事に救い出す事が出来ない)

 レオナードは知らなかった。城を破壊した魔導師と、アミレス達を攫った男と、翼の魔力を持つ者が同一人物だという事を。
 当然の事だ。普通の人間は魔力属性を一つしか持たない。報告にあった人物は、それぞれ別々の魔力を持っているものと推測された。
 まさかその三名が同一人物で、三つに限らず二十個近い魔力属性を持つ常識外の存在だなんて……さしものレオナードと言えども、考えられる筈がなかった。
 その為、レオナードは民衆には特に何も指示を出さず、とりあえず『全力で要塞を落とせ。魔導師は見つけ次第殺すように』とだけ指示を出していた。
 それとは別で、件の魔導師達を倒す為にわざわざ紅獅子騎士団にだけ個別で指示を出していた。『魔導師に総攻撃を仕掛けて欲しい。城を破壊する程の実力者だから、速攻で首を獲って』と。
 これだけすれば厄介な敵も倒せるだろう、との判断らしい。
 最低でも三人はいる難敵を、とにかくこの総攻撃で倒せたら最善なんだけど……とレオナードはため息をつく。

(……とにかく王女殿下とローズを救い出せたらそれでいいんだ。二人が無事でいてくれたなら、それで。作戦なんてあってないようなもの──、強いて言えば本命は全隊。挟撃なんかじゃない全隊での集中攻撃で、挟撃を警戒して油断している敵を駆逐出来る筈。どうか、敵の思考の裏をかけていますように)

 ギュッと瞳を閉じて、レオナードは祈るように胸の辺りで握り拳を作っていた。
 そして意を決したように眉を釣り上げた。彼は強い意思の篭った瞳で要塞を見据え、

《───全軍、突撃!!》

 拡声魔導具に向けて叫んだ。この言葉に民衆は『オ──ッ!!』と天高らかに拳を突き上げた。
 それと同時に、辺りには土煙が舞う。五百人近い人々が要塞に向かって同時に駆け出したのだ。
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