だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

♢妖精の祝福編 260.鈍色の歌姫

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 大公領に着いてから三日が過ぎた。
 初日に騎士団相手に健闘した事から、二日目と三日目の観光の間なんかはかなり領民の方々に話しかけられた。
 領民の方々は良くも悪くも純粋で、素直な人達だった。フォーロイトだとか年齢だとか関係無く、その目で見た私の強さを認めてくれているようだった。
 その為か、度々有名人に会ったミーハーかのように握手やサインを求められたりもしたのだが、それはどうやら保護者じむしょ的にNGらしく、毎度イリオーデとアルベルトの鉄壁ボディーガードによって防がれていた。
 まあ、暗殺とかの心配が無いとも言い切れないから仕方無い事ではあるのだけど。
 街や名所の案内はレオナードとローズニカさんの兄妹二人が担ってくれて、二人が領民の方々から愛されている事が見て取れて……何だか心苦しくなった。
 ゲームでレオナードの悲しい結末を見たからか、それに至るまでの背景を知ってやるせない気持ちになる。それと同時にとても微笑ましいと思い、私は二人の様子を見守っていた。そしてそんな私を、イリオーデとアルベルトが見守っているようだった。
 兄妹二人の案内で二日目は街の観光、三日目は街郊外にある名所の観光と、大公領を楽しんでいた。
 その最中、頭に引っ掛かる事があった。

『ローズニカ様! 次はいつ頃にお歌を聞かせてくださるのですか?』
『ローズニカ様ー! 可愛いー!』
『また歌を聞かせてください!』
『我等が歌姫、ローズニカ様!』

 道行く人々が、ローズニカさんにそう声を掛けていた。その度に彼女はぎこちない笑みを浮かべて、少ししてから思い詰めた表情を作っていた。
 それがどうしても気になって、三日目の観光が終わってからローズニカさんの部屋を訪ねてみた。その間、イリオーデやアルベルトにはそれぞれ計画に向けた仕事を任せて彼女と二人きりになれるよう仕向けた。

「前触れも無く突然訪ねてしまってごめんなさい、公女。貴女と一度ゆっくり話してみたかったの。これまでその機会が無かったから……」

 私が一人で訪ねた所、ローズニカさんは少し時間を置いてから部屋に迎え入れてくれた。待ってる間、部屋の中からバタバタと音が聞こえてきたので、急いで準備していたのだろう。
 本当に、突然訪ねる事になって申し訳無いな。と思いつつ謝罪する。
 ローズニカさんは、まるで恋人を初めて部屋に招いた中学生カップルかのように、どこかそわそわとしながらお茶の準備をするよう侍女に言いつけた。
 ……レオナードが爽やかイケメンだから当然かもしれないが、妹のローズニカさんもかなりの美少女だ。深窓の令嬢って感じがして、見てて目の保養になる。

「まさか、こんな風に王女殿下と二人きりでお話出来るなんて思いもしませんでした。夢のようです」
わたくしも、公女とお話出来て嬉しいですわ」

 どこかメイシアと似た雰囲気の彼女に、私の気も少し緩む。

「……あの、王女殿下。私は王女殿下よりも身分が低いので、どうか侍女の方にしているように接して下さい。私は……王女殿下に畏まられるような人間でもないので」

 懇願するかのように、ローズニカさんは申し出て来た。身分とか年齢とか関係無く、敬意を払いたい人に敬意を払うのが私の主義なんだけど……どうしようか。

「うーん……分かりました。じゃなくて、分かったわ。その代わり、公女も私には敬語をやめて下さいね?」
「えっ! そ、そんな。私、普段から家族にも敬語なんですよぅ……?」
「私だって同じです。ああそうだ、この際折角なんですから友達になりましょう、友達! 恥ずかしながら、こんな身分で対等な女友達というものがいなくて。憧れてたんです、対等な女友達というものに」
「とっ…………友達ですか……!?」

 ぱぁあああっと表情が明るくなったかと思えば、同時に困ったようにおろおろとする。
 ローズニカさんは表情がコロコロと変わってとても愛くるしい人だ。とても歳上だとは思えない可愛さ。メイシアと雰囲気が似てるからかな……最初から他人じゃないような感じさえしてたのよね。
 そんなメイシアも初めての女友達ではあるのだが、いかんせんメイシアは私が王女だと知るなり身分の差を強く意識して、徹底して対等な立場に立たないようにしている。
 メイシアと対等な立場でいられたのはあの夜だけ。別に立場とか関係無くメイシアとは親友なのだけど、それでもやっぱり、強欲な私は対等な立場の女友達が欲しいのだ。
 そもそも女友達ほとんどいないし。友達さえも全然いないし!
 その点カイルやマクベスタは立場も同じな友達なんだけど、生憎と私は女だ。最近は同性の友達が欲しいお年頃なのだ、私は。

「で、でも……お相手は王女殿下ですし……」

 どうしたらいいのか分からず、彼女は肩をもじもじとさせる。
 どうやってローズニカさんを納得させようかと悩む私。そこでふと妙案を思いついた。

「私は確かに王女ですけれど、同時に公女は歳上でしょう? つまりプラマイゼロですわ!」

 サムズアップして堂々告げる。それに彼女はぽかんとして、

「プラマイゼロ……」

 私の言葉を繰り返すように呟く。
 ううむ。めちゃくちゃいい考えだと思ったんだけど、反応がイマイチね。
 だが私は諦めないぞ。この際何をしてでも彼女と友達になりたい。そう決めたんだ。私は、一度こうと決めたら考えを曲げないと周りからの評価だ。
 だからぜーったいに諦めないもんね! 目の前のこの美少女と仲良くなって、あくまでも円満に計画に協力して貰おう!

「……こんなふざけた事を言ってでも、貴女と友達になりたかったのです。駄目、ですか?」

 伯爵夫人直伝の必殺技、上目遣いでのおねだり戦法ーーーっ!
 ハイラやメイシアだけでなく、イリオーデや師匠達にさえも効くんだからこれはそこそこの効力がある筈。ローズニカさんにも効いてくれると信じて、私は切り札を切る。

「~~~~っ! は、はぃっ! 喜んで!!」

 頬を赤く染めて、目をキラキラと輝かせる。彼女はいつしか見た恋する乙女かのような表情で、元気のいい返事を聞かせてくれた。

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいわ。私の事は是非とも名前で呼んでちょうだいね?」

 思っていた以上の効果覿面っぷり。新しい友達が出来た事が嬉しくて、私はニンマリと笑みを作った。

「あ、ああ……アミレス、様」
「友達に様なんてつけるの?」
「うぅ……アミレス、さん」
「他人行儀じゃない?」

 何とか友達らしい呼称を引き出そうと圧をかける。

「アミレス、ちゃん」

 恥ずかしそうにボソリと彼女は呟いた。誰にも呼ばれた事の無いその呼称に少し驚く。
 少しむず痒いような気もするが、これはこれで有りだ。

「じゃあそれでこれからはよろしくね、公女……って友達なのに公女って呼ぶのはおかしいわ、何とお呼びしたらいいかしら?」
「それなら、あの。ローズって呼んでほしいです」
「公子が貴女の事をそう呼んでたわね。いいの? 私もそう呼んでしまって」

 またもやもじもじとしながら、ローズニカさんはおずおずと言う。
 家族にのみ許される愛称なのでは? と気掛かりだった事を尋ねると、ローズニカさんは勢いよく顔を上げ、

「はい! 寧ろそう呼んでほしいです!」

 はっきりと言い切った。

「分かったわ、ローズって呼ばせてもらうね。これから友達として仲良くしましょう、ローズ!」
「……っ! はい……じゃあなかった、うん! よろしくね、アミレスちゃん」

 友達と言えばやはり握手。私はローズに握手を求め、彼女の朝露のような綺麗で繊細な手を握り潰さぬよう握手する。
 それからは他愛もない話で盛り上がり、ローズが絵本や物語が好きだという話を聞いて、私はいつか読んだ『赤バラのおうじさま』を話題に挙げた。
 実は港町ルーシェでの暗躍後、メアリーに頼んで『赤バラのおうじさま』を貸してもらい、一通り目を通した。なんというか、話に聞いてた以上にキザな男だったなランスロットは。
 偶然にも同じ作品を通っていた事から、一気に会話は大盛り上がり。ローズの作品愛は凄まじく、その様子はまさにオタクと表現すべき程。
 何だか急に親近感を覚え、私は更に彼女との心の距離を詰める事が出来た。
 小一時間赤バラ(赤バラのおうじさまの略称らしい)の話で盛り上がり、小休止とばかりに紅茶とお菓子を楽しんだ後、私は本題に移った。

「ねぇ、ローズ。ちょっと聞きたい事があるのだけど……」
「なあに?」

 ローズはティーカップを手に持ち、こてんと首を傾げた。可愛い。

「街の人達が貴女の事を歌姫って呼んでたけど、あれはなんだったの?」
「っ!」

 ピタリ、と彼女の表情が強ばる。唇を真一文字に結んで彼女は暫く黙り込んだ。
 ……何か、不味い事を聞いてしまったのかな。取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない。そんな不安から、握り拳にぎゅっと力を込めた時。
 ローズがおもむろに口を開いた。
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