だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

254.暗躍はお手の物です。

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 大公領に到着した日の夜は、特産品などを用いたご当地グルメのご馳走を振舞っていただき、実に楽しい晩餐となった。
 どうやらフォーロイト家が大した護衛もつけずに大公領に来る事は別に珍しい事ではないようで(私の場合は王女だから、あんなにも口うるさく言われたのだろう)、私の連れが二人だけな事にもテンディジェル家の方々は理解を示してくれた。
 というか、あの真剣勝負を見てもう、こりゃ確かに三人だけで大丈夫だな! と思ってくれたらしいのだ。何かやってる事が旅に出る前と同じ気もするんだけど……やはり力が全てを解決するのね。
 現大公や、セレアード氏の奥さん──つまり、此度の内乱の原因の一つでありレオナードの母親である人とも挨拶した。
 本当にいい人そうだった。セレアード氏も奥さんを心から愛しているようだったし…………彼等二人を取り巻く環境が少しでも違えば、きっとこれからも末永く幸せに暮らせるんだろうな。そう、思ってしまった。
 だがゲームではそれが叶わず、内乱が発生した。彼等がどれだけ愛し合っていても。この地は、人々はそれを許せなかったんだ。
 本当にやるせないったらありゃしない。
 だからこそ私達でこれから起こる最悪の結末を食い止め、彼女等に幸せを届けるんだ。

「……──ルティ、イリオーデ。疲れてるだろうけどここからが本番よ」

 月と夜空は暗雲に覆われ、外は吹雪に見舞われる。
 暖炉の火が弾ける音が心地よい、静かな夜の部屋にて。
 イリオーデとアルベルトを呼び出して計画始動の合図を告げる。これから二人にも、勿論私にもやる事があるのだ。
 わざわざ着替えて呼び出しに応じてくれたアルベルトに、まずは指示を出す。

「ルティは打ち合わせ通り、例の地点でスコーピオンと合流して情報を共有してきて。スコーピオンの顔は割れてるわよね?」
「は、頭目のヘブン含め百名近い構成員全ての顔と名は頭に入っております」
「よし。それじゃあ今から頼むわ。合言葉は『鏡よ鏡、世界で一番悪辣なのは誰?』よ」

 ちなみにこの合言葉はカイル発案だ。この後にヘブン側の『それはお前だよ』みたいな言葉が続く予定の、謎の合言葉。

「委細承知。帰還と報告は何時頃を目安にすればよろしいでしょうか?」
「そうね……私も作業があるから今日は遅くまで起きておくつもりだし、二時頃までには戻って来てちょうだい」
「畏まりました」

 深く背を曲げて、いつもの執事服に身を包むアルベルトはどぷんっと影の中に飛び込んで消えた。
 さて次は、とイリオーデの方を向き彼にも指示を出す。

「イリオーデは今から城内を偵察してきてちょうだい。各時間帯における兵の配置とかを、夜間勤務の兵士からそれとなく聞いて割り出してほしいの。多分、私が気にしているとか言えば怪しまれずに聞き出せると思うし……原因を追及されても、はぐらかせると思うわ。もしもの時は差し入れと偽って泥酔させてやればいいわ」

 これはランディグランジュの名を持つイリオーデの方が怪しまれないと踏んだので、彼に頼む事としたのだ。
 こくりと頷いてまず一つ目の命令を理解した彼に、立て続けで申し訳無いがもう一つ命じる。

「後は……そうね、兵の配置を調べるついでに城壁を見てきてくれる? 内乱でどうあの防壁を突破したのか、疑問が残るから。もしかしたら城主でさえも知らない抜け道とかがあるのかもしれない。だからその有無を確かめてくれると助かるわ。これについては内乱発生前までに分かればいいから」
「承知致しました。ランディグランジュの名を使ってでも成し遂げてみせます」
「それは心強いわ。でも、あくまでも無理はしないでね」
「お心遣い痛み入ります」

 そう言って頭を小さく下げた後、イリオーデは口をもごもごとさせていた。
 それに「どうかしたの?」と反応すると。

「王女殿下はこの部屋におられるのですね?」
「え?」
「私も、ルティもお傍を離れるので……少し心配で」

 ああその事ね。

「この後は少し作業をしてから寝るつもりよ」
「そうですか、ならば安心です。もし何かあればすぐお呼び下さいませ」

 そう言って、イリオーデはこの吹雪の中わざわざバルコニー伝いに自室へと戻って行った。間違ってもこんな時間に私の部屋に出入りする姿を見られたくないらしい。
 さてそれじゃあ作業をしようと、鞄から書類を取り出して机の上に並べ作業に取り掛かった。それに少し時間を取られたが、まだアルベルトに伝えた二時までは時間がある。
 ふむ……どうしたものか。既に寝る気満々で着替えていたけど、このまま別の作業にも着手しよう。
 元々私は、いついかなる襲撃があろうと対応出来るよう、寝巻きネグリジェらしい寝巻きネグリジェを着ないタイプだった。
 だってあれ動きずらいもの。そんな私が出先の泊まりで着ているのは膝にかかる大きさの、ワンピースみたいな大きいシャツ。その下には素足を隠す為のニーソックス。
 基本誰の目も無いから、着替えるのを完全にサボっているだけである。
 ニーソックスの上にお気に入りのズボンを履き、ヒールブーツを履いて、厚手のローブを羽織っては魔石灯ランタン片手に城内を散策する。
 これの目的そのものは城内構造の把握だ。ちなみに、こんな事をしている姿を誰かに見られても『中々寝付けなくて……』と言い訳するつもりでいる。
 マッピング等は見られたら流石に怪しまれるので、それはまた後でやるつもりだ。なのでここからは完全に記憶力勝負となる。

 薄暗く寒い廊下を一人で歩く。
 私がしなくてはならない事は今から五日以内にこの城内を具体的な構造を全て把握し、地図に起こす事。それを計画で城内に入るメンバーに共有し、少しでも計画失敗の可能性を減らす事だ。
 地図を書く事自体は数年前にも一度やったし、あれから色々と勉強し知識をつけたからあの時よりもっと効率的にきちんとした、この世界のやり方での地図が書ける事だろう。
 ちなみにこの事自体はイリオーデ達も知っているが、どうやら昼間にやると思われていたようだ。昼間には別にやる事があるのだから、夜にやるのは当然だよね。
 人間意外と睡眠時間短くても問題無いからね!
 実は私、この領主の城──ティニア城の建築様式を知っている。
 何故ならハイラの授業で聞いたからだ。ハイラは本当に凄い。当時は『何でこんな事まで……?』と眉を顰めていたのだが、まさか数年後に役に立つなんて。
 先見の明がありすぎるわよ、本当に。
 そんなこんなでこの建築様式ならではの構造もある程度は分かるので、細かい部屋の内訳とか隠し通路等の捜索をする事がこの散策の主な目的となる。
 そして最後にそれらを地図に起こすと。うむ、責任重大だ。

「ここ不自然ね。この系統の建築だと、この辺に大きな柱がある筈なんだけど……不自然に壁が広がってるわ」

 暫く散策していると、明らかに不自然な場所があった。
 この手の建築ならこの辺に大きな柱がある筈なのだが、何故かここには無い。少なくとも、ここまでは等間隔にあった柱がここには無いのだ。
 そういうものなのだと言われてしまえばそれまでなんだけど、気になる。非っ常~~~に気になる。

「セオリー通りなら、こういう所には隠し通路とか秘密の部屋があるんだけど」

 独り言を呟きながら目の前の壁をまさぐってみると、

「あっ」

 ガコン! と音を立てて壁が動く。押し扉となって、中の隠し通路への道が開かれた。
 マジかよ。ほんとにあるじゃん、隠し通路。
 えーどうしようー……と悩むも、この壁、どう考えても中からしか閉じられないのでは? と気づいて軽く絶望する。
 このままにしておいたら明日の朝確実に大騒ぎになるわよね。好奇心は猫をも殺すと言うけれど、まさか大公領到着当日の夜に隠し通路を発見して、探索せざるを得なくなるなんて。

「まぁ……なるようになれ、よね」

 私は案外、あっさりと覚悟を決めた。何事も為せば成るし、なるようになるのだ。
 何よりオセロマイト王国の地下大洞窟に単身乗り込んだ経験からすると、多分この隠し通路は大丈夫だ。少なくともあの大洞窟よりかは幾分もマシだ。
 一度深くため息をついて、隠し通路へと足を踏み入れた。
 内側から扉を押して、壁を元通りにしてから隠し通路を進む。当然だが人の気配など欠片もなく、寒い風に晒され肌寒さを覚える。
 隠し通路は序盤から下りの階段になっていて、魔石灯ランタンの揺れる音と足音が狭い空間の中に響く。
 階段を下れば下る程、肌寒さは加速する。もしかしたらここは、外に繋がっている隠し通路なのかもしれない。
 もし本当に外に繋がっていたらどうしましょう。今の私、どう考えても吹雪の中で活動出来るような格好ではないのだけど。
 かと言ってもう後戻りはできないし。前門の虎後門の狼とはこの事を言うのね。
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