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第三章・傾国の王女
249.ようこそ、ディジェル領へ2
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「遠路遥々ようこそお越しくださいました、アミレス王女殿下」
「わざわざお迎えして下さり感謝致しますわ」
長い馬車の旅も終わり、私達はついにディジェル大公領に足を踏み入れた。
この領地に入った時から妙な悪寒というか、嫌な予感がするのは一体どうしてなのか。もしかして風邪ひいちゃった? と不安になった程。
たった二人だけの騎士と侍女(執事)と共に姿を見せた私に戸惑いつつも、次期大公のセレアード氏が出迎えの挨拶を述べる。
「ほら、お前達もアミレス王女殿下に挨拶しなさい」
「あ、えっと……足元も悪い中、ようこそお越しくださいました、王女殿下」
「ディジェル領領民一同、王女殿下を心よりおもてなしいたします!」
何この可愛い子は!? 多分この子よね、レオナードの妹って…………レオナードがイケメンだから美少女なんだろうなとは思っていたけど、まさかここまでとは……! 想像以上の美少女が出てきたわよ!?
「……きゃ……っ!」
バチッと彼女と目が合ったかと思えば、顔を両手で押さえて逸らされてしまった。しかしその指の隙間からチラチラとこちらを見ている模様。
何だこの子は……?
っと、それよりも私もちゃんと挨拶しなければ。
「改めまして、私はアミレス・ヘル・フォーロイトです。そしてこちらの二人は私の騎士イリオーデと侍女ルティですわ」
二人の事を紹介すると、二人は小さくお辞儀をする。
これはもうこの旅路で慣れた流れだ。
「ああっ、申し遅れました。私は大公の弟のセレアードと申します。こちらは我が子のレオナードとローズニカです」
「レオナードです。よろしくお願いしま……」
「ローズニカですっ、何卒、よろしくお願いします王女殿下!」
急にぐいぐい来るわね、この子……えっと、ローズニカさん。レオナードの挨拶に被せてまで食い気味に挨拶するとは。
「短い間ではあるけれど、よろしくお願いします。それと……お久しぶりですね、公子。お元気でしたか?」
「っぇえ!? お、俺の事、覚え……て……?!」
「……? はい。勿論」
そりゃあ前世から覚えてますからね。というか貴方の為にかれこれ一年以上計画立ててましたから。
「あ、ありがとうございます光栄です!!」
深く腰を曲げ、レオナードは随分とまあ嬉しそうに頭を下げた。なんと言うか、城の騎士達みたいね。皇族に名前を覚えられる事ってやっぱり嬉しい事なのね、これからは積極的に皆の名前を覚えていこう。
それにしても何でこんなに背中に物凄いプレッシャーを感じているのかしら。振り向けないから二人の顔が見えないのだけど、多分また険しい顔してるんだろうな、この感じだと。
そして何やらローズニカさんがレオナードに「お兄様ずるい!」と詰め寄っている。
大丈夫ですよ、ローズニカさん。貴女の名前もちゃんと覚えましたから!
「……その、えっと……」
セレアード氏が視線を泳がせて言い淀む。
「……想定していたよりも早く、アミレス王女殿下がいらっしゃったので……実はまだおもてなしの準備が整いきっていないのです。当然っ、我々に出来る限り最上級のおもてなしをさせていただきますが………!!」
大変申し訳ございませんと、セレアード氏が頭を下げる。私は彼に顔を上げて下さいと告げ、笑みを作って続けた。
「こうしてお出迎えしていただけただけでも私は十分嬉しいですから、特に問題はありませんわ」
「し、しかし……」
「元はと言えば、遅れないようにと早く来すぎてしまった私が悪いのですから、お気になさらないで。でもそうね……皆さんの気が少しでも軽くなるよう、一つお願いを聞いてもらってもいいかしら?」
「はっ、はい! 勿論です!」
セレアード氏の顔がほっと緩む。なんと言うか、あんまり腹芸とか得意じゃなさそうな人だな。見るからに温厚というか、人が良さそうというか。
私がつい早く来すぎてしまったが故に、こんな人にいらぬ心労をかけてしまったのか……申し訳ない事したなぁ。と心苦しい気持ちの中、まさに渡りに船とばかりに、私はセレアード氏にお願いする。
「──どなたか、腕の立つ方達を十人程見繕って下さいません? 長旅で少し、腕が鈍ってしまって」
「……え?」
大公領の領主城がある中心街に到着してから三十分。なんと街の闘技場のような所を借りる事が出来てしまった。円形のステージに、それを見下ろす形で広がる観客席。まさにコロッセオのような建物だ。
その中心部で私とイリオーデとアルベルトは待っていた。セレアード氏が腕の立つ人を連れて来るまでの間、プチ作戦会議をして。
実はこれ、腕が鈍った事も事実ではあるのだが……それ以上に大事な目的があるのだ。
まず一つ。ディジェル人と呼ばれる特殊な人々の戦闘能力がどれ程のものなのかを見定める事。
二つ目。少しでも計画決行時に皆の負担を減らす為、前もって腕の立つ者を負傷させておく事。
実に汚いやり方ではあるが、私はこの計画において誰一人として死傷者を出させないと決めた。だからなりふり構ってられないのだ。
その為にも、セレアード氏には『皇族だとか関係無しに真剣勝負してくれる方をよろしくお願いします』と頼んでおいた。これで、きっとかなりの実力者が真剣勝負をしてくれる筈。
真剣勝負ならば──、ついうっかり私達が相手に大怪我させても問題無いからね!
「人が集まって来ましたね。臣民の分際で王女殿下を見下ろすなど不敬も甚だしい」
「建物の構造に文句つけちゃ駄目でしょう……でも確かに、観客が増えてきたわね。そんなに物珍しいのかしら、外部の人間って」
「正確には主君が珍しいのだと思います。今代のフォーロイト一族は遠出を好まないと有名ですから」
観客席を見上げて話す。アルベルトの解説のおかげで観客のお目当てが私だと分かり、皇帝とフリードルがこれまで如何程に遠出をして来なかったかを理解してしまった。
「あぁ……成程ね……私は数年前まで外出を禁止されてただけで、遠出自体は好きなんだけどなぁ」
ずっと狭い世界に閉じ込められてるより、外の世界に出て好きな事をしたい。この気持ちは、何もおかしなものではない筈だ。
そう、思った瞬間。
頭に粗いノイズが走る。
『───ねぇ、■■。外には何があるの?』
『───うーん……色々? かく言う■も外の事はあまり詳しくなくてな…………色々、としか答えられない。ごめんよ、■■』
狭い格子窓の隙間から、空を眺めていた。
鳥や自然や、人々の声が聞こえて来る外の世界に、憧れていた。
着物だけじゃなくて、本やゲームで見るような普通の洋服に憧れていた。
目が穢れてしまうと、外では何も見せてもらえなかった。何も触れさせてもらえなかった。
何も、何も無い。何も知らない私に、私をくれたひとがいた。
たくさんの宝物をくれたひとがいた。知識を、趣味を、思い出をくれたひとがいた。
優しい声と、優しい笑顔の、たったひとりの、私……の──。
「……──アミレス王女殿下! 大変長らくお待たせしました。ディジェル領の誇る三つの騎士団、『紅獅子騎士団』『蒼鷲騎士団』『黒狼騎士団』よりそれぞれ三名ずつ実力者を連れて参りました」
「っ、ああ……どうもありがとうございます」
セレアード氏の声によって、私の意識は現実に引き戻された。
……何だったんだ、今の映像……いや、記憶は。もしかして私の前世の記憶? 全然覚えてないのに、どうして今急に?
私がアミレスになって、彼女の閉塞的な生活に特に戸惑わなかったのは…………元々そうだったから、なの?
「この度はお忙しい中急な呼び出しに応えて下さり、感謝しますわ」
気を取り直して、営業スマイルで私から挨拶する。
「いえいえ! 王女殿下直々のお呼び出しとあれば当然馳せ参じますとも。私は紅獅子騎士団団長のモルス・バンディンスです。こちらは副団長のザオラースと団員のカコンです」
「紅獅子騎士団副団長のザオラースです。王女殿下にお会い出来て光栄です」
「カコンです、よろしくお願いします!」
まず最初に名乗ったのは随分と爽やかで勇ましい印象を受ける男性、紅獅子騎士団の団長さんだった。見るからに女性にモテそうな見た目だ。
副団長さんと団員の方も同様で、爽やかな印象が強い。
「俺は蒼鷲騎士団団長、ムリアンです」
あら、眼鏡男子だわ。やけに睨んで来るけど私何かした?
「すみません~~! うちの団長目付きがすっっっごく悪くて! 決して王女殿下に文句があるとかではありませんので!! あっ、自分は蒼鷲騎士団副団長のセファールと申します。こちらはうちの期待のエース、ラナンスです」
「ラナンスです。麗しの王女殿下にお会い出来て恐悦至極です」
蒼鷲騎士団の団長さんを押し退けるように現れたのは副団長さん。なんと蒼の団長さんは目付きが悪いだけらしい。うちのディオみたいなものね。
そしてなんと女性騎士まで出てきた。しかもめっちゃ美人。かっこいい……! うちで言うクラリスみたいなものよね、本当にかっこいいなぁ、女性騎士って。
「……黒狼騎士団団長のバルロッ……」
「王女殿下~~っ! いやぁお会い出来て光栄です! 実物は想像を遥かに超える美しさでもう……っ、僕はこの熱いハートを撃ち抜かれたような気分ですよ!!」
「あの副団長ぉ!? まだ団長が名乗ってすらいないんですけどもうちょい抑えてくださぁい!!」
また随分と個性豊かな人達が現れたものだ。黒狼騎士団というクールな名前からは想像つかないような、個性で殴る感じのインパクトの強さね。
「……改めて。黒狼騎士団団長のバルロッサだ」
「黒狼騎士団副団長のエストでーす☆」
「副団長補佐のような立場のナァラです……副団長がたいへんご迷惑をおかけしました……」
チャラい。チャラいぞこの副団長。しかも団長は孤高の一匹狼感ある。個性豊かとは思ったけど豊かすぎるでしょこの騎士団。めっちゃ面白いじゃん。
一通り自己紹介を聞いて思った。確かに腕の立つ者を、と頼んだけれど……まさか大公領の誇る三大騎士団の団長と副団長が勢揃いするなんて!
ちらりとイリオーデとアルベルトの方を見てみると、二人共何故かにこやかに微笑み返して来るだけ。まるで、『こいつ等全員殺っていいんですよね?』とでも言いたげな、そんな背筋が凍る笑みだ。
「わざわざお迎えして下さり感謝致しますわ」
長い馬車の旅も終わり、私達はついにディジェル大公領に足を踏み入れた。
この領地に入った時から妙な悪寒というか、嫌な予感がするのは一体どうしてなのか。もしかして風邪ひいちゃった? と不安になった程。
たった二人だけの騎士と侍女(執事)と共に姿を見せた私に戸惑いつつも、次期大公のセレアード氏が出迎えの挨拶を述べる。
「ほら、お前達もアミレス王女殿下に挨拶しなさい」
「あ、えっと……足元も悪い中、ようこそお越しくださいました、王女殿下」
「ディジェル領領民一同、王女殿下を心よりおもてなしいたします!」
何この可愛い子は!? 多分この子よね、レオナードの妹って…………レオナードがイケメンだから美少女なんだろうなとは思っていたけど、まさかここまでとは……! 想像以上の美少女が出てきたわよ!?
「……きゃ……っ!」
バチッと彼女と目が合ったかと思えば、顔を両手で押さえて逸らされてしまった。しかしその指の隙間からチラチラとこちらを見ている模様。
何だこの子は……?
っと、それよりも私もちゃんと挨拶しなければ。
「改めまして、私はアミレス・ヘル・フォーロイトです。そしてこちらの二人は私の騎士イリオーデと侍女ルティですわ」
二人の事を紹介すると、二人は小さくお辞儀をする。
これはもうこの旅路で慣れた流れだ。
「ああっ、申し遅れました。私は大公の弟のセレアードと申します。こちらは我が子のレオナードとローズニカです」
「レオナードです。よろしくお願いしま……」
「ローズニカですっ、何卒、よろしくお願いします王女殿下!」
急にぐいぐい来るわね、この子……えっと、ローズニカさん。レオナードの挨拶に被せてまで食い気味に挨拶するとは。
「短い間ではあるけれど、よろしくお願いします。それと……お久しぶりですね、公子。お元気でしたか?」
「っぇえ!? お、俺の事、覚え……て……?!」
「……? はい。勿論」
そりゃあ前世から覚えてますからね。というか貴方の為にかれこれ一年以上計画立ててましたから。
「あ、ありがとうございます光栄です!!」
深く腰を曲げ、レオナードは随分とまあ嬉しそうに頭を下げた。なんと言うか、城の騎士達みたいね。皇族に名前を覚えられる事ってやっぱり嬉しい事なのね、これからは積極的に皆の名前を覚えていこう。
それにしても何でこんなに背中に物凄いプレッシャーを感じているのかしら。振り向けないから二人の顔が見えないのだけど、多分また険しい顔してるんだろうな、この感じだと。
そして何やらローズニカさんがレオナードに「お兄様ずるい!」と詰め寄っている。
大丈夫ですよ、ローズニカさん。貴女の名前もちゃんと覚えましたから!
「……その、えっと……」
セレアード氏が視線を泳がせて言い淀む。
「……想定していたよりも早く、アミレス王女殿下がいらっしゃったので……実はまだおもてなしの準備が整いきっていないのです。当然っ、我々に出来る限り最上級のおもてなしをさせていただきますが………!!」
大変申し訳ございませんと、セレアード氏が頭を下げる。私は彼に顔を上げて下さいと告げ、笑みを作って続けた。
「こうしてお出迎えしていただけただけでも私は十分嬉しいですから、特に問題はありませんわ」
「し、しかし……」
「元はと言えば、遅れないようにと早く来すぎてしまった私が悪いのですから、お気になさらないで。でもそうね……皆さんの気が少しでも軽くなるよう、一つお願いを聞いてもらってもいいかしら?」
「はっ、はい! 勿論です!」
セレアード氏の顔がほっと緩む。なんと言うか、あんまり腹芸とか得意じゃなさそうな人だな。見るからに温厚というか、人が良さそうというか。
私がつい早く来すぎてしまったが故に、こんな人にいらぬ心労をかけてしまったのか……申し訳ない事したなぁ。と心苦しい気持ちの中、まさに渡りに船とばかりに、私はセレアード氏にお願いする。
「──どなたか、腕の立つ方達を十人程見繕って下さいません? 長旅で少し、腕が鈍ってしまって」
「……え?」
大公領の領主城がある中心街に到着してから三十分。なんと街の闘技場のような所を借りる事が出来てしまった。円形のステージに、それを見下ろす形で広がる観客席。まさにコロッセオのような建物だ。
その中心部で私とイリオーデとアルベルトは待っていた。セレアード氏が腕の立つ人を連れて来るまでの間、プチ作戦会議をして。
実はこれ、腕が鈍った事も事実ではあるのだが……それ以上に大事な目的があるのだ。
まず一つ。ディジェル人と呼ばれる特殊な人々の戦闘能力がどれ程のものなのかを見定める事。
二つ目。少しでも計画決行時に皆の負担を減らす為、前もって腕の立つ者を負傷させておく事。
実に汚いやり方ではあるが、私はこの計画において誰一人として死傷者を出させないと決めた。だからなりふり構ってられないのだ。
その為にも、セレアード氏には『皇族だとか関係無しに真剣勝負してくれる方をよろしくお願いします』と頼んでおいた。これで、きっとかなりの実力者が真剣勝負をしてくれる筈。
真剣勝負ならば──、ついうっかり私達が相手に大怪我させても問題無いからね!
「人が集まって来ましたね。臣民の分際で王女殿下を見下ろすなど不敬も甚だしい」
「建物の構造に文句つけちゃ駄目でしょう……でも確かに、観客が増えてきたわね。そんなに物珍しいのかしら、外部の人間って」
「正確には主君が珍しいのだと思います。今代のフォーロイト一族は遠出を好まないと有名ですから」
観客席を見上げて話す。アルベルトの解説のおかげで観客のお目当てが私だと分かり、皇帝とフリードルがこれまで如何程に遠出をして来なかったかを理解してしまった。
「あぁ……成程ね……私は数年前まで外出を禁止されてただけで、遠出自体は好きなんだけどなぁ」
ずっと狭い世界に閉じ込められてるより、外の世界に出て好きな事をしたい。この気持ちは、何もおかしなものではない筈だ。
そう、思った瞬間。
頭に粗いノイズが走る。
『───ねぇ、■■。外には何があるの?』
『───うーん……色々? かく言う■も外の事はあまり詳しくなくてな…………色々、としか答えられない。ごめんよ、■■』
狭い格子窓の隙間から、空を眺めていた。
鳥や自然や、人々の声が聞こえて来る外の世界に、憧れていた。
着物だけじゃなくて、本やゲームで見るような普通の洋服に憧れていた。
目が穢れてしまうと、外では何も見せてもらえなかった。何も触れさせてもらえなかった。
何も、何も無い。何も知らない私に、私をくれたひとがいた。
たくさんの宝物をくれたひとがいた。知識を、趣味を、思い出をくれたひとがいた。
優しい声と、優しい笑顔の、たったひとりの、私……の──。
「……──アミレス王女殿下! 大変長らくお待たせしました。ディジェル領の誇る三つの騎士団、『紅獅子騎士団』『蒼鷲騎士団』『黒狼騎士団』よりそれぞれ三名ずつ実力者を連れて参りました」
「っ、ああ……どうもありがとうございます」
セレアード氏の声によって、私の意識は現実に引き戻された。
……何だったんだ、今の映像……いや、記憶は。もしかして私の前世の記憶? 全然覚えてないのに、どうして今急に?
私がアミレスになって、彼女の閉塞的な生活に特に戸惑わなかったのは…………元々そうだったから、なの?
「この度はお忙しい中急な呼び出しに応えて下さり、感謝しますわ」
気を取り直して、営業スマイルで私から挨拶する。
「いえいえ! 王女殿下直々のお呼び出しとあれば当然馳せ参じますとも。私は紅獅子騎士団団長のモルス・バンディンスです。こちらは副団長のザオラースと団員のカコンです」
「紅獅子騎士団副団長のザオラースです。王女殿下にお会い出来て光栄です」
「カコンです、よろしくお願いします!」
まず最初に名乗ったのは随分と爽やかで勇ましい印象を受ける男性、紅獅子騎士団の団長さんだった。見るからに女性にモテそうな見た目だ。
副団長さんと団員の方も同様で、爽やかな印象が強い。
「俺は蒼鷲騎士団団長、ムリアンです」
あら、眼鏡男子だわ。やけに睨んで来るけど私何かした?
「すみません~~! うちの団長目付きがすっっっごく悪くて! 決して王女殿下に文句があるとかではありませんので!! あっ、自分は蒼鷲騎士団副団長のセファールと申します。こちらはうちの期待のエース、ラナンスです」
「ラナンスです。麗しの王女殿下にお会い出来て恐悦至極です」
蒼鷲騎士団の団長さんを押し退けるように現れたのは副団長さん。なんと蒼の団長さんは目付きが悪いだけらしい。うちのディオみたいなものね。
そしてなんと女性騎士まで出てきた。しかもめっちゃ美人。かっこいい……! うちで言うクラリスみたいなものよね、本当にかっこいいなぁ、女性騎士って。
「……黒狼騎士団団長のバルロッ……」
「王女殿下~~っ! いやぁお会い出来て光栄です! 実物は想像を遥かに超える美しさでもう……っ、僕はこの熱いハートを撃ち抜かれたような気分ですよ!!」
「あの副団長ぉ!? まだ団長が名乗ってすらいないんですけどもうちょい抑えてくださぁい!!」
また随分と個性豊かな人達が現れたものだ。黒狼騎士団というクールな名前からは想像つかないような、個性で殴る感じのインパクトの強さね。
「……改めて。黒狼騎士団団長のバルロッサだ」
「黒狼騎士団副団長のエストでーす☆」
「副団長補佐のような立場のナァラです……副団長がたいへんご迷惑をおかけしました……」
チャラい。チャラいぞこの副団長。しかも団長は孤高の一匹狼感ある。個性豊かとは思ったけど豊かすぎるでしょこの騎士団。めっちゃ面白いじゃん。
一通り自己紹介を聞いて思った。確かに腕の立つ者を、と頼んだけれど……まさか大公領の誇る三大騎士団の団長と副団長が勢揃いするなんて!
ちらりとイリオーデとアルベルトの方を見てみると、二人共何故かにこやかに微笑み返して来るだけ。まるで、『こいつ等全員殺っていいんですよね?』とでも言いたげな、そんな背筋が凍る笑みだ。
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