だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

241.いざ大公領へ2

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「えーと……では事前に伝えてました通り、貴方達には本日この方々との乱闘形式での模擬戦をしてもらいます」

 騎士団の訓練場に集まった百人近い騎士に向けてケイリオルさんが軽く説明すると、騎士達は「王女殿下だ」「相手はたった三人だと……?」「青い髪──ランディグランジュの神童?!」と口々にざわついた。

「では王女殿下、何か一言いただけますか?」
「ごほんっ。帝国を守りし勇敢なる騎士の皆様方。本日はわたくし共の実力をお見せする機会を作ってくれて感謝します。剣を持つ者に貴賎なし……身分だとか立場だとかは頭の隅に追いやって、真剣勝負といきましょうね」

 ニコリと微笑んでみると、騎士団の方々は、先程のざわめきがかき消されるような興奮した歓声をあげる。

「…………ふむ。私が百人全て倒せば王女殿下のお手を煩わせる事もないか」
「ちょっと待ってよ、俺が百人倒すから。騎士君の出番なんて無いから」
「イリオーデだ。お前こそ引っ込んでいろ、ここは私一人で十分だ」
「はあ? 俺一人で十分だって言ってるだろ、石頭」
「それはこちらの台詞だ、偏屈者」

 それはそれとして、何でこっちは内ゲバしてるのかしら。喧嘩する程仲がいいとは言うけれど、この人達いつもこうね。
 ……二人共能力が突出してるからこそ、張り合える相手がいるのが嬉しいのかな。そう考えると何だかとても微笑ましく思えて来たわ。

「一応、の実力を見せつける為の模擬戦なんだから、一人で全部倒されては困るわ。ここは大まかに三十人ずつ相手取って、終わってから暇だったら残りの十人も……という取り決めにしましょう」
「王女殿下の仰せのままに」
「かしこまりました」

 本当に素直だなあ、二人共。忠犬みたい。
 実は私も二人と一緒に模擬戦に参加する事にした。私達三人で戦力は十分だと示すにはこれが最適解だと思って。だから今日は久々に、シャンパー商会特製戦闘服に着替え、イリオーデとアルベルトを従えてこの場に赴いた。
 ちなみに模擬戦を乱闘形式に指定したのも私だ。一人一人相手するのが面倒臭くて……。

「さて、ではそろそろ始めましょうか。ケイリオル卿!」
「……心無しか楽しそうですね、王女殿下」
「そりゃあもう! こんなに沢山の実力者と戦えるなんて滅多に無い機会ですから!」
「彼等が王女殿下の期待に応えられるといいのですが」

 困ったように肩をすぼめて、ケイリオルさんは呟いた。

「──これより、王女殿下陣営三名対騎士団員百名による模擬戦を開始します!」

 騎士団員の前にまで私達が移動したのを確認して、ケイリオルさんが高らかに宣言する。
 その宣言を皮切りに私達はそれぞれ別方向に走り出して、そして思い思いに戦った。
 殺してはならないから気絶させる事を最優先に戦っていたけれど、案外後れを取る事はなかった。多分、彼等は私が王女だからだと無意識に配慮していたのだろう。そうでなくては、ただすばしっこいだけの子供相手に、大の大人達がここまで翻弄される事は無い筈だ。
 跳んで躱して凪いで振り下ろして蹴って溺れさせて。色々と試すうちに、いつの間にか三十人程倒してしまったようだ。
 もう少し戦ってみたかったんだけどな……と思いつつちらりとイリオーデ達をそれぞれ見てみると、そこは既に死屍累々(死んではないけど)。
 私が色々と検証したりしている間に、二人はあっさりと敵を倒していたようだ。
 流石はイリオーデとアルベルトね。当たり前のように強いわ。
 そうやって改めて二人の強さを再確認した所で、余りの十人を倒す為に競い合っていたらしい件の二人が、いがみ合いながら私の元に戻ってきた。

「イリオーデ、ルティ。二人共お疲れ様」
「王女殿下こそお疲れ様です。相変わらず何とも美しい剣さばきで、何度も見蕩れてしまいました」
「やはり主君の戦う姿は、無彩色の世界でもいっそう際立つ輝きそのものです。戦闘中にも関わらず何度も目を奪われました」

 パッと何事も無かったかのように二人は笑みを作り、美辞麗句を口にする。
 相変わらず切り替えが早い。

「二人も凄かったよ。破竹の勢いで倒してて、貴方達の気迫に圧倒されてる人も多かったんじゃないかな」
「王女殿下の騎士として恥じぬ戦いをと、少しばかり肩に力が入ってしまいました。……騎士達をとにかく倒したかった事もありますが」
「あの騎士達は敵です。怨敵必殺と言いますし、早急に排除すべきと判断しました」
「そんな言葉聞いた事無いわよ。そりゃあ彼等は模擬戦の相手だったけど、それだけで怨敵認定って…………そんな怨みが募るような何かがあったの?」
「「はい」」
「即答?!」

 基本的にあんまり他人に興味無いうちの子達が怨敵認定する程の何かって……騎士団の皆様方、一体何してくれたのよ! 事と次第によっては後で文句言ってやろうかと、除雪され露出した地面に倒れている騎士達を少し睨む。
 というか本当に何があったの? 話聞くよ?

「はぁ。ひとまずは、これで模擬戦はクリアしたでしょうけれど……」
「これでも駄目だなどと言うのであれば、私がケイリオル卿を黙らせます」
「いいや俺が。騎士君には荷が重いだろうから、俺が各部統括責任者をちょっとだけ暗殺します」
「イリオーデだ」
「いや暗殺しちゃ駄目でしょう。というかちょっとだけ暗殺って何、どういう事? そもそも今あの人がいなくなったらこの国終わるわよ?」
「むぅ…………」
「なればこそ、私が彼を……」
「二人共とりあえず一回肉体言語から離れない?」

 ここで二人の顔が少し翳る。

「しかし」
「やはり力こそが全てですし……万物に有効な最大の言語は暴力とも言いますし……」

 イリオーデが何か言おうとした時、アルベルトが被せるように語る。
 とんでもない脳筋肉体言語論者だわ、この人。

「それについては否定しないけど……いくら暴力が最大の言語と言っても時と相手と場所はきちんと考えなきゃ」
「つまり、今はその時ではないと?」
「そういう事。時と相手が悪いから彼は手を出しては駄目よ。本当に彼相手は分が悪いわ」
「主君がそう仰るなら……」

 ケイリオルさんに喧嘩を売るのは良くないと二人を諭すと、アルベルトはしょんぼりと瞳を細めた。


♢♢


(これまた随分と気合い入ってますねぇ、彼等)

 たったの三人という少なさで帝国騎士団の団員約百名を同時に相手取るなんて無謀な真似、普通ならばケイリオルでも許可を出さない。
 しかし今回ばかりは……それを申し出たのが普通ではない異常な者達だったから、仕方無さ半分面白さ半分でこれを許可した。
 そうして迎えた模擬戦当日。
 分かりきっていた事なのに、王女の従僕としてこの場に赴いたイリオーデとルティは、戦闘服に身を包んだアミレスの戦女神かのごとき美しさに惚けていた騎士達を見て、酷く不快な気分になったらしい。

(王女殿下を下世話な目で見るな、下郎が。その不敬なる目、抉り出してしまおうか)
(……こいつ等、どさくさに紛れて主君の体に触ろうとか考えてそうだな。鼻の下伸びてるし。そうなる前に潰すか)

 アミレスがこの模擬戦について一言述べている間、血の気の多い二人は仲良く同じ事を考えていた。
 よって彼等は模擬戦が始まって早々、得物を手に殺意を放ち突撃したのだ。
 その様子を見て、ケイリオルは苦笑する。

(圧倒的な実力。一騎当千の戦士と言うべき姿ですね……ちょっと殺意が抑えきれてませんが)

 狩りをする猛禽類のような鋭く見開かれた瞳で射抜かれると、歴戦の騎士達は怯み動きが鈍る。その隙をついて、流れ作業のように彼等は騎士達を次々に屠る。

(大胆かつ正確な剣筋だ。流石はランディグランジュの神童……動きに一切の無駄が無い上、まるで大剣を相手にしているかのような、体の芯を砕く程の圧倒的な膂力で長剣ロングソードを手足のように扱うなんて…………それも、でと来た。対人戦に慣れている騎士達でも、イリオーデ卿の相手は荷が重いでしょうね)

 ケイリオルはその場その場で騎士達の心を視ては、その叫びに同情さえしつつ冷静に状況を分析していた。
 この世界においては万の軍勢より個の怪物の方が恐れるべき対象であり、そして相手にしてはならぬ存在なのである。
 そしてまさしく、このイリオーデという青年はその類の存在であると。自身もまたそれに分類される事を自覚するケイリオルは、イリオーデの動きを見て確信していた。

(わたしと言えども魔法無しで応戦する事は難しそうですしね。イリオーデ卿だけに限らず……ルティや王女殿下相手でも、手を抜いたら足元をすくわれそうだが……)

 イリオーデに次いで、ケイリオルはルティに視線を向けた。そこにはイリオーデに張り合うかのごとく、あえて魔法を使用せずに暴れ回るルティの姿が。
 剣舞のように縦横無尽軽やかに動き回っては、短剣ナイフで次々と騎士達の剣を弾き飛ばす。その直後に首や顎を強く殴打して、騎士達の意識を落としていった。
 騎士達にも見慣れぬ、まるで気配を捉えられない不可思議な動き。彼等は諜報員スパイの戦い方を知らなかった。故にルティのこの動きに対応出来ず、為す術なく地に伏せる。
 何の感情も宿さぬ瞳で、ルティは淡々と敵を打ち倒す。その姿は、彼の着ている黒い執事服も相まってまるで死神のようだった。
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