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第三章・傾国の王女
237.有能執事、爆誕3
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「こちらが、アミレス様のデザイン画に従い作成しました執事服になります」
暴かれた布の下から現れるは、黒の生地が美しく生真面目な印象を抱かせる燕尾服。
少しでもアルベルトが認識しやすいようにと、ベストの色は赤みがかっている。シャツは白でネクタイは黒。私の個人的なこだわりで懐中時計も付属している。胸ポケットからは後ではめてもらう予定の白手袋が。
うむ、完璧な執事服だ。
「もう……っ、完璧よ! これぞ私の求めていた執事オブ執事服…………!!」
オタクの夢が体現されたかのような喜び。それに体側で作られたガッツポーズが僅かに震えた。そんな私の取り繕わない態度を見て、メイシアと使用人はホッと胸を撫で下ろしていた。
「満足いただけて何よりです。あぁそれと、実はもう一つお見せしたい物があって」
もう一つ? と首を傾げる。
メイシアは使用人から大きめの袋を受け取り、そこから一個のぬいぐるみを取り出して……、
「以前より我が商会で作らせていただいてましたアミレス様のぬいぐるみが、最近ようやく完成しました!」
どんっ、とそれを見せびらかして来た。
誕生日に貰ったメイシアぬいぐるみと同じぐらいの大きさの、私のぬいぐるみ。しっかりとデフォルメに落とし込まれていて、一目見て私だと分かるようなクオリティだった。
「わぁ、随分と可愛くなったわね。私……」
悲運の王女であり、氷の血筋たるアミレスが。こんなヒロインのような可愛さでグッズとなる日が来ようとは。
そんな感慨深さから感嘆の息を漏らす。
「アミレス様は元々世界一美しく可愛い人なので、それをどうぬいぐるみで表現するかとても苦労しました。商会お抱えのデザイナーや建築家など様々な分野の専門家達の協力のもと、このアミレス様ぬいぐるみは完成しました。まさに我が商会の総力をあげて作り上げた逸品です」
メイシアはにこりと、妖精に連れ去られてしまいそうな可愛い笑みを浮かべた。
前から思ってたけど……メイシアは私の個人的なお願いとかにもシャンパー商会の総力をあげがちよね。いくら私が皇族だからってそこまで気合い入れなくてもいいのに。
「実はそのぬいぐるみ……現時点で二つしか出来ておらず、一つはアミレス様が、もう一つはわたしが持っておこうと。そう思いお持ちしたんです」
「あらそうなの。じゃあお揃いって事ね」
「はいっ、是非わたしのぬいぐるみと並べて愛でてください!」
うふふ、あはは。と優雅で和やかな時間を過ごす。メイシアと二人でお茶するのなんていつぶりかしら。と私のぬいぐるみを抱き抱えながら思う。
一時期は侍女見習いとして東宮に来てくれていたメイシアだが、最近はシャンパー商会の方が中々に忙しいようで、優秀なメイシアは若くしてシャンパージュ伯爵の手伝いをしているらしい。
なので近頃はめっきり会う機会も減って、私としても少し、心寂しくもあったのだ。
やっぱりいいわね、こういう落ち着いた時間も。メイシアみたいな可愛い子と一緒だと本当に癒されるな~!
「ただ今戻りました、主君」
「うわぁっ?! びっくりしたぁ……急に出てこないで…………?!」
「ひゃっ?! ふ、不審者……!」
にゅっ、と柱の影から溶け出すように出て来たアルベルトに、私とメイシアは肩を跳ねさせた。近くに控えているメイシアの使用人も、あんぐりとしたまま固まっている。
アルベルトの事を何も知らないメイシアなんかは、不安そうな顔しながらも何故か私を守るように前に立つ。
私達の反応が少しショックだったのか、アルベルトは「驚かせてしまい、申し訳ございません……」と捨てられた子犬のような表情になってしまった。
「メイシア、大丈夫よ。彼は不審者じゃなくて私の部下だから」
「そ、そうなんですか……?」
メイシアは気を緩めたのか、フラフラと私の隣に座った。
ふぅ、とため息をつくメイシアを隣に、今度はアルベルトの方を見た。
「ごめんね、ルティ。のんびりお茶していたから、ちょっと驚いちゃったの」
「いえ、こればかりは柱から出た俺に非があります。せめて扉から出ておけば……っ」
そこは普通に扉から入って来て欲しかったな。
「とりあえずお帰りなさい、ルティ。あまりにもタイミングがバッチリで流石としか言えないわ」
「!!」
お帰りなさいと告げたら、アルベルトの顔は明るくなり、彼の嬉しさがひしひしと伝わってきた。
そんな彼を見て、隣に座るメイシアが「わたしの知らないうちにまた…………!?」と何かに戦慄しているようだった。
知らないうち……ふむ、執事服を依頼する時にアルベルトの事も話しておいた方がよかったのかな。
「っ、ええと……その、タイミング……とは?」
「実は貴方にプレゼントがあるの。就職祝いのようなものよ」
「プレゼント……俺に、ですか?」
「えぇ。貴方に」
「………………」
慌てて平静を装ったアルベルトは、私がプレゼントを用意したと聞いて、ぽかんとしてしまった。
そんな茫然自失とする程嫌なの……? 私からのプレゼント……?
地味にショックを受けつつも、気を取り直して私は執事服の方を指さす。
「とと、とりあえず。あちらが貴方へのプレゼント、ルティ専用の執事服になります!」
執事服は完全に私の趣味です!
「──俺、専用の……服……」
ゆっくりと近づいていって、アルベルトは慎重に執事服に触れた。濁った瞳を丸くして、執事服をじっと見つめている。
「制作を担当させていただいた商会として、その執事服について少しばかり説明しましょう」
あら、メイシアから説明してくれるのね。助かるわ。
「アミレス様自らがどなたかの為にデザインしただけでもその価値は莫大なものとなるのに、『可能な限り最上級の生地を使って欲しい』と言われ、更には『身体保護系の付与魔法もして欲しいな』とも申し付けられまして。間違いなく当商会の長い歴史の中でも一二を争う、手間暇のかかった貴重な一品となっております。なので大事にしてください」
メイシアが少しムスッとした態度で説明すると、アルベルトは「主君、が……俺の為に…………」と何故か泣き出しそうな、でも凄く嬉しそうな。そんな顔になっていた。
しかし流石はシャンパー商会だ。あんな無茶振りにも本当に応えてくれたなんて。
その上で可及的速やかでお願い! なんてクソオブクソな取引先みたいな納期で依頼したのに……まさか全てにおいて私の期待を超えてくるなんて……これがシャンパー商会…………!
「まぁ、そういう事だから。いつまでもその格好じゃ目立つし、普通の服を用意しようかなって思ったの。ほら、ルティは私の従僕なんだからそれに見合った服をあげようと思って」
うん、今即興で考えたにしては中々に筋の通った言い訳だ。やるわね私。
「それで執事服なのですね。しかし、俺のような人間にこのような服は……あまりにも不釣り合いです」
「どうしてそんな事を言うの? 私が貴方に似合うと思って作ったのだから、不釣り合いな訳ないでしょう?」
だがまぁ、アルベルトの言い分にも一理ある。あまりにもアルベルトの顔が良く、似合いすぎるが為に執事服が霞む可能性とてあるかもしれない。
その時はその時ね。それはもう、アルベルトの顔が整っている事が問題なんだもの。
「っ、今から……今から着ても、構いませんか?」
「寧ろいいの? 帰って来たばかりなのに、休みもせずそんな私の欲望に応えてくれちゃって……」
コクコクと頷いて、アルベルトは執事服を手に影の中に消えていった。
……え? もしかして影の中で着替えるつもり? 他の誰も入れないからって、影の亜空間を私物化しすぎでは……??
そうやって困惑するのも束の間、アルベルトがまた、柱の影からゆっくりと出て来て。
その姿を見て私は愕然とした。
想像の数億倍、めっちゃ似合ってる。アルベルトの為に作ったから当然なんだけど、まさにアルベルト専用の執事服としか言えない着こなしっぷり。
数年間地方の砦で騎士達と共に過ごしていたというアルベルトは体格がよく、着痩せするタイプだった。だからこそ執事服のようなカッチリとした服が映える。
鍛えられた体である事を感じさせる胴体から伸びる長くしっかりとした手足。特に、股下が軽く百メートルとかはありそうなぐらい、足が長く見える。
多分四捨五入したら全身足よ、彼。本当に足が長いわ。物理型足長お兄さんと呼ぼうか迷う程に、足が長ぇ。
そんな黒髪灰目の王道執事が、目の前に現れた。それにオタクである私は勿論大興奮──なのだが、人前という事もあり、必死に王女としての体裁を保とうと我慢している。
アルベルトと二人きりだったとしたら、ボス猿を倒した猿のように思い切り叫んでいた事だろう。
暴かれた布の下から現れるは、黒の生地が美しく生真面目な印象を抱かせる燕尾服。
少しでもアルベルトが認識しやすいようにと、ベストの色は赤みがかっている。シャツは白でネクタイは黒。私の個人的なこだわりで懐中時計も付属している。胸ポケットからは後ではめてもらう予定の白手袋が。
うむ、完璧な執事服だ。
「もう……っ、完璧よ! これぞ私の求めていた執事オブ執事服…………!!」
オタクの夢が体現されたかのような喜び。それに体側で作られたガッツポーズが僅かに震えた。そんな私の取り繕わない態度を見て、メイシアと使用人はホッと胸を撫で下ろしていた。
「満足いただけて何よりです。あぁそれと、実はもう一つお見せしたい物があって」
もう一つ? と首を傾げる。
メイシアは使用人から大きめの袋を受け取り、そこから一個のぬいぐるみを取り出して……、
「以前より我が商会で作らせていただいてましたアミレス様のぬいぐるみが、最近ようやく完成しました!」
どんっ、とそれを見せびらかして来た。
誕生日に貰ったメイシアぬいぐるみと同じぐらいの大きさの、私のぬいぐるみ。しっかりとデフォルメに落とし込まれていて、一目見て私だと分かるようなクオリティだった。
「わぁ、随分と可愛くなったわね。私……」
悲運の王女であり、氷の血筋たるアミレスが。こんなヒロインのような可愛さでグッズとなる日が来ようとは。
そんな感慨深さから感嘆の息を漏らす。
「アミレス様は元々世界一美しく可愛い人なので、それをどうぬいぐるみで表現するかとても苦労しました。商会お抱えのデザイナーや建築家など様々な分野の専門家達の協力のもと、このアミレス様ぬいぐるみは完成しました。まさに我が商会の総力をあげて作り上げた逸品です」
メイシアはにこりと、妖精に連れ去られてしまいそうな可愛い笑みを浮かべた。
前から思ってたけど……メイシアは私の個人的なお願いとかにもシャンパー商会の総力をあげがちよね。いくら私が皇族だからってそこまで気合い入れなくてもいいのに。
「実はそのぬいぐるみ……現時点で二つしか出来ておらず、一つはアミレス様が、もう一つはわたしが持っておこうと。そう思いお持ちしたんです」
「あらそうなの。じゃあお揃いって事ね」
「はいっ、是非わたしのぬいぐるみと並べて愛でてください!」
うふふ、あはは。と優雅で和やかな時間を過ごす。メイシアと二人でお茶するのなんていつぶりかしら。と私のぬいぐるみを抱き抱えながら思う。
一時期は侍女見習いとして東宮に来てくれていたメイシアだが、最近はシャンパー商会の方が中々に忙しいようで、優秀なメイシアは若くしてシャンパージュ伯爵の手伝いをしているらしい。
なので近頃はめっきり会う機会も減って、私としても少し、心寂しくもあったのだ。
やっぱりいいわね、こういう落ち着いた時間も。メイシアみたいな可愛い子と一緒だと本当に癒されるな~!
「ただ今戻りました、主君」
「うわぁっ?! びっくりしたぁ……急に出てこないで…………?!」
「ひゃっ?! ふ、不審者……!」
にゅっ、と柱の影から溶け出すように出て来たアルベルトに、私とメイシアは肩を跳ねさせた。近くに控えているメイシアの使用人も、あんぐりとしたまま固まっている。
アルベルトの事を何も知らないメイシアなんかは、不安そうな顔しながらも何故か私を守るように前に立つ。
私達の反応が少しショックだったのか、アルベルトは「驚かせてしまい、申し訳ございません……」と捨てられた子犬のような表情になってしまった。
「メイシア、大丈夫よ。彼は不審者じゃなくて私の部下だから」
「そ、そうなんですか……?」
メイシアは気を緩めたのか、フラフラと私の隣に座った。
ふぅ、とため息をつくメイシアを隣に、今度はアルベルトの方を見た。
「ごめんね、ルティ。のんびりお茶していたから、ちょっと驚いちゃったの」
「いえ、こればかりは柱から出た俺に非があります。せめて扉から出ておけば……っ」
そこは普通に扉から入って来て欲しかったな。
「とりあえずお帰りなさい、ルティ。あまりにもタイミングがバッチリで流石としか言えないわ」
「!!」
お帰りなさいと告げたら、アルベルトの顔は明るくなり、彼の嬉しさがひしひしと伝わってきた。
そんな彼を見て、隣に座るメイシアが「わたしの知らないうちにまた…………!?」と何かに戦慄しているようだった。
知らないうち……ふむ、執事服を依頼する時にアルベルトの事も話しておいた方がよかったのかな。
「っ、ええと……その、タイミング……とは?」
「実は貴方にプレゼントがあるの。就職祝いのようなものよ」
「プレゼント……俺に、ですか?」
「えぇ。貴方に」
「………………」
慌てて平静を装ったアルベルトは、私がプレゼントを用意したと聞いて、ぽかんとしてしまった。
そんな茫然自失とする程嫌なの……? 私からのプレゼント……?
地味にショックを受けつつも、気を取り直して私は執事服の方を指さす。
「とと、とりあえず。あちらが貴方へのプレゼント、ルティ専用の執事服になります!」
執事服は完全に私の趣味です!
「──俺、専用の……服……」
ゆっくりと近づいていって、アルベルトは慎重に執事服に触れた。濁った瞳を丸くして、執事服をじっと見つめている。
「制作を担当させていただいた商会として、その執事服について少しばかり説明しましょう」
あら、メイシアから説明してくれるのね。助かるわ。
「アミレス様自らがどなたかの為にデザインしただけでもその価値は莫大なものとなるのに、『可能な限り最上級の生地を使って欲しい』と言われ、更には『身体保護系の付与魔法もして欲しいな』とも申し付けられまして。間違いなく当商会の長い歴史の中でも一二を争う、手間暇のかかった貴重な一品となっております。なので大事にしてください」
メイシアが少しムスッとした態度で説明すると、アルベルトは「主君、が……俺の為に…………」と何故か泣き出しそうな、でも凄く嬉しそうな。そんな顔になっていた。
しかし流石はシャンパー商会だ。あんな無茶振りにも本当に応えてくれたなんて。
その上で可及的速やかでお願い! なんてクソオブクソな取引先みたいな納期で依頼したのに……まさか全てにおいて私の期待を超えてくるなんて……これがシャンパー商会…………!
「まぁ、そういう事だから。いつまでもその格好じゃ目立つし、普通の服を用意しようかなって思ったの。ほら、ルティは私の従僕なんだからそれに見合った服をあげようと思って」
うん、今即興で考えたにしては中々に筋の通った言い訳だ。やるわね私。
「それで執事服なのですね。しかし、俺のような人間にこのような服は……あまりにも不釣り合いです」
「どうしてそんな事を言うの? 私が貴方に似合うと思って作ったのだから、不釣り合いな訳ないでしょう?」
だがまぁ、アルベルトの言い分にも一理ある。あまりにもアルベルトの顔が良く、似合いすぎるが為に執事服が霞む可能性とてあるかもしれない。
その時はその時ね。それはもう、アルベルトの顔が整っている事が問題なんだもの。
「っ、今から……今から着ても、構いませんか?」
「寧ろいいの? 帰って来たばかりなのに、休みもせずそんな私の欲望に応えてくれちゃって……」
コクコクと頷いて、アルベルトは執事服を手に影の中に消えていった。
……え? もしかして影の中で着替えるつもり? 他の誰も入れないからって、影の亜空間を私物化しすぎでは……??
そうやって困惑するのも束の間、アルベルトがまた、柱の影からゆっくりと出て来て。
その姿を見て私は愕然とした。
想像の数億倍、めっちゃ似合ってる。アルベルトの為に作ったから当然なんだけど、まさにアルベルト専用の執事服としか言えない着こなしっぷり。
数年間地方の砦で騎士達と共に過ごしていたというアルベルトは体格がよく、着痩せするタイプだった。だからこそ執事服のようなカッチリとした服が映える。
鍛えられた体である事を感じさせる胴体から伸びる長くしっかりとした手足。特に、股下が軽く百メートルとかはありそうなぐらい、足が長く見える。
多分四捨五入したら全身足よ、彼。本当に足が長いわ。物理型足長お兄さんと呼ぼうか迷う程に、足が長ぇ。
そんな黒髪灰目の王道執事が、目の前に現れた。それにオタクである私は勿論大興奮──なのだが、人前という事もあり、必死に王女としての体裁を保とうと我慢している。
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