だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

227.暗躍はおしまい?4

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「やぁやぁ諸君!!!! 元気にしてるかな!! 皆の人気者、大スターたるこの僕が手伝いに来てやっ──……」
「はい失礼します。本当にアナタはいつも五月蝿いですね、羽虫の分際で騒がないでくださいよ」
「んなっ! 羽虫ではないと何度言えば分かるんだ?! それと僕の華麗な登場を邪魔しないでくれジュリー!!」
「だから五月蝿いって言ってるんでしょうが、さっさとその脳みそ働かせて理解してくださいよ。虫擬きにだってそれぐらい出来るでしょう」

 ウィニグ達が仕事に励む部屋の扉を開け放ち、大胆な登場をしたかと思えば、その男は共に部屋に入って来た悪態をつく少女と言い合いを始めた。
 触角のようなものを頭に持つ男は、蟲の最上位精霊セクタン。そして悪態をつく小柄な少女は宝の最上位精霊ジュリー。この二体もまた、精霊王の理不尽の被害者である。

「あー、ジュリちんじゃーん。ウチの手伝いに来てくれたん? ヤバーいっ、マジちょー好きラブなんだけど!」
「はっ、はい! アタシ、ハーツさまのお手伝いに来たんです!!」
(憧れのハーツさまと一緒にお仕事がしたくて、怖くても頑張って王さまに直談判しました! ああっ、ハーツさまはやっぱり可愛い……! 精霊界の宝……!!)

 先程までの悪態が嘘のように、ジュリーの顔が蕩ける。この通り、ジュリーはハーツに憧れている。ジュリーはハーツより五百年後に生まれた精霊なのだが、昔から、ハーツの自由奔放で全力で可愛いを突き詰める姿に憧憬を抱いていた。
 憧れのハーツに少しでも近づきたくて最上位精霊の座にまで登り詰めたぐらい、ジュリーはハーツを敬愛していた。

「ジュリちんはマジで可愛いね~。ウチの好きラブコレクションに加えたいくらいっしょ!」
「そっ、そんな……ハーツさまのコレクションなんて畏れ多い……!!」

 サボる理由が出来たからか、はたまた本当にただジュリーを可愛いと思ったのか。ハーツは勢いよく立ち上がり、満面の笑みでジュリーを抱き締めた。ジュリーはそれを当然のように受け入れ、享受していた。
 その光景を眺めていた蚊帳の外の男達は、

「本当に仲がいいネ、彼女達ハ」
「な。ジュリーがあんな顔すんのはハーツか陛下相手の時だけらしいぜ?」
「てか発作は収まったんやな、ウィニグ。さっきまで飛びたい言うて喚き散らしとったのに」
「! それもそうだ……! 言われてみれば物凄く飛び回りたい気分に!」
「やっぱ病気やん……ちゃんと発作なんやな…………」
「シッカーが聞いたらゴミを見るような目で『ソイツの特殊性癖を病扱いするなよクソ共がしばき倒すぞ』って言ってきそうだな!!!!」
「セクタン、うるせーヨ」
「え? 僕がかっこいいって?!」
「そんな事一度たりとも言ってないかラ」
「ああもうなんかこっちのアホは耳聞こえとらんし~! なんでこんな頭おかしいのしかおらんの亜種属性は~~!!」

 こちらもこちらで仲良く話していた。基本的に、最上位精霊同士は仲がいいのである。
 ちなみにこの部屋にいる者達の大半が亜種属性の最上位精霊であり、亜種属性の最上位精霊ではない存在はハノルメしかいない。つまりは四面楚歌である。
 そんな状況で亜種属性と一括りに悪く言ったからか──、

「喧嘩売ったな? ハノルメお前今喧嘩売ったよね?」
「はっはっハッ、よろしイ。ならば戦争ダ」
「いくらハノルメと言えども僕達全員相手では一筋縄ではいかないだろう!!!!」
「ルメちーん、そこの変態とウチら一緒にしないで欲しいんだけどぉー?」
「ハーツさまを馬鹿にしましたね、絶対に許さない……!」

 ハノルメは他の最上位精霊達に囲まれ壁際まで追い込まれた。しかしその表情は一切変わらず、ヘラヘラと余裕を醸し出す。それどころかどこか勝ちを確信めいた様子さえあった。
 いくらハノルメがこの中で最も精霊位階が高いとは言え、どう考えても複数体相手では分が悪いと思うのだが……。

「──やる前から、俺の勝ちは決まっとるんやで」

 ハノルメが鋭い笑みを浮かべてボソリと呟くと。

「……お前等何やってんの?」

 開け放たれた扉の向こう、廊下からエンヴィーが現れた。
 まさかの男の登場に、ハーツが「~~~っ!?」と声にならない叫びを上げて慌ててミラアズの背中に隠れた。その顔は耳まで真っ赤になっており、ミラアズの鏡のような髪を鏡替りに身嗜みを整え始めたのだ。

(なんで、なんで今ここにエンヴィーが来ちゃうの?! 我が王に仕事押し付けられてここの所顔も髪もケアがイマイチだったのに! うわーんどうしようエンヴィーに嫌いラブレスって言われたらどうしよーーーっ!?)

 涙目でハーツは必死に身嗜みを整える。基本的にギャルっぽく、誰相手でも特に接し方を変えないハーツではあるが、エンヴィーだけは例外だった。彼女は、エンヴィーに恋しているのである。
 ハーツは普段から好んで赤い服を着たり、髪の一部を赤く染めたりと健気なアピールをしているのだが、色恋に欠片も興味を抱かないエンヴィーはそれに全く気づかなかった。
『なんかハーツって俺にだけ態度変えるよな……嫌われてんのかね、俺』
 とかふざけた事吐かすレベルである。

「エンヴィーええとこに来たなぁ、見ての通り危険な状況やねんけど助けてくれへんか?」
「どーせお前がまた余計な事したんだろ。なんで俺がお前の事助けてやらないといけねーの」
「十字海岸」
「…………」

 エンヴィーの体がピタリと動きを失う。それを見てハノルメは不敵に笑った。
 最初は全くハノルメを助ける事に乗り気ではなかったエンヴィーだが、ハノルメがボソリと呟いたそれを聞き、嫌々行動に出た。
 この十字海岸という言葉は、数年程前にエンヴィーが怒りのあまり大火災を起こしかけた場所の事である。場所は星の城からも程近い精霊界では有名なデートスポット。
 星空の下、アミレスが父や兄に殺されるぐらいならシルフの手で死にたい──。そう、語っていた事をシルフから聞いたエンヴィーは、その怒りが爆発して権能が僅かに暴走。あわや海岸を燃やし尽くす所であった。
 当時、エンヴィー自身の暴走はシルフの叫びで止まったものの……海岸は既にそこそこの大火災。しかも火の権能まで発動していたとあれば並の存在には太刀打ち出来ない。その火が凄まじい速度で燃え広がろうというのを阻止したのが、偶然にも近くを通りかかったハノルメだったのだ。
 それ以来、ハノルメは困った事があるとこうして十字海岸をネタにエンヴィーを脅すようになった。脅すと言っても、このようにささやかな内容だが。

「はぁ…………あー、そーゆー事だから。ハノルメニテヲダスナー」
「え、ちょっと雑すぎひん??」

 ハノルメの脅迫に屈したエンヴィーは、ウィニグ達とハノルメとの間に割って入った。そしてこの棒読みである。しかしこれだけでも十分効果はある。
 何せエンヴィーは精霊位階三位にして、四大属性の中でも最も強い火の最上位精霊。そして何より──諸事情で精霊王より様々な特例を許されている。そんな存在相手では、いくら最上位精霊が何体か束になろうとも勝てる見込みが無いのだ。
 エンヴィーの存在により、一気に形勢は逆転する。流石に四大属性の最上位精霊二体(それも精霊位階三位と六位)を相手にしようとは彼等も思わないらしい。
 仕方なく彼等がハノルメから手を引くと、もじもじとしながらハーツがエンヴィーの前に出て。

「や……やっほー、エンヴィー。その……久しぶり」
(も~~~! ウチの馬鹿! もっと他に言う事あったぢゃん! 今日もカッコイイとか素敵とか!!)

 エンヴィーに会うのが久々のようで、ハーツは耳まで赤くして懸命に挨拶した。ぎこちない笑顔に、彼女らしくない弱気な仕草。好きなヒトの前だとどうにもいつもの様に振る舞えないらしい。

「まあ確かにお前と会うのは前回の上座会議以来だな」
(だってコイツ、俺の事嫌いみたいだし。用もねーのにわざわざ会う必要もねぇよな)

 相手が自分を嫌っているのに会う必要なんてどこにも無い。そう、エンヴィーは冷静に考えていた。もっともそれは勘違いなのだが。

(……頑張りなさい、ハーツ! だって久々にエンヴィーとこんなに話せてるんだから! 今日こそは──エンヴィーとお茶会したいし!!)
「あ、ああのっ! エンヴィー……その、この後予定とかって……!」

 鈍感なエンヴィーはともかく、周りの者達はハーツの気持ちにとっくに気がついている。それ故に固唾を飲んでハーツの頑張りを見守っていた。
 そして、ハーツが意を決してエンヴィーの予定を聞き出そうとすると、

「予定? 我が王に色々報告したら仕事に戻るけど、それがどうした」

 エンヴィーはバッサリと彼女の決心を切り捨てた。
 元よりエンヴィーは精霊王シルフに会う為に精霊界に戻って来たのだ。その用事が片付いたら、シルフから命じられているのですぐにでも人間界──アミレスの元に戻る事だろう。
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