だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

218.交渉決裂?2

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「それはともかく……私が魔法を使っちゃ駄目な理由って? その子が関わってるってどういう事なの?」

 先程カイルが、シャーリーちゃんと紹介してくれた少女に視線を移し、改めて尋ねる。

「このシャーリーちゃんがな、多分、魔力ナントカ体質ってやつなんだよ。魔力に敏感になる体質で、魔力を浴びるだけで普通の人よりすぐ体調不良になるっぽい」
「へぇ、そんな体質が………だから魔法は使うなって言ったのね?」
「そういう事。お前なら魔法無しでも戦えそうだから頼んでみた」
「あんたねぇ……私をあんた達攻略対象と一緒にしないでちょうだい。私はどれだけ鍛えようとも貧弱なんだから」

 さっきのは運が良かっただけ。と補足すると、カイルは「またまたぁ~~」とゴマをすってきた。
 とにかく。シャーリーちゃんの体質の関係で、魔法は使えないと………どうやってこれ町まで帰ろう。転移も何も使えないって事だもんね、つまりこれは。
 頭を悩ませる。するとそこで、カイルが今思い出したかのように短く声を漏らした。

「あ、そうだ。なあなあスミレ、もし良かったら魔力分けてくれない? 実は今、魔力欠乏で気ぃ抜いたら倒れそうなレベルなんよ」
「別にいいけれど……ほら、手出して」
「ん」

 少し骨ばったカイルの手を握り、魔力を流し込むような感覚で少しだけ放出する。
 しかし、魔力欠乏か。そんなにもなるまでカイルは頑張ってくれたのね。また後で色々とお礼しないと。
 暫くカイルの手を握り、魔力に分け与える。彼の顔色が良くなるまでそれを続け、程なくしてその時は来た。カイルの手を放し、私達はこの後どうやって町に戻るかを話し合う事にした。

「お前のお陰で何回か転移出来るだけの魔力は回復出来たが、シャーリーちゃんがいるから下手に魔法も使えねぇし。どうしたものか」
「こういう時師匠とかナトラがいてくれたらなぁ……あの異常な身体能力でぴょーんって陸地までひとっ飛びしてくれそうなのに」
「ぴょーん………」
「何か文句でも?」
「いえ別に」

 うーん。とまた私達は揃って頭を抱えた。

「シャーリーちゃんから離れた所で、何かの魔法を使って橋を作るとか?」
「それが一番現実的か……」
「でもシャーリーちゃんの体質がどれ程のものか分からない以上、難しいところよね」
「そうなんだよなぁ。もし万が一距離が足りなくてシャーリーちゃんに影響が出たら大変だし」

 この件に関して、大きな問題がある。まず一つ目がシャーリーちゃんの体質の程度だ。その魔力ナントカ体質というものを私は全然知らないのだけど、多分重度であればある程普段から受ける影響というものが大きいのだろう。
 その程度に比例するように、魔力を扱った際に彼女の体に影響を及ぼす範囲……とでも言えばいいのか。その効果範囲のようなものが大きくなると推測する。
 要するに、魔力へと過敏になる──…魔力への耐性を失い、他者よりも魔力をより強く敏感に感じ取るようになる。それが、魔力ナントカ体質なのだろう。
 これが病などではなく体質と呼ばれているのは、それが第六感だとかそういう部類に入るからだと思う。視力がいい、聴力がいい、嗅覚がいい、と似た部類の能力なのだろう、魔力に過敏になる体質というものも。言うなれば、先天的な贈り物のようなものだ。
 だがやはり、このような魔法社会では得よりも損になる事の方が多そうだけど……。

「魔力が関わってる事だし、仕方ないかぁ……師匠を喚ぼう。多分師匠なら何とかしてくれるよ」
「それが最善かねぇ、俺達が思いつく中では」

 カイルもこの苦肉の策には仕方あるまいと納得してくれた。白夜を片手に立ち上がり、私は師匠を喚ぶ為にシャーリーちゃんから距離を取る。甲板の上を駆け抜けて、海賊船の後方にまで来た。
 この師匠を喚び出す手段は、少量の魔力と師匠との繋がりを利用するのでシャーリーちゃんへの影響も少ないと思ったのだ。
 いざお喚び出しをと、白夜で少しだけ手首を切り血を流す。ポタポタと何滴かの血が甲板に落ちてから、そこに白夜を突き立てる。そして最後に、師匠に前教えて貰ったお喚び出しの言葉を口にする。
『いいっすか、姫さん。これはあくまでも念の為のものですからね。もし万が一、俺がいない時に俺の力がどうしても必要になった時にだけ行うよーに。分かりました?』
 そんな風に念押して教えられた、ある合言葉。

「──星を燃やして命を輝かせよ!」

 師匠が作ってくれたという白夜と、私自身を触媒にした擬似精霊召喚。これは師匠が、私が心配だからと師匠を喚び出す時の為だけに作った特別なものらしいので、他の精霊は呼べない。なんならそもそも精霊召喚でもないらしい。
 ただ、精霊を私の元に喚び出す事には変わりないので精霊召喚なのだ。甲板に突き立てられた白夜を中心に、導火線のように魔法陣が描かれてゆく。
 それが完成した時。眩くも暖かい光の柱が立ち上り、光が収まった時には見知った姿がそこにはあって。

「…………どーもこんばんは、姫さん。色々と聞きたい事も言いたい事もあるんですけど、今日は何をお望みで?」
「こんばんは、師匠。あのね、ちょっと手伝って貰いたい事があるの」
「手伝って貰いたい事ぉ? そんなのアイツにやらせりゃいいでしょ。今はカイルとデートとやらじゃないんですか? そもそもどこなんすかね、ここ。つーか今までどこで何してたんすか??」

 妙に言葉に棘があるわね。そして質問責めだわ。それに……何でこんなに不機嫌なのかしら? まあ、突然呼び出されたら誰だって不機嫌にもなるか。

「ここは海賊船の上だよ。今まで普通に観光したり大人に喧嘩売ったりして、今さっきまでこの辺りにたむろしてる海賊を殲滅してた所」
「あれ、俺の知ってるデートと違うな………今どきの人間ってのはそんな物騒なデートをしてんのか……」
「多様性よ、多様性」

 マジか。と言いたげに目を丸くする師匠。マジです。と言わんばかりに私は首を縦に振った。
 すると師匠は首に手を当てて、はぁ……と項垂れ、

「で、俺に何を手伝わせたいんすか? 知っての通り制約があるんで、あんまり大した事は出来ませんからね」

 渋々ではあるが私の要望に応じてくれた。
 そんな師匠に心の中で強く感謝する。そして白夜を回収し、師匠の腕を引っ張ってカイル達の元へと連れてゆく。その際に、師匠に頼みたい事を話す事に。

「えーっと、まぁややあって私とカイルで三隻の海賊船を沈めて、最後の一隻の乗組員を殲滅したんだけど」
「一体何があったらそうなるんすか……」
「それでね。その海賊達が人攫いをしてて、攫われた人達の中に魔力ナントカ体質って体質の女の子がいたの。その女の子がいるから私達も魔法が使えなくて、陸に戻る方法がないんだよね」
「……つまり、俺は陸に戻る手段として喚ばれたと?」

 ピタリ、とそこで師匠の足が止まる。その顔は分かりやすく不機嫌で、ぶすっとしていた。
 やっぱりこんなくだらない事で突然呼び出されたから機嫌が悪いんだわ。でも今となっては師匠しか頼れないの……ごめんなさい。
 申し訳ない気持ちになり、無言で頭を下げる。

「はぁ……まー、いいですけど。何事も無く………はなかったみたいだが、姫さんが無事ならそれが一番っすからね」

 師匠の声はとても優しかった。その表情も、思いやりに溢れた温かいものだった。
 自分の都合で呼び出した私相手に、こんなにも心を砕いてくれるなんて……本当に師匠はいいヒトだ。

「俺に求められてる役割は二つですかね? 一つ、姫さん達を陸に連れて帰る為の足になれ。もう一つは、そのナントカ体質を解消する為に力を貸せ。って事であってます?」
「そう。そうなの! 流石は師匠!!」
「流石は、って……姫さんの性格からしてこれしか考えられなかっただけですよ」

 うんうんうんうん、と何度も頷く。
 師匠は謙遜するように肩を竦めて言うが、私の望みを的確に予測するなんて凄いわ! ……というか、私ってそんなに分かりやすいの? カイルと言い師匠と言い、何だか凄く、私の考えている事をズバリ言い当ててくるわ。

「師匠は何か知らない? その魔力ナントカ体質について」

 足を動かしながら、私はおもむろに切り出した。

「そっすねー……この手のものは俺よりもシルフさんのが詳しいんすけど、今あのヒトめっちゃ忙しいんで、多分呼び出しても来てくれないと思いますわ。ま、俺もやれる限りの事はやりますけど」
「そっか……ねぇ、シルフは元気にしてる? かれこれもう一ヶ月以上会ってないけれど」

 シルフと最後に会ったのは一ヶ月程前。貧民街事業と貴族会議の準備に奔走している時に、『どうしても今やらなければいけない事があるんだ』と真剣な声で言って、シルフは精霊界に帰った。
 それからというもの、シルフの声すらも聞いてない。考えれば考える程寂しいのであんまり考えないようにしていたのだが、やはり、久しぶりに会いたいなと思う。
 せめて声だけでも聞けたらなあと。会う事も声を聞く事も無理だったから、その代わりとばかりにこうしてよくシルフの様子を師匠に聞いているけれど、

「元気っちゃ元気っすよ。あーでも、姫さんに会えてないからか、ストレス爆増で俺達への当たりが酷いったらありゃしない」

 大体このように元気である事しか分からない。
 それでもシルフが元気だと分かるだけで私は幸福なんだ。あわよくば、あのもふもふな背中を撫でて紅茶を飲みながら二人で他愛もない会話をしたい……なんて思ってしまうけれど。
 ………そう言えば、久しくそんな穏やかな時間を過ごしてないわね。
 初めて城を抜け出したその日に厄介事に首を突っ込んで、その日からというもの何かしらに日々を費やしていた。
 シルフや師匠と特訓して、特訓終わりにハイラの入れた紅茶と手作りのお菓子を楽しんで。今みたいに忙しなく賑やかな日々も好きだけれど、長い事そうだったから……あの静かで穏やかな日々も何だか恋しく感じるわ。

「……シルフさんに会いたいっすか?」

 どうやらバレバレのようだ。師匠は相変わらず、優しい表情のまま聞いて来た。

「そりゃあ………勿論。でも、私にはそんな我儘を言う資格がないから」

 そもそも、シルフや師匠が今まで私と一緒にいてくれた事が奇跡に等しい事なのだ。精霊召喚した訳でもなく、二人の好意で仲良くして貰っていただけの私に……果たして、そんな我儘を言う資格があるのだろうか。
 善意や好意で人間界にまで来てくれた二人に、そんな自分勝手な言葉を押し付けてもいいのだろうか。
 そう、考えてしまうのだ。

「資格って……そんな難しく考えなくていいんすよ。姫さんが俺達に会いたいって言ってくれたら、俺達は喜んで会いに来ますし。姫さんはもっと我儘に自分勝手に生きてくださいな」
「えぇ? 今でも十分我儘で自分勝手だと思うけれど」
「いやどこが。姫さんって昔っからそうですよね……周りに甘えないというか」

 困ったように笑いながら、師匠は私の頭を撫でた。
 そうやって歩く事数分。ようやくカイル達の元に戻った。シャーリーちゃんを気遣って師匠も極限まで魔力を抑えてくれたので、何の気兼ねもなくカイル達の元に戻れたのだ。
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