だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

♢暗躍編 212.暗躍しましょう。

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 豪運モンスターカイルといたお陰か、トントン拍子でスコーピオンとの接触を果たせた翌日。
 私達は港町を観光していた。
 昨日気になっていたお店などに行き、皆へのお土産を買ったり、たくさん美味しいものを食べたり、困っている人がいたから助けたりもしていた。

「お嬢ちゃん達、内陸の方から来たから魚が食いたかったのか。そりゃァ残念だな……もうかれこれ一ヶ月近く漁が出来てねぇから、今はどこの店に行こうと魚料理はねぇんだ」

 カイルと二人で、魚料理食べたかったねー。といった話をしていたら、すぐ側の屋台のおじさんが不漁の理由を教えてくれたのだ。
 お話代として私達はその屋台の芋餅風揚げ芋を進んで買って、食べながらおじさんの話を聞く。

「実はなァ、二ヶ月程前からタチの悪ぃ海賊共が沖に居座ってやがってな、沖まで船を出すと誰彼構わず攻撃されちまうから、漁が出来てねぇんだよ」
「「海賊……?!」」

 ゴクリ、と芋餅風揚げ芋を飲み込んで私達は声を重ねた。

「ほら、あっちの方見えるか? あそこにある大きな船、あれが海賊共の船でな。どういう訳かめちゃくちゃ頑丈な船で、並大抵の魔法が効かなくてルーシェ商業組合もお手上げ状態なんだよ」

 力無く項垂れるおじさん。彼の指さした方には昨日私も見た大きな船があった。
 あれって海賊船だったの? 確かに漁をするには大きいなとは思ったけれど、まさか海賊船だったなんて。海賊が存在するっていうのは、授業で習ったから一応知っていたけれど……それがまさか目の前に現れる。
 ん? という事は、つまりあの海賊共の所為で私達は魚料理を食べられないの? 何が目的か分からない海賊共の所為で??

「自警団とか、騎士団とか、そういうのでなんとかしようとは思わなかったのか?」

 私が静かな怒りを燃やす中、ペロリと芋餅風揚げ芋を平らげたカイルがおじさんに尋ねる。おじさんは後頭部を掻きながら、やるせなさそうに語った。

「しようとしたさ。町長主導で自警団と共に海賊共に沖から立ち退くよう勧告した。だが海賊共はそれに応じず、あまつさえ自警団を攻撃した。しかも厄介な事にな、海賊共が恐ろしく強かったんだ。だから俺達は手も足も出ず、あいつ等が勝手にいなくなるのをこうして待ってるって訳だ」

 アルブロイト公爵領の中でも発展しているこの港町ルーシェの自警団でも手も足も出ない強さですって……? だいぶ穏やかじゃないわね。

「領主に頼んで騎士団の派遣とかしてもらえなかったのか?」
「一応、海賊による漁師への攻撃が始まってすぐの頃に領主様にも手紙を送ったさ。だがなァ、時期が悪かったんだ」

 カイルが次々と海賊の件について踏み込んでゆく。おじさんは特に躊躇う様子もなく、色々と事情を話してくれた。
 ここで私は気づく。おじさんの語る『時期が悪かった』という事柄について心当たりがあったのだ。

「………もしかして鉱山事故が関係してますか?」
「嬢ちゃん、何でそれを…!?」
「鉱山事故……?」

 どうやら私の予想は的中したらしい。
 この鉱山事故というのは今から丁度二ヶ月程前に、アルブロイト公爵領にあるランメル鉱山という大きな鉱山で起きた。謎の轟音が採掘場内に響いた直後、斜坑の天井が広範囲に渡って崩落し、採掘場で作業していた人達のべ数百人の死者が出た大事故。
 これは当時新聞で報道され、大騒ぎになっていた。帝都からも帝国兵団と帝国騎士団が救助隊として派遣される程の大騒動。
 だがこの時期、カイルは丁度ハミルディーヒに帰っていた。だから鉱山事故を知らないのだろう。

「嬢ちゃんの言う通り例の鉱山事故でな、領主様んとこの騎士団がほとんど採掘場へと救助に向かってんだ。残りは変わらず警備に務めないとならないとかで、こちらに割く余裕が無いって申し訳なさそうに言われちまったんだ。まァ、こっちは漁に出なけりゃ別に攻撃されないし、ちと商売が成り立たねぇってだけだからさ、それなら人命を優先してくれって領主様にも伝えたんだがな」

 なんていい人なんだ、ルーシェ商業組合の人達は。
 商売が成り立たないなんて凄く困る事だろうに、人命を優先しろと堂々言えるなんて。こんなにもいい人達が損をするなんて間違っている。
 それにしても………本当に時期が悪いな。まさかそんな大事故と海賊の出没時期が重なるなんて──、いや、そんな偶然ある? いくら何でもタイミングがおかしいわ。
 どうしてどっちも、二ヶ月程前に発生しているの? それに、海賊はどうして近づいてくる漁師達を攻撃するだけで他には何もしていないの? 一体なんの目的があって、海賊は二ヶ月近くずっと沖に停泊しているの?

「……ねぇ、おじさん。最近何か、この町で変わった事とか起きてない?」

 ふと、嫌な予感がした。
 もし万が一、この二つの件に何か繋がりがあって……あの鉱山事故がだったとしたら? 鉱山で事故を起こし、公爵領の騎士達がどうしても足を取られているその隙に港町で何かを企んでいたら? そんなもしもの悪い想像ばかりが頭を埋め尽くす。
 だからどうかこの想像が間違いであってくれと、おじさんに質問を投げ掛けた。だけど、

「変わった事………そう言えば、近頃行方不明になる奴が多いな。先月から、かれこれもう十人ぐらい行方不明のままだな。自警団が色々調べてはみてるんだが、全員が町のど真ん中で行方不明になってるとかで訳がわからんのよ。しかし、それがどうしたんだ?」

 こういう時に限って私の嫌な予感は的中してしまう。
 しかもよりによって人間が行方不明になる事件だなんて! こんなのもう、どう考えても海賊が関係しているとしか思えないじゃないの!!
 まさかまた誘拐と人身売買? この国でまだそんな事しようとか考える馬鹿がいるなんて。奴隷商の件からケイリオルさんが更にその手の事に関しては厳しく取り締まりしているのに、よくもまあこんな大胆な事が出来るわね。
 ……ちょっと待って。もしも、海賊がそれを知らない他国の人間だったら? もし万が一、ハミルディーヒの人間だったりしたら──戦争に発展するのがほぼ確定したようなもの。
 どんどん最悪の展開ばかりを想像してしまう。

「…──ううん、ちょっと気になっただけ。ありがとうございます、色々と教えてくれて」

 下手な推測を話していたずらに混乱させる訳にはいかない。だからここはとりあえず隠しておく事にした。
 いつも通りニコリと笑顔を作り、おじさんにお礼を伝える

「おうよ。楽しみにしててくれたみてぇなのに魚料理が出せなくてすまねぇな、嬢ちゃん達」

 おじさんはニカッと歯を見せて笑い、「魚料理の代わりにはならんが、おっさんの愚痴に付き合ってくれたお礼さ」と言って一個ずつ芋餅風揚げ芋をおまけしてくれた。
 それをありがたくいただき、おじさんに別れを告げて歩きながらそれを食べる。その途中でカイルがおもむろに口を切った。

「で、今度は何が起きるんだ? さっきのお前の反応からして、何かしら厄介事が起こるんだろ?」
「………正直な話、可能なら起きてほしくはないけどね。でも今後何かが起きると考えないと、どうにも説明がつかない事が多いのよ」
「海賊に鉱山事故に行方不明事件……だったか、さっき出て来た単語は。これがどう繋がんのかね?」

 カイルがわざわざ日本語で話すから、私もそれに合わせて日本語で話す。

「まず初めに、海賊がルーシェ沖に現れたのは今から二ヶ月程前。それ以来特にこれといった行動は見せず、やった事と言えば沖で漁に出て来た船を攻撃したぐらい。あまりにも不可解とは思わない?」
「ただ本当に停泊してただけとかは?」
「だったら漁に出た船を攻撃する訳ないじゃない。ただ停泊したいだけだったのなら、そんなわざわざ港町から目をつけられるような事をする筈がないわ」
「まぁ、それもそうか」
「だから私は、海賊には何か本当の目的があると考えたのよ。私は、その目的が行方不明事件で手段が鉱山事故だと踏んでいるわ」
「ほう?」
「海賊はこの町で人攫い──行方不明事件を起こすにあたって、まず初めに鉱山で事故を起こした。鉱山での大規模な事故となれば、否応なしに公爵領の騎士達が出払う事になるから、もし万が一港町でちょっとした揉め事が起ころうとも騎士が派遣されてくる事は無い。その上で、何らかの方法でもって海賊が秘密裏に人攫いを繰り返していた……それが、私の立てた仮説よ」

 あくまでも仮説だけどね。と補足して、私は説明を終えた。
 考え過ぎだの陰謀論だの言われてしまえばそこまでなのだが、やはり私にはこれらの事件が繋がっているように思えるのだ。

「仮にこれらの事件が関連するものだったとして、どうやって鉱山で事故を起こしたんだ? それも、騎士団が動く程の大規模なものを」

 芋餅風揚げ芋の包み紙を小さく畳みながら、カイルが疑問を口にする。
 これには少し思い当たる節がある。それは事故が起こる直前に多くの人が聞いたという、謎の轟音。新聞でも報道された程の凄まじい音と振動。
 この轟音が鉱山事故と関係しているのも間違いはないだろう。
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