上 下
221 / 775
第三章・傾国の王女

198.港町と共犯者

しおりを挟む
 貴族会議の一週間後。色々と準備を終えた私は、偶然にも訪れたイリオーデ不在の機を逃さずカイルと二人で作戦会議をしていた。

「貴方って確かマクベスタのルートだけはやり込んだって言ってたわよね?」
「おう。マクベスタのルートだけ鬼のように周回したぜ」
「ならさ、スコーピオンって組織覚えてる?」
「あー……なんかいたな、そんな奴等。それがどしたんよ」

 未婚の男女が部屋に二人きりと言うのがあまりよろしくないとかで(割と今更)、部屋に常に侍女の一人が待機しているものの……私達はそれも構わず堂々と日本語で会話する。
 お陰様で侍女の顔がもうぽかんとしている。この世界には元々存在しなかった言語だもの、仕方無いわ。

「私ね、近いうちに彼等に会いに行くつもりなの。カイルも一緒にどう?」

 この計画に皆を巻き込むつもりは無い。だがまぁ、カイルなら巻き込んでもいいかなーと思った訳ですよ。だってコイツ、敵国の王子だし。それに私と同じ転生者で運命共同体の仲間だし。

「帝都の聖地巡礼はもう八割終わったしな……ちょっと暇してたしいいぜ、面白そうじゃんそれ」
「流石はカイル。ノリが良い!」

 細かい事情を伏せて誘ったので、後で文句を言われないように、よっ! と適当にヨイショしておく。するとこのチョロい男は「まぁ? ノリで生きてきたオタクなんで?」と得意げになった。
 そういえば、カイルは冬が終わってからというもの、暇さえあればウチに来て帝都の聖地巡礼をしている。あのシーンの道があっただの、あのイベントの食べ物があっただの……毎度感想を聞かされたのでよく覚えている。

「で、何であの組織の所に行く訳? アイツ等って悪役………っつーか、ミシェルが自分という存在の特別さを再認識して思い悩む為のフリみたいな存在だったろ」
「ド直球過ぎるわよ。いくら事実だとしても、もうちょっとオブラートに包んであげなさいよ。彼等が可哀想だわ」

 確かにその通りで……スコーピオンとは、別のルートにて戦争で多くの死を見てミシェルちゃんが今一度自分の力がなんの為にあるのか、と己を見つめ直す流れの代わりに存在する。戦争に出ない代わりに、スコーピオンという存在との戦いで己を見つめ直す事になるのだ。
 だから、まぁ……確かにカイルの言う通り、彼等は物語を盛り上げる為の舞台装置に過ぎない。しかし、しかしだ。
 例え舞台装置だったとしても、今この世界では実際に生きている訳で。だからにべもなくあんな風に言うのはどうかと私は思うのだ。

「スコーピオンに会いに行くのは後の事を考えてよ。ちょっと、彼等の力を借りたいの」
「まーアイツ等ゲームでもそこそこ強かったしな。オセロマイトの遺産を使っての事だったけどよ」
「そうよ。彼等は強いの。だからその力を拝借する為に、交渉に行かなきゃいけないの」
「なるほどなるほどぉ、いいじゃん。んで、どこ行くん? てかいつ?」

 本当に話が早い。カイルはケロッとした顔でいつ行くのかを聞いて来た。

「場所は帝国北部のアルブロイト領にある港町ルーシェ。詳しい座標は後で地図を渡すから、サベイランスちゃんでそこまで連れて行って欲しいの」

 実はカイルを共犯者として巻き込む事にした理由の中でもっとも大きいのが、これである。私は王女で、実の所あまり勝手な行動が許されない立場にある。
 その上で、過保護な皆に内緒で馬車で三週間はかかるという港町まで行き、スコーピオンと交渉して帰って来るのは、はっきり言って無理難題。
 ならばどうやってスコーピオンの元に行き、交渉をするのか。それを考えた末に思いついたのが、カイルを共犯者にする作戦だった。
 一人なら言い訳も難しいが、同行者がいるなら……多少無茶な言い訳も通るかもしれない。更にカイルならサベイランスちゃんの力で一度も行った事の無い場所にさえ瞬間転移出来てしまう。
 そして極めつけに、カイルならある程度の事情を把握してくれている。一番、話が早い存在だから。
 これ程の適任者がいるのなら、騙してでも共犯者にするというもの。だからごめんよ、そしてありがとうカイル。

「港町か~、寿司とかあるかな?」
「ある訳ないでしょ。それに、ウチの国は漁業よりも貿易業の方が強いんですー」
「シャンパー商会がいるから?」
「えぇそうよ」
「まぁそうだよなー、シャンパー商会つえーもんなー」
「シャンパー商会はつえーのよ」

 この世界の人間として生きて初めて実感したが、本当に、西側諸国においてシャンパー商会という存在は恐ろしく強大なのだ。
 シャンパー商会に睨まれたら生きていけないなんて言われる程。ちなみに、スコーピオン社はそんなシャンパー商会と仲良く帝国で商売をやっている稀有な商会である。
 シャンパージュ伯爵家が賭博そのものにあまり食指が動かず、賭博事業に参入しない為か、スコーピオン社は賭博事業で大成功を収めているらしい。
 シャンパー商会とスコーピオン社がフォーロイト帝国の二大商会と言っても過言ではない。

「日程はまだ決めてないけど……出来る限り早めがいいわ。貴方の準備が済み次第出発するつもりだったから」

 だから、諸々の準備が出来たら教えてね。と付け加えると、カイルはいつもの軽薄な笑顔を浮かべて、

「良し、じゃあ明日の朝行くか。俺も今から帰って準備するし」

 サラッと凄まじい言葉を吐いた。
 え? なんて、明日??

「善は急げって言うしな。近々、お前が悪役ヴィランにわざわざ力を借りたがる程の何かが起きんだろ? なら急ぐべきっしょ」

 突然核心を突かれ、私は息を飲む。

「俺はお前と違ってそこまで記憶力もよくないし、ゲームの事もあんまり覚えてねぇ。だから、お前が確固たる意志を持って動く時は無条件に従おうって決めてたんだ」

 カイルはやけに眩しく歯を見せて笑って、

「だって俺等、目指せハッピーエンド同盟だろ?」

 親指で自分を指さした。……まったく、この男は。
 本当に心強い味方が出来たものだ。性格はひとまず置いておいて、本当にこのチートオブチートは仲間だと頼もしすぎる。
 カイルが仲間で良かった。心からそう思う。

「そうね。これからはお望み通り散々こき使ってやるから覚悟してなさい?」
「いや、別にこき使われる事を望んでる訳じゃねーからな?」
「よーしっ、凄く頼りになるなかまが出来たわ!」
「なんだろうなぁ! 凄く嫌な文字とルビが見えるなぁ!!」

 そうやってふざけつつ、私達は港町に行って何をするかの簡単な話し合いをも済ませた。その後カイルが宣言通り一旦帰宅。翌朝に東宮の庭集合という事でそれぞれ準備に移った。
 多分沢山お金を使う事になるだろうから、へそくりをいっぱい布袋に入れる。その他色々と必要そうなものをある程度肩提げ鞄に入れて、準備は完了した。
 必要なものが出てきたら向こうで買えばいいのだし。と準備を終えた私は夕食を食べに食堂に向かった。その頃にはイリオーデも用事から帰って来ていて、いつも通り皆で一緒に食事をとり、私は明日の事を考えて早めに眠りについた。
 どうか事が上手く運びますように、と願いながら。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

処理中です...