だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第三章・傾国の王女

♢港町編 191.気まずい空間

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「あ~~~、やっぱ涼しいな~この国は」

 人の部屋で勝手に長椅子ソファに寝転がり、その男は氷菓子片手に寛いでいた。

「あのさ……こっそり遊びに来るのはいいんだけど、敵国を避暑地扱いするのはどうなの?」

 随分とまぁ涼しげな格好で、彼の体を汗が伝う様子は無い。何せ真夏──八月でも我が帝国はあまり暑くない。だからこそ私はこの国以外で過ごす夏を知らないし、彼が敵国フォーロイトを避暑地扱いする理由もよく分からない。

「いやだってさ、マジでこの国涼しいんだから仕方無いっしょ? 流石は氷の国だわ~」
「ハミルディーヒってそんなに暑いの?」
「ここと比べると大分暑いぜ? 真夏の北海道と埼玉ぐらい違いがある」
「絶妙な例えね」

 カイルは私にしか分からないような絶妙な例えを繰り出した。お陰様で隣国でありながら結構な差がある事が分かった。
 だからって、敵国に避暑はどうかと思うわよ。いくら休戦協定があるとは言え……貴方、のちの王太子でしょう? いくらなんでもお気楽過ぎない?
 呆れからはぁ。とため息をついて、私は立ち上がる。息抜きでもしようかなと思ったのだ。
 冬と比べると減ったものの、相変わらず仕事は回ってくる。その為、相変わらず執務机にへばりついている時間が多い。だから腕もなまるし、そもそも特訓時間が減っててストレスにもなる。
 たまには体を動かさないとやってられないのだ。

「イリオーデ、ちょっと一戦どうかしら?」

 白夜を手に取り、ずっと壁際にて直立していたイリオーデに声をかけると、

「……! 私なぞがお相手でよろしいのでしょうか?」

 イリオーデはそう聞き返してきた。私はそれに、「一度貴方とも戦ってみたかったのよ」と答える。何気に今まで機会が無くて、イリオーデと一戦交える事は無かったのだ。
 イリオーデはそれに「有り難き幸せにて」と胸元に手を当てて恭しく頭を垂れた。無表情ではあるものの、その声音からは喜びが感じ取れる。

「えー、それ外でやんの?」
「当たり前でしょ。室内で剣振り回す訳ないじゃない」
「じゃあ俺見れねーじゃん」
「見なくていいでしょ、別に」

 カイルがぶーぶーと唇を尖らせて文句を言う。いつもの事だが、この男は密入国している。それも王城に展開されている結界を素通りして、東宮に瞬間転移しているのだ。
 なので必然的にカイルの行動範囲は東宮内だけに限られる。万が一の可能性があるので、東宮から出る事が出来ない。

「やだよ、お前等の戦い見てぇもん」
「めんどくさいなぁ………」

 私よりも歳上の筈なのに子供のように我儘を言うカイルに、私はまた呆れを零す。
 一旦この我儘王子を放置してイリオーデと共に外に出る。少し歩いて、あの部屋から見える位置にまで移動すると、丁度日課を終えたらしいマクベスタと師匠に出会って。
 今からイリオーデと模擬戦をする事を伝えたら、二人は観戦すると言って木陰に向かった。あまり暑いとは感じないが、陽射しが強い事に変わりはない。熱中症対策をするに越した事はないのだ。
 後ろで一つに髪を結わえ、私は剣を構える。するとイリオーデも同じく剣を構えて、

「それじゃあいくわよ、イリオーデ!」

 私は地面を蹴ってイリオーデへと向かってゆく。そうして、数分に及ぶ私達の模擬戦は始まった。
 夏空の下で響く剣戟の音。剣が風を斬り、靴が地面を叩く。
 あぁ……やっぱりイリオーデは強いな。流石はランディグランジュ家出身だ。その構えも動きも何もかもが洗練されていて、付け入る隙がほとんど無い。
 嬉しいな。こんなにも強い人と戦えるなんて。そう、私の心は模擬戦の楽しさに躍っていた。
 しかし楽しい時間程早く終わりゆくもの。二十分程模擬戦を続けていると、流石にこれ以上は倒れる恐れがあるからと、師匠が「はいストップストーーップ!」と叫びながら割って入って来たのだ。
 私としてはもう少し戦っていたかったのだけど、師匠がそれを許してくれないので渋々剣を鞘に収めた。そしてイリオーデの方を向いて、

「ありがとう、イリオーデ。とっても強くて戦うのが楽しかったわ」

 お礼を告げる。するとイリオーデは急いで剣を鞘に収めて、

「っ、王女殿下の模擬戦のお相手という大役をお任せ下さりありがとうございます」

 またもや深く腰を曲げた。私はそれなりに疲れたのだけど、息一つ切らしていないわよこの人。
 かろうじて汗はかいているみたいだけど、もはやそういうキラキラフィルターにしか見えない。イケメンは汗も光るって本当だったのね。
 息抜きを終えた私は部屋に戻り、服を着替えた。そしてカイルが我が物顔で寛ぐ執務用室まで皆で向かっている途中、イリオーデがおもむろに尋ねて来た。

「あの、王女殿下。つかぬ事をお伺いしますが………『ホッカイドー』と『サイタマ』とは一体何なのでしょうか? 先程のカイル王子との会話が妙に気になってしまいまして」
「ホッカイドー? 何だそれ、精霊界でも聞いた事ねーな」
「オレもだ。サイタマとやらも今まで聞いた事が無い」

 イリオーデの疑問に師匠とマクベスタが反応する。
 そう言えばあの時、カイルの奴全然普通に共通語で喋ってたじゃん。そりゃあ同じ部屋にいたイリオーデにも聞かれてたでしょうね。……これ、なんて説明しよう。
 うーん、と暫し悩んでから私ははぐらかす事に決めた。

「……隠語みたいなものよ。そのまま喋ってたら内容が分かっちゃうじゃない?」
「隠語。あの会話の流れでですか」

 イリオーデがボソリと呟いたそれが、鋭利に私に突き刺さる。痛いところを突かれてしまった。
 まぁ確かに国が暑いどうこうの話の流れで突然隠語が飛び出すのはかなり意味不明よね。あまりの正論で耳が痛いわ。

「相変わらず、お前とカイルは仲がいいな……」

 拗ねたような様子で、マクベスタはボソッと呟いた。
 はっ、これはあれかしら。『お前の相棒はオレなんだが』的なあれかしら? ………いや自意識過剰が過ぎるか。これは多分あっちね、『オレだって同年代の男友達が欲しい』ってやつね。失礼だとは思うけど、確かにマクベスタもあんまり友達はいないみたいだから……。

「大丈夫よ、マクベスタだってもうとっくにアイツと仲良いわよ!」

 サムズアップして安心してくれと伝えると、

「何が大丈夫なのか分からないが……正直な所、オレは、少し…カイルの事が苦手なんだ」

 眉根を下げて、マクベスタが突然のカミングアウトをした。二人もかれこれもう半年以上は関わっていると思うのだけど、まさかマクベスタがカイルの事を苦手だと感じていたなんて。

「どうして? 私が言うのもあれだけど、アイツは結構接しやすいと思うけど……」
「それはそうなんだが、なんと言うか、オレが普段はしないような言動をする度にカイルが過剰な反応……というか、変な反応をするから」
「あっ」

 察してしまった。マクベスタは知らないものね、カイルにめちゃくちゃ推されている事を。そりゃあマクベスタからしたら変態じみた意味不明な反応でしょうね。

「それはー……うん、アイツの持病みたいなものだから気にしないであげて。顔の良い男に弱いのよ、カイルは」

 どうして私がカイルの奇行のフォローまでしてあげる必要があるのかは分からないが、マクベスタに気にしないでと伝える。
 しかし、マクベスタは更に顔を暗くして、

「そうか。……お前達は、お互いに詳しいんだな」

 そこで会話を打ち切った。
 なんだその反応。まさか、私が知らない所ではそこまでカイルの言動が目に余るのかしら。後で私からも説教しよう。うちのマクベスタにあんまり変な事しないでちょうだい! って。

「あー、話は変わるんすけど。姫さんは本当に結婚願望とか無いんすか? お嬢さんから前にそう聞いたんすけど」
「本当に話変わったなぁ」
「はは。まぁいいじゃないっすか。結構気になってたんすよ、これ」

 師匠が話題を変えると、マクベスタとイリオーデも興味深そうにこちらに視線を向けて来た。
 そんなに私の結婚願望って気になる事なのかな……でも、確かに私もメイシアの将来は気になるし、多分そういうものなんだろう。

「無いよ、そんなもの。だって自分の明日すらも分からない状態で生きてるのに、他の人の人生にまで責任を持てないから」

 病める時も健やかなる時も──という祝言の誓いがあるけれど、私はそれを誓う事も守る事も出来ないだろう。だってそれを誓ってしまったなら、私は相手を残して、相手を一生その誓いで縛って死ぬ事になる。それは嫌だ。そんな悲劇、私自身が許せない。
 だから私は、いつ殺されるかも分からないのにそんな自分勝手な誓いをしたくない。

「それに……結婚って、愛する人同士がするものでしょう? ならきっと、私には無理だよ」

 愛されたいと願うものの、正直に言えば何が愛なのか私にはよく分からない。分からないものを求めているなんて、かなり意味不明よね。
 だから私からしても、何をどうすれば人を愛する事になるのかが分からない訳でして。愛される事も愛する事も分からない私に、結婚なんてものは一番不可能な事だろう。
 これもまた、結婚願望というものが無い要因の一つだと思う。

「これで師匠の疑念の答えになったかな?」
「……あ、そっ…すね。教えてくれてありがとうございます、姫さん」

 師匠は思い詰めたような表情で、ぎこちなく笑みを浮かべた。
 気まずい。聞かれたから答えただけなのに、どうしてここまで気まずくなるのか……。普通の女の子なら人並みに持ってるであろうそれを、私が持っていないからだろうなぁ。
 そんな気まずい空気の中私は執務室に戻り、能天気なカイルに出迎えられつつ仕事を再開した。
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