だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
200 / 786
第二章・監国の王女

Side:マクベスタ

しおりを挟む
 のっけからこんな事を言うのもなんだが、オレは本当に、女性との距離を縮める事が苦手だ。これまでその必要が無かったという事もあるのだが、これまでの人生で母上と侍女以外にまともに女性と関わってこなかった事も原因の一つかもしれない。
 女性の扱いなど全く分からないし、叶うなら本当に教えて欲しいぐらいだ。
 一体どうすれば女性との距離を縮められるんだ? 一体どうしたら、適切な距離というものを保てるんだ? 彼女に告白だけはしないと決めているものの………それでも生涯を彼女の為に使うと決めた以上、可能ならばもっと距離を縮めたく思う。
 べつに、やましい事なんて考えてない。下心なんて無いぞ。無いからな?
 アミレスはオレの事を友達としてとても信頼してくれている。それはオレからすればかなり嬉しい事であり、何より安心出来る事だ。しかし、オレだって男だ。草花のように逞しく根気強いオセロマイトの王子だ。
 決して、これしきの事で満足はしない。オレは更に上を──彼女の、『親友』という立場を目指す!
 オレの把握している限りでは、今の所、アミレスが誰かに親友という言葉を使った事は無い。ならば……オレがそれを目指してもいいのではと。オレにだって、それぐらいの権利はあるのではと。
 オレにはこの生涯を賭して償うべき罪がある。その為にアミレスの傍にい続ける必要がありまして。どうせ傍にいられるのなら、少しでも彼女に近い立場でありたいなー…なんて。
 やっぱり駄目か? オレにはそんな資格ないか?
 はぁ……………と腰に手を当て重苦しいため息を吐き出した時、そんなオレの顔を覗き込むように彼女は現れて、

「マクベスタ、踊りましょう?」

 ふにゃりと柔らかく笑い、手を差し出して来た。
 あぁあああああもうっ! 何でお前はそんなに可愛いんだ!! どんな姿も輝いて見えるんだが! 昨日なんて想像の数倍は綺麗で完全に見惚れてたんだぞ!!
 実は昨日、会場についてから十分近く、綺麗過ぎる彼女の姿に見蕩れて呆然としていた。その影響で顔が赤く、何故か意味不明な誤解をされてしまったんだが……オレが好きなのはアミレスなんだから、他の女性と懇ろな関係になる訳ないだろう。
 ──とは言えない訳で。とにかく好きな人が出来たら教えろと繰り返すアミレスに、オレは疑問を抱き続けていた。
 そしてその後、イリオーデと共に踊るアミレスにまた見惚れていたらメイシア嬢に睨まれて、アミレスへと意識を割く余裕を無くす為かダンスに無理やり連れて行かれた。
 なんと言うか、前から思ってたんだが。メイシア嬢は確実に、オレがアミレスを慕っている事に気づいているよな? 分かった上で最近よく睨みをきかせてくるよな?
 オレは彼女に気持ちを伝えられないから関係無いのだが、もしアミレスに告白しようなどという輩が現れたなら。その者はメイシア嬢の目を掻い潜る必要があるのか。
 まぁ、その場合はオレも当然見定めるがな。アミレスもこんな感じの事を言っていたが、アミレスに相応しい男かどうかオレもしっかりと審査するつもりだ。

「マクベスタと踊るのってなんか新鮮ね」
「アアソウダナ、オレモソウオモウ」
「え、何で急に片言?」

 オレの言葉に困惑するアミレス。いや、言葉どころか表情にも困惑を示しているのかもしれない。しっかし……その顔も可愛いな。
 とか何とか考えている場合ではなくて。オレは今、まるで人形かのようにぎこちない表情と動きをしていた。
 理由は勿論この状況。かなり体が密着し、彼女に触れている我が手はとても小刻みに震えていた。それにしても、本当に近い。オレから誘っておいてあれだが、本当に近過ぎて心臓に悪い。
 昨日のアミレスは美しく、今日のアミレスは可愛らしい。何度見ても、ふと見惚れてしまう。それと同時に、この会場にいる者達全ての目を抉ってしまいたくなる。
 オレ達のアミレスは凄いんだぞと世間に知らしめる事が出来た喜びの裏で、それはオレ達だけが知っていれば良かったのに、と──アミレスの事を何も知らない奴等にこんなにも可憐な姿を見せたくなかった、と。そんな後悔や独占欲が、この会場の人間全ての目を抉りとって潰してしまいたい欲求へと変換される。
 目を抉る事が叶わぬのなら、パーティーが終わってから会場に来た人間全ての記憶を抹消したい。何も知らない癖にアミレスの事を知ったように語り、これまで散々陰で貶めて来た奴等が、見目の麗しさだけでアミレスへの評価を一転させ、何事も無かったかのようにゴマをする事が到底許し難い。
 世界が許すならば、アミレスを軽んじる全ての人間に雷を落としたい。………パーティー終わり、帰り際に自然災害に見せかけたら意外といけるんじゃないか?

「マクベスタ、何でそんなに険しい顔してるの? もしかしてダンス苦手だった? ……いや、そうだったら誘って来ないか」

 アミレスが心配そうにこちらを見上げてくる。それにハッとなり、オレは雑念を振り払った。

「すまん。緊張してて」
「まぁ分かるよ、だって兄様の誕生パーティーだもの」

 とはいいつつも、アミレスは全然緊張とかしてなさそうだな。本当に肝が据わってるからなぁ、アミレスは。そんな所もとても魅力的なんだが。
 それにしてもアミレスは本当に鈍感だな。まぁ、オレはそれに助けられているのだが。こんな状況で緊張していると言えば、普通は自分が理由だと考えるだろうに。真っ先に考える理由がフリードル殿下な辺り、お前らしいというか。
 相変わらずオレの好きな人は変わっているな。とつい笑みがこぼれてしまう。はっ、いかんいかん……アミレスの目の前でこんな風にしていればバレぬものもバレるというもの。
 いくらアミレスが愛情に関してだけ異様に鈍感でも、気付かれる恐れがある。それが原因で関係が崩れたりする事も嫌だし、そもそもオレの贖罪が叶わなくなるからそれは駄目だ。
 だから隠し通さねば。決して気付かれぬよう、この恋心だけはオレの胸の奥にそっと閉じ込めておかないと。
 何よりも大事な宝物として宝箱の中に入れて、何重にも鍵をかけよう。そうすれば、きっとアミレスには気付かれない。アミレスにさえ知られなければそれでいいんだ。
 ………最近は少し気が緩んでいた。これからはちゃんと気をつけないと。

「今日は、オレとも踊ってくれてありがとう。一生モノの思い出になった」
「なにそれ。別にこれからも全然踊れるんだから、一生モノと決めつけるのは早くないかしら?」
「はは、そうかもしれないな」

 だけど。少なくとも、今日この日のこのダンスはこれから先も鮮明に記憶に残り続けるだろう。それこそ、一生忘れられぬ思い出として。
 でも、それでいい。それが、いいんだ。
 …──オレは、きっと。この思い出さえあれば、十分だから。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...