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第二章・監国の王女
172.パートナーの座は誰の手に2
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「シルフ様とエンヴィー様の事はひとまず置いておきましょう。今はアミレス様のパートナー選びの方が大事です」
メイシアはマクベスタとイリオーデを交互に見て、またもや考え込む。
彼女の掲げるパートナーの条件……それに合致する男が最早この二人しかいないからである。ならば、パートナーはこのどちらかより選ぶ事となる。
(ランディグランジュ侯爵の弟であるイリオーデさんと、オセロマイト王国第二王子のマクベスタ様………どちらもアミレス様のパートナーとしては申し分無いのだけど、悩みどころだわ)
メイシアはイリオーデがランディグランジュ侯爵家の人間であると知っていた──…正確には、そんな気がしていたのだ。
父であるホリミエラの仕事の見学をするようになってから、彼女は貴族達の名前を把握するようになった。そこで、イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュの名を見た覚えがあったのだ。
更にその髪色。ランディグランジュ家の人間は美しい青の髪を持つ場合が多く、その話をホリミエラより聞いた事があった為、メイシアはイリオーデと出会ってすぐにその正体に気がついたのだ。
だが、本人が明かさぬのなら……とメイシアも特に言及して来なかった。ランディグランジュの神童が失踪した事になっている以上、何か訳ありなのだろう。そう齢十二程の少女が配慮したのである。
少なくとも、イリオーデがアミレスに対して害意や悪意を抱く様子は全く無い。それどころか強く敬服しているようで、メイシアも密かに信頼を置いていたのだ。
(マクベスタ様をパートナーに据えると、歳が近い事もあって邪推されそうね。じゃあやっぱりイリオーデさんが最適なのかな)
マクベスタをパートナーとする事で発生する不利益を考え、彼女は迷う。決して、メイシアがマクベスタを信頼していない訳ではないのだ。
ある日を境にマクベスタのアミレスを見る目が変わった事に、メイシアは目敏く気づいていた。ただ暫く観察してみたところ、アミレスへの実害は無さそうだと見込み、放置していたのである。
メイシアはアミレスの幸せを心より願っているが、同時にアミレスには恋人なんて不要と思っている。
…──恋人や家庭を持つ事だけが幸せじゃないもん。わたしがいるから、アミレス様に伴侶なんていらないもん………。
そんな事を考えてはアミレスに好意を抱く人間を片っ端から危険視している。
アミレスに恋人が出来たとして……今までのように構って貰えなくなる事を、メイシアは恐れていた。
(もしもマクベスタ様がパートナーとしてパーティーに出た事で、お二人が婚約関係だとかそんな根も葉もない噂が流れ出したら………わたしはもう、我慢ならないわ)
現在マクベスタとアミレスの歳の差は二つ。第二王子と唯一の王女たる二人は、確かに婚約関係と噂されてもおかしくない立場にあった。
ただでさえ、マクベスタとアミレスがやけに親密という噂が王城では流れているのに…パーティーにパートナーとして現れたりすれば、誤解が深まる事間違いなし。
なので、マクベスタは選択肢から外された。
例え噂であろうとも……アミレスが婚約だの、アミレスに恋人だの…そういった話は聞きたくない、メイシアなのであった。
「──そうですね……マクベスタ様には申し訳ありませんが、今回はイリオーデさんにお任せしましょう」
「なっ…!」
キリリとした表情でメイシアが審査の結果を告げると、マクベスタはやはり納得がいかないようで。どうして、と言わんばかりの不満げな面持ちとなっていた。
「どうしてオレでは駄目なんだ、メイシア嬢」
「マクベスタ様とイリオーデさんのお二人を秤にかけた結果、イリオーデさんに傾いたからです。よりアミレス様に齎される不利益が少ない方を、わたしは選んだだけにすぎませんわ」
「不利益なのか、オレがアミレスのパートナーになる事は」
「まぁ、そうなりますね」
(──わたしの私情も含まれてるけど、これは言わなくていいよね)
メイシアの言葉を受け、マクベスタは「はぁぁぁぁ………そうか、そうなのか……」と露骨に落ち込んだ。すぐ側にある長椅子にどっかりと腰掛け、深く項垂れる。
それを見て、流石にメイシアもストレートに言い過ぎたかと良心の呵責に苛まれた。
「マクベスタ様はアミレス様と歳が近いでしょう。そしてどちらも王族と皇族です。もし、万が一………お二方がパートナーとしてパーティーに出る事で周囲に婚姻関係ないし恋人関係にあると誤解されては、アミレス様にとって不利益が生じますから」
「まっ──…まぁ、確かに……それもそうだな…」
「何で一瞬嬉しそうな顔したんですかマクベスタ様」
「き、気の所為だ。別に嬉しくなんてないからな、そんな嘘や誤解とはいえ嬉しいなんて全然…………オレにはそんな資格ないし……」
メイシアが目くじらを立てて鋭く突っ込むぐらいには、マクベスタはソワソワとしていた。
アミレスと恋人関係にある己を一瞬妄想し、多幸感に満ちたのである。想いを告げず、隠し通すと決めたものの…やはりマクベスタも十五歳の思春期の男。
つい、こういった妄想をしては密かに喜びを噛み締めているのである。今回はメイシアにバレてしまったが。
(もし本当に、想いを告げて彼女と恋人になる事が出来たら、一体どれ程幸せなのだろうか………想いを告げられないとは言え、今こうして傍にいるだけでも結構幸せなんだぞ? オレ、幸せ過ぎて死ぬんじゃないか?)
最早パートナーに選ばれなかった事など頭から抜け落ち、そんなささやかな妄想に少年は耽っていた。
妄想を抑えきれず、だらしなく緩む口元。それを見たメイシアは、先程申し訳なく思いわざわざ理由を説明してあげた事を後悔した。
そして、イラッときた彼女は「シュヴァルツ君、あの人を大人しくさせてくれないかな」とシュヴァルツに頼み、シュヴァルツはそれを笑顔で快諾。
「まっかせて~!」
と、ニヤリと鋭く笑ったシュヴァルツが瞬く間にマクベスタに飛びかかり、二人は暫し軽い取っ組み合いをする事になる。
(視界の端が少し騒がしいけれど、これで良し。一応イリオーデさんにも選ばれた理由を伝えた方がいいかな?)
ふぅ、と一息ついてから、メイシアはイリオーデを見上げた。
「マクベスタ様ではなくイリオーデさんを選んだ事にもきちんと理由があります。マクベスタ様と違って、イリオーデさんはアミレス様とも歳が離れてますし、何より出身からして、恋人関係などの誤解を受ける事だけは絶対に無いと思ったからです」
やはりメイシア視点ではそれが重要事項のようで。イリオーデがパートナーならばその誤解が起こりえぬと、メイシアは確信していた。
皇族に仕えているだけのランディグランジュ侯爵家の騎士が、そのような誤解を受ける筈がないのだ。
もしそのような誤解をする者がいたならば──それは相当な世間知らずだろう。
「確かに…私の実家の権威をチラつかせれば、そのような不敬な考えを抱く者も現れまい。流石だ、シャンパージュ嬢。その歳でこれ程頭が回るとは」
イリオーデは微妙に勘違いをした。
別に、直接的に権威を利用しろとは言っていない。ランディグランジュ侯爵家の性質を活用したいだけである。
(少し話が通じていない気もするけど……)
「…──ありがとうございます。アミレス様の為に生きると決めてから、より一層勉強に励んでますから」
「そうか、王女殿下の為か。それはとても素晴らしい心意気だ。そのまま励んでくれ」
イリオーデはメイシアへの評価を『王女殿下の御友人』から『王女殿下の為に生きる同志』へと変えた。
アミレスの為に勉強に励む十二歳の少女を、イリオーデは高く評価する。
(流石は王女殿下だ。これ程に将来有望な少女をも心酔させるとは。まぁ、我が主君ならばどのような人間であれども心酔して当然なのだがな。王女殿下の為に多くを学ぶ姿勢──…本当に素晴らしいじゃないか)
イリオーデはメイシアの心意気を賞賛し、心の中で拍手を送る。
メイシアの忠誠心を認め、確実にアミレスの手足となる確信が持てたからこそ彼も手放しで賞賛するようになったのだ。声には出てないが。
(だがしかし。王女殿下への忠誠心であれば私も負けるつもりは無い。例え誰が相手であろうとも、王女殿下への忠誠心ならば私は何にも負けぬ自信がある)
イリオーデはついにメイシアに張り合い始めた。アミレスへの忠誠心ならば誰にも引けを取らないと、彼は自信満々にどんと構える。
大人気ない。今年で二十二歳とかになるのに、何を十歳も歳下の少女に張り合っているのか。
「のぅ、我はものすごい天才じゃからずっと思っておったのじゃが……」
これまでの会話をずっと静観していたナトラが、ついに口を開く。不遜な登場をして、その幼女は率直な感想を述べた。
「パートナーとやらはアミレスが決めるのじゃから、お前達がどれだけ言い争っても無駄なのでは?」
翡翠のツインテールを指先に搦め、退屈そうにくるくるとそれを動かしながらナトラは言い放った。
((((──た、確かにそうだ!!!?))))
メイシア達の脳裏に衝撃が走る。当然のようにアミレスのパートナーの座を巡って言い争っていた者達は、パートナーの決定権がアミレス本人にある事を今更思い出したのだ。
その様子をナトラ同様に静観していたディオリストラスとシャルルギルは思う。
(コイツ等、誰一人として気づいてなかったのか……)
(どうして誰も気づいてなかったんだろうか)
ディオリストラスは呆れ返ったように薄ら笑いを浮かべ、シャルルギルも珍しく思案顔を作っていた。
恋や愛は人を盲目にすると言うが………彼等彼女等もそれは例外ではないらしい。物の見事に全員が目先の事に気を取られてしまっていた。
こうして予想外の終わりを迎えた、アミレスのパートナー決めの話し合い。
ナトラの言う通り、アミレスが誰かを指名するかもしれない。と一抹の不安が脳裏を過ぎった面々はひとまずこの話し合いを無かった事にして、アミレスの判断を待つ事にした。
しかし何日経とうともその時は来ず、結局パーティー前夜までパートナーの話題がアミレスの口から出る事は無かった。
前夜になってようやく、思い出したように「そう言えばパートナーも決めなきゃいけないんだった」とアミレスが呟き、その時丁度すぐ傍にいたイリオーデにパートナーになってくれと頼んだ。
勿論イリオーデは二つ返事でこれに従った。紆余曲折を経て、話し合いの結論通りにイリオーデがアミレスのパートナーとしてパーティーに出る事となったのであった。
………余談だが。この日から、男性陣のイリオーデへの当たりがしばしば強くなる。
勿論、ただの嫉妬である。
メイシアはマクベスタとイリオーデを交互に見て、またもや考え込む。
彼女の掲げるパートナーの条件……それに合致する男が最早この二人しかいないからである。ならば、パートナーはこのどちらかより選ぶ事となる。
(ランディグランジュ侯爵の弟であるイリオーデさんと、オセロマイト王国第二王子のマクベスタ様………どちらもアミレス様のパートナーとしては申し分無いのだけど、悩みどころだわ)
メイシアはイリオーデがランディグランジュ侯爵家の人間であると知っていた──…正確には、そんな気がしていたのだ。
父であるホリミエラの仕事の見学をするようになってから、彼女は貴族達の名前を把握するようになった。そこで、イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュの名を見た覚えがあったのだ。
更にその髪色。ランディグランジュ家の人間は美しい青の髪を持つ場合が多く、その話をホリミエラより聞いた事があった為、メイシアはイリオーデと出会ってすぐにその正体に気がついたのだ。
だが、本人が明かさぬのなら……とメイシアも特に言及して来なかった。ランディグランジュの神童が失踪した事になっている以上、何か訳ありなのだろう。そう齢十二程の少女が配慮したのである。
少なくとも、イリオーデがアミレスに対して害意や悪意を抱く様子は全く無い。それどころか強く敬服しているようで、メイシアも密かに信頼を置いていたのだ。
(マクベスタ様をパートナーに据えると、歳が近い事もあって邪推されそうね。じゃあやっぱりイリオーデさんが最適なのかな)
マクベスタをパートナーとする事で発生する不利益を考え、彼女は迷う。決して、メイシアがマクベスタを信頼していない訳ではないのだ。
ある日を境にマクベスタのアミレスを見る目が変わった事に、メイシアは目敏く気づいていた。ただ暫く観察してみたところ、アミレスへの実害は無さそうだと見込み、放置していたのである。
メイシアはアミレスの幸せを心より願っているが、同時にアミレスには恋人なんて不要と思っている。
…──恋人や家庭を持つ事だけが幸せじゃないもん。わたしがいるから、アミレス様に伴侶なんていらないもん………。
そんな事を考えてはアミレスに好意を抱く人間を片っ端から危険視している。
アミレスに恋人が出来たとして……今までのように構って貰えなくなる事を、メイシアは恐れていた。
(もしもマクベスタ様がパートナーとしてパーティーに出た事で、お二人が婚約関係だとかそんな根も葉もない噂が流れ出したら………わたしはもう、我慢ならないわ)
現在マクベスタとアミレスの歳の差は二つ。第二王子と唯一の王女たる二人は、確かに婚約関係と噂されてもおかしくない立場にあった。
ただでさえ、マクベスタとアミレスがやけに親密という噂が王城では流れているのに…パーティーにパートナーとして現れたりすれば、誤解が深まる事間違いなし。
なので、マクベスタは選択肢から外された。
例え噂であろうとも……アミレスが婚約だの、アミレスに恋人だの…そういった話は聞きたくない、メイシアなのであった。
「──そうですね……マクベスタ様には申し訳ありませんが、今回はイリオーデさんにお任せしましょう」
「なっ…!」
キリリとした表情でメイシアが審査の結果を告げると、マクベスタはやはり納得がいかないようで。どうして、と言わんばかりの不満げな面持ちとなっていた。
「どうしてオレでは駄目なんだ、メイシア嬢」
「マクベスタ様とイリオーデさんのお二人を秤にかけた結果、イリオーデさんに傾いたからです。よりアミレス様に齎される不利益が少ない方を、わたしは選んだだけにすぎませんわ」
「不利益なのか、オレがアミレスのパートナーになる事は」
「まぁ、そうなりますね」
(──わたしの私情も含まれてるけど、これは言わなくていいよね)
メイシアの言葉を受け、マクベスタは「はぁぁぁぁ………そうか、そうなのか……」と露骨に落ち込んだ。すぐ側にある長椅子にどっかりと腰掛け、深く項垂れる。
それを見て、流石にメイシアもストレートに言い過ぎたかと良心の呵責に苛まれた。
「マクベスタ様はアミレス様と歳が近いでしょう。そしてどちらも王族と皇族です。もし、万が一………お二方がパートナーとしてパーティーに出る事で周囲に婚姻関係ないし恋人関係にあると誤解されては、アミレス様にとって不利益が生じますから」
「まっ──…まぁ、確かに……それもそうだな…」
「何で一瞬嬉しそうな顔したんですかマクベスタ様」
「き、気の所為だ。別に嬉しくなんてないからな、そんな嘘や誤解とはいえ嬉しいなんて全然…………オレにはそんな資格ないし……」
メイシアが目くじらを立てて鋭く突っ込むぐらいには、マクベスタはソワソワとしていた。
アミレスと恋人関係にある己を一瞬妄想し、多幸感に満ちたのである。想いを告げず、隠し通すと決めたものの…やはりマクベスタも十五歳の思春期の男。
つい、こういった妄想をしては密かに喜びを噛み締めているのである。今回はメイシアにバレてしまったが。
(もし本当に、想いを告げて彼女と恋人になる事が出来たら、一体どれ程幸せなのだろうか………想いを告げられないとは言え、今こうして傍にいるだけでも結構幸せなんだぞ? オレ、幸せ過ぎて死ぬんじゃないか?)
最早パートナーに選ばれなかった事など頭から抜け落ち、そんなささやかな妄想に少年は耽っていた。
妄想を抑えきれず、だらしなく緩む口元。それを見たメイシアは、先程申し訳なく思いわざわざ理由を説明してあげた事を後悔した。
そして、イラッときた彼女は「シュヴァルツ君、あの人を大人しくさせてくれないかな」とシュヴァルツに頼み、シュヴァルツはそれを笑顔で快諾。
「まっかせて~!」
と、ニヤリと鋭く笑ったシュヴァルツが瞬く間にマクベスタに飛びかかり、二人は暫し軽い取っ組み合いをする事になる。
(視界の端が少し騒がしいけれど、これで良し。一応イリオーデさんにも選ばれた理由を伝えた方がいいかな?)
ふぅ、と一息ついてから、メイシアはイリオーデを見上げた。
「マクベスタ様ではなくイリオーデさんを選んだ事にもきちんと理由があります。マクベスタ様と違って、イリオーデさんはアミレス様とも歳が離れてますし、何より出身からして、恋人関係などの誤解を受ける事だけは絶対に無いと思ったからです」
やはりメイシア視点ではそれが重要事項のようで。イリオーデがパートナーならばその誤解が起こりえぬと、メイシアは確信していた。
皇族に仕えているだけのランディグランジュ侯爵家の騎士が、そのような誤解を受ける筈がないのだ。
もしそのような誤解をする者がいたならば──それは相当な世間知らずだろう。
「確かに…私の実家の権威をチラつかせれば、そのような不敬な考えを抱く者も現れまい。流石だ、シャンパージュ嬢。その歳でこれ程頭が回るとは」
イリオーデは微妙に勘違いをした。
別に、直接的に権威を利用しろとは言っていない。ランディグランジュ侯爵家の性質を活用したいだけである。
(少し話が通じていない気もするけど……)
「…──ありがとうございます。アミレス様の為に生きると決めてから、より一層勉強に励んでますから」
「そうか、王女殿下の為か。それはとても素晴らしい心意気だ。そのまま励んでくれ」
イリオーデはメイシアへの評価を『王女殿下の御友人』から『王女殿下の為に生きる同志』へと変えた。
アミレスの為に勉強に励む十二歳の少女を、イリオーデは高く評価する。
(流石は王女殿下だ。これ程に将来有望な少女をも心酔させるとは。まぁ、我が主君ならばどのような人間であれども心酔して当然なのだがな。王女殿下の為に多くを学ぶ姿勢──…本当に素晴らしいじゃないか)
イリオーデはメイシアの心意気を賞賛し、心の中で拍手を送る。
メイシアの忠誠心を認め、確実にアミレスの手足となる確信が持てたからこそ彼も手放しで賞賛するようになったのだ。声には出てないが。
(だがしかし。王女殿下への忠誠心であれば私も負けるつもりは無い。例え誰が相手であろうとも、王女殿下への忠誠心ならば私は何にも負けぬ自信がある)
イリオーデはついにメイシアに張り合い始めた。アミレスへの忠誠心ならば誰にも引けを取らないと、彼は自信満々にどんと構える。
大人気ない。今年で二十二歳とかになるのに、何を十歳も歳下の少女に張り合っているのか。
「のぅ、我はものすごい天才じゃからずっと思っておったのじゃが……」
これまでの会話をずっと静観していたナトラが、ついに口を開く。不遜な登場をして、その幼女は率直な感想を述べた。
「パートナーとやらはアミレスが決めるのじゃから、お前達がどれだけ言い争っても無駄なのでは?」
翡翠のツインテールを指先に搦め、退屈そうにくるくるとそれを動かしながらナトラは言い放った。
((((──た、確かにそうだ!!!?))))
メイシア達の脳裏に衝撃が走る。当然のようにアミレスのパートナーの座を巡って言い争っていた者達は、パートナーの決定権がアミレス本人にある事を今更思い出したのだ。
その様子をナトラ同様に静観していたディオリストラスとシャルルギルは思う。
(コイツ等、誰一人として気づいてなかったのか……)
(どうして誰も気づいてなかったんだろうか)
ディオリストラスは呆れ返ったように薄ら笑いを浮かべ、シャルルギルも珍しく思案顔を作っていた。
恋や愛は人を盲目にすると言うが………彼等彼女等もそれは例外ではないらしい。物の見事に全員が目先の事に気を取られてしまっていた。
こうして予想外の終わりを迎えた、アミレスのパートナー決めの話し合い。
ナトラの言う通り、アミレスが誰かを指名するかもしれない。と一抹の不安が脳裏を過ぎった面々はひとまずこの話し合いを無かった事にして、アミレスの判断を待つ事にした。
しかし何日経とうともその時は来ず、結局パーティー前夜までパートナーの話題がアミレスの口から出る事は無かった。
前夜になってようやく、思い出したように「そう言えばパートナーも決めなきゃいけないんだった」とアミレスが呟き、その時丁度すぐ傍にいたイリオーデにパートナーになってくれと頼んだ。
勿論イリオーデは二つ返事でこれに従った。紆余曲折を経て、話し合いの結論通りにイリオーデがアミレスのパートナーとしてパーティーに出る事となったのであった。
………余談だが。この日から、男性陣のイリオーデへの当たりがしばしば強くなる。
勿論、ただの嫉妬である。
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