だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第二章・監国の王女

166.十三歳になりました。

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 今日も今日とて雪が降り頻るフォーロイト帝国。その帝都にある王城は近頃ずっと大騒ぎであった。
 それもその筈。建国祭以外では十数年ぶりの王城でのパーティーが、もう一ヶ月後にまで差し迫っているからである。
 それは皇太子たるフリードルの記念すべき十五歳の誕生日を祝う、三日三晩行われるパーティー。帝国内外を問わず深い関わりあいのある賓客達や、多くの貴族達が王城に招かれて絢爛豪華なパーティーを繰り広げるのだ。
 当然、帝都でも三日三晩お祭り騒ぎとなる。そもそも、かねてより帝都では毎年フリードルの誕生日はお祭り騒ぎ状態だったので、その期間が二日のびただけである。
 このパーティーに関しては、私はほとんど関わっていない。何せ皇太子派閥の人達がそれを嫌がったのだから仕方の無い事だ。
 その代わりと言ってはなんだが、近頃はわざわざ王城にまで出向いてケイリオルさんの仕事のお手伝いをする事が増えていた。
 ケイリオルさん自身、パーティーの運営で山のように仕事が増えて結構参っていたらしく……私が仕事を手伝わせて欲しいと頼むと、拝み倒すかのような勢いで『ありがとうございます…っ』と感謝されてしまった。
 なので最近では護衛のイリオーデと世話係のメイシアを連れて、ケイリオルさんの元を訪ねるのが習慣となっていた。メイシアもイリオーデも相当目立つので、そんな二人を引き連れて歩く私にも当然注目が集まってしまう。
 まぁ、私は大体いつも『うちのメイシアとイリオーデはとっても顔が良いの! ほらもっと良く見ろ! 刮目せよ!!』と身内を自慢したくて仕方ないおばちゃんみたいな事を考えているのだけど。
 ハイラがいなくなって早二ヶ月が経とうとしているが、その間に東宮は徐々に変わり始めた。
 まず、ハイラの代わりとばかりにメイシアが私の世話係としてずっと東宮に残ってくれている。『アミレス様はわたしがお守りします!』とやけに気合いが入った彼女は、伯爵令嬢らしくまだ慣れない事の方が多いものの……それでも懸命に日々頑張っている。
 イリオーデはなんやかんやで護衛としてずっと東宮──というか私の傍にいる。厄介なお客様が東宮に来た時なんかはよく対応してくれている、クレーマー対応のスペシャリストだ。
 そしてなんと、ディオとシャルが応援に来てくれた。…というか、何やらシュヴァルツが人手欲しさに拉致って来たのだ。
 拉致られた時は当然二人共困惑していたが、今では二人共立派な掃除担当である。週三で貧民街に戻るという条件の元、二人には東宮住み込みで働かせてしまっている。
 え? 皇宮なのにこんな好き勝手外部の人を入れてもいいものかって? そりゃあ当然ケイリオルさんには許可とりましたとも。うちの私兵団の人が住み込みで働く事になったんですけどいいですか、って。
 そしたら、『まぁ、彼女の不在は大きいですからね……良いでしょう。特別に許可させていただきます』と二つ返事でオーケイ。ケイリオルさんがハイラの優秀さと不在を知ってて良かった!
 なのでディオとシャルとイリオーデのオセロマイト強行軍の面子が今東宮にいる訳でして、メアリードやルーシアンやジェジやエリニティが当然『ずるい!』と文句を言い出すのだ。
 メアリード達はともかくエリニティは絶対に東宮に呼べないので(メイシアがいるからね)、その流れで全員呼べなくなってしまった。
 その代わりになるかも分からないが、皆には師匠お手製の『コスパ良すぎストーブもどき』をプレゼントした。置くだけで室内が異様に暖かくなる箱。中身は特殊な魔石らしく、そこから常に火の魔力が溢れていて、それによって周りの空間が暖かくなる仕組みらしい。
 フォーロイト帝国の冬は一月と二月が本番なので、これをあげたら大変喜ばれた。ついでに外に着ていく服とかもあげた。これはただ私が、顔のいい皆をトータルコーディネートしたかっただけである。
 マクベスタも相変わらず王城と東宮を行ったり来たりする日々を過ごしていて、たまに訓練に参加しているからか騎士団の人達とも仲良くなったらしい。
 話は戻るが、ハイラの知り合いだと言うお手伝いさん達も相変わらず来てくれて、日々美味しいご飯をいただいている。ついでに掃除なんかもやってくれているらしい。
 更に、シャンパー商会から凄腕の侍女が数人派遣されて来て、シュヴァルツとナトラの負担が少し軽減したみたい。外部からいらっしゃった方々には、当然シルフと師匠とナトラの正体は秘密にしている。
 そして最後にカイルだが……アイツはよく分からない。最近になって急によく帰るようになり、東宮にいない事の方が増えて来た。
 まぁあれでも第四王子だし、そのうち王太子になるような男なんだから忙しい筈なんだけどね。寧ろ今までずっとウチにいた事がおかしいのだ。

「のぅ、アミレス。近頃は何故こうも慌ただしいのじゃ。騒がしくて仕方ないわい」

 夕食を食べながら、ナトラが愚痴をこぼす。ナトラは竜種だからか五感が人より遥かに優れている。それでとても煩く感じているのかも。

「来月にね、兄様の十五歳の誕生パーティーがあるの。この国の皇族は十五歳の誕生日にパーティーを開くしきたりがあって、それで皆大騒ぎなのよ。でも……まぁ、明日一日は少なくとも静かになると思うから、とりあえずは一日休めるんじゃないかな」

 フリードルのパーティーの事を知らないらしいナトラに説明してあげると、シュヴァルツが「何で一日だけ静かになるの?」と疑問を口にした。
 帝国在住の人達はその心当たりがあり、ぐっと口を真一文字に結んで黙り込んだ。

「明日はね、私のお母様の命日なの。十三年前の二月十六日に、皇后陛下は亡くなったから」

 私がサラリと話すと、部屋の空気は一気に沈み込んだ。触れてはいけない話題に触れてしまった、とでも言いたげに誰もが口を噤む。
 あのナトラとシュヴァルツでさえ随分と大人しくなったのだから、やっぱりこういう話題は強いんだなぁ。ただ、私はこの手の空気があまり得意では無いので、早急に話題と空気を変えたい所なのだが。

「えーと……亡くなったお母様って言っても、一度も会った事も無ければ顔も知らないわ。それに──…誰も、私にお母様の事は話してくれないから、どんな人だったのかさえ知らないもの」

 だからか、母の命日に対する悲しみ等はあまり無い。ただ、申し訳無いな…という気持ちだけが私の心に残る。
 私の母──アーシャ・ヘル・フォーロイトは、アミレスを産んですぐに亡くなった。私を産んだから母は死んだ。
 それだけが、私の知る彼女の情報。それ以外は本当に何も知らないのだ。

「お母様の命日だからね、明日一日は国中がしんみりしちゃうの。だからきっと静かになるよ。きっと、明後日からはまた煩くなるんだけどね」

 我慢を強いる事になってごめんね。とナトラに向けて謝ると、彼女は随分としおらしい様子で「……我、いい子じゃから、我慢出来る、のじゃ」と返事した。
 しかし空気はまだ沈んだまま。それが相当耐えられないのか……この空気を何とかしようと、シュヴァルツが果敢に発言する。

「これってあの屑兄の十五歳の誕生パーティーの準備で騒がしいんだしぃ…そのうち、おねぇちゃんの誕生日にもおっきなパーティーがあるんだよね? ぼく、すっごい楽しみだなぁ!」
「う、うむ。我も楽しみじゃ! あの男よりもずっと豪勢なパーティーにせねばならんな!!」

 シュヴァルツの言葉に激しく頷くナトラ。この空気を変えようと頑張ってくれている二人に現実を伝えるのは非常に心苦しいが、こればかりは私から伝えねばなるまい。

「私の誕生日にパーティーは開かれないよ。例え帝国のしきたりであっても、私の誕生日にだけはパーティーは開かれないの」
「「え……?」」

 ナトラとシュヴァルツの困惑する声が重なる。そう言えば、二人には私の誕生日をまだ教えた事が無かったわね。
 こんな形で教える事になって、何だか少し申し訳無いな。二人共、私の誕生日を祝ってくれるつもりだったのかもしれないし、私の誕生日は祝ってはいけないもの…と教えないとならないなんて。

「私の誕生日もね、明日なの。お母様の命日が私の誕生日──私を産んでお母様は死んでしまったから、そのどちらもが同じ日なの。だからね、私の誕生日だけは祝っちゃいけないものなんだよね」

 今日は二月十五日。我が誕生日前夜という訳だ。
 これでアミレスになってから誕生日を迎えるのは七回目になるけれど、毎年ハイラやシルフ達が母の命日の影でひっそりとお祝いしてくれただけだった。
 大々的に私の誕生日を祝う事はタブーとなっているのだ、この国では。
 それに何より、皇帝が私を嫌っている。パーティー嫌いかつアミレス嫌いの皇帝が私の誕生パーティーを開く訳がないでしょう。

「ああでも、気にしないでいいからね。いつもの事だし。なんやかんやで毎年シルフ達がこっそりお祝いしてくれてたから、別に誕生日の悲しい思い出とかも無いからさ」

 はいこれでもうこの話はおしまい! と必死に話題転換を促す。無理やり話題を明るいものへと変えて、気まずい空気の中、夕食を終えた。
 夕食が終わったら私は自室に戻り、仕事を少し片付けてから就寝した。明日は誕生日なんだし、今日ぐらい早寝遅起きでもいいよね……と言った甘えから。
 いい夢見れるといいな。夢と言えば最近あの悪魔全然現れないな。なんて考えながら、私は深い眠りにつく。


♢♢


「ねぇ、相談があるんだけど」

 アミレスが眠りについた後。自然と談話室に集まっていた面々は、おもむろに切り出したシュヴァルツへと注目を集めた。
 その注目を一身に受け、シュヴァルツは提案する。

「皆どうせ同じ気持ちだろうけど──…明日、おねぇちゃんの為のパーティーを開こう。大規模には無理でも、せめてこの東宮内だけでもやろうよ」

 時刻にして二十二時過ぎ。アミレスの誕生日まで残り二時間しかなく、アミレスが目覚めるまでは七時間も無い。
 そんな限られた時間で一国の王女のパーティーの準備など、ぶっちゃけた話、まあほぼ確実に無理だろう。だがしかし、そうと分かっていても彼等にはこれに臨む理由と必要があった。

「そうだね、シュヴァルツの言う通りだ。今なら皇太子の誕生パーティーという隠れ蓑もあるし、東宮内でパーティーを開いても最悪誤魔化せる。何より、ボクはあの子のあんな表情は見たくない」
「そんな気はしてたけど、やっぱ姫さんは毎年我慢してたんだなァ……平気そうに言ってたけど、やっぱりどこか悲しそうな顔してたし」

 シルフとエンヴィーがまず初めに同意した。ハイラがいない今、この中で誰よりも長くアミレスと共に過ごし彼女の誕生日を祝って来たこの二体は、夕食時のアミレスの空元気な様子を脳裏に思い浮かべていた。
 毎年、アミレスの誕生日はハイラの手作りケーキとちょっと豪勢な料理、そしてハイラとシルフとエンヴィーからの誕生日プレゼントというささやかなレパートリーで祝っていた。
 なお、昨年の十二歳の誕生日はそこにマクベスタも加わり、彼女に贈られる誕生日プレゼントの個数が一つ増えていた。
 誰にも気づかれないような、密かな誕生日。アミレスは全く気にしていないとばかりに毎年明るく振舞っていたが、実はそうではなかったのだと知り、シルフ達は項垂れていた。
 ──アミレスにあのような悲しげな顔をさせたくない。その一心で、彼等は一つとなるのだ。

「皇后陛下を弔う事も大事ですが、それがアミレス様を蔑ろにする理由にはなりません。なのでわたしは、シュヴァルツ君の意見に大いに賛成です」
「オレもだ。国がそれを許さずとも、オレ達で勝手にやる分には問題無いだろう」

 続いて、メイシアとマクベスタが賛成する。
 マクベスタの彼らしからぬ物言いに、エンヴィーは「言うようになったじゃねぇーか、マクベスタ」とニヤリと笑った。

「王女殿下のお誕生日……私は、可能な限り最大限お祝い申しあげたい」
「殿下の私兵として、主の誕生日を祝わない訳にはいかないからな」
「誕生日を祝って貰えないのは凄く悲しいからな。王女様にはもう、その事で悲しんで欲しくない…俺も、全力で協力しよう」

 イリオーデ、ディオリストラス、シャルルギルの三人もこれに同意し、その場にいた全員の同意が得られた。その統括とばかりに、最後にこの幼女が宣言する。

「うむ。では我等はこれより、アミレスが目覚めるまでにアミレスの誕生パーティーの準備をし、そしてあやつを全力で祝う事とするのじゃ! 諸君、今宵は寝れぬ覚悟でおれぃ!」
「あ、ぼくの台詞取らないでよナトラ」

 このナトラの宣言を皮切りに、夜中でありながら各自動き出した。
 メイシアはシュヴァルツの空間魔法で一時的に実家に戻り、シャンパー商会の力を使う事とした。マクベスタは私兵三人衆と協力し、パーティー会場の準備とカトラリーの選定などを行った。
 ナトラは明日一日分の仕事を前倒しで始めた。明日一日は絶対にアミレスの為に使うのじゃ! と決めたらしい。しかしその途中で、ナトラとシュヴァルツは一瞬姿を消すなどしていた。
 そして、シルフとエンヴィーはとびっきりのプレゼントを持ってこようと精霊界に戻った。勿論アミレスの傍に端末ねこを残して。

「…──という流れでして、明日、東宮にて王女殿下のパーティーを開くとの事です」
「そうですか、急ぎの報告助かります。私には出来なかったそれを、彼等はやってくれるのですね………」

 この一連の話を聞いていた諜報部隊カラスの一人が、当然のようにこれをマリエルに報告した。
 報告を聞いたマリエルは優しく笑った後、

「であれば、姫様のパーティーに相応しい品々を用意せねばなりませんね」

 袖を捲り厨房に立った。現ララルス侯爵らしからぬ姿ではあるが、彼女としてはこちらの方が本性に近いのである。
 活き活きとした面持ちで、マリエルはケーキ作りに取り掛かった。これまでの数年よりもずっと豪華で美味しいバースデーケーキを、と彼女は腕によりをかけてケーキ作りに臨む。
 夜明けまでは残すところ数時間。アミレスの誕生日は、一体どうなる事やら………。
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