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第二章・監国の王女
135.敵に回してはならない人2
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そしてその時、ケイリオルは早速様々な手配を始めようとしていた。
まずは帝国における司法機関たる司法部へと向かい、シルヴァスタ男爵の強制連行と家宅捜査についての許可状の発行──いわゆる捜査令状のようなものを部署長に書かせようと、まだ眠りについている司法部部署長を起こしに来たのだ。
「起きなさい、この出不精。仕事ですよ」
「う…………ケイリオル、殿…僕はこう見えても徹夜明けの仮眠中、なんだが」
「仮眠は後でして下さい。どうしても貴方に書いてもらわねばならない書類があるんですよ」
「えぇ……何それ絶対面倒事だろ…」
司法部部署長室にて、長椅子で眠っており豪快ないびきを立てる男。それをケイリオルは一切の躊躇なく叩き起こした。
不健康そうな重たい隈を拵えた鋭い緑色の瞳。無精髭を蓄えた顔。ボサボサの焦げ茶の髪。ヨレヨレで皺だらけの服を着た、おおよそお偉いさんには見えない風体の四十代ぐらいの男。
彼は、わざわざここまでやって来たケイリオルの目的が自分であると知るなり、これが面倒事であるとすぐに悟った。
苦虫を噛み潰したような表情となり、ぶつぶつと文句を垂れている。
「貴方もついつい働きたくなるような事を言ってあげましょうか?」
「もう綺麗な女性を紹介するって手には乗らないからな! あんたの紹介だと職場結婚になっちまうんだ、僕は同業者を妻にするのは嫌なんだ!!」
「まだ婚活してたんですか貴方………いい加減現実見て下さいよ、そもそも貴方は相手に求める理想が高すぎるんです。現実を見て下さい」
ピシャリ、と軽く引き気味にケイリオルは言い切った。
「うるせー二回も言うな! ただでさえ司法部部署長なんて肩書きの所為で、気になった子に敬遠されるわ金目当ての女が寄って来るわで苦労してるんだぞ! あんたが僕に与えたこの役職の! 所為で!!」
「金目当ての女で妥協したら結婚出来るじゃないですか」
「誰が妥協なんかするか! 僕は僕を愛してくれる可愛い奥さんと愛のある結婚をし、愛に溢れた家庭を育むんだッ」
「はぁ、そうですか」
「興味無さそうな返事だなぁケイリオル殿よぉ!!」
男は泣き言を叫びながらケイリオルに掴みかかり、騒ぎ立てた。しかしケイリオルはあまり興味が無いようで…それが言葉に現れてしまった為、男に詰め寄られている。
日々司法部部署長という仕事の傍ら、愛のある結婚を目指して婚活に励む男の名は、ダルステン。
平民でありながらその頭脳と判断力を買われ司法部に入署し、先代部署長にいたく可愛がられていた事…そして完璧な下準備を終えてから裁判に挑み、裁判で厳正な判決を執り行う姿勢を評価され──齢三十五にして司法部部署長に任じられた出世頭。
ちなみに現在は四十一歳である。
二十二歳で帝国各部署登用試験を受け、倍率も難易度も高い司法部にて脅威の一発合格。入署してからも着実に経験を積み重ね、入署してからたったの五年で裁判を任された程の秀才。
それ程の存在が何故、こうして結婚相手に思い悩むのか。それはそう──その目付きの悪い顔と司法部部署長なんていう行き過ぎた肩書きの所為である。
ダルステンは当時出世を拒んだ。金も名誉も要らないから今の地位のままでいたいと。何せ部署長と言う存在は、仕事量が尋常ではないと知っていたから。
加えて、『ある程度偉いならいいんだけどぉ、やっぱり管理職とかはちょっとね?』『偉すぎる人はちょっと~』と……偉すぎる立場の人は女ウケが良くない事を、街で行われる男女の集まりで知っていたから。
その為ダルステンは出世を拒んだのだが、結果は見事に大出世。人事担当のケイリオルがあっさり決めた事により、彼は司法部部署長になってしまったのであった。
「気は済みましたか、ダルステン部署長?」
「全っ然済んでませんけどぉ~~?!」
何処か煽るような言い方のケイリオルに、ダルステンは口の端をひくつかせ食ってかかる。
「さて茶番にもお付き合いしてさしあげたので、そろそろ本題に移らせていただきますね。えいっ」
「いだだだだだだだだだっ!」
ずっと胸ぐらを掴まれていたケイリオルは、ダルステンの手首を掴んでは流れるような動作で捻り上げた。
ただでさえ徹夜続きでボロボロの体にそのような攻撃が加えられた日には、そりゃあ悲鳴を上げるというもの。ダルステンの情けない悲鳴を聞きながら、ケイリオルは平然と本題に移った。
「実はですね、例の連続殺人事件に関して有力な情報を得まして。黒幕を確実に捕らえる為にも、許可状が必要なのですよ。あれが無くてはさしもの私といえど、容易に騎士団や警備隊を動かせませんから」
「分かったからとにかく離してくれませんかねぇえぇえええ!」
「ああはい。ではこちらに詳しい報告書がありますので、今すぐ目を通して下さいね」
「くっそぉ……これが各部統括責任者のやり方かぁ…!!」
パッと手を離したケイリオルはすかさず報告書を手渡した。それを渋々受け取り、ダルステンは顔中しわくちゃにして悔しげに呟いた。
実はケイリオル、近衛騎士団(帝国騎士団の中でも精鋭揃い皇帝直属の騎士団、それが近衛騎士団なのである。他にも帝国騎士団の中には細かい小隊や中隊などがある)の団長と渡り合える程の剣の腕前を持つ実力者なのだ。護身術や体術にも勿論長けている為、たまに視察と称して騎士団や兵団の訓練に顔を出してはその身一つで一個小隊を扱き倒す等、異次元の強さを誇る。
故に、ケイリオルによる力業はめちゃくちゃ痛いのだ。今は働きたくないと主張していたダルステンが、あっさり折れてしまう程に。
「……っ! ケイリオル殿、これは本当なのか?」
「嘘ではないようでした。ですので、えぇ──憎らしい事に、隷従の首輪がまだ現存している事になりますね」
「こりゃあまた…本当に僕の許可状が必要な案件だな、これは。殺人法、市民尊重法、奴隷禁止法、特定魔導具所持禁止法は確実。それに加えてまだ後六~九個ぐらいの法に引っかかってるな、この報告書を見た限りでも。全然余裕で書けますわ、許可状」
後頭部をガシガシと掻きむしりながら、ダルステンは失笑を漏らした。予想以上の重罪の数々に、これは確かに許可状が必要な案件だ…と認識したからである。
(いや、どうやったらここまで罪を重ねられんだよ…)
呆れきったように乾いた笑いを浮かべるダルステン。報告書に目を通せば通す程増える罪の数々に頭が痛くなってきたのだ。
どんな凶悪な犯罪者でもここまでレパートリーに富んだ犯罪は行わないからだろう。それだけ、シルヴァスタ男爵はろくでもない罪を多岐にわたり犯して来たのだ。
「では、許可状を今すぐ書いていただけますね?」
「はいはい分かってますよ、今から書くんでちょっと待っててくれ」
よっこらせ、とダルステンは己の席に腰を下ろし、引出しから許可状の用紙を取り出した。そして当然のように美しく一切のミスもズレも無い文書を制作する。
一度もそのペンが止まる事は無く、あっという間に許可状を書き終えたダルステンは最後に司法部部署長の印を押し、それをケイリオルに差し出した。
ケイリオルはそれを受け取り、「ありがとうございます」とお礼を告げた。
「捜査、今日からやるつもりなのか?」
「そのつもりです。各部署への通達と実働隊の編成、そして念の為にも皇太子殿下に許可をいただくつもりですので…遅くても夕方には実行したいですね」
ケイリオルも叶うならば今すぐにでも黒幕──シルヴァスタ男爵を捕まえたいのだが、それは法律上不可能。なので、法に則る正式な手段を一々選ぶ必要があり、それにかなり時間を食われてしまうのだ。
なので、諸々の準備を終えて夕方には実行に移したいと語るケイリオル。それを受けてダルステンはまた新たな書類を取り出し、カリカリと文字を書き連ね始めた。それは、部下に後で渡す事になる裁判に関する指示書であった。
「じゃあこっちも出来る限り早く開廷出来るよう下準備だけはしときますわ。実際に裁判の準備をするのは、あんた等がある程度の物証とか発見してからになるでしょうけど」
「では、とりあえず現在可能な範囲での準備をお願いしますね」
「お任せを。罪人に必ず法の裁きを受けさせるのが僕達の仕事なんでね」
ニヤリと、鋭い眼光で法を司る男は笑った。ケイリオルが用事を終えて部屋を去った後、ダルステンは背を伸ばし大きく口を開けて欠伸をするも、
「っあ~~~…よし、やるか!」
自身の両頬を叩いて喝を入れ、仕事に向き直った。
結局仮眠らしい仮眠もとれないまま彼は仕事に精を出す。城勤めの者達の労働環境は意外な事にホワイト寄りなのだが──……その代わりに、ダルステンやケイリオルと言った管理職に就く者が極度に働き詰めである事を知らぬ者は、城勤めの者達の中にはいない…。
続いて忙しいケイリオルが向かったのは帝国騎士団と帝国兵団と帝都警備隊を束ねる総合的な部署、治安部。
こう言った貴族に対する家宅捜査の場合、司法部より発行された許可状を持つ帝国騎士団の騎士最低二十名とその地域担当の警備隊最低五名が家宅捜査を行う事。と、法で定められているのだ。
その為、ケイリオルはその最低二十五名の騎士と警備隊の編成をしようと治安部にまで足を運んだ。流石に無断でやる訳にもいかないので、きちんと治安部の部署長にも話を通すつもりである。
治安部の朝は早い。それ故か部署長にも話があっさりと通り、実働隊の編成もそれ程時間はかからなかった。
ケイリオルにも仕事があるので、それらを全て処理し終えてから夕方頃に家宅捜査を行う……と実働隊に編成された者達にケイリオルが告げると、その騎士達と警備隊の者達は思った。
──ケイリオル様、もしかして自分も家宅捜査に参加するつもりでは? 忙しいのに何故…いつも通り我々に任せて下さればいいのに…??
顔には出さなかったが、彼等彼女等は一様に同じ事を考えていた。そして、
「今回はかなり厄介な事件ですので、私も同行した方が良いかと思ったのですよ」
(──まぁ、私自ら罪人を捕まえたいだけですが)
まるで心を読んだかのようなケイリオルの発言に、彼等彼女等はビクリと肩を跳ねさせた。ケイリオルはいつも通り飄々と話しているが、その実、罪人を自ら屠りたくて仕方がないのだ。
そうやって実働隊の編成を済ませたケイリオルが次に向かったのは西宮のフリードルの元であった。時刻はもう七時をとっくに回っており、普段通りならばフリードルも朝食を済ませようかと言う時間帯だからだ。
恐らくタイミング的には今西宮に向かえば丁度王城に向かう途中の、皇帝代理として公務に励むフリードルとばったり出くわす事が可能だろう、とケイリオルは予想を立てた。
そして物の見事にフリードルと出くわす事が叶った。
「おはようございます、フリードル皇太子殿下」
「あぁ、おはようございます。ケイリオル卿」
ケイリオルが礼儀正しく挨拶をすると、フリードルも同じように挨拶を返した。
フリードルにとってケイリオルとは、様々な事を教えてくれた師であり、偉大なる皇帝に最も信頼を寄せられる希少な人。つまり、敬意をはらうに値する相手なのだ。
よって、フリードルは皇帝とケイリオルには礼儀を尽くすし敬語も使う。
「このような道すがらで大変恐縮なのですが、ご報告したい事がありまして」
「何か、あったのですか」
「実は例の連続殺人事件の犯人を捕らえ、法の裁きを受けさせる為に家宅捜査を行う必要があり、それにフリードル皇太子殿下のご許可をいただきたく──…」
怜悧な瞳で真っ直ぐにケイリオルを見上げ、フリードルはその報告に耳を傾けていた。作り物の氷像のような美しくも変わらない表情で、彼は皇帝代理としてその報告を聞き、自らの考えから結論を出した。
「分かりました、許可します。皇帝陛下が代理人フリードル・ヘル・フォーロイトが、司法執行許可を証明しましょう」
フリードルは堂々とした声音で言い放った。まだ齢十四だと言うのに、既に完成されつつあるこの少年を前に……ケイリオルは一抹の不安を抱えてしまった。
(…とてもご立派な姿ですが、これを彼女が見たら……どう思うのでしょうか)
それはあまりにも皇帝そっくりに成長しつつあるフリードルを思っての事。それはかつて彼の母と話していた他愛もない話を思い出しての事。
本当にこれで良かったのかと、ケイリオルはぶくぶくと湧き上がる泡のような些細な不安を抱いた。
それを振り払うように左右に顔を振って、
「感謝致します、皇太子殿下。我が名にかけて必ずや罪人を法のもとに裁いてみせましょう」
深く背を曲げた。腰が折れ曲がりそうな程に深く直角な礼。フリードルはケイリオルに顔を上げるように促してから、
「期待しています」
と眉ひとつ動かさずに宣った。こうしてフリードルからの許可を得たケイリオルは、フリードルと別れて通常業務に戻ろうとする。
これにてケイリオルがやっておくべき事前準備はだいたい済んだようで、彼は夕方までに片付けておきたい仕事から優先して片付けた。
昼過ぎにはハイラが依頼した通りにシャンパー商会から号外が出され、帝都の人々はまだ終わらぬ殺人事件に恐怖していた。しかし、その水面下ではこの事件を終わらせようと大勢の人が動き始めていた。
夕方、実働隊を引き連れたケイリオルはシルヴァスタ男爵の邸へと向かい、万が一にも逃げられぬようにと魔導師に邸を囲む結界を張らせた。
そして堂々と邸に突入し、慌てて出て来ては青い顔で脂汗をポタポタと落とすシルヴァスタ男爵の出迎えを受けた。
「どうも、シルヴァスタ男爵。特定魔導具所持禁止法を始めとした様々な違法行為を行っていると通報がありましたので、帝国法に則り──確認の為貴殿を強制連行し、家宅捜査の方を行わせていただきます」
ケイリオルが高々と許可状を掲げると、シルヴァスタ男爵の表情が困惑に醜く歪む。
「ま、待って下さい! そのような事実はありません、全くのデタラメです!!」
(──クソッ! 何故バレた、誰が通報なんてしよったのだ?!!!)
必死に表情を取り繕い、シルヴァスタ男爵は事実無根だと主張した。しかし、その胸中では彼の悪行を知る内の誰かが裏切ったのだと憤慨していた。
「…──何故バレたか、と言われましても。それをわざわざ貴殿のような忌まわしき罪人に教える訳が無いでしょう?」
コツン、コツン、と規則正しい足音が響く。低い声で話しながらゆっくりとシルヴァスタ男爵に歩み寄るケイリオルに、誰もが言い知れぬ恐怖を覚えた。
その恐怖のあまりか、はたまた冬故の寒さのあまりか……実働隊の何人かが身を震わせた。暖かい屋内の筈なのに、何故だか今ばかりは異様に寒く、凍えるような冷気を感じる邸内にて。
ケイリオルは、目と鼻の先にあったシルヴァスタ男爵の耳元に顔を寄せて囁いた。
「────」
誰にも見えぬ布の下。ケイリオルの唇が動くと同時に、シルヴァスタ男爵の顔から徐々に生気が抜けてゆく。
高速で顎をガタガタと震えさせ、まるで異界より降臨した怪物を目にしてしまったかのように…男は正気を失った様子となった。
それを異常と感じながらも、実働隊はケイリオルの指示で家宅捜査に乗り出した。
騎士の中でも腕の立つ者二人が拘束したシルヴァスタ男爵の見張りとして残り、残りの者達で邸全体を見て回る事に。それにはケイリオルも参加し、彼は殺人鬼──アルベルトの捜索に身を投じていた。
隷従の首輪が本物か、先に見ておきたかったのである。
そして邸内ですれ違ったシルヴァスタ男爵の手下達から、"穏便な方法"でアルベルトの居場所を聞き出し、彼の元に向かう。
やがて辿り着いたのはごく普通の狭い個室。その扉を二度、コンコン、と叩くと。
「…どちら様、ですか」
「貴方がアルベルトですね? 私はケイリオル、各部統括責任者を務めている城の者です」
中から、どこかで見た覚えのある痣だらけの顔の青年が出て来た。その首元にはぐるぐるとマフラーが巻かれていて。
ケイリオルはそれをじっと見つめた後、決心したのかアルベルトに向け言い放った。
「単刀直入に言いましょう。貴方はご自身が他者の醜悪な犯罪に利用されている事はご存知でしょう、その上で申し上げます──罪人に法の裁きを受けさせる為にも、ご同行いただけますね?」
これは賭けであった。もし万が一、シルヴァスタ男爵よりこう言った場合には抵抗するように、等の命令を受けていたならば──…アルベルトはこの申し出を断り、文字通り抵抗するだろうから。
そうなってはとても面倒だと。負ける気はしないが、面倒なものは面倒だと思うケイリオルは、アルベルトの何処か余裕のある表情からその手の命令は受けていないと推測し、勝負に出たのだ。
「……はい。元より、そのつもり…でしたので」
こくりとアルベルトは小さく頷いた。そしてマフラーを外し、隷従の首輪を晒す。
ケイリオルは、かつて自分がこの手で幾つも廃棄した最悪の魔導具をまた眼にする事になり、苦い思いのままアルベルトの頭に手を置いた。
きょとんとするアルベルトをよそに、ケイリオルは冷えた手でアルベルトの頭を何度か撫でた。
「よく、頑張りましたね。決して貴方の犯した罪が雪がれる訳ではありませんが、大半の罪はシルヴァスタ男爵が背負う事になるでしょうから…貴方に与えられる裁きは、比較的軽いモノになるでしょう」
他ならぬあのケイリオルの口から放たれたその言葉を聞き、アルベルトは目を丸くした。
(本当に、この首輪にはそれだけの酷い価値が……)
昨夜アミレスが言っていた通り、中々に減刑がまかり通るようで…その事にアルベルトは驚いていた。それと同時に、そこまで酷い魔導具を自分は嵌められていたのか、と悔しさを覚えた。
そして家宅捜査を終えた実働隊が邸の玄関付近に戻ると、そこには最早笑ってしまう程の物証や証人の数々が集められていた。
ついでにと証人達も強制連行し、実働隊はおよそ一時間程度でシルヴァスタ男爵邸から帰城した。その間もずっとシルヴァスタ男爵は正気を失った様子で、青白い顔でガタガタと歯を鳴らして震えていた。
その後彼等罪人と証人に待ち受けるは、司法部と治安部による尋問。とは言え、今回はケイリオルが関わっていた為か全ての尋問があっさりと終わった。
誰も彼も、ケイリオル相手に隠し事など基本不可能なのだ。
そして司法部が徹夜で物証や証言の裏取りを始め、着実に裁判の準備を進めてゆく。
ケイリオルの指示のもと、帝国の誇る優秀な人材達が一つの事件の解決の為、動き出したのだ。
まずは帝国における司法機関たる司法部へと向かい、シルヴァスタ男爵の強制連行と家宅捜査についての許可状の発行──いわゆる捜査令状のようなものを部署長に書かせようと、まだ眠りについている司法部部署長を起こしに来たのだ。
「起きなさい、この出不精。仕事ですよ」
「う…………ケイリオル、殿…僕はこう見えても徹夜明けの仮眠中、なんだが」
「仮眠は後でして下さい。どうしても貴方に書いてもらわねばならない書類があるんですよ」
「えぇ……何それ絶対面倒事だろ…」
司法部部署長室にて、長椅子で眠っており豪快ないびきを立てる男。それをケイリオルは一切の躊躇なく叩き起こした。
不健康そうな重たい隈を拵えた鋭い緑色の瞳。無精髭を蓄えた顔。ボサボサの焦げ茶の髪。ヨレヨレで皺だらけの服を着た、おおよそお偉いさんには見えない風体の四十代ぐらいの男。
彼は、わざわざここまでやって来たケイリオルの目的が自分であると知るなり、これが面倒事であるとすぐに悟った。
苦虫を噛み潰したような表情となり、ぶつぶつと文句を垂れている。
「貴方もついつい働きたくなるような事を言ってあげましょうか?」
「もう綺麗な女性を紹介するって手には乗らないからな! あんたの紹介だと職場結婚になっちまうんだ、僕は同業者を妻にするのは嫌なんだ!!」
「まだ婚活してたんですか貴方………いい加減現実見て下さいよ、そもそも貴方は相手に求める理想が高すぎるんです。現実を見て下さい」
ピシャリ、と軽く引き気味にケイリオルは言い切った。
「うるせー二回も言うな! ただでさえ司法部部署長なんて肩書きの所為で、気になった子に敬遠されるわ金目当ての女が寄って来るわで苦労してるんだぞ! あんたが僕に与えたこの役職の! 所為で!!」
「金目当ての女で妥協したら結婚出来るじゃないですか」
「誰が妥協なんかするか! 僕は僕を愛してくれる可愛い奥さんと愛のある結婚をし、愛に溢れた家庭を育むんだッ」
「はぁ、そうですか」
「興味無さそうな返事だなぁケイリオル殿よぉ!!」
男は泣き言を叫びながらケイリオルに掴みかかり、騒ぎ立てた。しかしケイリオルはあまり興味が無いようで…それが言葉に現れてしまった為、男に詰め寄られている。
日々司法部部署長という仕事の傍ら、愛のある結婚を目指して婚活に励む男の名は、ダルステン。
平民でありながらその頭脳と判断力を買われ司法部に入署し、先代部署長にいたく可愛がられていた事…そして完璧な下準備を終えてから裁判に挑み、裁判で厳正な判決を執り行う姿勢を評価され──齢三十五にして司法部部署長に任じられた出世頭。
ちなみに現在は四十一歳である。
二十二歳で帝国各部署登用試験を受け、倍率も難易度も高い司法部にて脅威の一発合格。入署してからも着実に経験を積み重ね、入署してからたったの五年で裁判を任された程の秀才。
それ程の存在が何故、こうして結婚相手に思い悩むのか。それはそう──その目付きの悪い顔と司法部部署長なんていう行き過ぎた肩書きの所為である。
ダルステンは当時出世を拒んだ。金も名誉も要らないから今の地位のままでいたいと。何せ部署長と言う存在は、仕事量が尋常ではないと知っていたから。
加えて、『ある程度偉いならいいんだけどぉ、やっぱり管理職とかはちょっとね?』『偉すぎる人はちょっと~』と……偉すぎる立場の人は女ウケが良くない事を、街で行われる男女の集まりで知っていたから。
その為ダルステンは出世を拒んだのだが、結果は見事に大出世。人事担当のケイリオルがあっさり決めた事により、彼は司法部部署長になってしまったのであった。
「気は済みましたか、ダルステン部署長?」
「全っ然済んでませんけどぉ~~?!」
何処か煽るような言い方のケイリオルに、ダルステンは口の端をひくつかせ食ってかかる。
「さて茶番にもお付き合いしてさしあげたので、そろそろ本題に移らせていただきますね。えいっ」
「いだだだだだだだだだっ!」
ずっと胸ぐらを掴まれていたケイリオルは、ダルステンの手首を掴んでは流れるような動作で捻り上げた。
ただでさえ徹夜続きでボロボロの体にそのような攻撃が加えられた日には、そりゃあ悲鳴を上げるというもの。ダルステンの情けない悲鳴を聞きながら、ケイリオルは平然と本題に移った。
「実はですね、例の連続殺人事件に関して有力な情報を得まして。黒幕を確実に捕らえる為にも、許可状が必要なのですよ。あれが無くてはさしもの私といえど、容易に騎士団や警備隊を動かせませんから」
「分かったからとにかく離してくれませんかねぇえぇえええ!」
「ああはい。ではこちらに詳しい報告書がありますので、今すぐ目を通して下さいね」
「くっそぉ……これが各部統括責任者のやり方かぁ…!!」
パッと手を離したケイリオルはすかさず報告書を手渡した。それを渋々受け取り、ダルステンは顔中しわくちゃにして悔しげに呟いた。
実はケイリオル、近衛騎士団(帝国騎士団の中でも精鋭揃い皇帝直属の騎士団、それが近衛騎士団なのである。他にも帝国騎士団の中には細かい小隊や中隊などがある)の団長と渡り合える程の剣の腕前を持つ実力者なのだ。護身術や体術にも勿論長けている為、たまに視察と称して騎士団や兵団の訓練に顔を出してはその身一つで一個小隊を扱き倒す等、異次元の強さを誇る。
故に、ケイリオルによる力業はめちゃくちゃ痛いのだ。今は働きたくないと主張していたダルステンが、あっさり折れてしまう程に。
「……っ! ケイリオル殿、これは本当なのか?」
「嘘ではないようでした。ですので、えぇ──憎らしい事に、隷従の首輪がまだ現存している事になりますね」
「こりゃあまた…本当に僕の許可状が必要な案件だな、これは。殺人法、市民尊重法、奴隷禁止法、特定魔導具所持禁止法は確実。それに加えてまだ後六~九個ぐらいの法に引っかかってるな、この報告書を見た限りでも。全然余裕で書けますわ、許可状」
後頭部をガシガシと掻きむしりながら、ダルステンは失笑を漏らした。予想以上の重罪の数々に、これは確かに許可状が必要な案件だ…と認識したからである。
(いや、どうやったらここまで罪を重ねられんだよ…)
呆れきったように乾いた笑いを浮かべるダルステン。報告書に目を通せば通す程増える罪の数々に頭が痛くなってきたのだ。
どんな凶悪な犯罪者でもここまでレパートリーに富んだ犯罪は行わないからだろう。それだけ、シルヴァスタ男爵はろくでもない罪を多岐にわたり犯して来たのだ。
「では、許可状を今すぐ書いていただけますね?」
「はいはい分かってますよ、今から書くんでちょっと待っててくれ」
よっこらせ、とダルステンは己の席に腰を下ろし、引出しから許可状の用紙を取り出した。そして当然のように美しく一切のミスもズレも無い文書を制作する。
一度もそのペンが止まる事は無く、あっという間に許可状を書き終えたダルステンは最後に司法部部署長の印を押し、それをケイリオルに差し出した。
ケイリオルはそれを受け取り、「ありがとうございます」とお礼を告げた。
「捜査、今日からやるつもりなのか?」
「そのつもりです。各部署への通達と実働隊の編成、そして念の為にも皇太子殿下に許可をいただくつもりですので…遅くても夕方には実行したいですね」
ケイリオルも叶うならば今すぐにでも黒幕──シルヴァスタ男爵を捕まえたいのだが、それは法律上不可能。なので、法に則る正式な手段を一々選ぶ必要があり、それにかなり時間を食われてしまうのだ。
なので、諸々の準備を終えて夕方には実行に移したいと語るケイリオル。それを受けてダルステンはまた新たな書類を取り出し、カリカリと文字を書き連ね始めた。それは、部下に後で渡す事になる裁判に関する指示書であった。
「じゃあこっちも出来る限り早く開廷出来るよう下準備だけはしときますわ。実際に裁判の準備をするのは、あんた等がある程度の物証とか発見してからになるでしょうけど」
「では、とりあえず現在可能な範囲での準備をお願いしますね」
「お任せを。罪人に必ず法の裁きを受けさせるのが僕達の仕事なんでね」
ニヤリと、鋭い眼光で法を司る男は笑った。ケイリオルが用事を終えて部屋を去った後、ダルステンは背を伸ばし大きく口を開けて欠伸をするも、
「っあ~~~…よし、やるか!」
自身の両頬を叩いて喝を入れ、仕事に向き直った。
結局仮眠らしい仮眠もとれないまま彼は仕事に精を出す。城勤めの者達の労働環境は意外な事にホワイト寄りなのだが──……その代わりに、ダルステンやケイリオルと言った管理職に就く者が極度に働き詰めである事を知らぬ者は、城勤めの者達の中にはいない…。
続いて忙しいケイリオルが向かったのは帝国騎士団と帝国兵団と帝都警備隊を束ねる総合的な部署、治安部。
こう言った貴族に対する家宅捜査の場合、司法部より発行された許可状を持つ帝国騎士団の騎士最低二十名とその地域担当の警備隊最低五名が家宅捜査を行う事。と、法で定められているのだ。
その為、ケイリオルはその最低二十五名の騎士と警備隊の編成をしようと治安部にまで足を運んだ。流石に無断でやる訳にもいかないので、きちんと治安部の部署長にも話を通すつもりである。
治安部の朝は早い。それ故か部署長にも話があっさりと通り、実働隊の編成もそれ程時間はかからなかった。
ケイリオルにも仕事があるので、それらを全て処理し終えてから夕方頃に家宅捜査を行う……と実働隊に編成された者達にケイリオルが告げると、その騎士達と警備隊の者達は思った。
──ケイリオル様、もしかして自分も家宅捜査に参加するつもりでは? 忙しいのに何故…いつも通り我々に任せて下さればいいのに…??
顔には出さなかったが、彼等彼女等は一様に同じ事を考えていた。そして、
「今回はかなり厄介な事件ですので、私も同行した方が良いかと思ったのですよ」
(──まぁ、私自ら罪人を捕まえたいだけですが)
まるで心を読んだかのようなケイリオルの発言に、彼等彼女等はビクリと肩を跳ねさせた。ケイリオルはいつも通り飄々と話しているが、その実、罪人を自ら屠りたくて仕方がないのだ。
そうやって実働隊の編成を済ませたケイリオルが次に向かったのは西宮のフリードルの元であった。時刻はもう七時をとっくに回っており、普段通りならばフリードルも朝食を済ませようかと言う時間帯だからだ。
恐らくタイミング的には今西宮に向かえば丁度王城に向かう途中の、皇帝代理として公務に励むフリードルとばったり出くわす事が可能だろう、とケイリオルは予想を立てた。
そして物の見事にフリードルと出くわす事が叶った。
「おはようございます、フリードル皇太子殿下」
「あぁ、おはようございます。ケイリオル卿」
ケイリオルが礼儀正しく挨拶をすると、フリードルも同じように挨拶を返した。
フリードルにとってケイリオルとは、様々な事を教えてくれた師であり、偉大なる皇帝に最も信頼を寄せられる希少な人。つまり、敬意をはらうに値する相手なのだ。
よって、フリードルは皇帝とケイリオルには礼儀を尽くすし敬語も使う。
「このような道すがらで大変恐縮なのですが、ご報告したい事がありまして」
「何か、あったのですか」
「実は例の連続殺人事件の犯人を捕らえ、法の裁きを受けさせる為に家宅捜査を行う必要があり、それにフリードル皇太子殿下のご許可をいただきたく──…」
怜悧な瞳で真っ直ぐにケイリオルを見上げ、フリードルはその報告に耳を傾けていた。作り物の氷像のような美しくも変わらない表情で、彼は皇帝代理としてその報告を聞き、自らの考えから結論を出した。
「分かりました、許可します。皇帝陛下が代理人フリードル・ヘル・フォーロイトが、司法執行許可を証明しましょう」
フリードルは堂々とした声音で言い放った。まだ齢十四だと言うのに、既に完成されつつあるこの少年を前に……ケイリオルは一抹の不安を抱えてしまった。
(…とてもご立派な姿ですが、これを彼女が見たら……どう思うのでしょうか)
それはあまりにも皇帝そっくりに成長しつつあるフリードルを思っての事。それはかつて彼の母と話していた他愛もない話を思い出しての事。
本当にこれで良かったのかと、ケイリオルはぶくぶくと湧き上がる泡のような些細な不安を抱いた。
それを振り払うように左右に顔を振って、
「感謝致します、皇太子殿下。我が名にかけて必ずや罪人を法のもとに裁いてみせましょう」
深く背を曲げた。腰が折れ曲がりそうな程に深く直角な礼。フリードルはケイリオルに顔を上げるように促してから、
「期待しています」
と眉ひとつ動かさずに宣った。こうしてフリードルからの許可を得たケイリオルは、フリードルと別れて通常業務に戻ろうとする。
これにてケイリオルがやっておくべき事前準備はだいたい済んだようで、彼は夕方までに片付けておきたい仕事から優先して片付けた。
昼過ぎにはハイラが依頼した通りにシャンパー商会から号外が出され、帝都の人々はまだ終わらぬ殺人事件に恐怖していた。しかし、その水面下ではこの事件を終わらせようと大勢の人が動き始めていた。
夕方、実働隊を引き連れたケイリオルはシルヴァスタ男爵の邸へと向かい、万が一にも逃げられぬようにと魔導師に邸を囲む結界を張らせた。
そして堂々と邸に突入し、慌てて出て来ては青い顔で脂汗をポタポタと落とすシルヴァスタ男爵の出迎えを受けた。
「どうも、シルヴァスタ男爵。特定魔導具所持禁止法を始めとした様々な違法行為を行っていると通報がありましたので、帝国法に則り──確認の為貴殿を強制連行し、家宅捜査の方を行わせていただきます」
ケイリオルが高々と許可状を掲げると、シルヴァスタ男爵の表情が困惑に醜く歪む。
「ま、待って下さい! そのような事実はありません、全くのデタラメです!!」
(──クソッ! 何故バレた、誰が通報なんてしよったのだ?!!!)
必死に表情を取り繕い、シルヴァスタ男爵は事実無根だと主張した。しかし、その胸中では彼の悪行を知る内の誰かが裏切ったのだと憤慨していた。
「…──何故バレたか、と言われましても。それをわざわざ貴殿のような忌まわしき罪人に教える訳が無いでしょう?」
コツン、コツン、と規則正しい足音が響く。低い声で話しながらゆっくりとシルヴァスタ男爵に歩み寄るケイリオルに、誰もが言い知れぬ恐怖を覚えた。
その恐怖のあまりか、はたまた冬故の寒さのあまりか……実働隊の何人かが身を震わせた。暖かい屋内の筈なのに、何故だか今ばかりは異様に寒く、凍えるような冷気を感じる邸内にて。
ケイリオルは、目と鼻の先にあったシルヴァスタ男爵の耳元に顔を寄せて囁いた。
「────」
誰にも見えぬ布の下。ケイリオルの唇が動くと同時に、シルヴァスタ男爵の顔から徐々に生気が抜けてゆく。
高速で顎をガタガタと震えさせ、まるで異界より降臨した怪物を目にしてしまったかのように…男は正気を失った様子となった。
それを異常と感じながらも、実働隊はケイリオルの指示で家宅捜査に乗り出した。
騎士の中でも腕の立つ者二人が拘束したシルヴァスタ男爵の見張りとして残り、残りの者達で邸全体を見て回る事に。それにはケイリオルも参加し、彼は殺人鬼──アルベルトの捜索に身を投じていた。
隷従の首輪が本物か、先に見ておきたかったのである。
そして邸内ですれ違ったシルヴァスタ男爵の手下達から、"穏便な方法"でアルベルトの居場所を聞き出し、彼の元に向かう。
やがて辿り着いたのはごく普通の狭い個室。その扉を二度、コンコン、と叩くと。
「…どちら様、ですか」
「貴方がアルベルトですね? 私はケイリオル、各部統括責任者を務めている城の者です」
中から、どこかで見た覚えのある痣だらけの顔の青年が出て来た。その首元にはぐるぐるとマフラーが巻かれていて。
ケイリオルはそれをじっと見つめた後、決心したのかアルベルトに向け言い放った。
「単刀直入に言いましょう。貴方はご自身が他者の醜悪な犯罪に利用されている事はご存知でしょう、その上で申し上げます──罪人に法の裁きを受けさせる為にも、ご同行いただけますね?」
これは賭けであった。もし万が一、シルヴァスタ男爵よりこう言った場合には抵抗するように、等の命令を受けていたならば──…アルベルトはこの申し出を断り、文字通り抵抗するだろうから。
そうなってはとても面倒だと。負ける気はしないが、面倒なものは面倒だと思うケイリオルは、アルベルトの何処か余裕のある表情からその手の命令は受けていないと推測し、勝負に出たのだ。
「……はい。元より、そのつもり…でしたので」
こくりとアルベルトは小さく頷いた。そしてマフラーを外し、隷従の首輪を晒す。
ケイリオルは、かつて自分がこの手で幾つも廃棄した最悪の魔導具をまた眼にする事になり、苦い思いのままアルベルトの頭に手を置いた。
きょとんとするアルベルトをよそに、ケイリオルは冷えた手でアルベルトの頭を何度か撫でた。
「よく、頑張りましたね。決して貴方の犯した罪が雪がれる訳ではありませんが、大半の罪はシルヴァスタ男爵が背負う事になるでしょうから…貴方に与えられる裁きは、比較的軽いモノになるでしょう」
他ならぬあのケイリオルの口から放たれたその言葉を聞き、アルベルトは目を丸くした。
(本当に、この首輪にはそれだけの酷い価値が……)
昨夜アミレスが言っていた通り、中々に減刑がまかり通るようで…その事にアルベルトは驚いていた。それと同時に、そこまで酷い魔導具を自分は嵌められていたのか、と悔しさを覚えた。
そして家宅捜査を終えた実働隊が邸の玄関付近に戻ると、そこには最早笑ってしまう程の物証や証人の数々が集められていた。
ついでにと証人達も強制連行し、実働隊はおよそ一時間程度でシルヴァスタ男爵邸から帰城した。その間もずっとシルヴァスタ男爵は正気を失った様子で、青白い顔でガタガタと歯を鳴らして震えていた。
その後彼等罪人と証人に待ち受けるは、司法部と治安部による尋問。とは言え、今回はケイリオルが関わっていた為か全ての尋問があっさりと終わった。
誰も彼も、ケイリオル相手に隠し事など基本不可能なのだ。
そして司法部が徹夜で物証や証言の裏取りを始め、着実に裁判の準備を進めてゆく。
ケイリオルの指示のもと、帝国の誇る優秀な人材達が一つの事件の解決の為、動き出したのだ。
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