だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第二章・監国の王女

133.ある王子の助言

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「ま、そう言うこった。アミレス・ヘル・フォーロイトが幸せになる為の二択は簡単。『家族に愛される』か『家族の愛を不要と判断する』の二者択一だ……で、前者はまぁ無理っしょ? だからギリ可能性のある後者を推し進める為にも、アイツが家族なんかどうでもいい~って思えるぐらい、アンタ等にはアイツに惜しみなく愛を与えて欲しいんだよ」

 カイルを毛嫌いする面々ではあったが、アミレスの事ならばと大人しくカイルの話を聞いていた。
 本来ならば、初対面のお前がアミレスを知ったような語るな……と一笑に付し、話も聞き流す所ではあるのだが………初対面にも関わらずカイルの言う事には妙な説得力があるので、皆聞き流す事が出来なかったのだ。

(どうしてアミレスが皇帝にあそこまで嫌われているのか結局どの媒体でも明かされなかったから、皇帝を変える事はまず不可能。幼少期から皇帝にアミレスは使い捨ての道具、って言われ続けたフリードルをアイツが攻略する事もまぁ不可能)

 客人用にと出されていた紅茶の上澄みに口をつけ、カイルは思考する。

(ミシェルと出会って愛を知ったフリードルならまだ『家族愛』もワンチャンあるが…………そもそもミシェルがフリードルのルートに行ったらどっちにしろアイツは死ぬし、多分フリードルのルートに行く事だけは阻止って方向性だろうからな。やっぱり家族愛を求めるルートは絶対無理、選ぶならアイツがそれを諦めるルートなんだが…果たして可能なのかねぇ)

 俺だって未だにカイルの承認欲求に縛られてんのにな、とカイルは肩を落とした。
 転生者達は二度目の人生の主導権を握っているようで、実の所その肉体に残る本来の人格の残滓に蝕まれている。その過去も考え方も知る以上、その残滓を完全に排除する事も出来ないのだ。

「…アイツが幸せになる為にはとにかく愛される必要があるし、その愛をアイツが自覚する必要があるんだわ。こう言っちゃなんだが、アイツは愛されなきゃ死ぬみたいなところあるからさ」

 まるで寂しいと死ぬ動物のようにアミレスの事を話す。確かに全ての生でおいて愛されなかった上にだいたい死んだアミレスではあるが、愛されないと死ぬ訳では無い。

「さっきから偉そうに語りやがって、お前にアミィの何が分かるんだよ」
「あー…ほら、未来予知出来るって言ったじゃん? それでいくつかの未来の可能性を見たんだよね俺」
「未来の可能性ィ?」

 怒り口調のシルフが凄むと、カイルはまたもや適当な嘘を口にした。それを聞いて胡散臭いなと言いたげな目でエンヴィーが首を傾げる。
 カイルはどこか物憂げに、ニヒルに笑った。

「例えば……冤罪で断頭、裏切られて抹殺。全身バラバラに惨殺されたり、誰かの密命で暗殺されるかもしれない。磔にされて粛清されたり、責任転嫁の末斬首されたり、事故で死ぬかもしれない。アイツが何にも愛されなかった未来には、それだけの色んな可能性が待ち受けてんだ」
「おいふざけるなよ、何でおねぇちゃんにそんなにも死ぬ未来があるんだよ。適当な事言うな」
「残念ながらこれが事実なんだわ。アイツは高確率で死ぬ。それが何となく分かってるから、アミレスも死なないようにーって頑張ってんだろ?」
「…それは、そう……だけど…」

 シュヴァルツが食ってかかるが、カイルにあっさりと丸め込まれる。
 この時、カイルの賭けは成功していた。一体どの基準でこの世界に流出してはならない知識と判断されるのか…その検証も兼ねてカイルはアミレスの死亡原因を話した。
 誰に、という主語を濁して話した結果、カイルはアミレスに待ち受けるいくつかの未来を話す事に成功したのだ。

(ふむ、明確な前世の知識や記憶は流出しないようになっているが…まだ確定していない未来に関しては主語さえ濁せば教える事も可能って事か。ま、まだゲーム本編開始前の時間軸だしなァ……本編シナリオが始まる段階になりゃ、こうはいかねぇんだろうけど)

 尋問のようなものを受けつつも完全に自分のペースに引きずり込み、更にはその裏で平然と思考を繰り広げる様は…流石はチートオブチートの肩書きを欲しいままにする男と言うべきか。

「……一つ、聞かせてくれ」
「どうしたぁ、マクベスタっ?」

 推しマクベスタに質問された事が嬉しいのか、カイルの声音が露骨にはずむ。
 それに不信感を抱きつつも、マクベスタはその翠色の瞳でまっすぐカイルを見据えた。

「お前は、どうしてオレ達に助言のようなものをするんだ?」

 ピタリ、とカイルの表情が固まる。しかしそれも見間違いかと思う程、瞬く間にカイルはヘラっと笑った。

「そりゃあ、この世界を愛しているからな。間違ってもこの世界が滅んだり、友達が失意の中死ぬとかは嫌なワケ。勿論アンタ等も。可能な限り登場人物キャストの欠落は出したくねぇの、俺は。だって──この最高の舞台が満員御礼で幕切れハッピーエンドを迎える事が、俺の一番の望みだからな」

 想像以上に壮大で子供じみた夢物語。だがそれはカイルの本心からの思いであり、ひねくれた心を持つシルフやシュヴァルツでも納得せざるを得ない程純粋な夢であった。

「…お前の言うハッピーエンドとやらに、王女殿下の幸せも含まれているのだな?」

 イリオーデがボソリと問いかけると、

「勿論だとも。俺は友達と仲間は大事にする人間なんでね」

 カイルはニヤリと笑って断言して、

「だからもしアイツに告白したい時とかは相談乗るぜ、俺恋バナとか結構好きだし!」

 ぐっ、とウインクとサムズアップのセットで余計な事を口走る。本日何回目かのサムズアップである。
 その瞬間、シルフによる神速の猫キックがカイルの頬に飛ぶ。「ぶへぇっ!?」と無様な声を発してカイルは長椅子ソファに倒れ込み、赤く腫れる肉球の跡を擦りながらシルフの方をガクガクと見た。

「な、何するんすか精霊さん……」
「アミィに告白とか図に乗るなよ人間が。それを助長するお前の発言も気に食わない」
「そーだそーだ! 姫さんは今までもこれからもずっと俺達の姫さんだからな、人間なんかに渡してたまるか」
「さっきから思ってたけどこの精霊達めっちゃ怖…聞いてた話と違うんだがアミレスさん……!」
(──それにしても顔が良いなこの赤い精霊!!)

 精霊達に間合いを詰められ、目と鼻の先にある絶世の美形の気迫に恐怖を覚えるカイル。
 すると、突然シルフとエンヴィーはじっとカイルを見つめ始めた。「な、何……??」と本気で困惑するカイルに、シルフが問う。

「お前、アミィから何か聞いてたのか。ボク達の事」
「え? ま、まぁ………多分この部屋にいる人の話はある程度…手紙に書いてあったけど…」

カイルがおずおずと返事をすると、

(アミィがボクの事をどう思ってるかを人伝に聞くのは癪だけどあの子は恥ずかしがり屋だからきっと聞いても答えてくれないしこれは仕方の無い事なんだ!)
(姫さんが………まぁ、それなりに親しく思って貰えてたら御の字かねェ)
(姫様が私共の話を?!)
(王女殿下が……私の、話を………っ!)
(アミレスが他人に何とオレ達の事を紹介したのか、気になるな……)
(へぇ、おねぇちゃんがぼく達の事を…)
(なぬっ! これはアミレスがいかに我を崇めておるかを知れる絶好の機会ではないか!)

 その場にいた者達は三者三様…と見せかけて大体同じような思いを脳裏に浮かべていた。本当に単純な人達である。
 それにしても……何度も友達と繰り返していたにも関わらず、マクベスタは未だにカイルの事を他人と評している。友達の友達は友達じゃないらしい。

「何て?」
「え??」
「何て書いてあったんだ、ボク達の事」

 シルフが心無しかソワソワとしながら尋ねた時には、アミレスが他人に向け自分の事をどう書いたのか気になる者達が全員、カイルの周りに集まっていた。

(あっ…そう言う…)

 興味深そうにジリジリ詰め寄って来る人達を見てふーん…と状況を察したカイルはごほんっ、と咳払いをして、

「…よし、全員分読み上げるからちょっと待ってて」

 サベイランスちゃんを使ってわざわざ過去の手紙を取り出し、そしてそれを読み上げた。
 アミレスにそんな風に思われていたのか、と普段なら絶対聞けない感想を聞けて本人達はご満悦である。
 特にイリオーデとハイラが『強くてかっこいい私だけの騎士』『本当に頼りになるお姉ちゃんみたいな人』と評されていた事を知り、感動のあまり涙したとか。

(これ、本人を前に勝手に読み上げた事聞いたらアイツ絶対怒るよな………ま、是非もねぇよな)

 こうしてカイルは、アミレスの羞恥心を犠牲にシルフ達の中で少しだけ株を上げる事に成功した。
 後日、この事を知ったアミレスが顔を真っ赤にしてカイルに本気で斬りかかったとか…。
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