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第二章・監国の王女
127.悪友は巡り会う。2
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「──待たせたなぁ!」
魔法陣から一人の男が現れる。光り輝く魔法陣に照らされてよく見える、朱色の髪。謎の箱を手にその男はニヤリと笑った。
「カイ、ル……っ?!」
「こっから先は俺に任せろよ、アミレス。状況はもち把握済みだからな」
殺人鬼と女の子の間に着地したカイルはこちらを一瞥し、そして殺人鬼に蹴りを一発入れた。
腹に重い蹴りを入れられた殺人鬼は後方に飛ばされ、よろめきながら立ち上がる。
──目の前に、ゲームで幾度となく見たあの男がいる。チートオブチートと称されたアンディザ無印の誇る、メインヒーローが……!
「…来るなって言ったのに。何で来たのよこの馬鹿」
「何だとぉ? 虫の知らせを感じたから文字通り飛んで来てやったってのに」
どうしようも無い安心感が妙にムカつくので、それを紛らわす為に悪態をつく。カイルは手紙のやり取りで感じた通りの人柄だった。
ノリがいいと言うか、気前がいいと言うか。こうして話の通じる仲間と会えた事がこんなにも嬉しい事だなんて。
恐怖と寒さから震える女の子にマントをかけてあげて、私はカイルに向けて告げる。
「この子は私が守るから、そっちは頼むわよ。死んだら承知しないから!」
「ふはっ、誰がこんなとこで死ぬかっての」
煽るようにそう答えたカイルは、手元の箱を恋人に触れるように撫でた。慈しむような敬愛するかのような瞳でそれを見つめ、彼は呟く。
「さぁいくぜ、サベイランスちゃん」
《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。システムコード簡略、魔導変換開始》
カイルの言葉に呼応するかのように手元の箱が光り瞬き、謎の機械音声を発する。それはカイルの声を元に調整されたかのような、中性的な音声だった。
そして謎の箱はその姿を変える。それはまるでかつて見た電子機器、なんとかパッド……その真上に何色もの魔法陣が球体を描くように重なって浮かぶ。
いや何それ? え、まってかっこよ!! てか今サベイランスちゃんって言ったわよね…じゃあ本当にあの箱が例のサベイランスちゃん?!
あれがカイルの自作の魔導具って事……? あんなやたらと凄そうなものをカイルが作ったって事? チートオブチートに転生したオタク怖っ。
「よっしゃあっ、記念すべき俺達の初陣だ!」
カイルの楽しそうな表情と声音に、殺人鬼が怯んだように後退る。しかしカイルはそんなのお構い無しで何かとんでもない事を初めてしまった。
《事前指定、目次参照……完了。魔力槽、充填完了。対人・対魔捕縛術式、構成完了。対象補足──完了。絶対捕縛魔法、起動》
雪が強くなって来た頃、静かな夜の街に不似合いな機械音声が響く。
サベイランスちゃんが絶対捕縛魔法…とやらの起動を告げると同時に、殺人鬼の周りを取り囲むように無数の銀色の魔法陣が出現し、そこから鎖が飛び出る。
「ぜってー逃がさねぇからな、殺人鬼ィ!」
「ッ?!」
殺人鬼が逃げようとした時には既に手遅れであった。銀色の鎖が何重にも殺人鬼に絡みつき、やがて身動きを取れなくなる。
カイルは何と僅か数分のうちにあの強い殺人鬼を捕縛してしまったのだ。
え、えーーーーーーーーー? そんな簡単に捕まえられていいの? いやそもそも何よ絶対捕縛魔法って。
「……あの、カイルさん。色々と質問いいかしら」
「何かねアミレスさん。サベイランスちゃんの事なら大いに結構、何でも答えてやろう」
満足気にサベイランスちゃんを停止させているカイルに向け、私は質問を投げかける。
「今の、何?」
「何ってそりゃ、絶対捕縛魔法だけど」
カイルはこてんと首を傾げ、知らねぇの? とばかりにサラッと答えた。
答えになってない。そもそもそれが何かを聞いてるんだよ私は!!
「絶対捕縛魔法ってのは、この為だけに俺が用意して来たオリジナルの魔法だ。お前から赤髪連続殺人事件の話を聞いて急きょ用意したからまだまだ改善の余地はあるがな。その名の通り、目標を一度補足したら何がなんでも捕縛する魔法だぜっ」
カイルは親指を立ててドヤ顔と共にウインクをした。凄いんだけど、凄いんだけど…何かムカつくな。
感心を通り越して呆れすらした私は、額に手を当てて項垂れる。
するとカイルが恥ずかしげに頬をポリポリと掻いて、
「……なんつーか、あれだな。オフ会みたいだなこれ」
視線を泳がせてからはにかんだ。
こいつの情緒ジェットコースターかよ。…でもまぁ、その気持ちは分からなくもない。これまでずっと手紙でだけやり取りしていたから……お互いゲームをやっていたから顔は知っていたものの、こうして会うと何だか感慨深いものがある。
それに、カイルのお陰で無事犯人を捕まえられたんだ。あまり悪く言うのも恩を仇で返すようなものか。
「……そうね。改めて…初めまして、カイル。私はアミレス・ヘル・フォーロイトよ」
「おっ、こちらこそ初めまして。俺はカイル・ディ・ハミル。これから仲良くしようぜ」
ゆっくり立ち上がり、カイルに握手を求める。するとそれを察したカイルはゲームで何度も見た眩い笑顔で、握手に応じた。
そしてカイルは暫く私の顔をじっと見つめていて。
「なぁ、今更なんだけど…お前その髪どしたん? 何で銀髪じゃねーの?」
「…それでずっと私の顔見てたのね。潜入捜査の為に変えてもらってるのよ、友達の精霊さんに」
「精霊?! 精霊と仲いいのお前!? すげぇな!」
「こっちからすれば独学であんなの作るあんたの方が凄いわよ……」
こんな夜中なのにやたらと元気なカイルと気の抜けるような話をする。ゲームではスパダリ枠の影のあるクールイケメンだったのになぁ………目の前のカイルはただの無邪気で元気な少年だよ。あぁ、れみぜらぶる…。
やはり現実はそう上手くいかないものなのだと世の無情さを嘆いていると、ふと女の子の様子が気になって振り向いた。女の子は先程の私達の名乗りを聞いていたのだろう。
今や恐怖や寒さとはまた違う理由で青ざめ震えているようだ。
「ちょっとカイルさん、こっち来て貰えます?」
「はいはい何かねアミレスさんよ」
ちょちょいと手招きすると、カイルはすぐ側まで来て少し屈んでくれた。そんなカイルに耳打ちする。
「この女の子、見ての通り被害者なのよ。今すごーく怯えてるみたいだから、貴方のイケメンパワーで何とかしてくれない?」
「おいおいおい人使いが荒いなこの王女。そんな理由で一国の王子を顎で使うかぁ普通?」
「仕方ないでしょ、私はフォーロイトなのよフォーロイト。この国じゃそれなりに恐れられる存在なのよ」
「フォーロイトとか言うネームブランドつえーな」
「つえーのよ、フォーロイトは」
表情豊かにコソコソと内緒話をする敵対する国の王女と王子。私の提案に最初こそ難色を示していたカイルであったが、結局は折れて女の子を慰めてくれる事に。
さて、攻略対象の底力…見せてもらおうじゃないの!
「………あー、その、何だ。大丈夫かお嬢さん? 立てる?」
「ひゃ、はひ…っ」
カイルのイケメンスマイルが女の子を攻撃する。私達の名前に怯えていた女の子はカイルの笑顔で全てを忘れたように赤面し、あわあわとしていた。
「体つめてーし…うーん、抱き上げた方が早いか。じゃあちょっと失礼しますよお嬢さん」
「えっ──きゃあ!」
「こうして体くっつけといた方が体も温まるっしょ。ああ、念の為に俺の首に手回しといてね」
「は、はぃぃ……!」
カイルは眩しい笑顔を浮かべながら軽々と女の子を抱き上げた。その抱き方、お姫様抱っこ。
突然隣国の王子にこんな優しくお姫様抱っこをされては…並大抵の女子ならイチコロだろう。それは彼女とて例外ではないらしい。
さっきまであんなにも青い顔で震えていた女の子が、今や耳まで真っ赤にしてカイルに抱き着いている。うーん、女の子の心に傷が残らなさそうで良かった良かった。
カイルもナイス! と小さく拍手を贈っていると、
(この子どうすればいいんだ? 俺、この後何したらいいの?!)
カイルが助けを求めるような視線をこちらに送って来た。
私が任せた事だけど……私もこの後どうしたらいいのか分からないのよね。
(私もよく分かんないし自己判断に任せるわ。ファイト!)
とサムズアップして視線を送り返す。天才のカイルならきっとこの状況も上手く脱せる事だろう。
私は貴方を信じているからこうしたのよ、カイル。自分を信じろ。
(俺を見捨てるなァ!!)
(見捨ててなんかないわよ。とにかくファイト!)
カイルとそうやって視線で会話しあう。
何やかんやでカイルは女の子を家まで送って行く事にしたらしい。流石にこの事件の後で一人で帰すのもなぁ…とカイルの良心が総動員された結果のようだ。
「お前…俺が戻って来るまで一人で大丈夫か?」
「多分大丈夫よ」
「まぁ、犯人に繋がれてる鎖、魔法封じのやつだから今はそいつ無害だし安心しとけ」
「あらそうなの。とにかくそっちも気をつけてねー」
「あいよー」
手を振りながらカイルの背中を見送る。女の子の道案内の元、無事に彼女の家まで辿り着けるといいけど。
まぁカイルには方向音痴属性とか無かった筈だし、きっと大丈夫よ、うん。
そう自分を納得させて私は歩き出す。そう言えば全然皆来ないわね………もしかして雪や建物の影響で私の出した水鉄砲が見えないのかしら。
困ったわね、それじゃあいつまで経っても皆は来ないじゃない。
「…もっと高く、どこからでも見える場所で……」
ぶつぶつと呟きながら私は上空目掛けもう一度水鉄砲を放つ。高く高く打ち上げられたそれは、やがて上空で爆発する。今度こそマクベスタかイリオーデか師匠のうち誰か一人でも気づいてくれるといいなぁ。
そして、カイルの絶対捕縛魔法とやらで拘束され身動きを取れなくなった殺人鬼の傍で膝を折る。
ローブの上に雪が少しずつ積もってて、それを手で払い、殺人鬼の体を引き摺って近くのベンチまで連れて行く。何とかその体を持ち上げてベンチに座らせた。
その際にローブのフード部分がズレ落ちる。男は艶やかな黒い髪をしていた。
とにかく私はこの男の話を聞きたかった。何となくだけど、このままこの男を警備隊に突き出したら駄目な気がするのだ。
魔法陣から一人の男が現れる。光り輝く魔法陣に照らされてよく見える、朱色の髪。謎の箱を手にその男はニヤリと笑った。
「カイ、ル……っ?!」
「こっから先は俺に任せろよ、アミレス。状況はもち把握済みだからな」
殺人鬼と女の子の間に着地したカイルはこちらを一瞥し、そして殺人鬼に蹴りを一発入れた。
腹に重い蹴りを入れられた殺人鬼は後方に飛ばされ、よろめきながら立ち上がる。
──目の前に、ゲームで幾度となく見たあの男がいる。チートオブチートと称されたアンディザ無印の誇る、メインヒーローが……!
「…来るなって言ったのに。何で来たのよこの馬鹿」
「何だとぉ? 虫の知らせを感じたから文字通り飛んで来てやったってのに」
どうしようも無い安心感が妙にムカつくので、それを紛らわす為に悪態をつく。カイルは手紙のやり取りで感じた通りの人柄だった。
ノリがいいと言うか、気前がいいと言うか。こうして話の通じる仲間と会えた事がこんなにも嬉しい事だなんて。
恐怖と寒さから震える女の子にマントをかけてあげて、私はカイルに向けて告げる。
「この子は私が守るから、そっちは頼むわよ。死んだら承知しないから!」
「ふはっ、誰がこんなとこで死ぬかっての」
煽るようにそう答えたカイルは、手元の箱を恋人に触れるように撫でた。慈しむような敬愛するかのような瞳でそれを見つめ、彼は呟く。
「さぁいくぜ、サベイランスちゃん」
《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。システムコード簡略、魔導変換開始》
カイルの言葉に呼応するかのように手元の箱が光り瞬き、謎の機械音声を発する。それはカイルの声を元に調整されたかのような、中性的な音声だった。
そして謎の箱はその姿を変える。それはまるでかつて見た電子機器、なんとかパッド……その真上に何色もの魔法陣が球体を描くように重なって浮かぶ。
いや何それ? え、まってかっこよ!! てか今サベイランスちゃんって言ったわよね…じゃあ本当にあの箱が例のサベイランスちゃん?!
あれがカイルの自作の魔導具って事……? あんなやたらと凄そうなものをカイルが作ったって事? チートオブチートに転生したオタク怖っ。
「よっしゃあっ、記念すべき俺達の初陣だ!」
カイルの楽しそうな表情と声音に、殺人鬼が怯んだように後退る。しかしカイルはそんなのお構い無しで何かとんでもない事を初めてしまった。
《事前指定、目次参照……完了。魔力槽、充填完了。対人・対魔捕縛術式、構成完了。対象補足──完了。絶対捕縛魔法、起動》
雪が強くなって来た頃、静かな夜の街に不似合いな機械音声が響く。
サベイランスちゃんが絶対捕縛魔法…とやらの起動を告げると同時に、殺人鬼の周りを取り囲むように無数の銀色の魔法陣が出現し、そこから鎖が飛び出る。
「ぜってー逃がさねぇからな、殺人鬼ィ!」
「ッ?!」
殺人鬼が逃げようとした時には既に手遅れであった。銀色の鎖が何重にも殺人鬼に絡みつき、やがて身動きを取れなくなる。
カイルは何と僅か数分のうちにあの強い殺人鬼を捕縛してしまったのだ。
え、えーーーーーーーーー? そんな簡単に捕まえられていいの? いやそもそも何よ絶対捕縛魔法って。
「……あの、カイルさん。色々と質問いいかしら」
「何かねアミレスさん。サベイランスちゃんの事なら大いに結構、何でも答えてやろう」
満足気にサベイランスちゃんを停止させているカイルに向け、私は質問を投げかける。
「今の、何?」
「何ってそりゃ、絶対捕縛魔法だけど」
カイルはこてんと首を傾げ、知らねぇの? とばかりにサラッと答えた。
答えになってない。そもそもそれが何かを聞いてるんだよ私は!!
「絶対捕縛魔法ってのは、この為だけに俺が用意して来たオリジナルの魔法だ。お前から赤髪連続殺人事件の話を聞いて急きょ用意したからまだまだ改善の余地はあるがな。その名の通り、目標を一度補足したら何がなんでも捕縛する魔法だぜっ」
カイルは親指を立ててドヤ顔と共にウインクをした。凄いんだけど、凄いんだけど…何かムカつくな。
感心を通り越して呆れすらした私は、額に手を当てて項垂れる。
するとカイルが恥ずかしげに頬をポリポリと掻いて、
「……なんつーか、あれだな。オフ会みたいだなこれ」
視線を泳がせてからはにかんだ。
こいつの情緒ジェットコースターかよ。…でもまぁ、その気持ちは分からなくもない。これまでずっと手紙でだけやり取りしていたから……お互いゲームをやっていたから顔は知っていたものの、こうして会うと何だか感慨深いものがある。
それに、カイルのお陰で無事犯人を捕まえられたんだ。あまり悪く言うのも恩を仇で返すようなものか。
「……そうね。改めて…初めまして、カイル。私はアミレス・ヘル・フォーロイトよ」
「おっ、こちらこそ初めまして。俺はカイル・ディ・ハミル。これから仲良くしようぜ」
ゆっくり立ち上がり、カイルに握手を求める。するとそれを察したカイルはゲームで何度も見た眩い笑顔で、握手に応じた。
そしてカイルは暫く私の顔をじっと見つめていて。
「なぁ、今更なんだけど…お前その髪どしたん? 何で銀髪じゃねーの?」
「…それでずっと私の顔見てたのね。潜入捜査の為に変えてもらってるのよ、友達の精霊さんに」
「精霊?! 精霊と仲いいのお前!? すげぇな!」
「こっちからすれば独学であんなの作るあんたの方が凄いわよ……」
こんな夜中なのにやたらと元気なカイルと気の抜けるような話をする。ゲームではスパダリ枠の影のあるクールイケメンだったのになぁ………目の前のカイルはただの無邪気で元気な少年だよ。あぁ、れみぜらぶる…。
やはり現実はそう上手くいかないものなのだと世の無情さを嘆いていると、ふと女の子の様子が気になって振り向いた。女の子は先程の私達の名乗りを聞いていたのだろう。
今や恐怖や寒さとはまた違う理由で青ざめ震えているようだ。
「ちょっとカイルさん、こっち来て貰えます?」
「はいはい何かねアミレスさんよ」
ちょちょいと手招きすると、カイルはすぐ側まで来て少し屈んでくれた。そんなカイルに耳打ちする。
「この女の子、見ての通り被害者なのよ。今すごーく怯えてるみたいだから、貴方のイケメンパワーで何とかしてくれない?」
「おいおいおい人使いが荒いなこの王女。そんな理由で一国の王子を顎で使うかぁ普通?」
「仕方ないでしょ、私はフォーロイトなのよフォーロイト。この国じゃそれなりに恐れられる存在なのよ」
「フォーロイトとか言うネームブランドつえーな」
「つえーのよ、フォーロイトは」
表情豊かにコソコソと内緒話をする敵対する国の王女と王子。私の提案に最初こそ難色を示していたカイルであったが、結局は折れて女の子を慰めてくれる事に。
さて、攻略対象の底力…見せてもらおうじゃないの!
「………あー、その、何だ。大丈夫かお嬢さん? 立てる?」
「ひゃ、はひ…っ」
カイルのイケメンスマイルが女の子を攻撃する。私達の名前に怯えていた女の子はカイルの笑顔で全てを忘れたように赤面し、あわあわとしていた。
「体つめてーし…うーん、抱き上げた方が早いか。じゃあちょっと失礼しますよお嬢さん」
「えっ──きゃあ!」
「こうして体くっつけといた方が体も温まるっしょ。ああ、念の為に俺の首に手回しといてね」
「は、はぃぃ……!」
カイルは眩しい笑顔を浮かべながら軽々と女の子を抱き上げた。その抱き方、お姫様抱っこ。
突然隣国の王子にこんな優しくお姫様抱っこをされては…並大抵の女子ならイチコロだろう。それは彼女とて例外ではないらしい。
さっきまであんなにも青い顔で震えていた女の子が、今や耳まで真っ赤にしてカイルに抱き着いている。うーん、女の子の心に傷が残らなさそうで良かった良かった。
カイルもナイス! と小さく拍手を贈っていると、
(この子どうすればいいんだ? 俺、この後何したらいいの?!)
カイルが助けを求めるような視線をこちらに送って来た。
私が任せた事だけど……私もこの後どうしたらいいのか分からないのよね。
(私もよく分かんないし自己判断に任せるわ。ファイト!)
とサムズアップして視線を送り返す。天才のカイルならきっとこの状況も上手く脱せる事だろう。
私は貴方を信じているからこうしたのよ、カイル。自分を信じろ。
(俺を見捨てるなァ!!)
(見捨ててなんかないわよ。とにかくファイト!)
カイルとそうやって視線で会話しあう。
何やかんやでカイルは女の子を家まで送って行く事にしたらしい。流石にこの事件の後で一人で帰すのもなぁ…とカイルの良心が総動員された結果のようだ。
「お前…俺が戻って来るまで一人で大丈夫か?」
「多分大丈夫よ」
「まぁ、犯人に繋がれてる鎖、魔法封じのやつだから今はそいつ無害だし安心しとけ」
「あらそうなの。とにかくそっちも気をつけてねー」
「あいよー」
手を振りながらカイルの背中を見送る。女の子の道案内の元、無事に彼女の家まで辿り着けるといいけど。
まぁカイルには方向音痴属性とか無かった筈だし、きっと大丈夫よ、うん。
そう自分を納得させて私は歩き出す。そう言えば全然皆来ないわね………もしかして雪や建物の影響で私の出した水鉄砲が見えないのかしら。
困ったわね、それじゃあいつまで経っても皆は来ないじゃない。
「…もっと高く、どこからでも見える場所で……」
ぶつぶつと呟きながら私は上空目掛けもう一度水鉄砲を放つ。高く高く打ち上げられたそれは、やがて上空で爆発する。今度こそマクベスタかイリオーデか師匠のうち誰か一人でも気づいてくれるといいなぁ。
そして、カイルの絶対捕縛魔法とやらで拘束され身動きを取れなくなった殺人鬼の傍で膝を折る。
ローブの上に雪が少しずつ積もってて、それを手で払い、殺人鬼の体を引き摺って近くのベンチまで連れて行く。何とかその体を持ち上げてベンチに座らせた。
その際にローブのフード部分がズレ落ちる。男は艶やかな黒い髪をしていた。
とにかく私はこの男の話を聞きたかった。何となくだけど、このままこの男を警備隊に突き出したら駄目な気がするのだ。
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