だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第二章・監国の王女

122.事件発生?!2

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「はっ、はぁっ…!」

 男は必死に走る。雪の降る夜の街を必死に走る。
 激しく息をしながら、足を止める事無く逃げ惑う。

「なんっ……で…っ、俺が、こんな目に……!!」

 今にも泣きたい思いで、男は嘆いた。だが、それは天にも人にも届かない。その嘆きが届くのは──正体不明の殺人鬼のみ。
 余裕綽々とばかりに、逃げ惑う男に軽々追いつく殺人鬼。全身を闇のようなローブで包み込み、男が女かさえも分からない。

「ひぃっ?! や、やめろ、誰か助けッ──」

 殺人鬼は懐より取り出した短剣ナイフでグサリ、と男の心臓を一突き。
 息を失い地に倒れ込んだ男の心臓…そこに突き立てられた短剣ナイフを抜き取り、殺人鬼はその代わりとばかりにトランプを一枚、短剣ナイフのあった場所に刺した。

 それはハートのエース。これより帝都を騒がせる事となる、連続殺人事件の開幕を告げるものであった。


♢♢


「これでもう六人目かぁ。帝都の警備隊は何やってるのかしら」

 新聞を読みながら私はそんな呆れを呟いた。
 一面に大きく書かれるは、今帝都を恐怖のどん底に叩き落としている連続殺人事件の被害者。犯人の特徴は全く分かっておらず、これが連続殺人事件だと判断しているのも全ての現場にトランプが置かれているから…なんて理由らしい。
 まぁ実際に、被害者が増える程徐々にトランプの数字も大きくなっていってるのだ。
 一人目は商店を営む中年男性、トランプはハートのエース。
 二人目は花屋で働く若い女性、トランプはハートの2。
 三人目は貧民街の痩せた子供、トランプはハートの3。
 四人目は帝都に来ていた旅人、トランプはハートの4。
 五人目は足が不自由なご老人、トランプはハートの5。
 六人目は兵士を目指す好青年、トランプはハートの6。
 そんな風に新聞で公表されており、殺害方法は全て心臓を一突き。その心臓に、凶器とされている短剣ナイフの代わりとばかりにトランプが刺されているのがこの事件の特徴。
 全てが夜中のうちに行われている犯行の為、近頃では日が暮れてからは誰も外出しなくなったとか。
 皇帝がいなくなった途端荒れまくるわね~、この街。憎らしいけど抑止力としては本当に最強なのね、あの男。

「最近本当に物騒だな……ディオ達が巻き込まれたりしなければいいんだが」
「貧民街の子供が一人犠牲になったみたいだものね、やっぱり心配だわ…」
「とにかく身内が巻き込まれない事を祈るばかりだな」

 珍しく日中からかなりの吹雪となったので、私はマクベスタと共にお茶をしていた。勿論息抜きである。
 そこで今朝の新聞を手に話していたのだが、マクベスタが物凄くフラグっぽい事を言い出した。どうしようこれほんとにフラグ回収しそうで怖いんだけど!
 と内心勝手に焦り出す私。マクベスタのフラグ建設の所為だろうか、何だかとてつもなく嫌な予感がする。絶対、何かが起こる気がする。
 そう思いつつその日は何とか眠りについた。妙な胸騒ぎの所為で中々眠れなかったのだ。
 スヤスヤと眠りについていた所で、何者かが私の体を揺らして来た。一体何なんだ…と思いながら体を起こすと、そこには今日一日お出かけしていた師匠が立っていた。しかし、暗くて何も見えない。

「ししょー、こんな時間にどうした…の…」
「ほんとすみません姫さん。ちょっとどうしても伝えなきゃならねぇ事が出来まして」

 眠い目を擦っていると、師匠が「これなんすけど…」と言って少しだけ火を出し、自身の体を照らした。
 それを見て、私は眠気が吹っ飛ぶ程の驚愕を覚えた。

「俺、なんか刺されたみたいなんすよね。さっき街で急に変な奴に刺されて……折角なんでコレ回収される前に走って逃げて来たんすけど」

 ──師匠の胸元に、短剣ナイフが刺さっている。
 フラグ回収早すぎだってぇ! 半日? 半日かそこらで回収してるじゃないの!!
 てかなんでこのヒトこんなにケロッとしてるの? 心臓刺されてるよね!?

「なんかァ、この前姫さんが読んでた新聞にこんな感じの事件の事書かれてたなーって思って。この短剣ナイフも何かに使えるんじゃないかって」

 そう話しながら師匠は空いた方の手でその短剣ナイフを引き抜いた。そこから血が溢れ出したものの、師匠の体外に出た瞬間、彼の血は全てが燃え尽きた。
 師匠は何を考えているんだ……? 何で、役に立つかなーで心臓に刺された短剣ナイフをそのままにダッシュで逃げるんだろう。まず抜けばいいのに。
 精霊さんってやっぱ人間とは違うんだなぁ…価値観とかそういうのが……。

「──という訳で緊急会議を始めたいと思います。皆さん準備は宜しいかね?」

 場所は私の部屋。あの後一旦眠って、朝になってから私は緊急会議を執り行った。
 面子は、私、ハイラ、マクベスタ、ナトラ、シュヴァルツ、シルフ、師匠。議題は勿論、昨夜の師匠の事。

「ええと、まず昨日俺は用事があったんで昼からちょいと休みを貰ってたんすわ。で、夜までそれがかかっちまったもんだからすぐに帰ろーって精霊界に行こうとしたら、突然前の方から変な奴が近づいてきて。気がついたら心臓刺されてましたね。刺された瞬間に、とりあえず逃げようと考えた俺は短剣ナイフを回収される前に逃げ出して帰って来たんすよ」

 師匠から改めて事の顛末を聞き、私達は頭を抱えていた。色々とツッコミどころが多い。

「精霊を剣で殺せる訳もなかろうに、その犯人とやらは馬鹿じゃな」
「あは、ここまで人間に擬態してる精霊を一目で看破出来る人間なんてそういないよぉ? だから多分、犯人は気づかなかったんじゃぁないかな?」
「……それもそうか。こやつは人間の目から見ればただの変な格好をした変な奴じゃったな」
「そうそう。目立ちたがりの変なおっさんだよぅ」
「なァお前等、俺になんか恨みでもあんのか??」

 ナトラとシュヴァルツがお菓子を頬張りながら仲良く話し合い、どこか物寂しげな師匠がそれにツッコミを入れる。
 ナトラがシュヴァルツを中心に皆とも仲良くやっている事は私としても喜ばしい事なのだが、何だかシュヴァルツと共に道を踏み外してしまいそうで心配だわ。
 シュヴァルツってば私以外の人には妙に毒づくからなぁ…何でって本人に聞いても『なんとなく?』って笑顔が返ってくるだけだ。
 私がその笑顔に弱いと知っての事か……そう何度も何度もその笑顔で私が納得すると思っ…………仕方ないなぁ!
 みたいなやり取りを繰り返し、私はもうシュヴァルツの更生は諦めた。皆に対してちょっと辛辣なだけだし、そこまでの害は無いと踏んだのだ。

「とにかく、重要なのはエンヴィーが刺された事自体じゃなくて、例の殺人事件がまだ続くって事でしょう? アミィとハイラはこの事についてどう思うの?」

 ポンっと肉球で机を叩いて、シルフが話題を変える。猫のつぶらな瞳は私とハイラに交互に向けられた。
 一口お菓子を齧って、まず先に私が見解を述べる事にした。

「犯人は師匠が精霊である事に気づけず、七人目の被害者にしようとした……がしかし、師匠は心臓を刺されたぐらいじゃ死なず、心臓を刺された状態で七人目の被害者は逃走。きっと今頃犯人はかなり焦ってるでしょうね」
「考えられる今後の犯人の行動は、エンヴィー様を探し出して凶器の回収ないし殺害の再度挑戦…それかエンヴィー様の事は無かった事にして、改めて七人目の被害者を作り出すか、でしょう」

 私の言葉に続くように、ハイラが顎に手を当てて意見を述べる。
 これがトランプを用いた連続殺人事件である事は誰もが知る所であり、同時に後七人は殺される事が確定している。トランプはキングまである…エースから始まったこの殺人事件が中途半端な所で終わる筈がない。
 犯人は姿を完璧に隠している事と言い、雪の降る視界の悪い夜を選んでいる事と言い、たった一突きで確実に心臓を刺している事と言い、相当な手練であると推測される。
 そして恐らく、わざわざ死体にトランプを刺してカウントダウンに似たようなものをしている事から……一連の犯行に何か意味を持たせたいのだろう。
 一体犯人の狙いは何なんだ? 何を思ってこの殺人事件を繰り返す?

「……しかし、被害者に一貫性がないな。こう言った連続殺人ともなると、怨恨の線が多いのだろうが…これまでの六人の被害者は互いに面識など無さそうじゃないか」

 これでは犯人に繋がる手がかりなど見つかりそうもないな、とマクベスタが呟く。
 言われてみれば確かにその通りだ。これ程何もかもを決めて行われているかのような連続殺人………無差別殺人とは思いにくい。
 だがそうでないにしても疑問が残る。犯人は一体どういう基準で被害者を選んでいるんだ? どうして滅多に外に出ない師匠がよりにもよって外出していた日に被害に遭ったんだ?

「死体にトランプが刺さってるのも大分意味不明だよねぇ、その中でも何でハートを選んだのかもわかんないや」
「そりゃァあれなんじゃねーの? 心臓刺すぜって意味でハートにしてんじゃね?」
「そんな単純かなぁ…」

 シュヴァルツが手元の紙にハートのエースのトランプを描く。師匠が心臓の辺りをトントン、と叩くとシュヴァルツは呆れたような視線を向けた。
 …心臓を刺す意味合いのハート。それで狙われた師匠……。
 何か、何か大事な事を見落としている気がする。もっと大事な何かを。
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