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第二章・監国の王女
118.私は王女殿下の為に生きる。
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そうやって願い出た同行の末、私はあの悪夢を見た。まるでこうして王女殿下と共にいる事が間違いであるかのように。
──これがお前の辿るべき未来だ。
そう言われているかのように、その悪夢はそれ以来何度も何度も私の夢を侵してくる。その影響か、私はあの事件の際非常に取り乱してしまった。
王女殿下が姿を消し、もしもの事があったとしたら。そしてそれが私の所為かと考えた時、あの悪夢が脳裏によぎった。
また、私はあの御方を守れなかったのか? また、私はあの御方を死なせてしまうのか?
その恐怖と悔恨が私を襲い、あの悪夢から感じた絶望へと引きずり込もうとした。あの時は、シャルのお陰もあり何とか踏みとどまれたが………王女殿下からの書き置きを見つけられなかった時には、きっと私はあの悪夢のように絶望し、深い悔恨の奈落へと身を投じていただろう。
王女殿下の書き置き──王女殿下のお言葉に従い、私は数日間気が気でない中過ごした。そして王女殿下が伝染病の原因を排し無事凱旋された時、私は自重しようと思っていたにも関わらず己の心情をほとんど吐き出していた。
ただ同時にディオとシャルも捲し立てていた為か、王女殿下は何一つ聞き取れていないご様子であった。……でも、それでもいいんだ。
王女殿下が無事にお戻りになられた事、それが一番なのだから。
私達の言葉など今は届かなくてもいい。王女殿下のお言葉が私達に届くのならば、それで十分だ。
「──ふぅ、一旦休憩にするか」
軽く五百ずつ腕立て腹筋背筋をし、私は剣を振りながら一休みしていた。王女殿下が大変お強い以上、私はもっと強くならなければならない……王女殿下の騎士として恥じない自分になる為に。
休憩がてら素振りをしていると、突然、珍しい人影が現れた。彼女は私を見つけるなり軽く一礼して、
「イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュ卿──お時間の方、いただいても宜しいでしょうか」
侍女服とその上に羽織るローブを揺らしてこちらを真っ直ぐ見据えた。彼女はハイラという名前の王女殿下の専属侍女。王女殿下からもかなりの信頼を寄せられている相手のようだ。…そして、恐らくただの侍女では無い。
「その名はもう捨てたものだ。ここにいる私はランディグランジュも関係ない、王女殿下の騎士たるただのイリオーデだ」
ハイラの言葉に訂正を入れると、彼女は「それは失礼を」と軽く謝罪して、
「ではイリオーデ卿、改めてお聞きします。今暇ですか?」
いつかどこかで見た覚えのある栗色の瞳でこちらを見上げて来た。暇かどうかと言われれば、鍛錬で暇ではないのだが……皇宮にて働く彼女がわざわざ一人でこのような場所まで来たという事は、それ相応の理由がある筈だ。
これを聞かねば後悔する、そんな気さえしてしまう程真剣な面持ちのハイラを見て、私は小さく首肯した。
そして汗をかいたからと私は一度着替え、落ち着いた場所で話しましょうと言った彼女にただ着いていく事十分程。貧民街からもほど近い大通りの洒落た喫茶店に案内された。
まだ早朝という事もあり周りの店は開店もしていなくて、それはこの喫茶店とて同じ筈なのに…彼女はなんの迷いもなく開店すらしていない喫茶店に入っていった。
開店前の店内はとても静かだった。落ち着いた雰囲気の店内に一人、堂々とした風格で新聞を読んでいる男の姿があった。
ハイラはその男の元まで私を案内し、そして紹介した。
「イリオーデ卿、こちらはホリミエラ・シャンパージュ伯爵です。そして伯爵、こちらが件のイリオーデ卿です」
「やぁどうも、ホリミエラ・シャンパージュだ。イリオーデ卿とは過去に何度か会った事があるんだが、覚えているだろうか?」
「………申し訳ないが記憶に無い」
「はは、それも仕方ないか。もう十年以上も前の事だ」
シャンパージュ嬢より明るい藍色の髪に、知的な丸眼鏡をかけた若く見える男。彼はなんとシャンパージュ伯爵なのだと言う。
……何度か会った事があるというのは、幼い頃に母に連れられて行ったパーティーなどでの話だろうか。申し訳の無い事に本当に何も覚えていない。過去の事など王女殿下の事しか覚えていないのだ。
そんな私の失礼な態度をシャンパージュ伯爵は咎めはしなかった。楽しげに笑うだけであって、気を悪くした様子もない。流石はシャンパージュ家、いい意味で本当に変わり者だ。
そのシャンパージュ伯爵に「どうぞ座って」と促され、私とハイラは席についた。結局、何の目的で呼び出されたのか分かっておらず困惑していた私に向け、ハイラがようやく説明してくれるらしい。
彼女は栗色の瞳に真剣そのものを宿し、話し始めた。
「──これより、私の爵位簒奪計画の作戦会議の方を執り行います。協力者はシャンパージュ伯爵、イリオーデ卿…宜しいですね?」
何も宜しくない。そのような計画は今初めて聞いた。彼女は爵位簒奪をするつもりなのか? いや、そもそも簒奪する価値がある程の爵位の名家の生まれなのか。
その協力者に私が選ばれた事も不可解だ。十年程前に丁度爵位の簒奪が起きた家出身だからか? かと言って私が出来る助言など一つも無いぞ。
どうして私はこの場に呼ばれたのだろうか……全くもって分からないし、もう帰ってもいいだろうか。帰って素振りの続きをしたい。
「……何故自分がこの場にいるのか分からない。そんな顔をしていますね、イリオーデ卿」
「よく分かったな。その通りだ」
「見れば分かりますよ。ではお教えしましょうか、貴方をこの場にお呼びした理由について」
ハイラはそう言って、改まった面持ちでこちらを見た。
「私の本名はハイラではございません。この名は姫様から頂いたもう一つの私。私の本当の名は──マリエル・シュー・ララルスと申します」
その時私は目を見開いた。その名はランディグランジュにいた頃に聞いた事があった。
帝国の財政を担う歴史あるララルス侯爵家の庶子、マリエル・シュー・ララルス。うちの兄がかつて一目惚れしたと言っていた、ララルス侯爵家の美しき汚点。
そうか、だから彼女の栗色の瞳には妙な既視感を覚えたのか。ララルス侯爵家の人間の多くがあの色の瞳をしているから。
まさか王女殿下の専属侍女に侯爵令嬢がなっているだなんて…………はっ! もしや私が女であれば、彼女と同じように侍女として王女殿下のお傍にお仕え出来たのでは? 何故私は男として生まれたんだ……ッ!
「…私はララルス家が嫌いです。私と母を不幸にしたあの侯爵が憎いです。なので母の死と同時に家を出て、素性を隠し皇宮の侍女となりました。もう二度とあの家に関わるつもりでは無かったのですが……どうしても、権力が必要になったので、あの屑共から何もかも全てを奪ってやる事にしたのです」
私が男である事を後悔している間にも、ハイラ──ララルス嬢はその理由や事情を語っていた。眉を顰め、吐き捨てるように彼女は全てを奪うと豪語した。
爵位簒奪でもって、相手の全てを奪う。それにはどうも……私にも妙な心当たりがあった。
「これでお分かりいただけましたか? 他ならぬ貴方がここに呼ばれた理由は」
「……ああ。理解出来たとも」
兄の爵位簒奪を切っ掛けに全てを奪われた私だからこそ、奪う側の立場に立とうとする彼女に協力を乞われたのだろう。
相変わらず何ともいい性格をしているようだ、ララルス侯爵家の人間は。
「その上で申し上げます。どうか、私の爵位簒奪計画に御協力願えますか…イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュ卿」
ララルス嬢はわざとらしく、私の名を全て口にした。もう捨てた名だと言ったにも関わらず、何故あえてこうも本名で呼ぶのか──答えは単純だ。
「ランディグランジュ家をも巻き込むつもりならば………私も協力しよう。私とて、兄に対しては色々と鬱憤が溜まっているのでな」
何せ兄の所為で私はランディグランジュではなくなったのだから。この恨みも憎悪も全て正当なものと私は主張する。
そのような憎き兄がかつて自分が行ったような爵位簒奪で迷惑を被る姿など、実に滑稽で小気味よいものだろう。だから私は協力する。
地道に復讐をしておかないと、いつかあの悪夢のようにあっさりと殺してしまう気がするからだ。
私の返答を受け取ったララルス嬢はニコリと、意味ありげな笑みを浮かべた。
「それは良かった。ララルス侯爵家もランディグランジュ侯爵家も一族郎党路頭に迷わせるつもりでいたので、そう言っていただけて何よりです」
「………そこまで大規模な簒奪計画なのか?」
「はい。あの屑侯爵に爵位が渡ってから三十四年分全ての財務記録の方を見まして、それはもう笑ってしまうぐらい不正を見つけたのです。それを使ってララルス家の屑共を処分するつもりですわ」
「ふむ…どうやってランディグランジュを巻き込むつもりなのか聞いてもいいか?」
帝国の財政を管理運営するララルス侯爵家ともなると、確かに様々な資料や書類を保管している事だろう。
そのララルス侯爵家の心臓とも言えるものを用いてララルス侯爵家を潰しにかかるとは、なんと末恐ろしい女性なのか。
しかしそれではララルス侯爵家は潰せても、ランディグランジュは巻き込めないのでは? そう私が疑問を口にした所、「それについては私の方から」とシャンパージュ伯爵が口を切った。
「実はランディグランジュ侯爵、我が商会──正確には我がシャンパージュ伯爵家に借金をしているんだ。領地の運営が上手くいかないとかで。それに、業務が多すぎて人手が足りないから腕の立つ者を派遣してくれと依頼され、何度かうちの商会の優秀な者を派遣してやった事もある程。歴史あるランディグランジュ侯爵家…その爵位を簒奪してまで手に入れた人間にしては、些か問題のある事だと私は思うのだよ」
九年前の借金が未だに返済されてない事も信用に関わる重要な問題だと思わないかい? とシャンパージュ伯爵はにこやかに語った。
鬼才、異端ばかりのシャンパージュ伯爵家……その血筋に生まれ、若くして帝国内外問わず市場拡大を果たした現シャンパージュ伯爵。
皇帝陛下の次に、絶対に敵に回してはならない存在とまで言われる理由がよく分かった気がする。
これは本当に、敵に回してはならない存在だ。騎士の直感がそう言っている。シャンパージュ伯爵が家族を溺愛するあまり喧嘩を売ってきた家門を徹底的に潰したとも聞くしな…。
我が兄ながら本当に愚かなものだ。身の丈に合わない事をしただけに飽き足らず、よりにもよってシャンパージュ伯爵家を敵に回すなど……信じられない。大馬鹿者だ。
「現ララルス侯爵の仕事も…正直に言えばだいぶ粗雑で。全てララルス侯爵の秘書が馬車馬の如く働き何とか補っている形だよ。それが最近はより顕著でね、取引相手としてもかなり腹に据えかねていた所に彼女からの協力要請があったものだから、この際痛い目を見てもらおうかと思ってね」
「因果応報ですね」
「そうだとも。私が回している金を横領するなんて、侯爵も馬鹿な真似をしたものだ。我が一族が最も嫌う事を知らないらしい」
「……横領、着服、過剰労働ですか?」
「その通りだともハイラさん。ララルス侯爵家もランディグランジュ侯爵家も歴史ある家門で無ければとっくに潰していたやもしれない。愛娘が伯爵になった際に邪魔になるだろうしな」
シャンパージュ伯爵とララルス嬢は紅茶片手に明るく話すが、その内容は聞く人が聞けば肝が冷えるような恐ろしいものであった。
「さて、話を戻すが……ランディグランジュ家も巻き込む彼女の計画に私が協力するのは、他でも無いアミレス王女殿下の為なのだよ」
ティーカップをカチャリと置いたシャンパージュ伯爵が、途端に真剣な顔をして話題を変えた。それを聞いた私は瞬時にシャンパージュ伯爵の方を見た。
王女殿下の為と言われれば、私とて黙ってはいられない。話を聞こう、と視線を送る。するとシャンパージュ伯爵はララルス嬢と目配せして頷きあった。
「もう既に知っているかと思うが、私の愛娘メイシアはアミレス王女殿下に救われ、これでもかと言う程に心酔している。そして我が最愛の妻もまた、アミレス王女殿下によって救われた。私は二度も愛する家族を救って下さったあの御方に忠義を尽くすと決めた」
「…こうしてシャンパージュ伯爵家が姫様の支持をするとなった以上、姫様はくだらない権謀術数に巻き込まれる事必至です。そこに更に行方不明となっていたランディグランジュ侯爵家の神童たるイリオーデ卿が現れたのですから……その危険性は高まるというものです」
二人の話を聞き、私はそれもそうだ。と呑み込んだ。…神童という呼び名には心当たりが全く無いが、今は置いておこう。
シャンパージュ伯爵家はまさに帝国貴族社会の特異点そのもの。異端とも呼ばれるかの家の特権は強大なものであり、その影響力はまさに蜘蛛の糸のようにこの国中に張り巡らされている。
故に政治的にも非常に強い立場にあるのだが──シャンパージュ伯爵家はどこの家門にも味方せず、常に中立を貫いて来た。逆にそのお陰もあり、この国の貴族社会の勢力均衡は大きく変動する事が無かったのだろう。
だがしかし。そのシャンパージュ伯爵家が王女殿下の元についた。
その為、この勢力均衡は砂の城のようにあっさりと崩され、派閥争いをしている場合ではないと貴族共が一致団結しかねない程、強い石の城が突然出来たようなものなのだ。
だがその石の城とて全方位から一斉に攻撃され、更なる鋼の城なんかが出て来た日には無力と化す。
だからこそララルス嬢は権力を欲している。シャンパージュ伯爵家と共に王女殿下をお守りする強い盾となる為に、石の城一つで耐えられぬなら二つでと。
王女殿下を陰謀渦巻く貴族社会で醜悪な権謀術数や派閥争いからお守りする為に、彼女は権力を手に入れようとしている。なんと素晴らしい心持ちなのか。そう私は感心した。
「つまり、シャンパージュ伯爵家とララルス侯爵家とランディグランジュ侯爵家の三家門で王女殿下を支持すると?」
「えぇ。最終的にはそれが目的となりますね」
「………妙案だな。流石にこの三家門の支持があれば無能な貴族共も安易な言動は出来なくなるだろう」
痛い目を見て困り果てた兄を脅迫し、王女殿下を支持すると公表するように言えばいいだろう。昔から妙にプライドが立派な兄の事だ………幼少期の恥ずかしい話を漏らされたくなければ、とか言えば大人しくこちらの言う事に従ってくれるだろう。
それでも無理だった場合は片手を切り落とそう。兄は両利きだから片腕ぐらい無くなっても問題ないだろうしな。
「あの噂の発生源を潰すのが今から楽しみだ。アミレス王女殿下の不敬な噂を流したネズミ共をどう炙り出し追い詰めてやろうか…」
「畜生共を炙り出した際にはご一報ください、私も始末したいです」
「であれば私も。王女殿下に無礼を働いた者は生かしておけない」
シャンパージュ伯爵の楽しげな呟きを聞いて、私とララルス嬢はその時は是非ご連絡を…とシャンパージュ伯爵に頼み込んでいた。
こうして私はララルス侯爵家を中心にいくつもの家門を巻き込んだ、十年ぶりの侯爵家爵位簒奪事件の関係者となる。だがそれでいい。
何故ならこれは、王女殿下の為になる事だから。
何故なら私は、王女殿下の騎士として王女殿下の為に生きると誓ったのだから──。
──これがお前の辿るべき未来だ。
そう言われているかのように、その悪夢はそれ以来何度も何度も私の夢を侵してくる。その影響か、私はあの事件の際非常に取り乱してしまった。
王女殿下が姿を消し、もしもの事があったとしたら。そしてそれが私の所為かと考えた時、あの悪夢が脳裏によぎった。
また、私はあの御方を守れなかったのか? また、私はあの御方を死なせてしまうのか?
その恐怖と悔恨が私を襲い、あの悪夢から感じた絶望へと引きずり込もうとした。あの時は、シャルのお陰もあり何とか踏みとどまれたが………王女殿下からの書き置きを見つけられなかった時には、きっと私はあの悪夢のように絶望し、深い悔恨の奈落へと身を投じていただろう。
王女殿下の書き置き──王女殿下のお言葉に従い、私は数日間気が気でない中過ごした。そして王女殿下が伝染病の原因を排し無事凱旋された時、私は自重しようと思っていたにも関わらず己の心情をほとんど吐き出していた。
ただ同時にディオとシャルも捲し立てていた為か、王女殿下は何一つ聞き取れていないご様子であった。……でも、それでもいいんだ。
王女殿下が無事にお戻りになられた事、それが一番なのだから。
私達の言葉など今は届かなくてもいい。王女殿下のお言葉が私達に届くのならば、それで十分だ。
「──ふぅ、一旦休憩にするか」
軽く五百ずつ腕立て腹筋背筋をし、私は剣を振りながら一休みしていた。王女殿下が大変お強い以上、私はもっと強くならなければならない……王女殿下の騎士として恥じない自分になる為に。
休憩がてら素振りをしていると、突然、珍しい人影が現れた。彼女は私を見つけるなり軽く一礼して、
「イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュ卿──お時間の方、いただいても宜しいでしょうか」
侍女服とその上に羽織るローブを揺らしてこちらを真っ直ぐ見据えた。彼女はハイラという名前の王女殿下の専属侍女。王女殿下からもかなりの信頼を寄せられている相手のようだ。…そして、恐らくただの侍女では無い。
「その名はもう捨てたものだ。ここにいる私はランディグランジュも関係ない、王女殿下の騎士たるただのイリオーデだ」
ハイラの言葉に訂正を入れると、彼女は「それは失礼を」と軽く謝罪して、
「ではイリオーデ卿、改めてお聞きします。今暇ですか?」
いつかどこかで見た覚えのある栗色の瞳でこちらを見上げて来た。暇かどうかと言われれば、鍛錬で暇ではないのだが……皇宮にて働く彼女がわざわざ一人でこのような場所まで来たという事は、それ相応の理由がある筈だ。
これを聞かねば後悔する、そんな気さえしてしまう程真剣な面持ちのハイラを見て、私は小さく首肯した。
そして汗をかいたからと私は一度着替え、落ち着いた場所で話しましょうと言った彼女にただ着いていく事十分程。貧民街からもほど近い大通りの洒落た喫茶店に案内された。
まだ早朝という事もあり周りの店は開店もしていなくて、それはこの喫茶店とて同じ筈なのに…彼女はなんの迷いもなく開店すらしていない喫茶店に入っていった。
開店前の店内はとても静かだった。落ち着いた雰囲気の店内に一人、堂々とした風格で新聞を読んでいる男の姿があった。
ハイラはその男の元まで私を案内し、そして紹介した。
「イリオーデ卿、こちらはホリミエラ・シャンパージュ伯爵です。そして伯爵、こちらが件のイリオーデ卿です」
「やぁどうも、ホリミエラ・シャンパージュだ。イリオーデ卿とは過去に何度か会った事があるんだが、覚えているだろうか?」
「………申し訳ないが記憶に無い」
「はは、それも仕方ないか。もう十年以上も前の事だ」
シャンパージュ嬢より明るい藍色の髪に、知的な丸眼鏡をかけた若く見える男。彼はなんとシャンパージュ伯爵なのだと言う。
……何度か会った事があるというのは、幼い頃に母に連れられて行ったパーティーなどでの話だろうか。申し訳の無い事に本当に何も覚えていない。過去の事など王女殿下の事しか覚えていないのだ。
そんな私の失礼な態度をシャンパージュ伯爵は咎めはしなかった。楽しげに笑うだけであって、気を悪くした様子もない。流石はシャンパージュ家、いい意味で本当に変わり者だ。
そのシャンパージュ伯爵に「どうぞ座って」と促され、私とハイラは席についた。結局、何の目的で呼び出されたのか分かっておらず困惑していた私に向け、ハイラがようやく説明してくれるらしい。
彼女は栗色の瞳に真剣そのものを宿し、話し始めた。
「──これより、私の爵位簒奪計画の作戦会議の方を執り行います。協力者はシャンパージュ伯爵、イリオーデ卿…宜しいですね?」
何も宜しくない。そのような計画は今初めて聞いた。彼女は爵位簒奪をするつもりなのか? いや、そもそも簒奪する価値がある程の爵位の名家の生まれなのか。
その協力者に私が選ばれた事も不可解だ。十年程前に丁度爵位の簒奪が起きた家出身だからか? かと言って私が出来る助言など一つも無いぞ。
どうして私はこの場に呼ばれたのだろうか……全くもって分からないし、もう帰ってもいいだろうか。帰って素振りの続きをしたい。
「……何故自分がこの場にいるのか分からない。そんな顔をしていますね、イリオーデ卿」
「よく分かったな。その通りだ」
「見れば分かりますよ。ではお教えしましょうか、貴方をこの場にお呼びした理由について」
ハイラはそう言って、改まった面持ちでこちらを見た。
「私の本名はハイラではございません。この名は姫様から頂いたもう一つの私。私の本当の名は──マリエル・シュー・ララルスと申します」
その時私は目を見開いた。その名はランディグランジュにいた頃に聞いた事があった。
帝国の財政を担う歴史あるララルス侯爵家の庶子、マリエル・シュー・ララルス。うちの兄がかつて一目惚れしたと言っていた、ララルス侯爵家の美しき汚点。
そうか、だから彼女の栗色の瞳には妙な既視感を覚えたのか。ララルス侯爵家の人間の多くがあの色の瞳をしているから。
まさか王女殿下の専属侍女に侯爵令嬢がなっているだなんて…………はっ! もしや私が女であれば、彼女と同じように侍女として王女殿下のお傍にお仕え出来たのでは? 何故私は男として生まれたんだ……ッ!
「…私はララルス家が嫌いです。私と母を不幸にしたあの侯爵が憎いです。なので母の死と同時に家を出て、素性を隠し皇宮の侍女となりました。もう二度とあの家に関わるつもりでは無かったのですが……どうしても、権力が必要になったので、あの屑共から何もかも全てを奪ってやる事にしたのです」
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爵位簒奪でもって、相手の全てを奪う。それにはどうも……私にも妙な心当たりがあった。
「これでお分かりいただけましたか? 他ならぬ貴方がここに呼ばれた理由は」
「……ああ。理解出来たとも」
兄の爵位簒奪を切っ掛けに全てを奪われた私だからこそ、奪う側の立場に立とうとする彼女に協力を乞われたのだろう。
相変わらず何ともいい性格をしているようだ、ララルス侯爵家の人間は。
「その上で申し上げます。どうか、私の爵位簒奪計画に御協力願えますか…イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュ卿」
ララルス嬢はわざとらしく、私の名を全て口にした。もう捨てた名だと言ったにも関わらず、何故あえてこうも本名で呼ぶのか──答えは単純だ。
「ランディグランジュ家をも巻き込むつもりならば………私も協力しよう。私とて、兄に対しては色々と鬱憤が溜まっているのでな」
何せ兄の所為で私はランディグランジュではなくなったのだから。この恨みも憎悪も全て正当なものと私は主張する。
そのような憎き兄がかつて自分が行ったような爵位簒奪で迷惑を被る姿など、実に滑稽で小気味よいものだろう。だから私は協力する。
地道に復讐をしておかないと、いつかあの悪夢のようにあっさりと殺してしまう気がするからだ。
私の返答を受け取ったララルス嬢はニコリと、意味ありげな笑みを浮かべた。
「それは良かった。ララルス侯爵家もランディグランジュ侯爵家も一族郎党路頭に迷わせるつもりでいたので、そう言っていただけて何よりです」
「………そこまで大規模な簒奪計画なのか?」
「はい。あの屑侯爵に爵位が渡ってから三十四年分全ての財務記録の方を見まして、それはもう笑ってしまうぐらい不正を見つけたのです。それを使ってララルス家の屑共を処分するつもりですわ」
「ふむ…どうやってランディグランジュを巻き込むつもりなのか聞いてもいいか?」
帝国の財政を管理運営するララルス侯爵家ともなると、確かに様々な資料や書類を保管している事だろう。
そのララルス侯爵家の心臓とも言えるものを用いてララルス侯爵家を潰しにかかるとは、なんと末恐ろしい女性なのか。
しかしそれではララルス侯爵家は潰せても、ランディグランジュは巻き込めないのでは? そう私が疑問を口にした所、「それについては私の方から」とシャンパージュ伯爵が口を切った。
「実はランディグランジュ侯爵、我が商会──正確には我がシャンパージュ伯爵家に借金をしているんだ。領地の運営が上手くいかないとかで。それに、業務が多すぎて人手が足りないから腕の立つ者を派遣してくれと依頼され、何度かうちの商会の優秀な者を派遣してやった事もある程。歴史あるランディグランジュ侯爵家…その爵位を簒奪してまで手に入れた人間にしては、些か問題のある事だと私は思うのだよ」
九年前の借金が未だに返済されてない事も信用に関わる重要な問題だと思わないかい? とシャンパージュ伯爵はにこやかに語った。
鬼才、異端ばかりのシャンパージュ伯爵家……その血筋に生まれ、若くして帝国内外問わず市場拡大を果たした現シャンパージュ伯爵。
皇帝陛下の次に、絶対に敵に回してはならない存在とまで言われる理由がよく分かった気がする。
これは本当に、敵に回してはならない存在だ。騎士の直感がそう言っている。シャンパージュ伯爵が家族を溺愛するあまり喧嘩を売ってきた家門を徹底的に潰したとも聞くしな…。
我が兄ながら本当に愚かなものだ。身の丈に合わない事をしただけに飽き足らず、よりにもよってシャンパージュ伯爵家を敵に回すなど……信じられない。大馬鹿者だ。
「現ララルス侯爵の仕事も…正直に言えばだいぶ粗雑で。全てララルス侯爵の秘書が馬車馬の如く働き何とか補っている形だよ。それが最近はより顕著でね、取引相手としてもかなり腹に据えかねていた所に彼女からの協力要請があったものだから、この際痛い目を見てもらおうかと思ってね」
「因果応報ですね」
「そうだとも。私が回している金を横領するなんて、侯爵も馬鹿な真似をしたものだ。我が一族が最も嫌う事を知らないらしい」
「……横領、着服、過剰労働ですか?」
「その通りだともハイラさん。ララルス侯爵家もランディグランジュ侯爵家も歴史ある家門で無ければとっくに潰していたやもしれない。愛娘が伯爵になった際に邪魔になるだろうしな」
シャンパージュ伯爵とララルス嬢は紅茶片手に明るく話すが、その内容は聞く人が聞けば肝が冷えるような恐ろしいものであった。
「さて、話を戻すが……ランディグランジュ家も巻き込む彼女の計画に私が協力するのは、他でも無いアミレス王女殿下の為なのだよ」
ティーカップをカチャリと置いたシャンパージュ伯爵が、途端に真剣な顔をして話題を変えた。それを聞いた私は瞬時にシャンパージュ伯爵の方を見た。
王女殿下の為と言われれば、私とて黙ってはいられない。話を聞こう、と視線を送る。するとシャンパージュ伯爵はララルス嬢と目配せして頷きあった。
「もう既に知っているかと思うが、私の愛娘メイシアはアミレス王女殿下に救われ、これでもかと言う程に心酔している。そして我が最愛の妻もまた、アミレス王女殿下によって救われた。私は二度も愛する家族を救って下さったあの御方に忠義を尽くすと決めた」
「…こうしてシャンパージュ伯爵家が姫様の支持をするとなった以上、姫様はくだらない権謀術数に巻き込まれる事必至です。そこに更に行方不明となっていたランディグランジュ侯爵家の神童たるイリオーデ卿が現れたのですから……その危険性は高まるというものです」
二人の話を聞き、私はそれもそうだ。と呑み込んだ。…神童という呼び名には心当たりが全く無いが、今は置いておこう。
シャンパージュ伯爵家はまさに帝国貴族社会の特異点そのもの。異端とも呼ばれるかの家の特権は強大なものであり、その影響力はまさに蜘蛛の糸のようにこの国中に張り巡らされている。
故に政治的にも非常に強い立場にあるのだが──シャンパージュ伯爵家はどこの家門にも味方せず、常に中立を貫いて来た。逆にそのお陰もあり、この国の貴族社会の勢力均衡は大きく変動する事が無かったのだろう。
だがしかし。そのシャンパージュ伯爵家が王女殿下の元についた。
その為、この勢力均衡は砂の城のようにあっさりと崩され、派閥争いをしている場合ではないと貴族共が一致団結しかねない程、強い石の城が突然出来たようなものなのだ。
だがその石の城とて全方位から一斉に攻撃され、更なる鋼の城なんかが出て来た日には無力と化す。
だからこそララルス嬢は権力を欲している。シャンパージュ伯爵家と共に王女殿下をお守りする強い盾となる為に、石の城一つで耐えられぬなら二つでと。
王女殿下を陰謀渦巻く貴族社会で醜悪な権謀術数や派閥争いからお守りする為に、彼女は権力を手に入れようとしている。なんと素晴らしい心持ちなのか。そう私は感心した。
「つまり、シャンパージュ伯爵家とララルス侯爵家とランディグランジュ侯爵家の三家門で王女殿下を支持すると?」
「えぇ。最終的にはそれが目的となりますね」
「………妙案だな。流石にこの三家門の支持があれば無能な貴族共も安易な言動は出来なくなるだろう」
痛い目を見て困り果てた兄を脅迫し、王女殿下を支持すると公表するように言えばいいだろう。昔から妙にプライドが立派な兄の事だ………幼少期の恥ずかしい話を漏らされたくなければ、とか言えば大人しくこちらの言う事に従ってくれるだろう。
それでも無理だった場合は片手を切り落とそう。兄は両利きだから片腕ぐらい無くなっても問題ないだろうしな。
「あの噂の発生源を潰すのが今から楽しみだ。アミレス王女殿下の不敬な噂を流したネズミ共をどう炙り出し追い詰めてやろうか…」
「畜生共を炙り出した際にはご一報ください、私も始末したいです」
「であれば私も。王女殿下に無礼を働いた者は生かしておけない」
シャンパージュ伯爵の楽しげな呟きを聞いて、私とララルス嬢はその時は是非ご連絡を…とシャンパージュ伯爵に頼み込んでいた。
こうして私はララルス侯爵家を中心にいくつもの家門を巻き込んだ、十年ぶりの侯爵家爵位簒奪事件の関係者となる。だがそれでいい。
何故ならこれは、王女殿下の為になる事だから。
何故なら私は、王女殿下の騎士として王女殿下の為に生きると誓ったのだから──。
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最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
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