だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

113.帰りましょうか。3

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 夕食の時間になるとシュヴァルツが私を呼びに来た。そこそこ泣き腫らしていた私の顔を見て、シュヴァルツが驚いていた。
 しかしシュヴァルツは涙の訳も聞かず、「誤魔化してあげようか?」と言って何かの魔法を私にかけてくれた。その後、水で鏡を作り確かめてみると……確かに泣き跡は一切残っておらず、至って普通の、いつもの私がそこには映っていた。
 一体シュヴァルツは何をしたのだろうか…と目元の辺りを何度か摩っていると、

「あ、そうだぁ。これリードからおねぇちゃんにって」

 彼は一通の手紙を手渡して来た。リードさんから…? と首を傾げつつそれを受け取り、開いてみると。そこには短く、たった二行で別れが書かれていた。

「えっ…これ、どういう事……?!」
「リードね、やる事があるからってもう帰っちゃったんだ。だからそれはお別れとまた会おうねーっていう手紙だと思うよぅ」
「帰っ…た……今? 空中ここで!?」
「うん。なんか実家に帰る方法があったらしいよぉ、リードには」

 呆然とする私に向けて、シュヴァルツはにこやかに笑いかけた。その顔はまるで子の成長を見守る親のような、そんな穏やかな笑顔だった。
 …でも、どこか底知れない狂気を孕んでいるかのようなその瞳が怖くて、恐ろしくて……私は無意識のうちに目を逸らしていた。
 しかしシュヴァルツが私の手を取り、「ほら夕食に遅れちゃうよおねぇちゃん!」と言って歩き出したのだ。突然引っ張られた事により躓いて転びそうになりながらも歩いて行く。
 食堂に到着すると皆はもう既に席に着いていて、中でもディオとシャルが突然一人で帰ったリードさんへの文句をぶつぶつと言っていた。
 そして船長さん特製の夕食が私達には振る舞われる。船長さんってメイシアの護衛兼船長兼魔導師なのに料理まで出来るのか………とそのハイスペックさに感心しながら料理を味わい舌鼓を鳴らす。
 やっぱり美味しいものを食べると幸せになれるわぁ。さっきまで心と体の乖離で泣いてたのが嘘のように満ち足りた気分だ。
 そんな食事を終えた私は、もう休むと皆に伝え、一人で客室に戻った。ナトラもシルフも師匠もやんわりと部屋から追い出して、本当に一人きりになる。
 何故そこまでしたのか。それは今後起きる出来事や行う事を整理したかったからだ。

「よし、紙とペンの準備完了っと」

 椅子に座り、目の前に紙とペンを用意する。情報が漏れないようになっているとはいえ、念には念をと私は久方振りに日本語を書いた。
 もうずっと大陸の共通語を見て聞いて書いていたから、正直言ってもう日本語なんて忘れているかも…と思ったのだけど。
 意外と体が覚えているものね。と笑いを零しつつ、見出しとして『今後の大まかな流れ』と書き、その下に思い出せる限りの事件等を書き出してゆく。

「…オセロマイトの件は解決。それで、今が本編の三年前だから……これから本編前に起こる事は──大公領の内乱、エルフの森の大火災、カイルの立太子式、魔物の行進イースターの四つか」

 メイシアのいるこの世界はアンディザ二作目の世界でほぼ確定だ。
 そしてその二作目の本編メインストーリーは……これより三年後、ミシェルちゃんが十四歳になったタイミングで魔物の行進イースターによりミシェルちゃんが住む村が襲われ、その際にミシェルちゃんが秘められていた天の加護属性ギフトを初めて発揮し、それがきっかけで国教会に行く事になる所から始まる。
 幼馴染みである攻略対象のロイと共に国教会に行ったミシェルちゃんは、そこで追加攻略対象のミカリアと、同じく攻略対象の神殿都市に身を寄せるセインカラッド、そして神殿都市に潜入中の攻略対象サラと出会う。
 二作目の舞台はほぼ神殿都市と言っても過言ではないのだ。何せ二作目のキービジュアルのセンターを飾るのはミカリアなんだもの。
 …まぁ、そのミカリアには当たり前のように攻略制限がかかってるから、初っ端から攻略するのは難しいのだけど。
 で、しばし国教会で過ごした後にミシェルちゃんは祖国たるハミルディーヒ王国国王たっての願いで、ハミルディーヒ王国の王都にある国教会の教会に行き、その王都で攻略対象のカイルとアンヘルと出会うのだ。
 実はミカリアだけでなくフリードルとマクベスタにも攻略制限がかかっていて、なんと前作の攻略対象五人全員を攻略してからでないとそもそも帝国にミシェルちゃんが行くシナリオが解放されず、更にフリードルとマクベスタを攻略しなければミカリアのルートは解放されない。
 だがその追加攻略対象三人のルートは、攻略制限があるに相応しいえげつないシナリオだったので前作からのファンもたいへん大満足となった程。
 かく言う私も追加組のルートで起きた怒涛の展開には度肝を抜かれ涙したものだ(フリードルのルートでは泣いてないけどね!)。

 それはさておき。ハミルディーヒ王国の王都に行ったミシェルちゃんは二つの選択を迫られる。
 一つ目は神殿都市に戻る事──こちらを選ぶとセインカラッド、サラ、ロイの三名が攻略可能。
 二つ目はそのまま王都に残る事──こちらを選ぶとカイル、アンヘルの二名が攻略可能。
 勿論どちらを選んでも基本的に全員シナリオに絡んでは来るのだが、二作目は共通ルートがかなり少なく大体が個別ルートなのでキャラによってはとことん出番に差が出る。
 まぁ、基本的にどのルートに進もうが大いなる厄災との衝突は起こるし、前作組五人のルートでは帝国との戦争も起きる。
 そう、結局ハミルディーヒ王国とフォーロイト帝国の戦争は一作目でも二作目でも起きるのだ。そしてアミレスはほぼ全てのルートで死ぬ。色んな方法で死ぬ。

 ハミルディーヒ王国の奴等のルートで何でフォーロイトの城に引きこもるアミレスが死ぬの? って思うだろう。
 前作では、アミレスはミシェルちゃんを殺すよう皇帝から勅命を受けハミルディーヒ王国に行き、結果的に皇帝とかに殺される。
 二作目では──何も無いのだ。まるで忘れ去られたかのように、アミレスは全く本編にも絡んで来ない。それなのにアミレスはがさつに殺される。
 何が酷いって、シナリオ上で明確な死亡シーンがあるならまだ良かったものの、いくつかのルートでのアミレスの行く末に至っては公式ファンブックのスタッフトークみたいな部分で『アミレス? まぁ~多分ミシェルに手出し出来なくなった責任を押し付けられて斬首刑とかじゃないかな(笑)』みたいな感じで書かれていただけなのだ!
 本ッ当に傍迷惑な話よ。ていうか公式さんどんだけアミレス嫌いなのよ!!
 アミレスの明確な死亡描写がシナリオ上に存在するのはフリードル、ミカリア、マクベスタ、サラの四つのルート。
 ……ただ、マクベスタのルートで起きたアミレスの事故死に関しては、シナリオの流れとしてもあまりにも突飛な出来事だった為かアンディザファンの間で『どうせこれも皇帝の仕業』と皇帝の陰謀説が浮上し、シナリオライターの方から大体そんな感じよ~みたいな肯定が入ってしまった。
 つまりまた皇帝に殺されるのだ。フリードルのルートではフリードルに、ミカリアのルートではミカリアに、サラのルートではサラに、マクベスタとカイルとアンヘルのルートでは皇帝に………二作目でも随一の死亡率を誇るキャラ、それがアミレスなのだ。

 なんっっっっっっにも嬉しくねぇし誇らしくもねぇ。
 幸か不幸か、マクベスタルートの事故死エンドの具体的な内容を把握しているから回避可能だし、ミカリアとは友達になったからミカリアルートの磔エンドも多分回避可能……と言うか、その磔エンドのきっかけになる帝国によるミシェルちゃん誘拐事件を阻止したらいい話だ。
 問題はフリードルとサラ、そしてカイルとアンヘルの四つのルートだ。斬殺エンドと暗殺エンドと斬首エンド。まぁまぁ酷い三択だ。
 だがしかし、フリードルとサラの方はワンチャンいけるかもしれない。そう、私は気づいてしまったのだ。
 ──大人しく殺られなければ私の勝ちじゃん。
 まさに青天の霹靂。というかそもそもこの為に強くなろうとしてたんじゃなかったっけ、私。

「って違う違う。私は今時系列の整理をしてるんだった……ええと、それで…もしこの世界が攻略制限とか関係ない世界だったとして、ミシェルちゃんハミルディーヒ王国に行く選択肢では無くフォーロイト帝国に行く選択肢を選んだら起こるイベントはー……」

 話がかなり脱線している事に気づき、慌てて軌道修正する。
 例の五人攻略必須の攻略制限が解除されると、そもそもの選択肢が増え、ハミルディーヒ王国王都に行くタイミングでフォーロイト帝国帝都に行けるようになるのだ。
 帝都に来たミシェルちゃんはついに、皇太子のフリードルと亡国の元王子のマクベスタと出会う。
 後、何故か攻略対象じゃないと話題になったサブキャラ、フリードルの側近のレオナード・サー・テンディジェルとも出会う。
 あいつ本当に顔が良くて爽やかでミシェルちゃんをまるで妹のように可愛がってくれた良い奴なんだよな………もしかしたらレオ(レオナードの愛称)は隠し攻略対象かも! と淡い期待を寄せてゲームを進めて玉砕したオタクは数知れず。
 話は戻るが……帝国組とのイベントシーンは基本的に雪解祭や建国祭や舞踏会等の帝都内で済む範囲に抑えられている。
 勿論厄災は襲いかかるけど、なんと帝国組のルートでは戦争が起きない。戦争が起きない分とんでもなく濃いシナリオをしてやがるのだ。

「……大公領の内乱って確か本編開始一年前…つまり今から二年後。その内乱で確か──レオの妹が死ぬのよね」

 カリカリとペンを走らせ、私は目下一番の大事件、大公領の内乱について覚えている限りの事を記していく。
 フリードルの側近となる男レオナードは、我が帝国が誇る最大の盾、テンディジェル大公家の人間だ。白の山脈に面する帝国の領土は同時に大公領であり、白の山脈から来たる魔族の脅威から日々帝国を守っているのがテンディジェル家なのである。
 そんな家に生まれたレオナードは戦う事よりも頭を使う事に才が秀でていた。それも──皇帝直々に登城せよと言われる程に。
 テンディジェル家で学んだ兵法や戦法に加え、持ち前の頭脳がある為……レオナードはある種の軍師としてフリードルの側近となり、その頭脳と才覚を帝国に捧げていた。
 だがしかし、はっきり言って二人の主従関係は上手くいっていなかった。レオナードは登城する半年前に領地の内乱で愛する妹を亡くし、失意の中強制的に登城させられたからであった。
 その後本格的に次期皇帝としての公務につき始めたフリードルの補佐の為に側近となった。
 何よりもレオナードがフリードルを嫌う理由が、アミレスを蔑ろにしている事だった。自分の妹は内乱に巻き込まれて死んだというのに、自らの手で妹を殺そうとするフリードルを理解出来ないと……レオナードはフリードルを酷く嫌悪するのだ。
 しかしそのような理由であのフリードルから逃れられる筈も無く。フリードルのルートではハッピーエンドでもバットエンドでも、レオナードはその感情も心もフリードルの魔剣極夜の能力で凍てつかされて、ただフリードルの命令に忠実に従う人形のようになる。
 そしてアミレスは死ぬ。うーん、絶対駄目だね。確実に回避しないと。
 フリードルの手勢を減らす目的とレオナード自身を守る目的として、私としては何としてでもレオナードをこちら側へ引き抜きたい。あの頭脳は味方に欲しいのだ。
 例えミシェルちゃんがフリードルのルートに進まずとも、レオナードが登城してフリードルの側近になる事は二作目の世界である以上変わりないのだ。

「もういっその事最初から私の側近になって貰おうかしら……フリードルの手下を引き抜くのは多分不可能だし」

 ぐぬぬぬ、と唸りながら考える。ただそうすると、レオナードが妹分みたいに接するミシェルちゃんとの出会いが無くなる可能性も──

「…いや、そもそも妹が死ななければいいんだわ。そしたらレオを私陣営に勧誘する事への懸念は無くなるし……」

 ──ハッと私は思いつく。レオナードは死んだ妹代わりにミシェルちゃんに優しくし、可愛がっていた。つまり妹が死ななければミシェルちゃんの存在で心の穴を埋める必要も無くなる! これだ!!

「決まりだわ。これから私が絶対にやらなきゃいけない事は──大公領の内乱の阻止か介入。それでレオの妹が死なないようにするのよ!」

 急いで紙に優先事項と記し、そこに大きく『レオの妹の死亡は絶対阻止!』と激しい主張を残す。
 残りの本編前に起こる事はほとんど私じゃあどうしようもない事だし、やれる事と言えば大公領の事ぐらいか。
 本編開始後はミシェルちゃんができる限り平和なルートに進む事を祈りつつ、来たる厄災や戦争に備え──ずに私は逃げよう。戦争が始まったらアミレスの死は確定するようなもの。
 それに……ぶっちゃけ私いらないし。ミシェルちゃんさえいれば厄災は何とかなるし。多分私がいても足でまといになるだけだし。
 よって、恐れるものは戦争のみ。だから私は逃げる。皇帝の目が届かないどこかへと逃げよう、それしか生き延びる道は無いのだから。

「ふぅ………じゃあ次は私が個人的にやりたい事か。貧民街大改造計画でしょ、もっともっと強くなりたいし、私が逃げ出した後の皆の安全の為に色々と対策も考えなきゃ。そうだ、せっかくの私兵なんだから団服とか作っちゃおうかな? 他にも──」

 一人きりの部屋の中で。私は色々な事を空想した。ああすればいいか、いやこうすればいいのか? でもあっちの方が、なんて独り言をずっとぶつぶつ呟いた。
 暫くそれを続けていると、やがて日本語がびっしり書かれた紙が十枚程にまで増えていて………外ももう真っ暗になっており、我ながらどれだけ集中していたんだとちょっと引いてしまった。

「ん~っ、それにしても……こんなに色々思い出したのも何だか久しぶりだわぁ。でも、何かまだ大事な事を………忘れてる気がする…」

 椅子の前足が浮かぶぐらい、ぐぐっと背を伸ばしつつ考える。
 そして直ぐに思い出した。そう言えばミカリアルートの事を全く思い出してなかったなと。
 何せミカリアのルートはフォーロイトとハミルディーヒの戦争は起きず(ミシェルちゃん誘拐事件で怒り狂ったミカリアが大暴れして帝国が一方的に壊滅状態に追い込まれるからである。勿論アミレスもここで死ぬ。聖人怖っ)、厄災もまたミカリア一人であっさりと消滅させる。
 だがしかし、その代わりにとんでもない宗教大戦が起きるのだ。それにはミシェルちゃんを始めとして神殿都市にいる攻略対象全員が巻き込まれるのだ。
 相手は勿論リンデア教。その勝負を仕掛けたのはリンデア教の教皇なのだが、実際に戦場に現れて聖人たるミカリアを瀕死の重傷にまで追い込んだのは別の人物だった気がする。
 ただ、その人物の名前は思い出せない。そんな激ヤバ人物に限ってどうして名前を覚えていないのかね私は!

「~~っ、だって! その人何かすっごい長い名前だった気がするんだもん! 仕方ないじゃんかぁ!!」

 ジタバタと足を暴れさせながら大声で自分自身へと言い訳する。アンディザは登場人物が多い上に皆名前が長い。顔と名前が一致しない事なんてザラにあり、世界史を習っているような気分にもなる。
 だからこれは仕方の無い事なのだ。その激ヤバ人物だってミカリアのルート、それも終盤の宗教大戦の時しか出て来なかったし…覚えられるわけないじゃん!!

「あっ」

 暴れていた所為か、ドターンッ! と音を立てて後ろに倒れる椅子。いててて…と呟きながらゴロリと横方向に転がり、天井を仰いでぼーっとする。

「……まぁ、何とかなるっしょ。別にその人物だってミカリアのルート以外では重要人物じゃないだろうし」

 またもや事を楽観視した私は、考える事を止めた。するとその時扉が何度も叩かれて、

「大きい音しましたけど何かあったんすか!?」

 と師匠の声が同時に聞こえて来た。暴れすぎたわ…と思いながらも、先程ぶつけた背中や頭を擦りながら立ち上がり扉の方へ向かう。
 扉の向こうには師匠とシルフとイリオーデがいて、三人にちょっと椅子が倒れて…と状況を説明したら、シルフから耳が痛いぐらいお小言をプレゼントされた。
 そうやって、平和に平穏に空の旅は続く。リードさんにお別れを言えなかったのは残念だけど、また会おうって手紙に書かれていたわけだし……きっとまた必ず会えるだろう。
 とにかく私は、ようやく立てた今後の計画を無事達成する為に頑張らないと。頑張れ私、負けるな私!!

 数日後、帝国に着くとまず最初にディオとシャルとイリオーデを家まで送って行った。
 巻き込んでごめんね、私に着いて来てくれてありがとう。と謝罪とお礼を告げると、ディオが全然平気とばかりに「いいんだよ」と歯を見せて笑った。
 でも、きっと皆に心配かけちゃったし……と話しているとラークが現れて、『三人は王女殿下の護衛としてオセロマイト王国に遊びに行っている』と皆に嘘の説明をしていた事を明かしてくれた。その為か予想外にもズルいズルい! と私はメアリードとルーシアンとジェジに責められる事になったのだ。
 そしてそこで事件が起きる。エリニティが「メイッッッッッシアちゃぁああああああああん!!!!」と叫びながら、目をハートにしてメイシアの元へと向かっていったのだ。しまったッ!? と思った時には既に遅く、メイシアがエリニティに絡まれる事態に。
 くっ……私が不甲斐ないばかりに………!!
 メイシアをエリニティから守りつつ、私はディオ達と「またね!」と別れてまずはシャンパージュ伯爵邸へと向かう。別れの際にメイシアに改めてお礼を言うと、「アミレス様のお力になれて何よりです」と彼女はふにゃりとはにかんだ。
 また遊びに行かせて貰うねとメイシアとも約束し、ようやく皇宮に戻る時が来た。シルフと師匠は一旦精霊界を経由して皇宮に入ると言い姿を消した。ナトラもいる事だしどうやって皇宮に入ったものか……と悩んでいた所でシュヴァルツがニヤリと笑い、

「じゃあぶっ飛んじゃおっか!」

 空間魔法、瞬間転移を発動した。それが光瞬いた直後、ゆっくりと目を開くとそこは見慣れた皇宮の裏手。いつもの特訓場だったのだ。
 ピースサインを作り得意気な様子のシュヴァルツの頭を撫でてありがとうと告げると、シュヴァルツは「えへへっ、どーいたしましてー」と明るく可愛く笑った。
 そんなこんなで私の家、皇宮が東宮に足を踏み入れると。程なくして仕事に勤しむハイラと出会った。彼女は私の姿を見た瞬間、今にも泣き出しそうな顔でホッと胸を撫で下ろし、美しく上品な礼をした。
 そして彼女は涙ぐむ声で出迎えの言葉を紡ぐ。

「──お帰りなさいませ、姫様。無事のお帰りを、心より願っておりました」
「…ただいま、ハイラっ」

 おかえりなさいといってくれた彼女の懐に私は飛びついた。いつもならはしたないと諌言を呈すハイラもこの時ばかりは大目に見てくれたようで、突然抱き着いた私の事を優しく抱き締めてくれた。
 ああ、私はようやく帰って来たのだ。長いようで短いオセロマイト王国救出の旅から………無事、生きてこの家に帰って来れたのだ。




 この時の私は…右も左も分からずがむしゃらに努力するしかなかった六年を経て余裕が生まれ、六年目にしてようやく、ある程度ちゃんとした計画を立てられて満足していた。
 だから考えもしなかったのだ。私以外にも転生者がいて……その人によってもっと大胆に、大規模に、この世界の運命が捻じ曲げられつつある事を、全く考えもしなかったのだ────。

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