96 / 775
第一章・救国の王女
91.緑の竜2
しおりを挟む
「なんだこの空間………って、扉?」
ドーム状の地下空間。そこに大きな石の扉があるのだ。
まるで隠しダンジョンかのように! 何これ胸踊る…っ!
石の扉にはガタガタの文字でこう書かれている。『この先、空を越えたる災いありし迷宮なり。偉大なる厄災を恐れぬ者は蛮勇を奮うがよい』と……。
何これかっこいい…意味はよく分からないけれど凄くかっこいい。意気揚々と扉を体全体を使って押し、私は地下大洞窟に突入した。
竜の呪いが蔓延しているとは聞いていたが、確かに地下大洞窟に入った途端空気が重くなり悪寒が背に抱き着いてくる。
呪いにはかからないものの、それなりに体への影響は出るようだ。呼吸は荒くなり体の震えは止まらない。
長時間い続けたら流石にやばそうね。でも困った事に緑の竜はこのクソデカ地下大洞窟の最奥にいると言う。
案内地図とかないかな…現在地とかが分かるやつ。緑の竜がどこで眠ってるのかも分かるやつがいいわ。
そんなものがある筈もなく。とにかくこの広い洞窟を進んでいくしかないのだ。
地下大洞窟内にはありとあらゆる生物がいなかった。……いや。正確にはいたのだが、その全てが見るも無惨なミイラと成り果てている。恐らくは呪いの影響だろう。
植物も魔物も動物も…等しくその命を吸い取られたようだ。
だからこそとても静かで何も危険な事は起きない。どこに行けばいいのかも分からない場所でこんな風に一人きりでは、否応なしに不安に襲われてしまう。
「寂しいな……」
アミレスになってから六年間私の傍には誰かしらがいてくれたから…本当に誰もいないひとりぼっちなんて、初めてかもしれない。
ならば何十年と眠り続けていたらしい緑の竜は……どれだけ寂しい思いをしているのだろうか。更に瀕死と聞いたし…呪いは何とかしなきゃだけど、可能なら助けてあげたいな。
ギュッと震える手を握り締め、また一歩踏み出す。
………何時間か歩き続けていると、何やら露骨に怪しい場所を見つけた。不自然に白く光っている入口…なんだこれは。なんだこの小部屋。
露骨に怪しい空間には謎の魔法陣と謎の看板があった。
その看板には石の扉に書かれていたものと似た筆跡で『空を越えし災い。愚かなる者は迷宮に囚われよ。これ本当に危ないのよ? 危ないんだから! 絶対使わないように! 忠告してあげたんだからね!! どうなっても知らないんだから!!』と書かれていた。
ええ…どう反応したらいいんだろうこれは。なんだか凄くツンデレ感のある看板だわ。
しかしこの看板と魔法陣、どちらもかなり経年劣化によりボロボロだった。その為か魔法陣に干渉する事が出来てしまったのだ。
「…これってもしかして空間魔法? じゃあ看板にあった空を越えし災いって………これを使えばどこかに転移させられるのかしら」
屈んでしばらく見聞した結果、この魔法陣は瞬間転移の類の魔法陣であろうと結論づける事が出来た。
更にあの看板…この魔法陣を使うように誘導しているようにしか思えない。人間の心理的に、アレだけ言われてしまえば寧ろ使おうと思ってしまう。
つまりこれは使わせようとしているのだ。しかもあんな露骨に怪しい入口にしてまで。
誰が何を思ってここまで誘導しているのか私には分からないが………ここまで誘導されているのだ、使ってやろうじゃあないか。
罠の可能性の方が高いのだが…もうなるようになれだ。もし危険な目に遭ったのならその時はその時。
私はこの魔法陣と看板を用意した何者かの計り知れない思惑に賭けよう。やっぱり人生は思い切りが大事だもの!
「いざ、瞬間転移よ!」
魔法陣の上に立ち、魔力を流し込む。この魔法陣はほぼ発動直前の段階で固定されていたので、後は発動する為の燃料たる魔力さえあれば…空間魔法を扱えない人間でもこの魔法陣を使用出来るというカラクリだ。
魔法陣が光り輝き、瞼をギュッと閉じる。次に瞳を開いた時には──全く別の場所にいた。
さっきの空間よりも狭い場所。ふと横を見るとまた古びた看板があって、『ここまで来てくれたあなたにお願いがあります。どうかあの子をよろしくお願いします』とそこには書かれていた。
この看板の人が何をしたくてこんな手の込んだ事をしているのか分からないが、とにかく先を進もう。転移先の空間から続く細い道を歩いていく。
…しかし頭に引っかかるな、『あの子をよろしくお願いします』って…誰の事を指しているのだろう。
「──ッ!!」
広い道に出た瞬間。身の毛もよだつ恐怖と悪寒に襲われた。
全身が石のように固まる。ビリビリと体中に響く威圧感が私に呼吸を許さない。
それでも意地で呼吸する。程なくして体が慣れてきたのか呼吸は楽になった。それでも体の震えは収まらないし、心臓も忙しなく鼓動している。
そのままゆっくり一歩ずつ進んで行くと…とても広い、某東のドーム程の地下空間に出た。
そこで私は目を見開いた。開いた口は塞がらない。驚愕のあまり言葉を失ったのだ。
──天井にある不思議な水晶から溢れる光に照らされる、美しい暗緑色の鱗を持つ一頭の竜。力なく横たわり眠っているように窺える。
その体の下より生えた無数のツタが、竜を縛り付けるかのように……あるいは地から吸い上げた栄養を竜に送るかのように、緑の竜の大きな体に巻きついている。
そこには確かに、幻想の王たる竜がいた。
『──だれ、じゃ。ここに、にんげんがおとずれる……など』
突然脳内に低く唸るような声。その声に引っぱられるようにおもむろに開かれる竜の目蓋。すると現れるは鋭い瞳孔を持つ黄金の瞳。
これは緑の竜の声なのだろう。私はゆっくりと竜に近づきながら、竜に問う。
「…私はアミレス。あなたは緑の竜よね?」
『……ふ、そうじゃ。われ、は…いだいなる、みどりの、りゅう……じゃが…もう、われには、りゅうとして…そらをかけることも………できぬ、のじゃ…あねうえ、どうして……っ』
緑の竜は悲しげに語った。あねうえ…姉上? 一体何があったのか。
「ねぇ、何があったの? どうしてあなたはそんなに傷だらけなの?」
虚ろな竜の瞳を見上げ、私は更に尋ねた。すると緑の竜は意外にも少しずつ話してくれた。
『ずぅっと、ずぅっと………むかし。あれから、なんねんたったのかも、わからぬが……われは、しろの、あねうえに…ここでねむらされたのじゃ。なみだを、ながしながら…あねうえは、われを………つい、せんじつ。めがさめたら…われ、しにかけておった…のじゃ』
緑の竜はその黄金の瞳から涙を流した。あぁ、見た目も威圧感も確かに竜なのだが…その中身はなんら私達と変わらないじゃないか。
しかし、白の姉上か……もしかして白の竜の事?
その竜によって緑の竜が長い間眠らされていて、その結果ここまで衰弱し、生存本能で呪いを撒いて生き長らえていると。…想像以上にややこしい問題のようだ。
だがしかし、ここで私はふと思い出したのだ。
「……緑の竜を眠らせたのは白の竜…それにあの看板…………」
ぶつぶつと呟きながら私は考えを巡らせた。その末にある一つの仮説を立てたのだ。
それは──白の竜が緑の竜を何らかの理由で守ろうとした説。
こんな人が寄り付かないような場で、涙を流しながら緑の竜を眠らせたという白の竜。そしてここに来るまでにあった明らかに怪しい看板と魔法陣……あれは白の竜が用意したものなのではと私は考えた。
何らかの理由から緑の竜を眠らせる必要があった為、もしもの時は人間へと緑の竜を託そうとして…と考えれば、あの妙に親切なここへと誘導する看板と魔法陣にも説明がつく。
いつか習った竜種にまつわる歴史を必死に思い出した事により、私はその"何らかの理由"にも少しの心当たりが出来た。
なので、その仮説を確かなものへと変える為に私は緑の竜に確認した。あなたと白の竜は仲が良かったのか、と。
答えはYes。白の竜は一番緑の竜を可愛がってくれていた心優しき姉だったらしい。
──つまり。看板の『あの子をよろしくお願いします』という言葉は、そのままの意味だったのだ。
「ねぇ、緑の竜。これはあくまでも私の仮説に過ぎないのだけど……きっと、白の竜はあなたを守りたかったからここで眠らせていたのよ。ここなら普通の人間は近寄れないから」
『…われを、まもるため…?』
ピクリと緑の竜が反応する。私は一度頷いてから更に続けた。
「今からおよそ百年前に赤と青の竜が人間に討伐された。その二十年後に白の竜は人間達に封印されたのだけど…この事は知ってる?」
『ッ?! あかと、あおのあにうえが…にんげんに、ころされた、じゃと…? あねうえ、も………ふういん、され……』
「……やっぱり、あなたはこれより前にもう眠らされていたのね」
緑の竜がツタを引きちぎってでもボロボロの体を無理やり起こそうとして、ふらっと倒れ込む。巻き起こる土煙の中から、黄金の鋭い瞳孔が恨めしそうに私をとらえている。
「白の竜はきっとあなたを人間達の脅威から守る為に眠らせたの。万が一にでも人間に見つからないよう、こんな…強力な魔物や動物で溢れかえっていたらしい、地下大洞窟の最奥で」
ここに来るまでの道で、呪いに侵されたらしき生き物だった何かを多数見たのだが…その特徴的な模様や身体からかなり強力な魔物なのではと。
そんな所、今のような非常時でなければ魔物がうじゃうじゃいて人間は無事でいられない。
だからこそ白の竜は託したのだ……地下大洞窟を嗅ぎつけある程度魔物溢れる道を進む事の出来る強き人間が、緑の竜を助けてあげる事を。
……その人間が緑の竜を殺す事になるかもとは考えなかったらしい。恐らく、白の竜も相当切羽詰まった状況だったのだろう。
『…あねうえ、は……われを、まもろうと?』
「ええ、きっと。あなた達を虐げた人間側の言葉なんて信用出来ないだろうけれど…私はそう考えた。白の竜は、お姉ちゃんとしてあなたの事を本当に心配していたんだって」
『…………おまえは、あかと、あおの…あにうえをころした、わるいにんげん…じゃない。われ、りゅうじゃから………みれば、わかるのじゃ』
緑の竜は私に向けていた憎悪の矛を収め、ふんっと言いながらそっぽを向いた。
同じ人間だからって恨まれる覚悟ではあったけれど…どうやら私の事はいい人と認識してくれたらしい。
というか、それよりも早く緑の竜を助けてあげないと。瀕死の状態らしいし。
ドーム状の地下空間。そこに大きな石の扉があるのだ。
まるで隠しダンジョンかのように! 何これ胸踊る…っ!
石の扉にはガタガタの文字でこう書かれている。『この先、空を越えたる災いありし迷宮なり。偉大なる厄災を恐れぬ者は蛮勇を奮うがよい』と……。
何これかっこいい…意味はよく分からないけれど凄くかっこいい。意気揚々と扉を体全体を使って押し、私は地下大洞窟に突入した。
竜の呪いが蔓延しているとは聞いていたが、確かに地下大洞窟に入った途端空気が重くなり悪寒が背に抱き着いてくる。
呪いにはかからないものの、それなりに体への影響は出るようだ。呼吸は荒くなり体の震えは止まらない。
長時間い続けたら流石にやばそうね。でも困った事に緑の竜はこのクソデカ地下大洞窟の最奥にいると言う。
案内地図とかないかな…現在地とかが分かるやつ。緑の竜がどこで眠ってるのかも分かるやつがいいわ。
そんなものがある筈もなく。とにかくこの広い洞窟を進んでいくしかないのだ。
地下大洞窟内にはありとあらゆる生物がいなかった。……いや。正確にはいたのだが、その全てが見るも無惨なミイラと成り果てている。恐らくは呪いの影響だろう。
植物も魔物も動物も…等しくその命を吸い取られたようだ。
だからこそとても静かで何も危険な事は起きない。どこに行けばいいのかも分からない場所でこんな風に一人きりでは、否応なしに不安に襲われてしまう。
「寂しいな……」
アミレスになってから六年間私の傍には誰かしらがいてくれたから…本当に誰もいないひとりぼっちなんて、初めてかもしれない。
ならば何十年と眠り続けていたらしい緑の竜は……どれだけ寂しい思いをしているのだろうか。更に瀕死と聞いたし…呪いは何とかしなきゃだけど、可能なら助けてあげたいな。
ギュッと震える手を握り締め、また一歩踏み出す。
………何時間か歩き続けていると、何やら露骨に怪しい場所を見つけた。不自然に白く光っている入口…なんだこれは。なんだこの小部屋。
露骨に怪しい空間には謎の魔法陣と謎の看板があった。
その看板には石の扉に書かれていたものと似た筆跡で『空を越えし災い。愚かなる者は迷宮に囚われよ。これ本当に危ないのよ? 危ないんだから! 絶対使わないように! 忠告してあげたんだからね!! どうなっても知らないんだから!!』と書かれていた。
ええ…どう反応したらいいんだろうこれは。なんだか凄くツンデレ感のある看板だわ。
しかしこの看板と魔法陣、どちらもかなり経年劣化によりボロボロだった。その為か魔法陣に干渉する事が出来てしまったのだ。
「…これってもしかして空間魔法? じゃあ看板にあった空を越えし災いって………これを使えばどこかに転移させられるのかしら」
屈んでしばらく見聞した結果、この魔法陣は瞬間転移の類の魔法陣であろうと結論づける事が出来た。
更にあの看板…この魔法陣を使うように誘導しているようにしか思えない。人間の心理的に、アレだけ言われてしまえば寧ろ使おうと思ってしまう。
つまりこれは使わせようとしているのだ。しかもあんな露骨に怪しい入口にしてまで。
誰が何を思ってここまで誘導しているのか私には分からないが………ここまで誘導されているのだ、使ってやろうじゃあないか。
罠の可能性の方が高いのだが…もうなるようになれだ。もし危険な目に遭ったのならその時はその時。
私はこの魔法陣と看板を用意した何者かの計り知れない思惑に賭けよう。やっぱり人生は思い切りが大事だもの!
「いざ、瞬間転移よ!」
魔法陣の上に立ち、魔力を流し込む。この魔法陣はほぼ発動直前の段階で固定されていたので、後は発動する為の燃料たる魔力さえあれば…空間魔法を扱えない人間でもこの魔法陣を使用出来るというカラクリだ。
魔法陣が光り輝き、瞼をギュッと閉じる。次に瞳を開いた時には──全く別の場所にいた。
さっきの空間よりも狭い場所。ふと横を見るとまた古びた看板があって、『ここまで来てくれたあなたにお願いがあります。どうかあの子をよろしくお願いします』とそこには書かれていた。
この看板の人が何をしたくてこんな手の込んだ事をしているのか分からないが、とにかく先を進もう。転移先の空間から続く細い道を歩いていく。
…しかし頭に引っかかるな、『あの子をよろしくお願いします』って…誰の事を指しているのだろう。
「──ッ!!」
広い道に出た瞬間。身の毛もよだつ恐怖と悪寒に襲われた。
全身が石のように固まる。ビリビリと体中に響く威圧感が私に呼吸を許さない。
それでも意地で呼吸する。程なくして体が慣れてきたのか呼吸は楽になった。それでも体の震えは収まらないし、心臓も忙しなく鼓動している。
そのままゆっくり一歩ずつ進んで行くと…とても広い、某東のドーム程の地下空間に出た。
そこで私は目を見開いた。開いた口は塞がらない。驚愕のあまり言葉を失ったのだ。
──天井にある不思議な水晶から溢れる光に照らされる、美しい暗緑色の鱗を持つ一頭の竜。力なく横たわり眠っているように窺える。
その体の下より生えた無数のツタが、竜を縛り付けるかのように……あるいは地から吸い上げた栄養を竜に送るかのように、緑の竜の大きな体に巻きついている。
そこには確かに、幻想の王たる竜がいた。
『──だれ、じゃ。ここに、にんげんがおとずれる……など』
突然脳内に低く唸るような声。その声に引っぱられるようにおもむろに開かれる竜の目蓋。すると現れるは鋭い瞳孔を持つ黄金の瞳。
これは緑の竜の声なのだろう。私はゆっくりと竜に近づきながら、竜に問う。
「…私はアミレス。あなたは緑の竜よね?」
『……ふ、そうじゃ。われ、は…いだいなる、みどりの、りゅう……じゃが…もう、われには、りゅうとして…そらをかけることも………できぬ、のじゃ…あねうえ、どうして……っ』
緑の竜は悲しげに語った。あねうえ…姉上? 一体何があったのか。
「ねぇ、何があったの? どうしてあなたはそんなに傷だらけなの?」
虚ろな竜の瞳を見上げ、私は更に尋ねた。すると緑の竜は意外にも少しずつ話してくれた。
『ずぅっと、ずぅっと………むかし。あれから、なんねんたったのかも、わからぬが……われは、しろの、あねうえに…ここでねむらされたのじゃ。なみだを、ながしながら…あねうえは、われを………つい、せんじつ。めがさめたら…われ、しにかけておった…のじゃ』
緑の竜はその黄金の瞳から涙を流した。あぁ、見た目も威圧感も確かに竜なのだが…その中身はなんら私達と変わらないじゃないか。
しかし、白の姉上か……もしかして白の竜の事?
その竜によって緑の竜が長い間眠らされていて、その結果ここまで衰弱し、生存本能で呪いを撒いて生き長らえていると。…想像以上にややこしい問題のようだ。
だがしかし、ここで私はふと思い出したのだ。
「……緑の竜を眠らせたのは白の竜…それにあの看板…………」
ぶつぶつと呟きながら私は考えを巡らせた。その末にある一つの仮説を立てたのだ。
それは──白の竜が緑の竜を何らかの理由で守ろうとした説。
こんな人が寄り付かないような場で、涙を流しながら緑の竜を眠らせたという白の竜。そしてここに来るまでにあった明らかに怪しい看板と魔法陣……あれは白の竜が用意したものなのではと私は考えた。
何らかの理由から緑の竜を眠らせる必要があった為、もしもの時は人間へと緑の竜を託そうとして…と考えれば、あの妙に親切なここへと誘導する看板と魔法陣にも説明がつく。
いつか習った竜種にまつわる歴史を必死に思い出した事により、私はその"何らかの理由"にも少しの心当たりが出来た。
なので、その仮説を確かなものへと変える為に私は緑の竜に確認した。あなたと白の竜は仲が良かったのか、と。
答えはYes。白の竜は一番緑の竜を可愛がってくれていた心優しき姉だったらしい。
──つまり。看板の『あの子をよろしくお願いします』という言葉は、そのままの意味だったのだ。
「ねぇ、緑の竜。これはあくまでも私の仮説に過ぎないのだけど……きっと、白の竜はあなたを守りたかったからここで眠らせていたのよ。ここなら普通の人間は近寄れないから」
『…われを、まもるため…?』
ピクリと緑の竜が反応する。私は一度頷いてから更に続けた。
「今からおよそ百年前に赤と青の竜が人間に討伐された。その二十年後に白の竜は人間達に封印されたのだけど…この事は知ってる?」
『ッ?! あかと、あおのあにうえが…にんげんに、ころされた、じゃと…? あねうえ、も………ふういん、され……』
「……やっぱり、あなたはこれより前にもう眠らされていたのね」
緑の竜がツタを引きちぎってでもボロボロの体を無理やり起こそうとして、ふらっと倒れ込む。巻き起こる土煙の中から、黄金の鋭い瞳孔が恨めしそうに私をとらえている。
「白の竜はきっとあなたを人間達の脅威から守る為に眠らせたの。万が一にでも人間に見つからないよう、こんな…強力な魔物や動物で溢れかえっていたらしい、地下大洞窟の最奥で」
ここに来るまでの道で、呪いに侵されたらしき生き物だった何かを多数見たのだが…その特徴的な模様や身体からかなり強力な魔物なのではと。
そんな所、今のような非常時でなければ魔物がうじゃうじゃいて人間は無事でいられない。
だからこそ白の竜は託したのだ……地下大洞窟を嗅ぎつけある程度魔物溢れる道を進む事の出来る強き人間が、緑の竜を助けてあげる事を。
……その人間が緑の竜を殺す事になるかもとは考えなかったらしい。恐らく、白の竜も相当切羽詰まった状況だったのだろう。
『…あねうえ、は……われを、まもろうと?』
「ええ、きっと。あなた達を虐げた人間側の言葉なんて信用出来ないだろうけれど…私はそう考えた。白の竜は、お姉ちゃんとしてあなたの事を本当に心配していたんだって」
『…………おまえは、あかと、あおの…あにうえをころした、わるいにんげん…じゃない。われ、りゅうじゃから………みれば、わかるのじゃ』
緑の竜は私に向けていた憎悪の矛を収め、ふんっと言いながらそっぽを向いた。
同じ人間だからって恨まれる覚悟ではあったけれど…どうやら私の事はいい人と認識してくれたらしい。
というか、それよりも早く緑の竜を助けてあげないと。瀕死の状態らしいし。
3
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる