だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

91.緑の竜2

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「なんだこの空間………って、扉?」

 ドーム状の地下空間。そこに大きな石の扉があるのだ。
 まるで隠しダンジョンかのように! 何これ胸踊る…っ!
 石の扉にはガタガタの文字でこう書かれている。『この先、空を越えたる災いありし迷宮なり。偉大なる厄災を恐れぬ者は蛮勇を奮うがよい』と……。
 何これかっこいい…意味はよく分からないけれど凄くかっこいい。意気揚々と扉を体全体を使って押し、私は地下大洞窟に突入した。
 竜の呪いが蔓延しているとは聞いていたが、確かに地下大洞窟に入った途端空気が重くなり悪寒が背に抱き着いてくる。
 呪いにはかからないものの、それなりに体への影響は出るようだ。呼吸は荒くなり体の震えは止まらない。
 長時間い続けたら流石にやばそうね。でも困った事に緑の竜はこのクソデカ地下大洞窟の最奥にいると言う。
 案内地図とかないかな…現在地とかが分かるやつ。緑の竜がどこで眠ってるのかも分かるやつがいいわ。

 そんなものがある筈もなく。とにかくこの広い洞窟を進んでいくしかないのだ。
 地下大洞窟内にはありとあらゆる生物がいなかった。……いや。正確にはいたのだが、その全てが見るも無惨なミイラと成り果てている。恐らくは呪いの影響だろう。
 植物も魔物も動物も…等しくその命を吸い取られたようだ。
 だからこそとても静かで何も危険な事は起きない。どこに行けばいいのかも分からない場所でこんな風に一人きりでは、否応なしに不安に襲われてしまう。

「寂しいな……」

 アミレスになってから六年間私の傍には誰かしらがいてくれたから…本当に誰もいないひとりぼっちなんて、初めてかもしれない。
 ならば何十年と眠り続けていたらしい緑の竜は……どれだけ寂しい思いをしているのだろうか。更に瀕死と聞いたし…呪いは何とかしなきゃだけど、可能なら助けてあげたいな。
 ギュッと震える手を握り締め、また一歩踏み出す。
 ………何時間か歩き続けていると、何やら露骨に怪しい場所を見つけた。不自然に白く光っている入口…なんだこれは。なんだこの小部屋。
 露骨に怪しい空間には謎の魔法陣と謎の看板があった。
 その看板には石の扉に書かれていたものと似た筆跡で『空を越えし災い。愚かなる者は迷宮に囚われよ。これ本当に危ないのよ? 危ないんだから! 絶対使わないように! 忠告してあげたんだからね!! どうなっても知らないんだから!!』と書かれていた。
 ええ…どう反応したらいいんだろうこれは。なんだか凄くツンデレ感のある看板だわ。
 しかしこの看板と魔法陣、どちらもかなり経年劣化によりボロボロだった。その為か魔法陣に干渉する事が出来てしまったのだ。

「…これってもしかして空間魔法? じゃあ看板にあった空を越えし災いって………これを使えばどこかに転移させられるのかしら」

 屈んでしばらく見聞した結果、この魔法陣は瞬間転移の類の魔法陣であろうと結論づける事が出来た。
 更にあの看板…この魔法陣を使うように誘導しているようにしか思えない。人間の心理的に、アレだけ言われてしまえば寧ろ使おうと思ってしまう。
 つまりこれは使わせようとしているのだ。しかもあんな露骨に怪しい入口にしてまで。
 誰が何を思ってここまで誘導しているのか私には分からないが………ここまで誘導されているのだ、使ってやろうじゃあないか。
 罠の可能性の方が高いのだが…もうなるようになれだ。もし危険な目に遭ったのならその時はその時。
 私はこの魔法陣と看板を用意した何者かの計り知れない思惑に賭けよう。やっぱり人生は思い切りが大事だもの!

「いざ、瞬間転移よ!」

 魔法陣の上に立ち、魔力を流し込む。この魔法陣はほぼ発動直前の段階で固定されていたので、後は発動する為の燃料たる魔力さえあれば…空間魔法を扱えない人間でもこの魔法陣を使用出来るというカラクリだ。
 魔法陣が光り輝き、瞼をギュッと閉じる。次に瞳を開いた時には──全く別の場所にいた。
 さっきの空間よりも狭い場所。ふと横を見るとまた古びた看板があって、『ここまで来てくれたあなたにお願いがあります。どうかあの子をよろしくお願いします』とそこには書かれていた。
 この看板の人が何をしたくてこんな手の込んだ事をしているのか分からないが、とにかく先を進もう。転移先の空間から続く細い道を歩いていく。
 …しかし頭に引っかかるな、『あの子をよろしくお願いします』って…誰の事を指しているのだろう。

「──ッ!!」

 広い道に出た瞬間。身の毛もよだつ恐怖と悪寒に襲われた。
 全身が石のように固まる。ビリビリと体中に響く威圧感が私に呼吸を許さない。
 それでも意地で呼吸する。程なくして体が慣れてきたのか呼吸は楽になった。それでも体の震えは収まらないし、心臓も忙しなく鼓動している。
 そのままゆっくり一歩ずつ進んで行くと…とても広い、某東のドーム程の地下空間に出た。
 そこで私は目を見開いた。開いた口は塞がらない。驚愕のあまり言葉を失ったのだ。
 ──天井にある不思議な水晶から溢れる光に照らされる、美しい暗緑色の鱗を持つ一頭の竜。力なく横たわり眠っているように窺える。
 その体の下より生えた無数のツタが、竜を縛り付けるかのように……あるいは地から吸い上げた栄養を竜に送るかのように、緑の竜の大きな体に巻きついている。
 そこには確かに、魔物の祖たる竜がいた。

『──だれ、じゃ。ここに、にんげんがおとずれる……など』

 突然脳内に低く唸るような声。その声に引っぱられるようにおもむろに開かれる竜の目蓋。すると現れるは鋭い瞳孔を持つ黄金の瞳。
 これは緑の竜の声なのだろう。私はゆっくりと竜に近づきながら、竜に問う。

「…私はアミレス。あなたは緑の竜よね?」
『……ふ、そうじゃ。われ、は…いだいなる、みどりの、りゅう……じゃが…もう、われには、りゅうとして…そらをかけることも………できぬ、のじゃ…あねうえ、どうして……っ』

 緑の竜は悲しげに語った。あねうえ…姉上? 一体何があったのか。

「ねぇ、何があったの? どうしてあなたはそんなに傷だらけなの?」

 虚ろな竜の瞳を見上げ、私は更に尋ねた。すると緑の竜は意外にも少しずつ話してくれた。

『ずぅっと、ずぅっと………むかし。あれから、なんねんたったのかも、わからぬが……われは、しろの、あねうえに…ここでねむらされたのじゃ。なみだを、ながしながら…あねうえは、われを………つい、せんじつ。めがさめたら…われ、しにかけておった…のじゃ』

 緑の竜はその黄金の瞳から涙を流した。あぁ、見た目も威圧感も確かに竜なのだが…その中身はなんら私達と変わらないじゃないか。
 しかし、白の姉上か……もしかして白の竜の事?
 その竜によって緑の竜が長い間眠らされていて、その結果ここまで衰弱し、生存本能で呪いを撒いて生き長らえていると。…想像以上にややこしい問題のようだ。
 だがしかし、ここで私はふと思い出したのだ。

「……緑の竜を眠らせたのは白の竜…それにあの看板…………」

 ぶつぶつと呟きながら私は考えを巡らせた。その末にある一つの仮説を立てたのだ。
 それは──白の竜が緑の竜を何らかの理由で守ろうとした説。
 こんな人が寄り付かないような場で、涙を流しながら緑の竜を眠らせたという白の竜。そしてここに来るまでにあった明らかに怪しい看板と魔法陣……あれは白の竜が用意したものなのではと私は考えた。
 何らかの理由から緑の竜を眠らせる必要があった為、もしもの時は人間へと緑の竜を託そうとして…と考えれば、あの妙に親切なここへと誘導する看板と魔法陣にも説明がつく。
 いつか習った竜種にまつわる歴史を必死に思い出した事により、私はその"何らかの理由"にも少しの心当たりが出来た。
 なので、その仮説を確かなものへと変える為に私は緑の竜に確認した。あなたと白の竜は仲が良かったのか、と。
 答えはYes。白の竜は一番緑の竜を可愛がってくれていた心優しき姉だったらしい。
 ──つまり。看板の『あの子をよろしくお願いします』という言葉は、そのままの意味だったのだ。

「ねぇ、緑の竜。これはあくまでも私の仮説に過ぎないのだけど……きっと、白の竜はあなたを守りたかったからここで眠らせていたのよ。ここなら普通の人間は近寄れないから」
『…われを、まもるため…?』

 ピクリと緑の竜が反応する。私は一度頷いてから更に続けた。

「今からおよそ百年前に赤と青の竜が人間に討伐された。その二十年後に白の竜は人間達に封印されたのだけど…この事は知ってる?」
『ッ?! あかと、あおのあにうえが…にんげんに、ころされた、じゃと…? あねうえ、も………ふういん、され……』
「……やっぱり、あなたはこれより前にもう眠らされていたのね」

 緑の竜がツタを引きちぎってでもボロボロの体を無理やり起こそうとして、ふらっと倒れ込む。巻き起こる土煙の中から、黄金の鋭い瞳孔が恨めしそうに私をとらえている。

「白の竜はきっとあなたを人間達の脅威から守る為に眠らせたの。万が一にでも人間に見つからないよう、こんな…強力な魔物や動物で溢れかえっていたらしい、地下大洞窟の最奥で」

 ここに来るまでの道で、呪いに侵されたらしき生き物だった何かを多数見たのだが…その特徴的な模様や身体からかなり強力な魔物なのではと。
 そんな所、今のような非常時でなければ魔物がうじゃうじゃいて人間は無事でいられない。
 だからこそ白の竜は託したのだ……地下大洞窟を嗅ぎつけある程度魔物溢れる道を進む事の出来る強き人間が、緑の竜を助けてあげる事を。
 ……その人間が緑の竜を殺す事になるかもとは考えなかったらしい。恐らく、白の竜も相当切羽詰まった状況だったのだろう。

『…あねうえ、は……われを、まもろうと?』
「ええ、きっと。あなた達を虐げた人間側の言葉なんて信用出来ないだろうけれど…私はそう考えた。白の竜は、お姉ちゃんとしてあなたの事を本当に心配していたんだって」
『…………おまえは、あかと、あおの…あにうえをころした、わるいにんげん…じゃない。われ、りゅうじゃから………みれば、わかるのじゃ』

 緑の竜は私に向けていた憎悪の矛を収め、ふんっと言いながらそっぽを向いた。
 同じ人間だからって恨まれる覚悟ではあったけれど…どうやら私の事はいい人と認識してくれたらしい。
 というか、それよりも早く緑の竜を助けてあげないと。瀕死の状態らしいし。
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