だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
95 / 786
第一章・救国の王女

90.緑の竜

しおりを挟む
 真夜中にラ・フレーシャを飛び出てからもう二日経ち、三日目にさしかかろうとしている。
 現在いる場所は百年樹に最も近い町。馬車で四日程と聞いていたのだけれど…予定よりも早く進めているようだった。
 それもひとえにブレイドのお陰だろう。食事の際に無理をさせてるお詫びにと万能薬を与えた所、たちどころに疲労感が消し飛んだようで……張り切った様子のブレイドに、『まだか、まだいかないのか』と急かされた気さえしたものだ。
 しかもその後、何かめちゃくちゃスピードアップしたブレイドによって私はもう何度目かも分からない地獄のドライブを味わった。
 勿論、頑張ってくれたブレイドには申し訳ないから体調不良は隠し通したとも。万能薬を飲んでね! 持っててよかった万能薬。
 一日目二日目と運良く村や町に着けて、そこでご厚意で泊めて貰えたので寝る場所には特に困る事もなかった。

 そして三日目の朝、私はブレイドに乗って百年樹を目指す。百年樹は広大な森の中にあるとかで、その森自体は町からさほど遠くなくて直ぐに辿り着けた。
 呪いに侵されたからなのかかなり鬱蒼とした森へと入ろうとする……が、その直前でブレイドが急に足を止めた。目元を険しくしていて…何やら様子が変だった。
 しかしそれには心当たりがある。なので私は一度ブレイドから降りて、その頬を撫でながら尋ねた。

「…行きたくないのね?」
「ブルッ……ブブル…」

 きっと賢いブレイドには分かるのだろう。この森が…百年樹が危険な場所だと。

「いいのよ。ここまで私を乗せてくれてありがとう、凄く助かったわ」

 抱き締めるようにブレイドの首に手を回す。…だけどを私は一人でもこの先へと進まなければならない。寧ろ、一人で進まなければならないのだ。

「……それじゃあ私は行ってくるね。ブレイド、あなたは先に今日泊まった町に戻ってて頂戴。後で迎えに行くから」
「ブルッ!? ブルルルッ!!」
「ちょっ…服引っ張らないで…?」

 もし竜の呪いが生物全般に効くものであれば…ここにいてはブレイドも早急に呪いにかかるかもしれない。
 なのでブレイドには先程の街に戻るよう伝えたのだが、それを聞いたブレイドは私を引き止めようとローブの裾を思い切り噛んで引っ張るのだ。
 まるで、私を森に行かせまいとしているかのように。

「…………ごめんね、ブレイド。何があっても、私だけは行かなきゃいけないの。あなたと、あなたのご主人様を守る為に。ありがとう心配してくれて」
「……ブルゥッ…」

 もう一度ブレイドの頬に触れる。するとブレイドは頭を寄せてきて。甘えん坊なんだなぁと思いながら、ここまで乗せてくれてありがとう…そんな気持ちを込め私は沢山撫でた。
 その後、私は残り二本のうち一本の万能薬に髪をまとめていたリボンをくくりつけ、それを更にブレイドの馬具に結んであげた。
 もしもの時は町の人にこれを飲ませて貰ってね、と言いつけるとブレイドは「ブルッ」と返事してくれた。

 そしてついに私は森に足を踏み入れた。森の中は草木が生い茂っていて、歩いていると普通に熊と遭遇した。え、何でこんな森入ってすぐの所に熊が?
 と困惑したものの……熊の動きは師匠より遥かに遅かったので、簡単に制圧出来てしまった。しかし私もまだまだだ…殺さない道とてあったかもしれないのに、勢い余って森の熊さんを一撃で仕留めてしまった。
 師匠であればきっと殺さずとも対処出来たのだろう。やっぱり私はまだまだだ。
 長剣ロングソードについた血を振り落とし、私は熊に向け「どうか安らかに眠れ…」と手を合わせた。
 そしてまた進み始めると、今度は大きな猪と遭遇した。なんか目が赤い。これ絶対ただの猪じゃないでしょ。
 しかし、この猪はただ突進するしか脳が無いようで…ちょっと避けてから、久々の水鉄砲ウォーターガン(いつもより高水圧)で横から頭を穿つとあっさり死んでしまった。
 これまた「安らかに眠れ」と手を合わせ、熊に続き死体を放置して先を行く。
 次に現れたのは狼の群れだった。ちょっとこの森治安悪過ぎない? 本当に百年樹って観光地なの? 観光地までの道めちゃくちゃ邪魔者がいますけど…。
 ここで私は思いつく。狼の群れとは言ったものの、数はおよそ六匹……これは実戦として中々に良いのではと。

「…まぁ、とは言えども急いでるから手間はかけられないのよね」

 そう呟きながら、私は魔法を発動した。上空に青い魔法陣が現れ、そこからポタリポタリと雨が降り始める。それと同時に、狼達は私目掛けて襲いかかる。

「うーん、名前は…そうだなぁ──槍雨やりさめでいっか」

 名前を考えていなかったその雨は、私が名をつけた瞬間に全てが氷へと変わり、氷柱の雨を降らす。高速で降り注ぐ氷柱達は槍のように狼へと容赦なく突き刺さり、当たり所が悪かった場合は死に至らしめた。
 この魔法は私の周りでだけ何も起きていない。発動する場所にもよるが、発動した私本人までもが濡れてしまうのが難点だな、これは。
 調整が面倒だしあまり威力にも期待出来ないなぁこれ。と考えていた所、何やら狼の中に生き残りがいたようで。
 虫の息でありながらも、吼えながら襲いかかってきたのだ。

「どうぞ安らかに」

 その首を綺麗に斬り、私は第三ラウンド狼戦を終えた。
 動物愛護の組織がいたならば確実に非難轟々な動物殺しっぷりである。
 いや、こんなにも治安悪いこの森が悪い。うむ。
 そうして向かってくる動物や魔物らしきものをちぎっては投げちぎっては投げ…私が通った道には、まるで大量虐殺でも起きたのかってぐらい大量の死体が転がっていた。
 なんて治安の悪い森なんだ、まったく! これでは人がびっくりしてしまうじゃない!
 そしてついに百年樹に辿り着く。それは想像していたよりも大きくて立派な樹だった。
 あの悪魔の話だとこの樹の根元から地下大洞窟に行けるらしいんだけど……そんな場所あるかしら。一周ぐるりと回ってみたが、それらしき入口は無い。
 あの悪魔もしかして適当言った? 今度会ったら顔面ぶん殴ってやろうかしら。

「……無いなら作るしかないわね」

 おもむろに剣を抜きながら、私は呟いた。動物の大量虐殺に続き森林破壊か。ハハ、犯罪者にも程があるぜ私。
 心の中で乾いた笑いを浮かべつつ、私は百年樹の根元目掛けて何度も剣を振るった。暫くそれを続けていると、一箇所だけそれらしき場所が現れたのだ。
 地面もついでで抉ってしまい、そこで謎の石が露出したのだ。

「根元って言うか、もうただの地面じゃないの」

 とぶつくさ文句を言いながらスコップ型の氷を生み出し、地面を掘り返す。誰も見ていないから平気で水を氷に変えてるけれど………それにしてもめちゃくちゃ手がかじかむわ。
 氷のスコップで掘り続ける事五分、明らかに怪しい石版が現れた。それは何かの蓋をするかのように一回り大きい石の壁の中にはめ込まれているようだった。
 これは明らかに何かの入口だ。しかしこんなにも重そうなもの、どう開けたものか…と考えた末に私は答えを出した。
 ──よし、ぶっ壊そう。
 雨垂れ石を穿つって言うしね、根気よくやってればいつか壊せるわ。愛剣を一度鞘に収め、そして鞘で思い切り殴りつける。
 するとどうだろう、石版にはヒビが入り…クッキーのようにボロボロに崩れていってしまった。
 何度か殴っていれば壊れるだろうとタカをくくっていたのだが、まさかまさかの一発で壊れてしまったのだ。
 えっ…こんなチョロくていいの…?
 と戸惑いつつもそこに生まれた穴を覗く。よく見えないが、音の響き的にはそこまで深い穴ではないようだ。
 耳を澄まして中の様子を聞いてみたものの、特に生物はいないようなので…意を決してその縦穴に飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...