だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

89.巻き起こる波乱2

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「……どうすんだよ、これ。俺達はどうすりゃいいんだよ…」

 ディオリストラスが髪をぐしゃりと握り、悔しげにこぼす。
 シャルルギルもイリオーデも黙ったままそれには答えない。それ故に静寂に包まれた部屋に、ようやく動きがあった。

「とりあえず、マクベスタとリードと…後ここの王にもこの事を言いに行こう。ただいなくなるのと書き置きを残していいなくなるのとなら、後者の方がずっとマシだろうから」

 シュヴァルツがおもむろに立ち上がり、扉の方に向かう。しかし酷く動揺している三人はその場から動かない。
 はぁ…と大きくため息をつきながらシュヴァルツは振り返る。駄目な大人達をキッと睨み、少年は言い放った。

「いつまでうじうじしてんだ大人共! おねぇちゃんのお願いを無視して探しに行く訳でもなく、おねぇちゃんのお願いに従って治療活動する訳でもない! そんな体たらくでアミレス・ヘル・フォーロイトの私兵を名乗るつもりか? 全くもって烏滸がましい!!」

 ピクリ、と三人が少し反応する。それを見逃さなかったシュヴァルツは更に畳み掛けた。

「おねぇちゃんが命懸けで頑張ってるんだよ? それなのに自分達は何もしないとか…ぼくだったら絶対に嫌だね。そんなの自分が情けなくて恥ずかしくて死にたくなる!」

 件のアミレスと同じか更に歳下のように見える少年の喝は、これでもかと言う程に大人達の心に刺さった。
 ゆらゆらと立ち上がりながら、大人達は覚悟を決めた。

「…ああそうだな。自分が情けねぇよ……俺はあの時あのガキを信じるって決めたんだ。それは今も変わんねぇよ」
「王女様が帰って来た時にがっかりされないよう、俺も沢山の人を治さないとな」
「………王女殿下の命令に逆らう訳にはいかない。私は、王女殿下の命を確実に遂行するのみだ」

 やっとか、と肩をすくめたシュヴァルツは気持ちを切り替えてマクベスタとリードの元へ向かった。
 幸いにも身支度を整え終えているマクベスタとリードが共にいたので、説明も一度で済んだ。
 ただその際、マクベスタとリードがまるで絶望したかのような面持ちになった。まぁ、一国の王女が一人で未知の病をどうにかするなどと言って姿を消したのだから当然である。
 彼等にも色々とシュヴァルツからの喝が飛んでいたのだが…この時、誰も予想出来なかった事態に陥った。

《──あー。テステス、聞こえてますかー?》

 突然の事であった。城内に若い少年の声が響き渡った。
 その謎の声に城内は騒然となる。誰もが理解の追いつかない事態に狼狽していると。

《ふっ…まぁ聞こえてるだろ、多分。俺の計算は完璧だったしな。さてそれでは本題に移らせていただこうか》

 謎の声は勝手に話を進めたのだ。しかしその時、更なる謎の声が増えて、

《あの……先に名乗った方がいいのでは?》
《確かに! お前天才か…?》
《貴方にだけは言われたくないですね》

 謎の声達による会話が繰り広げられたのだ。それには城内も完全に大混乱パニック状態。侍女達なんて恐ろしさのあまり泣き出す者もいたぐらいだ。

《ごほん、では気を取り直して──俺はカイル・ディ・ハミル。今現在ハミルディーヒの城で軟禁されてる第四王子でーす》

 ──は? と…奇しくもこの時、城内にいた者達の心の声は一致した。
 ハミルディーヒ王国とはフォーロイト帝国を挟み離れたこの国に、その城に軟禁されている者がどうやって……と冷静な者が考えた所で、丁度その説明があった。

《詳しくは企業秘密なんで話せないけど、自作の魔導具でちょちょーいと声届けてまーす。あ、ちなみに今から色々物資も届くから確認よろしく! 着払いじゃないから気にせず受け取ってくれよな!》

 と、謎の声──もとい自称カイルの声がそう言い放った瞬間。突如、王城が謁見の間に大量の木箱が出現した。
 それに気づいた城の者達が困惑していると、

《箱の中身は食料に衣服に応急手当用の道具やら。本当はもっと感染病に効く物を用意出来たら良かったんだが、いかんせん俺は立場も低い貧乏第四王子なもので………つぅか大丈夫? 誰か箱の転送に巻き込まれてたりしない? パッと見人がいない所狙ったけどぶっつけ本番だし心配だわ……もし誰か巻き込まれてたら俺宛に手紙だして、慰謝料払うから》

 自称カイルの言葉に、城の者達は恐る恐る木箱を開けた。その中身は空から降ってきている声が言っていた通りで、特段怪しい物など入ってなかった。
 しかし何故ハミルディーヒ王国の第四王子がそのような事を、そもそもどうやって……と誰もが疑問符を幾つも抱える中、もう一つの声が《巡回の兵が来ますよ!》と言った為か件の自称カイルは巻き気味で喋り始めた。

《ええと、まだ色々話したい事があるんだが…その、なんだ。頑張れ! 病なんかに負けるな! 現地に行って色々やれたらいいのに俺こんなんだし……ああえっと、とにかく応援してるから!! 絶対、こんな所で滅びないでくれ──》

 ブツッ。と自称カイルの声が途切れる。誰もが天を仰ぎ、開いた口が塞がらないまま呆然としていた。
 その瞬間、城内にいた者は誰も気づけなかったものの…実は城の上空に現れていた半透明の魔法陣がスゥッと消えていった。
 そんな中、マクベスタは魔法に明るいシュヴァルツとリードに問いかけた。

「………今の、一体何だったんだ…?」
「…ぼくも知らないかなぁ」
「右に同じく……」

 しかしめぼしい答えは帰ってこなかった。それもそう、これは自称カイルの言う通り魔導具によるものなのだから。魔法とはまた違うものなのだ。
 アミレスが姿を消し、遠くの国より謎の声と謎の物資が届いた……朝早くより立て続けに起きた異常事態に、オセロマイト王国が王城は波乱に満ちるのであった…。


♢♢


「っあぶねぇ~! 自慢のサベイランスちゃんが見つかる所だった……」
「ええ本当に…慌てて布を被せて騙せる馬鹿な巡回兵で良かった」

 軟禁されている部屋にて、カイルはドキドキと鼓動する心臓を押えながらしゃがみ込んでいた。
 そんなカイルの背中を優しく擦るコーラル。彼はカイルの世話の為に共に軟禁されているのである。
 そう、カイルは確かに軟禁されていた。その理由は──王位継承権の放棄。

 カイルが第四王子でありながら早々に後継者争いから離脱した事……そしてカイルが第一王子と同じ正妃を母に持つと言う理由から、継承順位二位にあった事が主な原因である。
 第一王子とカイルが正妃の息子であり、第二王子と第三王子が側妃の息子であった。もう一人側妃には娘がおり末の第一王女もいるのだが…それは今は省く。
 王太子であった第一王子が昏睡状態に陥った事で発生したこの棚からぼたもち状態。
 カイルは兄が昏睡状態に陥った為、継承順位が一位に繰り上がってしまったのだ。その事が原因で腹違いの兄達に日々喧嘩を売られていた。
 しかしカイルは王位になんて興味は無かった。だからこそいち早く継承権を放棄したのだが………何を企んでいるのかと何故か国王やら兄王子達に疑われ、こうして軟禁されている。
 それによりカイルは行動を制限されていた。ならば、そんなカイルがオセロマイト王国にどうやって声を届け物資を送ったのか…。
 それはカイルが自作した魔導具によるものだった。

「実際に使用しているのを見るのは初めてですが、流石はカイル様の作られた物…性能が凄まじいですね。サベイランスちゃん……ええと、星間……たんさ…たんさく…?」

 コーラルが顎に手を当てて、魔導具の名前を思い出そうとする。しかし思い出せず何度も同じ言葉を繰り返すのみであった。
 そんなコーラルを見兼ねて、カイルは高らかにその名を告げた。

「星間探索型魔導監視装置──ニックネームがサベイランスちゃんだ! ちゃんと覚えてくれよな!!」
「いや無理ですね…長いし難し……いやどこ見て言ってんですか?」

 突然虚空に向けてキメ顔を作るカイルとそれに冷静にツッコミを入れるコーラル。
 冷たい対応をされてしまったカイルはしょんぼりとしながらサベイランスちゃんにかけられた布を取った。
 そこに現れたのは、フワフワと浮かぶ大きな薄い箱。その表面──一面のみが魔水晶となっており、そこには様々なものが映し出される。
 世界地図、プログラムコードのようにとめどなく流れ続ける様々な魔法の構成術式、【転送】【音声】【座標】【起動】【停止】といった文字……その種類は様々であった。
 そしてカイルはその表面、【停止】の部分に軽く指先で触れ、サベイランスちゃんを停止させた。
 その瞬間、サベイランスちゃんは暗転する。カイルは愛おしそうにそれを見つめ撫でていた。

「サベイランスちゃんの動作確認はバッチリ。ぶっつけ本番で不安だったけど、これからもこれで外とコンタクトは取れると…ただなぁ、音声が一方通行なのがなぁ…まだ改善の余地が……」
(本当に昔からカイル様はこうだ。好きな事にのめり込んではとんでもない物をお作りになられる)

 ぶつぶつと呟くカイルを暖かい目で見守るコーラル。
 そう…カイルは幼少期より、魔導具作りに強くのめり込んでいた。
 乙女ゲームのキービジュアルでセンターを務めるような攻略対象であり、ヒロインであるミシェルと最も運命的な結末を迎える男。
 更にスパダリ枠のチートオブチートと呼ばれるに相応しい魔力と才能に恵まれたカイルは……魔導学に強く魔導兵器アーティファクト作りにおいては一目置かれるハミルディーヒ王国が第四王子、と言う確かな土壌で育まれた。
 加えて七歳の時にカイルを変える契機が訪れ、それはもう魔導具作り──特に魔導兵器アーティファクトの開発に没頭するようになったのだ。
 そんなカイルの誇る最高傑作が、魔導兵器アーティファクトとしての一面もあるこの星間探索型魔導監視装置もといサベイランスちゃんなのだ。
 今現在カイルの中にある全ての知識と技術を用いた広域兵器であり………最大捕捉距離はこの大陸半分程と異常に広く、最高火力はどんな建物や結界であろうとも関係無しに消滅させられる程。
 更には座標指定を行う事により特定の場所への様々なものの転送も可能とする。
 …このようにただ大きいだけの薄い箱が、それ程の危険性を孕むなど誰も考えもしない。それを理解しているカイルは敢えてこの見た目にした。そう、敢えてである。
 決して、何かを意識したとかそう言う訳ではない。

「……とにかく。カイル様が天才であると陛下や兄殿下達に知られてはならないのですから、言動にはお気をつけて下さいよ」
「わかってるってー」

 コーラルが腕を組みながら発した小言を、カイルは新たな魔導具の設計図を描きながら聞き流した。
 ゲームにおけるカイル・ディ・ハミルはその圧倒的な実力を意固地になった兄王子達に認められずにいたが……どう言う訳かこのカイルは自ら実力の全てを隠していた。認められようともしなかった。
 カイルは信頼のおけるコーラルと言う存在以外の誰にも………生みの親にさえも、幼い頃よりただの一度も己の実力を見せなかった。まるで、見せた所で意味が無いと悟っていたかのように。
 なのでカイルは顔と血筋以外秀でた所の無い不良物件と揶揄されている。なお、貧乏第四王子である理由は与えられた予算おこづかいの大半を魔導具開発に回しているからである。
 そんな貧乏王子が突然、危機に瀕するオセロマイト王国へ支援を行った理由はただ一つ──から。

「あっ、そうだコーラル。オセロマイトの感染病の原因、分かったか?」

 カイルがくるりと振り向くと、コーラルはその期待に満ちた瞳を見て残念そうに首を横に振った。それにガッカリしたカイルはため息を吐きつつ項垂れる。

「くっそぉ……なんで原因何にも書いてなかったんだろうなぁ~! 滅びたのならせめてその原因とかも考えとかん? ほんとそういうトコ変に雑だよな公式さんは~~!!」

 カイルが奇声を上げ始めると、コーラルは(またか………)と慣れた反応で紅茶を入れ始めた。そしてそれをカイルに出す訳でもなく、自分で飲んだ。

(この発作が無ければ本当に完璧なのに…相変わらず発作の間はうるさいですね……)
「ちくしょうせめて原因が分かってりゃ! まー分かってた所で選択肢ミスった俺にはなぁんにも出来ないんですけどね!!」

 カイルが頭を抱えながら持病の発作を起こし絶叫を上げる中、横で優雅に紅茶を嗜むコーラル。
 もう、ここまで来ればわざわざ言うまでもない事だが……このカイル・ディ・ハミルと言う十四歳の少年は、何を隠そう──

「も~~~! 何のためのゲーム知識なんだよぉおおっ、何で俺は軟禁されてんだぁあああああ!」

 ──前世の記憶を持つ、元アンディザプレイヤーの転生者なのである。

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