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第一章・救国の王女
80.ある男達の談話
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夜。殿下が眠ったのを確認し、焚き火を囲みながら俺達は話し込んでいた。参加しているのは今日はもう寝ると言って眠ったシュヴァルツを除いた、俺とシャルルギルとイリオーデとリードとマクベスタの五人だった。
内容は勿論殿下の事。何もかもが規格外で異常な我らがお姫様の話をしていた。
「………ずっと聞くタイミングを窺っていたのだが、王女様のあれは普通なのか?」
最初に口を切ったのはシャルルギルだった。
それは殿下の魔法技術について…。学のない俺達でさえも異常なのだとハッキリ分かる程に、あまりにも優れた才能と確かな力を持つ彼女についての事。
殿下が出してくれた綺麗な水の入った皮袋を片手に、魔法に詳しいリードに向けておもむろにそう尋ねたのだ。
それにリードは瞳を伏せて当然のように首を横に振った。
「世界中の魔導師の実力があの水準だったなら…魔法はもっと発展している。分かりきった事だがあえて断言しよう、王女殿下の魔法に関する実力は──異常だ。天才の一言で済ませられる域を超えようとしている」
今までに無いくらいハッキリとした物言いで語るリードの言葉に、俺達はやはりそうかと納得せざるを得なかった。
やけに剣を持つのに慣れている事は今は一旦置いておくとして………魔法の腕だけでも間違い無くおかしい、異常、それはよく分かる。
水の魔力を持つ人間が水を出せるのは当たり前だ。
だが…それはただの普通の水であり、不純物一つ無い純水や冷水に温水、はたまた霧まで……こんなにも幅広いものを出せるなど聞いた事が無い。
「…この結界、一国の城に張られていてもおかしくない強度だ。彼女は一晩ぐらいならと言っていたけれど、その気になれば半年でも一年でも余裕で維持出来るだろう。それだけ、一切の無駄が無く計算され尽くした結界だよこれは……」
ふと、リードは「はは」と乾いた笑いを浮かべながら横に目を向けた。
その先には薄い水の膜のようなものがある。それこそが殿下があっさりと作り上げた水の結界であり、俺達に殿下の異常性をとくと知らしめる事となった切っ掛けである。
リードがあんな風に笑う理由にも、何となくだが予想がつく。
リードもまた結界魔法が扱える(本人は苦手と言っていたが)稀有な存在だからこそ、殿下が発動した結界魔法の恐ろしさが良く分かるのだろう。
何も分からないし何も知らない俺達ですらその結界魔法に言葉を失い、呆然と殿下を見ている事しか出来なかったのだから。
「それにね、恐ろしい事に……この結界魔法…深水四方結界と言っていたかな? これは彼女のオリジナルみたいなんだよね。結界魔法のなんたるかを理解した上で水の魔力で発動する為に最適化したんだろう。ははは、全く意味不明だ!」
まるで自棄になったかのように豪快に笑いながらリードは天を仰いだ。
それを聞いて俺達は顔を見合わせる。シャルルギルとイリオーデと……次々にお互いの目を見てはその驚愕や動揺を声に出さず、嘘だろ? と目と目で会話していた。
しかし最後に三人同時にマクベスタの方を向くと、アイツは目を逸らしながら小さく頷いた。
それすなわち、リードの言葉は本当という事。この中で一番殿下との付き合いが長いマクベスタが言うのだから違いない。
「オレの口から詳しく語る事は出来ないのだが…アミレスは師が特殊な上に、本人が努力を決して怠らぬ性格だ。勉学にも明るいし何事にも挑む強い心を持つ。オレ自身この一年強で彼女の姿勢から何度も学びを得た。彼女の存在に何度も刺激を受けた。そんなアミレスだからこそ、だれも成し得なかった事を実現させてしまうのだとオレは考えている」
マクベスタは内に抱く殿下への心象を語った。それには俺も同意したい所なのだが……何だ、こう言っては失礼な気がするが、めちゃくちゃマウント取られた気がするんだが。
オレはこれだけ殿下の事知ってんだぜ! って暗に言われてる気がしてならねぇ…マクベスタに限ってそんな訳ないんだが、俺の性根が歪んでるからか変な捉え方しか出来ん。
これがアレか、前にメアリードが読んでた本に出てきた『幼馴染みマウント』ってヤツか。確かに妙に腹立つな。
と身勝手な苛立ちを抱えていた時、イリオーデがマクベスタの言葉に少々疑問を抱いたようで。
考え込むように俯いてイリオーデは呟いた。
「王女殿下の師とは一体どのような人物なのだろうか」
「………オレ達の常識が通じない相手とだけ。アミレスの事だ、恐らく落ち着いて話せる時が来れば皆にも話すと思う。アミレスは相当皆の事を信頼しているようだからな」
シュヴァルツの時もそうだった、とマクベスタは付け加えた。……どうやらあのガキは知ってるらしい。
その返事を受け、イリオーデは満足そうに「そうか」と小さく笑った。
伝聞ではあるものの、どうやらイリオーデは王女殿下に信頼されているという事実がたいそう喜ばしいようだ。
あのイリオーデがこんなにも活き活きとしている姿が見られて俺としても嬉しい限りだが。
本当に…イリオーデがずっと探し求めていた生きる意味がちゃんと見つかって良かった。
もし見つかっていなかったら、アイツはどうなっていたのか……それを考えるだけで謎の不安と恐怖が襲いかかってくる。
見つかる云々だとサラもだ。アイツも今どこで何してるのか分からんが…またいつか会えるといいな。一応サラの情報も集めてはいるのだが、成果はまるで無い。
いつかまた会えると願う事しか出来ないのが歯がゆい。
「…そう言えば…師匠は無事に役目を果たせたのか……」
今度はマクベスタが小さく呟いた。それにはシャルルギルが反応して。
「王子様にも師匠がいるのか、流石は王族だ」
そりゃああの剣の腕で師匠がいないのはおかしいだろ、と俺は心の中で一言残した。
俺達ですらイリオーデっつぅ師匠代わりがいたんだから隣国の王子にいない訳ないだろと思いつつ、呆れたようにシャルルギルを見つめる。
この時、シャルルギルの天然はやはり手強いな、と再確認した。
「祖国にいた頃は騎士団長にたまに見てもらっていたぐらいだったが…帝国に来てからはアミレスの剣の師匠に師事している。つまりオレからすればアミレスは兄弟子……姉弟子? のようなものなんだ。そしてその剣の師匠が今アミレスの命で少しな」
「王女殿下と同じ師……」
「剣の師匠…魔法の師匠が別にいるって事かぁ……」
殿下の話をするマクベスタは柔らかく笑った。殿下といいマクベスタといいその王女や王子という立場が似合わない程、幼く無邪気な笑い方をするな…と俺は考えた。
こう言う場でしか殿下達はそんな風に笑えないのかと思うと、王侯貴族なんて立場もあまりいい事ばかりでは無いのかと思ってしまった。
そんなマクベスタの姉弟子発言にイリオーデが嫉妬したような瞳となり、リードが遠い目となった。
そんな二人の様子を見てマクベスタが少し迷うように「うーむ……」と唸る。
「……そうだな…恐らく、全員アミレスの魔法の師匠とは会った事があると思う」
とマクベスタが言うと、
「何っ?」
イリオーデがバッと顔を上げ、
「なんだと」
シャルルギルが驚いたように目を見張り、
「いやいやまさかそんな…」
リードが胸の前でナイナイと手を横に振って、
「いつだよ…」
俺は記憶を手繰り寄せながら呟いた。
三者三様の反応を見せた俺達に向け、マクベスタはいたずらっ子のような笑みを浮かべて。
「答え合わせはまたその内に。きっと驚くだろうな」
そう言ってマクベスタは水を一口飲んだ。
その時には既に、俺達はアミレスの師匠らしき人物を記憶の中から探し出そうとしていた。
リードがまず最初に「……うん、誰も思い当たらないね…」と断念し、その後は俺達三人だけで記憶をあたっていた。
記憶を当たり初めてすぐに三人一斉に、
「あの侍女の女……」
「侍女しか思い当たらないな」
「…彼女なら、可能性はある」
同じ人物を挙げた。
するとリードが「え、侍女って何…? 誰…?」 と困惑し、マクベスタが「アミレスの唯一の専属侍女の事だ」と説明していた。
そうか、リードは知らないのな………じゃあ彼女ではないのでは? マクベスタはさっき確かに俺達全員が会った事があると言っていたし。
と思った瞬間、それを見抜いたかのようにマクベスタは口を開いた。
「まぁハイラさんではないんだが」
マクベスタがサラリと言うと、
「違うのか!?」
「は?」
「他に思い当たる節が無い…」
俺達はそうやって頭を抱えた。もう駄目だと倒れ込み天を仰いだり、額に手を当てて俯いた。
確かにあの侍女なら佇まいからしてただ者ではないし、納得出来たというのに彼女ではないと言うのだから。
これは悩む俺達を見て愉悦する為のマクベスタの方便なのかと思ったが、アイツの真面目な性格からしてそれは無いだろうと判断した。
だからこそ延々と頭を悩ませる事となったのだ…。
そしてしばらく悩んだ俺達だったが、あまりにも候補が少ない事もあって即座に頓挫してしまった。
俺達も会った事があると言われたからかつい躍起になって考えてしまったが、いつか殿下本人から話してもらえるのなら別に考える必要など無いのだ。
マクベスタめ、策士な奴。と暫くジトーっと睨んでみた所、マクベスタは目が合ったと思えば小首を傾げた。
どうやら違うらしい。
「………彼女がよく分からないなぁ…」
リードがボソリと呟いた。その声は近くに座っていた俺にだけ聞こえたようで、マクベスタとイリオーデとシャルルギルには聞こえなかったようだ。
パチパチと焚き火が弾ける音や草木が風に撫でられる音に混じり消えていった呟きに、俺はただ同意していた。
ほんとそれな、と何度も頷いた。
会ってまだ数日の俺達が殿下の事を分かる筈もないが、だとしても殿下の事は本当によく分からない。
ただこれだけは思った。例えどんな事があろうとも…例え殿下がどんな人だったとしても、俺達で殿下を守ろうと。
馬鹿でも分かるよ、殿下の才能が世間で忌避される可能性すらある事は。
あまりにも優れ過ぎた存在は嫉妬や憎悪の対象になりやすい…殿下は俺達みたいなのの為に必要悪でい続けるなんて言っちまうような人だ。
もし妬み嫉みの対象になると分かれば平気な顔して受け入れてしまうだろう。それは駄目だ。よくない。
王女だとか関係ない。ガキがそんなものに慣れちゃいけない、少なくとも俺はそう考えるから。
だからこそきっと全ての矢面に立とうとする彼女を、俺達大人が守らないと。
本来殿下を守る筈だった大人達が何もしない分、俺達がやらねば。それだけがきっと……殿下に選んで貰えた俺達に出来る事だからな。
決意新たに俺は眠りについた。
…そう言えばさっきまで殿下が妙に不機嫌だったが、朝になったら機嫌が良くなってるといいな。そんなささやかな願いを共に、夢の中へと………。
内容は勿論殿下の事。何もかもが規格外で異常な我らがお姫様の話をしていた。
「………ずっと聞くタイミングを窺っていたのだが、王女様のあれは普通なのか?」
最初に口を切ったのはシャルルギルだった。
それは殿下の魔法技術について…。学のない俺達でさえも異常なのだとハッキリ分かる程に、あまりにも優れた才能と確かな力を持つ彼女についての事。
殿下が出してくれた綺麗な水の入った皮袋を片手に、魔法に詳しいリードに向けておもむろにそう尋ねたのだ。
それにリードは瞳を伏せて当然のように首を横に振った。
「世界中の魔導師の実力があの水準だったなら…魔法はもっと発展している。分かりきった事だがあえて断言しよう、王女殿下の魔法に関する実力は──異常だ。天才の一言で済ませられる域を超えようとしている」
今までに無いくらいハッキリとした物言いで語るリードの言葉に、俺達はやはりそうかと納得せざるを得なかった。
やけに剣を持つのに慣れている事は今は一旦置いておくとして………魔法の腕だけでも間違い無くおかしい、異常、それはよく分かる。
水の魔力を持つ人間が水を出せるのは当たり前だ。
だが…それはただの普通の水であり、不純物一つ無い純水や冷水に温水、はたまた霧まで……こんなにも幅広いものを出せるなど聞いた事が無い。
「…この結界、一国の城に張られていてもおかしくない強度だ。彼女は一晩ぐらいならと言っていたけれど、その気になれば半年でも一年でも余裕で維持出来るだろう。それだけ、一切の無駄が無く計算され尽くした結界だよこれは……」
ふと、リードは「はは」と乾いた笑いを浮かべながら横に目を向けた。
その先には薄い水の膜のようなものがある。それこそが殿下があっさりと作り上げた水の結界であり、俺達に殿下の異常性をとくと知らしめる事となった切っ掛けである。
リードがあんな風に笑う理由にも、何となくだが予想がつく。
リードもまた結界魔法が扱える(本人は苦手と言っていたが)稀有な存在だからこそ、殿下が発動した結界魔法の恐ろしさが良く分かるのだろう。
何も分からないし何も知らない俺達ですらその結界魔法に言葉を失い、呆然と殿下を見ている事しか出来なかったのだから。
「それにね、恐ろしい事に……この結界魔法…深水四方結界と言っていたかな? これは彼女のオリジナルみたいなんだよね。結界魔法のなんたるかを理解した上で水の魔力で発動する為に最適化したんだろう。ははは、全く意味不明だ!」
まるで自棄になったかのように豪快に笑いながらリードは天を仰いだ。
それを聞いて俺達は顔を見合わせる。シャルルギルとイリオーデと……次々にお互いの目を見てはその驚愕や動揺を声に出さず、嘘だろ? と目と目で会話していた。
しかし最後に三人同時にマクベスタの方を向くと、アイツは目を逸らしながら小さく頷いた。
それすなわち、リードの言葉は本当という事。この中で一番殿下との付き合いが長いマクベスタが言うのだから違いない。
「オレの口から詳しく語る事は出来ないのだが…アミレスは師が特殊な上に、本人が努力を決して怠らぬ性格だ。勉学にも明るいし何事にも挑む強い心を持つ。オレ自身この一年強で彼女の姿勢から何度も学びを得た。彼女の存在に何度も刺激を受けた。そんなアミレスだからこそ、だれも成し得なかった事を実現させてしまうのだとオレは考えている」
マクベスタは内に抱く殿下への心象を語った。それには俺も同意したい所なのだが……何だ、こう言っては失礼な気がするが、めちゃくちゃマウント取られた気がするんだが。
オレはこれだけ殿下の事知ってんだぜ! って暗に言われてる気がしてならねぇ…マクベスタに限ってそんな訳ないんだが、俺の性根が歪んでるからか変な捉え方しか出来ん。
これがアレか、前にメアリードが読んでた本に出てきた『幼馴染みマウント』ってヤツか。確かに妙に腹立つな。
と身勝手な苛立ちを抱えていた時、イリオーデがマクベスタの言葉に少々疑問を抱いたようで。
考え込むように俯いてイリオーデは呟いた。
「王女殿下の師とは一体どのような人物なのだろうか」
「………オレ達の常識が通じない相手とだけ。アミレスの事だ、恐らく落ち着いて話せる時が来れば皆にも話すと思う。アミレスは相当皆の事を信頼しているようだからな」
シュヴァルツの時もそうだった、とマクベスタは付け加えた。……どうやらあのガキは知ってるらしい。
その返事を受け、イリオーデは満足そうに「そうか」と小さく笑った。
伝聞ではあるものの、どうやらイリオーデは王女殿下に信頼されているという事実がたいそう喜ばしいようだ。
あのイリオーデがこんなにも活き活きとしている姿が見られて俺としても嬉しい限りだが。
本当に…イリオーデがずっと探し求めていた生きる意味がちゃんと見つかって良かった。
もし見つかっていなかったら、アイツはどうなっていたのか……それを考えるだけで謎の不安と恐怖が襲いかかってくる。
見つかる云々だとサラもだ。アイツも今どこで何してるのか分からんが…またいつか会えるといいな。一応サラの情報も集めてはいるのだが、成果はまるで無い。
いつかまた会えると願う事しか出来ないのが歯がゆい。
「…そう言えば…師匠は無事に役目を果たせたのか……」
今度はマクベスタが小さく呟いた。それにはシャルルギルが反応して。
「王子様にも師匠がいるのか、流石は王族だ」
そりゃああの剣の腕で師匠がいないのはおかしいだろ、と俺は心の中で一言残した。
俺達ですらイリオーデっつぅ師匠代わりがいたんだから隣国の王子にいない訳ないだろと思いつつ、呆れたようにシャルルギルを見つめる。
この時、シャルルギルの天然はやはり手強いな、と再確認した。
「祖国にいた頃は騎士団長にたまに見てもらっていたぐらいだったが…帝国に来てからはアミレスの剣の師匠に師事している。つまりオレからすればアミレスは兄弟子……姉弟子? のようなものなんだ。そしてその剣の師匠が今アミレスの命で少しな」
「王女殿下と同じ師……」
「剣の師匠…魔法の師匠が別にいるって事かぁ……」
殿下の話をするマクベスタは柔らかく笑った。殿下といいマクベスタといいその王女や王子という立場が似合わない程、幼く無邪気な笑い方をするな…と俺は考えた。
こう言う場でしか殿下達はそんな風に笑えないのかと思うと、王侯貴族なんて立場もあまりいい事ばかりでは無いのかと思ってしまった。
そんなマクベスタの姉弟子発言にイリオーデが嫉妬したような瞳となり、リードが遠い目となった。
そんな二人の様子を見てマクベスタが少し迷うように「うーむ……」と唸る。
「……そうだな…恐らく、全員アミレスの魔法の師匠とは会った事があると思う」
とマクベスタが言うと、
「何っ?」
イリオーデがバッと顔を上げ、
「なんだと」
シャルルギルが驚いたように目を見張り、
「いやいやまさかそんな…」
リードが胸の前でナイナイと手を横に振って、
「いつだよ…」
俺は記憶を手繰り寄せながら呟いた。
三者三様の反応を見せた俺達に向け、マクベスタはいたずらっ子のような笑みを浮かべて。
「答え合わせはまたその内に。きっと驚くだろうな」
そう言ってマクベスタは水を一口飲んだ。
その時には既に、俺達はアミレスの師匠らしき人物を記憶の中から探し出そうとしていた。
リードがまず最初に「……うん、誰も思い当たらないね…」と断念し、その後は俺達三人だけで記憶をあたっていた。
記憶を当たり初めてすぐに三人一斉に、
「あの侍女の女……」
「侍女しか思い当たらないな」
「…彼女なら、可能性はある」
同じ人物を挙げた。
するとリードが「え、侍女って何…? 誰…?」 と困惑し、マクベスタが「アミレスの唯一の専属侍女の事だ」と説明していた。
そうか、リードは知らないのな………じゃあ彼女ではないのでは? マクベスタはさっき確かに俺達全員が会った事があると言っていたし。
と思った瞬間、それを見抜いたかのようにマクベスタは口を開いた。
「まぁハイラさんではないんだが」
マクベスタがサラリと言うと、
「違うのか!?」
「は?」
「他に思い当たる節が無い…」
俺達はそうやって頭を抱えた。もう駄目だと倒れ込み天を仰いだり、額に手を当てて俯いた。
確かにあの侍女なら佇まいからしてただ者ではないし、納得出来たというのに彼女ではないと言うのだから。
これは悩む俺達を見て愉悦する為のマクベスタの方便なのかと思ったが、アイツの真面目な性格からしてそれは無いだろうと判断した。
だからこそ延々と頭を悩ませる事となったのだ…。
そしてしばらく悩んだ俺達だったが、あまりにも候補が少ない事もあって即座に頓挫してしまった。
俺達も会った事があると言われたからかつい躍起になって考えてしまったが、いつか殿下本人から話してもらえるのなら別に考える必要など無いのだ。
マクベスタめ、策士な奴。と暫くジトーっと睨んでみた所、マクベスタは目が合ったと思えば小首を傾げた。
どうやら違うらしい。
「………彼女がよく分からないなぁ…」
リードがボソリと呟いた。その声は近くに座っていた俺にだけ聞こえたようで、マクベスタとイリオーデとシャルルギルには聞こえなかったようだ。
パチパチと焚き火が弾ける音や草木が風に撫でられる音に混じり消えていった呟きに、俺はただ同意していた。
ほんとそれな、と何度も頷いた。
会ってまだ数日の俺達が殿下の事を分かる筈もないが、だとしても殿下の事は本当によく分からない。
ただこれだけは思った。例えどんな事があろうとも…例え殿下がどんな人だったとしても、俺達で殿下を守ろうと。
馬鹿でも分かるよ、殿下の才能が世間で忌避される可能性すらある事は。
あまりにも優れ過ぎた存在は嫉妬や憎悪の対象になりやすい…殿下は俺達みたいなのの為に必要悪でい続けるなんて言っちまうような人だ。
もし妬み嫉みの対象になると分かれば平気な顔して受け入れてしまうだろう。それは駄目だ。よくない。
王女だとか関係ない。ガキがそんなものに慣れちゃいけない、少なくとも俺はそう考えるから。
だからこそきっと全ての矢面に立とうとする彼女を、俺達大人が守らないと。
本来殿下を守る筈だった大人達が何もしない分、俺達がやらねば。それだけがきっと……殿下に選んで貰えた俺達に出来る事だからな。
決意新たに俺は眠りについた。
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