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第一章・救国の王女
65.一通の報せ5
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「アミレス、手を」
荷台の幌の幕を掻き分け先に降りたマクベスタがそう言って手を差し出して来た。私はその手を取り、ゆっくりと荷台から降りる。
私が外に出た瞬間周りの人達のどよめきが聞こえて来た。好奇と畏怖の視線が、突き刺さるように注がれる。
この前来た時は魔法で髪の色を変えてもらっていたもの…やっぱり、この髪だとこう言う反応になってしまうのね。
「…本当に嫌われてるんだな、この色って」
波打つ髪を一束掴み、銀色のそれに視線を落とす。
アミレスに最も似合う色だから私は全然好きなのだけど、この世界ではそうでは無いみたいね。
するとどうやら私の発言が引っかかったらしいシュヴァルツが、荷台から軽快に飛び降りて背中に抱き着いて来た。
「ぼくは好きだよぉ、おねぇちゃんのキラキラな銀色の髪!」
より強くうねりを見せる我が後ろ髪に顔をうずめながらシュヴァルツは言った。
それに続くようにマクベスタが、
「オレも同意だ。とても……その、き、綺麗な色…だと思う」
途中から恥ずかしそうに耳を赤くしながら慰めてくれた。別にそこまで気にしてないんだけど…二人の優しさには素直に甘えちゃおう。
私はそれにありがとうと返し、意気揚々とシャルの元へと向かおうと振り向いたその瞬間。
「っ?!?!」
そこにはこんな道のど真ん中で片膝を着く男がいた。
何やらシュヴァルツもマクベスタも気づいていなかったらしく、私の声にならない驚愕で彼の存在に気づいたようだった。
マクベスタは瞬時に愛剣の柄に手を掛け、シュヴァルツは私の背中に隠れたままジトーっとした目で彼を睨んでいた。
男は微動だにせず片膝を着いている。当然のように、私に跪いているのだ。
そして私はこの男を知っている。何故このような行動に出るのかは知らないが、少なくともこの人の名前は知っている。
「………そんな所で一体何をしているの? イリオーデ」
私の問いかけに青い髪が少し揺れる。彼は更に深く頭を垂れてから答えた。
「私は王女殿下の騎士ですので」
「答えになってないわ…それよりも早く立って頂戴? いち早く顔を上げて立ってくれないと、ただでさえ底辺の私の評判が更に落ちるわ…」
無辜の民に長時間跪く事を強要した……とか言われてね。
私の要望は直ぐに聞き入れられた。イリオーデはハッとしたようにその美しい顔を上げ、慌てて立ち上がった。
…改めて見ても本当に綺麗な顔ね。乙女ゲームの世界ともなると、当たり前のように顔面偏差値がインフレしてしまうみたい。
私の周りの人達全員顔が良いわ。
「あぁそうだ。シャルが今何処にいるか知らない?」
「…シャルですか? 彼なら恐らく家にいますよ」
彼は基本的に無表情なのだが、今一瞬、イリオーデが…しょんぼりしていたように見えてしまった。
だがまぁ気のせいだろう。今見ても全然無表情だし。と、私は考えた。
「それじゃあ、今からお邪魔してもいいかしら」
「勿論でございます」
まるで貴族のように恭しく一礼し、イリオーデは私達を先導し歩いた。
言葉遣いと言い、姿勢と言い、所作と言い……どうにも市民らしくないわね。もしかして、元貴族とか? まっさかそんな訳~。
「どうぞお入りください、王女殿下」
「案内ありがとうイリオーデ。それではお邪魔しまーす」
「当然の事をしたまでです」
当たり前のようにイリオーデが扉を開いて軽くお辞儀した。なるほど、これがレディファーストね。
イリオーデにありがとうと言いながら、数日振りにディオの家にお邪魔する。
中にはディオとラークとシャルとエリニティがいて…。
「はぁっ!? お前なんで…っ!」
「こんな時間に突然来るとは驚きだねぇ………はは…」
「よく見えないが、王女様が来たのか」
「きゃーーっ! スミレちゃんの破廉恥ーっ!」
彼等はなんと、上裸だった。どうやら着替え中だったようで、私の目にはバッチリと四人の上半身が映ってしまった。
ディオが慌てたように振り返り、ラークが頬を少し赤くして目を逸らし、シャルがまた眉間に皺を作り、エリニティが胸元に手を当ててふざけだした。
ディオは全身が満遍なく鍛えられており、ラークとシャルもディオ程ではないがかなり鍛えているようだった。
この三人と比べるとまだまだ細身のエリニティではあるが、その腹部には目に見えて筋肉がある。おまけに彼等はとても整った顔立ちであった。
つまり──ここは、美形の筋肉楽園…………ッ?!
多分、これは見て見ぬふりをするべきだったんだろうけど…眼前の光景があまりにも眼福……ごほんげふん、衝撃的で目を逸らす事もできなかった。
「……ハッ、いけない…これって私も『きゃーっ!』とか淑女らしく騒いでおくべきだったのかしら」
「騒がなくていいからとりあえず一旦出ようか」
私のちょっとした発言をマクベスタが冷たく一刀両断し、肩を掴んで回れ右させる。
そしてシュヴァルツが素早く扉を閉め、私達はしばし外で待機する事となった。
♢♢♢♢
バタリ、と大きく音を立てて閉じた扉を呆然と見つめる上裸の男達。
鍛錬を終えて汗を拭き着替えていた時に、突然家を飛び出て行ったイリオーデが上機嫌に帰って来たかと思えば…その後ろにはこの国で最も高貴で麗しき少女がいた。
可愛らしい顔でポカンと開く小さな口、とても丁寧に手入れが施されている銀色の髪、小綺麗なローブの下には凄腕の職人による淡い水色の可愛らしいドレス。
何から何までがこの街に不似合いな帝国の王女は、見慣れている筈もない男の裸体を見たにも関わらず、一切の反応を見せずただ唖然としていた。
これが普通の女性…貴婦人や貴族令嬢であったなら、恐らく黄色い悲鳴を上げていた事だろう。
しかし、アミレス・ヘル・フォーロイトは普通ではない。
どうしてか全く反応を見せず、寧ろ反応しなかった事を不安がった彼女の姿を思い出して…男達はえも言われぬ感情に心をかき混ぜられていた。
「……そんな見るも哀れなモンなのか、俺達の体は…?」
「彼女、無反応だったしね……ちょっと自信無くすなぁ…」
「帝国騎士団が常に裸で鍛錬しているとか?」
「ってか今日もメイシアちゃんはいないのかよぉおおおお!」
男としての自信を少々喪失しつつ、ディオリストラスとラークとシャルルギルは軽く会話を交えながら服を着た。
その近くではエリニティが真に迫る面持ちで慟哭していた。床に手を着いて、何度も握り拳で床を叩いている。
「早くしろ、いつまで王女殿下をお待たせするつもりだ」
そんなエリニティに向けて、イリオーデは冷やかな視線を送った。
「ッはい!!」
エリニティは猫のように目を丸くして立ち上がり、敬礼してから急いで気替えを始めた。
(ひぇ~~っ!? あんなイリ兄今まで見た事無いって! スミレちゃんが関わるとあんなに豹変しちゃうわけ?!)
自分の知るイリオーデと言う人物とは百八十度異なる表情や言動をする眼前のイリオーデに、エリニティは体を震え上がらせた。
「なぁ、イリオーデ。なんで殿下が突然来たか知ってっか? いやまぁ突然来んのは毎回の事なんだが…今回は時間がおかしいだろ」
エリニティの気替えを待つ間、既に気替えを終えたディオリストラスがイリオーデに疑問を投げかける。
「もう夜になるってのに…しかも今回はあの妙に強そうな侍女もいないみてぇじゃねぇか、どういう事なんだ?」
「私も知らない。だが何やら………シャルに用があるらしい」
「む、俺か?」
ディオリストラスの問にイリオーデが答えると、突然自分の名前が上がったシャルルギルが驚いたように首を傾げた。
こくりと頷いて少し不機嫌そうな面持ちでイリオーデは続けた。
「あぁ。王女殿下がいらっしゃった気配を察知して外に出たらすぐ近くに見慣れぬ馬車と王女殿下がおられた。王女殿下がこのような所までまたもや出向いて下さるとは…と感動していたのも束の間、シャルに用向きがあると言われ、家に入ってもいいかと問われたので案内した」
「俺達がまだ着替えてんの知ってたよな!?」
(察知して外出たって怖……イリ兄こっわぁ……)
ディオリストラスが鋭いツッコミを入れた傍で、エリニティは変態的能力を発揮したイリオーデに対して更に恐怖していた。
「王女殿下に問われたら答える。命じられたら従う。私は、王女殿下のお言葉に異を唱えない」
「さも当然かのような言うなよ……その謎の忠誠心の所為で俺達は殿下に見苦しいモンを見せちまったんだが」
「許さん」
「だからお前の所為でな?!」
まともに言葉が通じぬイリオーデと、そんなイリオーデ相手に正論を放つディオリストラス。
二人の平行線な話し合いは程なくして終わりを迎えた。
「あのー、気替え終わったよイリ兄…」
無事に服を着たエリニティがそっと手を挙げてそう言うと、イリオーデは会話を切り上げて「そうか」とだけ短く返し、即座に玄関へと足を向けた。
そして扉を開け、アミレス達を呼んだのである。
(………イリオーデ、彼女がここに来た理由がシャルへの用事って聞いて拗ねてるのかな…)
──アミレスの話をする時のイリオーデの表情を見ていて、ラークはそう思ったとか思わなかったとか。
♢♢♢♢
程なくして、イリオーデが扉を開けて「お待たせ致しました」と私達を招き入れた。
少々気まずい気持ちになりながら中へ入ると、今度はちゃんと服を着た四人がそこにいた。
数日ぶりにディオの家にお邪魔した私は、まず最初に──
「…ごめんなさい。その、何と言うか、色々………」
──謝罪した。普通の女の子ならあそこできっといい反応を取れていた筈だ。
しかし私はあろう事か彼等の裸体を舐め回すように見つめ、その筋肉に少々、ヨダレを垂らしてしまいそうになった。
フォーロイト帝国第一王女アミレス・ヘル・フォーロイトとしての最後の尊厳と強靭な理性で何とかそれを我慢したが、危うい所ではあったのだ。
そしてこれは明確なセクハラ…許可なく彼等の裸体をまじまじと見てしまった事への謝罪でもあるのだ。
荷台の幌の幕を掻き分け先に降りたマクベスタがそう言って手を差し出して来た。私はその手を取り、ゆっくりと荷台から降りる。
私が外に出た瞬間周りの人達のどよめきが聞こえて来た。好奇と畏怖の視線が、突き刺さるように注がれる。
この前来た時は魔法で髪の色を変えてもらっていたもの…やっぱり、この髪だとこう言う反応になってしまうのね。
「…本当に嫌われてるんだな、この色って」
波打つ髪を一束掴み、銀色のそれに視線を落とす。
アミレスに最も似合う色だから私は全然好きなのだけど、この世界ではそうでは無いみたいね。
するとどうやら私の発言が引っかかったらしいシュヴァルツが、荷台から軽快に飛び降りて背中に抱き着いて来た。
「ぼくは好きだよぉ、おねぇちゃんのキラキラな銀色の髪!」
より強くうねりを見せる我が後ろ髪に顔をうずめながらシュヴァルツは言った。
それに続くようにマクベスタが、
「オレも同意だ。とても……その、き、綺麗な色…だと思う」
途中から恥ずかしそうに耳を赤くしながら慰めてくれた。別にそこまで気にしてないんだけど…二人の優しさには素直に甘えちゃおう。
私はそれにありがとうと返し、意気揚々とシャルの元へと向かおうと振り向いたその瞬間。
「っ?!?!」
そこにはこんな道のど真ん中で片膝を着く男がいた。
何やらシュヴァルツもマクベスタも気づいていなかったらしく、私の声にならない驚愕で彼の存在に気づいたようだった。
マクベスタは瞬時に愛剣の柄に手を掛け、シュヴァルツは私の背中に隠れたままジトーっとした目で彼を睨んでいた。
男は微動だにせず片膝を着いている。当然のように、私に跪いているのだ。
そして私はこの男を知っている。何故このような行動に出るのかは知らないが、少なくともこの人の名前は知っている。
「………そんな所で一体何をしているの? イリオーデ」
私の問いかけに青い髪が少し揺れる。彼は更に深く頭を垂れてから答えた。
「私は王女殿下の騎士ですので」
「答えになってないわ…それよりも早く立って頂戴? いち早く顔を上げて立ってくれないと、ただでさえ底辺の私の評判が更に落ちるわ…」
無辜の民に長時間跪く事を強要した……とか言われてね。
私の要望は直ぐに聞き入れられた。イリオーデはハッとしたようにその美しい顔を上げ、慌てて立ち上がった。
…改めて見ても本当に綺麗な顔ね。乙女ゲームの世界ともなると、当たり前のように顔面偏差値がインフレしてしまうみたい。
私の周りの人達全員顔が良いわ。
「あぁそうだ。シャルが今何処にいるか知らない?」
「…シャルですか? 彼なら恐らく家にいますよ」
彼は基本的に無表情なのだが、今一瞬、イリオーデが…しょんぼりしていたように見えてしまった。
だがまぁ気のせいだろう。今見ても全然無表情だし。と、私は考えた。
「それじゃあ、今からお邪魔してもいいかしら」
「勿論でございます」
まるで貴族のように恭しく一礼し、イリオーデは私達を先導し歩いた。
言葉遣いと言い、姿勢と言い、所作と言い……どうにも市民らしくないわね。もしかして、元貴族とか? まっさかそんな訳~。
「どうぞお入りください、王女殿下」
「案内ありがとうイリオーデ。それではお邪魔しまーす」
「当然の事をしたまでです」
当たり前のようにイリオーデが扉を開いて軽くお辞儀した。なるほど、これがレディファーストね。
イリオーデにありがとうと言いながら、数日振りにディオの家にお邪魔する。
中にはディオとラークとシャルとエリニティがいて…。
「はぁっ!? お前なんで…っ!」
「こんな時間に突然来るとは驚きだねぇ………はは…」
「よく見えないが、王女様が来たのか」
「きゃーーっ! スミレちゃんの破廉恥ーっ!」
彼等はなんと、上裸だった。どうやら着替え中だったようで、私の目にはバッチリと四人の上半身が映ってしまった。
ディオが慌てたように振り返り、ラークが頬を少し赤くして目を逸らし、シャルがまた眉間に皺を作り、エリニティが胸元に手を当ててふざけだした。
ディオは全身が満遍なく鍛えられており、ラークとシャルもディオ程ではないがかなり鍛えているようだった。
この三人と比べるとまだまだ細身のエリニティではあるが、その腹部には目に見えて筋肉がある。おまけに彼等はとても整った顔立ちであった。
つまり──ここは、美形の筋肉楽園…………ッ?!
多分、これは見て見ぬふりをするべきだったんだろうけど…眼前の光景があまりにも眼福……ごほんげふん、衝撃的で目を逸らす事もできなかった。
「……ハッ、いけない…これって私も『きゃーっ!』とか淑女らしく騒いでおくべきだったのかしら」
「騒がなくていいからとりあえず一旦出ようか」
私のちょっとした発言をマクベスタが冷たく一刀両断し、肩を掴んで回れ右させる。
そしてシュヴァルツが素早く扉を閉め、私達はしばし外で待機する事となった。
♢♢♢♢
バタリ、と大きく音を立てて閉じた扉を呆然と見つめる上裸の男達。
鍛錬を終えて汗を拭き着替えていた時に、突然家を飛び出て行ったイリオーデが上機嫌に帰って来たかと思えば…その後ろにはこの国で最も高貴で麗しき少女がいた。
可愛らしい顔でポカンと開く小さな口、とても丁寧に手入れが施されている銀色の髪、小綺麗なローブの下には凄腕の職人による淡い水色の可愛らしいドレス。
何から何までがこの街に不似合いな帝国の王女は、見慣れている筈もない男の裸体を見たにも関わらず、一切の反応を見せずただ唖然としていた。
これが普通の女性…貴婦人や貴族令嬢であったなら、恐らく黄色い悲鳴を上げていた事だろう。
しかし、アミレス・ヘル・フォーロイトは普通ではない。
どうしてか全く反応を見せず、寧ろ反応しなかった事を不安がった彼女の姿を思い出して…男達はえも言われぬ感情に心をかき混ぜられていた。
「……そんな見るも哀れなモンなのか、俺達の体は…?」
「彼女、無反応だったしね……ちょっと自信無くすなぁ…」
「帝国騎士団が常に裸で鍛錬しているとか?」
「ってか今日もメイシアちゃんはいないのかよぉおおおお!」
男としての自信を少々喪失しつつ、ディオリストラスとラークとシャルルギルは軽く会話を交えながら服を着た。
その近くではエリニティが真に迫る面持ちで慟哭していた。床に手を着いて、何度も握り拳で床を叩いている。
「早くしろ、いつまで王女殿下をお待たせするつもりだ」
そんなエリニティに向けて、イリオーデは冷やかな視線を送った。
「ッはい!!」
エリニティは猫のように目を丸くして立ち上がり、敬礼してから急いで気替えを始めた。
(ひぇ~~っ!? あんなイリ兄今まで見た事無いって! スミレちゃんが関わるとあんなに豹変しちゃうわけ?!)
自分の知るイリオーデと言う人物とは百八十度異なる表情や言動をする眼前のイリオーデに、エリニティは体を震え上がらせた。
「なぁ、イリオーデ。なんで殿下が突然来たか知ってっか? いやまぁ突然来んのは毎回の事なんだが…今回は時間がおかしいだろ」
エリニティの気替えを待つ間、既に気替えを終えたディオリストラスがイリオーデに疑問を投げかける。
「もう夜になるってのに…しかも今回はあの妙に強そうな侍女もいないみてぇじゃねぇか、どういう事なんだ?」
「私も知らない。だが何やら………シャルに用があるらしい」
「む、俺か?」
ディオリストラスの問にイリオーデが答えると、突然自分の名前が上がったシャルルギルが驚いたように首を傾げた。
こくりと頷いて少し不機嫌そうな面持ちでイリオーデは続けた。
「あぁ。王女殿下がいらっしゃった気配を察知して外に出たらすぐ近くに見慣れぬ馬車と王女殿下がおられた。王女殿下がこのような所までまたもや出向いて下さるとは…と感動していたのも束の間、シャルに用向きがあると言われ、家に入ってもいいかと問われたので案内した」
「俺達がまだ着替えてんの知ってたよな!?」
(察知して外出たって怖……イリ兄こっわぁ……)
ディオリストラスが鋭いツッコミを入れた傍で、エリニティは変態的能力を発揮したイリオーデに対して更に恐怖していた。
「王女殿下に問われたら答える。命じられたら従う。私は、王女殿下のお言葉に異を唱えない」
「さも当然かのような言うなよ……その謎の忠誠心の所為で俺達は殿下に見苦しいモンを見せちまったんだが」
「許さん」
「だからお前の所為でな?!」
まともに言葉が通じぬイリオーデと、そんなイリオーデ相手に正論を放つディオリストラス。
二人の平行線な話し合いは程なくして終わりを迎えた。
「あのー、気替え終わったよイリ兄…」
無事に服を着たエリニティがそっと手を挙げてそう言うと、イリオーデは会話を切り上げて「そうか」とだけ短く返し、即座に玄関へと足を向けた。
そして扉を開け、アミレス達を呼んだのである。
(………イリオーデ、彼女がここに来た理由がシャルへの用事って聞いて拗ねてるのかな…)
──アミレスの話をする時のイリオーデの表情を見ていて、ラークはそう思ったとか思わなかったとか。
♢♢♢♢
程なくして、イリオーデが扉を開けて「お待たせ致しました」と私達を招き入れた。
少々気まずい気持ちになりながら中へ入ると、今度はちゃんと服を着た四人がそこにいた。
数日ぶりにディオの家にお邪魔した私は、まず最初に──
「…ごめんなさい。その、何と言うか、色々………」
──謝罪した。普通の女の子ならあそこできっといい反応を取れていた筈だ。
しかし私はあろう事か彼等の裸体を舐め回すように見つめ、その筋肉に少々、ヨダレを垂らしてしまいそうになった。
フォーロイト帝国第一王女アミレス・ヘル・フォーロイトとしての最後の尊厳と強靭な理性で何とかそれを我慢したが、危うい所ではあったのだ。
そしてこれは明確なセクハラ…許可なく彼等の裸体をまじまじと見てしまった事への謝罪でもあるのだ。
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