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第一章・救国の王女
64.一通の報せ4
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「王女殿下の御体に傷を作るなど……到底許されない事です」
「ち、ちが…私はただ王女殿下の罪を……」
「王女殿下の仰る通り、それが間違いです。王女殿下は確かに手を上げるつもりなどなかったようです、ただ善意で行った事が、噂などという前提によって歪んだ見方をされてしまっただけで」
「そん、な………」
ケイリオルさんが一体何を根拠にそこまで私を信頼してくれているのか全く分からないが…彼の言葉によりボーナスは膝から崩れ落ちた。
私が色々言っても平行線だったのに、皇帝の腹心たる唯一の側近のケイリオルさんが言うだけでここまでの違いが生まれるというのか。
これが権力ってやつか…いいな……楽そう。
っと、それはともかく。このままだとボーナスが処罰まっしぐらなので、優しい私は彼を庇って上げる事にした。
…とは言いつつも、夢見が悪いから私のせいで処罰されて欲しくないだけである。
「ケイリオル卿、彼ばかり責めないでやってください。紛らわしい行動を取った私が悪いのです」
「王女殿下は善意から行動されておりました…にも関わらず、その善意を悪意と履き違え暴走し王女殿下に手を上げた男を、何故責めるなと仰るのですか?」
「彼を責め立て処罰する時間など、私には無いからですわ。私は今、とても急いでおりますの。ですので、早急にこの下らない茶番劇の幕を下ろしたいのです」
そう。ボーナスが何かと騒いでいたから忘れられたかもしれないが、私の目的はケイリオルさんへの報告のみ。
それが済み次第リードさんとシャルに同行を願い、オセロマイト王国へと向かうつもりでいる。
一刻を争う状況で私は何を呑気にしていたんだ。
「成程……畏まりました。本日のこの件に関しては王女殿下のご意思を尊重致します」
(──まぁ、私が見逃した所で、王女殿下に害を成したこの男は彼女によって処理されるでしょうが)
ケイリオルさんの物言いに妙に含みがあって…何やら宜しくない副音声がついているような気がしてならない。
いやいかんいかん、ケイリオルさんは皇帝側の人間なのに何故か私にも親切ないい人なんだ。疑うなんて失礼じゃないか。
「感謝しますわ、ケイリオル卿。あぁ、卿に二三頼み事をしてもよろしいかしら?」
「勿論でございます」
雑念を振り払ってまた笑顔を作り、ケイリオルさんを見上げる。
すると彼が人払いをするかのようにひらひらと手を振った。それを経て、観衆となっていた者達は逃げ出すように散り散りとなった。
この場にはケイリオルさんとマクベスタと私だけが取り残される。下手に誰かに聞かれる恐れもなく、安心して頼み事を伝えた。
「一つ目は、今日から暫くの間皇宮を空けるのでその事についてご了承ください。二つ目は、もし万が一皇帝陛下が私の行動に対して制裁を加えようとお考えになられても、全てが終わるまでは待っていただけるよう…皇帝陛下を説得してください。三つ目は、もし私に死刑が下された場合、私自らの手で自決出来るよう便宜を図ってください。これが、私から卿への三つの頼み事でございます」
私はこれから勝手にフォーロイト帝国の名を使う。地位も権力もハリボテの私が、だ。
それが皇帝の逆鱗に触れる事は間違いないだろう。それによって死刑となる可能性も十分ある。
なので、こうして前もって予防線を張っておきたかったのだ。
「………分かりました。その頼み、可能な限り聞き届けましょう」
ケイリオルさんが胸元に手を当てて軽く一礼する。
快諾して貰えた事だし、「では私はもう行きますわ」とケイリオルさんに向けてお辞儀して、マクベスタと共にすぐさま皇宮へと戻った。
許可が取れたならばもうこんな城にいる必要は無い。しかし先の事を考えると……走って戻るような真似は出来ない。私は、皇族としての品位を損ねない程度に早歩きで皇宮へと向かった。
皇宮の私室に着くとそこには、ある程度手配を終えて戻って来たハイラさんとシュヴァルツがいて、なんとシュヴァルツからハイラさんにある程度の説明をしておいてくれたらしいのだ。お陰様でハイラさんに説明をする手間が省けた。
善は急げと、軽く荷物を纏めようと準備する。マクベスタもまた、自身に宛てがわれている客室へと荷物を取りに行った。
そんな時、ハイラさんが様々な言葉を口の中に蓄えたような面持ちで声をかけてきた。
「姫様」
「なあに?」
「……本当に行かれるのですね」
「…えぇ、行くわ」
少し手を止めて、ハイラさんの方を振り返る。
絶対にこの決定は覆さない、そんな思いを込めた瞳で彼女を見つめる。
「──ハイラ、これは命令よ。貴女はここに残りなさい」
「ッ?!」
初めて見たハイラさんの顔。驚き、戸惑い、焦る…そんな複雑な表情。
きっと彼女も着いてくるつもりだったのだろう。だけど私はそれを許さない……命令だなんて、今まで一度も言った事の無いような言葉まで使って。
「な、何故…ですか……姫様」
ハイラさんの表情はやがて捨てられた子供のような、見てるこっちの心が締め付けられるものへと変貌した。
ハイラさんにはやって貰う事がある。だからここに残って貰わねばならないのだ。
「私が暫くここを留守にしている間……皇宮を、私の家を守っていて欲しいの。この腐った城で…私が唯一心を休められるこの場所を、心より信頼している貴女に任せてもいいかしら」
ゆっくりハイラさんへと近づいて、私は彼女の手を握ってそう聞いた。
もし全員で長期間皇宮を空けてしまえば、やるべき仕事や掃除が溜まり何かしらの事件が起きる可能性すらある。それではいけない。
だからこそ、今この皇宮にいる誰よりもこの東宮に詳しいハイラさんに留守を任せたいのだ。
「…そう、命令されてしまっては……私に反論する余地など、無いではありませんか…」
私の手を握り返して、彼女は消え入りそうなか細い声で呟いた。
悲しげな瞳で俯くハイラさんの頬に触れ、
「ごめんね。こんな主で」
私は謝った。しかしハイラさんは何度も首を横に振ってそれを否定した。
「いいえ…そのような事はありません。姫様は、私のような者にはあまりにも過分な素晴らしい御方でございます」
「ハイラは本当に大袈裟ね」
「大袈裟などではありません。他ならぬ姫様なので当然の事なのです」
「私は貴女が思う程良く出来た人間じゃないのだけれど…」
そうやって二人で暫く会話をした。これから暫くの間出来なくなってしまうから……その分も今の内に沢山話した。
マクベスタが用意を済ませてこちらに来るまでの間…私はハイラさんと──ううん、ハイラと今後の流れを打ち合わせしたり、今の社交界の流行りを教えて貰ったり、帰って来たら二人でどこかにお出かけしようと約束したりしていた。
そうやって約束を結んだ時のハイラはどこか幼い少女のような表情をしていて、いつもの大人びた美人な印象とは違って新鮮だった。
私としては、この約束がフラグとならない事を祈るばかりであった…。
そしてマクベスタの用意が終わり、私もまた簡単に荷物を纏めて、ついに旅立つ時が来た。
今度は男装もせず、私は私として外に出た。
荷物を持って皇宮を出た時には…空はもう暗く、日が沈みきっていた。
どこからともなくハイラが用意して来てくれた荷馬車で、私達はオセロマイト王国まで突っ走る予定なのだが…ハイラは留守番の為、別で御者を雇わなければならないのだ。
さてどうしようかとマクベスタと二人で考えていた時。楽しそうに馬を撫でてたシュヴァルツが、
「眼帯の人達の誰かは馬車の運転も出来るんじゃないのぉ?」
と発言したので、それに私はナイスアイデア! と親指を立て、シャルに同行を頼む際にどなたかついでに……と決めた。
でも貧民街に行くまでの道は誰が運転するのと言う話になり、あまりにも行き当たりばったりなこの計画に困っていると……またもやシュヴァルツが我々を窮地から脱出させたのだ。
「ひとまず、眼帯の人の家に着けばいいんだよねー?」
「えぇそうね。でもそこまで馬車を運転してくれる人がいないのよね…」
「ふっふーん、ぼくに任せて!」
自信たっぷりな面持ちのシュヴァルツは、私とマクベスタの背を押して馬車の荷台に乗せた。
そして自身もまた同じように荷台に乗り、おもむろに立ち上がってにやりと笑った。
それは、いつものあどけない無邪気な笑みではなく……まるで、皇帝のような絶対的権力者がする悦楽に浸る三日月のような笑みであった。
「ぶっ飛んじゃえーっ!」
彼がそう言い放った瞬間、馬車よりも広く大きい魔法陣が地面に輝きだす。
それは目に痛い程の光を放ち、思わず瞼をぎゅっと力強く閉じた。そして次に目を開いた時には──私達は、貧民街にいた。
それも、前に来た時馬車を止めていた場所に…この馬車とそれに乗る私達は在った。
瞬く間に起きた出来事に頭が追いつかず、私の頭にはいくつもの疑問符が浮かぶ。しかしその疑問は程なくして解消された。
「シュヴァルツ、お前…今何をしたんだ?」
マクベスタが戸惑いを隠さずにそう尋ねると、シュヴァルツはいつも通りの無邪気な笑みを浮かべた。
「えーっとねぇーぼく、一度行った事のある場所にならこの世界のどこにでも行けちゃうんだぁ。座標指定で他のものを送る事も出来るよっ! ……やり過ぎたら魔力欠乏で死んじゃうだろうけど」
「まさか、空間魔法が扱えるのか…!?」
「え? あは、まぁそんなとこー」
シュヴァルツがあまりにも平然と答えたものだから、私とマクベスタはあんぐりとする。
そして当のシュヴァルツは、まるで遠くに投げたボールをしっかり持って帰って来たワンちゃんのように…とにかく褒めてくれと顔に書いてある状態で、瞳を輝かせて見上げてきた。
未だ混乱する頭を必死に落ち着かせながら、よくやったね偉い偉い。とシュヴァルツの頭を撫でてあげる。
シュヴァルツはまるで猫のように蕩けた顔になった。どちらかと言えば犬っぽい子なのだけれど。
そして馬車の中から周りの様子をちらりと見てみると、大勢の人が訝しげな視線を送って来ているのがわかった。
だがそれも仕方の無い事…空間魔法で瞬間転移したみたいなのだから、突然現れた馬車に驚くのは当然だ。
「ち、ちが…私はただ王女殿下の罪を……」
「王女殿下の仰る通り、それが間違いです。王女殿下は確かに手を上げるつもりなどなかったようです、ただ善意で行った事が、噂などという前提によって歪んだ見方をされてしまっただけで」
「そん、な………」
ケイリオルさんが一体何を根拠にそこまで私を信頼してくれているのか全く分からないが…彼の言葉によりボーナスは膝から崩れ落ちた。
私が色々言っても平行線だったのに、皇帝の腹心たる唯一の側近のケイリオルさんが言うだけでここまでの違いが生まれるというのか。
これが権力ってやつか…いいな……楽そう。
っと、それはともかく。このままだとボーナスが処罰まっしぐらなので、優しい私は彼を庇って上げる事にした。
…とは言いつつも、夢見が悪いから私のせいで処罰されて欲しくないだけである。
「ケイリオル卿、彼ばかり責めないでやってください。紛らわしい行動を取った私が悪いのです」
「王女殿下は善意から行動されておりました…にも関わらず、その善意を悪意と履き違え暴走し王女殿下に手を上げた男を、何故責めるなと仰るのですか?」
「彼を責め立て処罰する時間など、私には無いからですわ。私は今、とても急いでおりますの。ですので、早急にこの下らない茶番劇の幕を下ろしたいのです」
そう。ボーナスが何かと騒いでいたから忘れられたかもしれないが、私の目的はケイリオルさんへの報告のみ。
それが済み次第リードさんとシャルに同行を願い、オセロマイト王国へと向かうつもりでいる。
一刻を争う状況で私は何を呑気にしていたんだ。
「成程……畏まりました。本日のこの件に関しては王女殿下のご意思を尊重致します」
(──まぁ、私が見逃した所で、王女殿下に害を成したこの男は彼女によって処理されるでしょうが)
ケイリオルさんの物言いに妙に含みがあって…何やら宜しくない副音声がついているような気がしてならない。
いやいかんいかん、ケイリオルさんは皇帝側の人間なのに何故か私にも親切ないい人なんだ。疑うなんて失礼じゃないか。
「感謝しますわ、ケイリオル卿。あぁ、卿に二三頼み事をしてもよろしいかしら?」
「勿論でございます」
雑念を振り払ってまた笑顔を作り、ケイリオルさんを見上げる。
すると彼が人払いをするかのようにひらひらと手を振った。それを経て、観衆となっていた者達は逃げ出すように散り散りとなった。
この場にはケイリオルさんとマクベスタと私だけが取り残される。下手に誰かに聞かれる恐れもなく、安心して頼み事を伝えた。
「一つ目は、今日から暫くの間皇宮を空けるのでその事についてご了承ください。二つ目は、もし万が一皇帝陛下が私の行動に対して制裁を加えようとお考えになられても、全てが終わるまでは待っていただけるよう…皇帝陛下を説得してください。三つ目は、もし私に死刑が下された場合、私自らの手で自決出来るよう便宜を図ってください。これが、私から卿への三つの頼み事でございます」
私はこれから勝手にフォーロイト帝国の名を使う。地位も権力もハリボテの私が、だ。
それが皇帝の逆鱗に触れる事は間違いないだろう。それによって死刑となる可能性も十分ある。
なので、こうして前もって予防線を張っておきたかったのだ。
「………分かりました。その頼み、可能な限り聞き届けましょう」
ケイリオルさんが胸元に手を当てて軽く一礼する。
快諾して貰えた事だし、「では私はもう行きますわ」とケイリオルさんに向けてお辞儀して、マクベスタと共にすぐさま皇宮へと戻った。
許可が取れたならばもうこんな城にいる必要は無い。しかし先の事を考えると……走って戻るような真似は出来ない。私は、皇族としての品位を損ねない程度に早歩きで皇宮へと向かった。
皇宮の私室に着くとそこには、ある程度手配を終えて戻って来たハイラさんとシュヴァルツがいて、なんとシュヴァルツからハイラさんにある程度の説明をしておいてくれたらしいのだ。お陰様でハイラさんに説明をする手間が省けた。
善は急げと、軽く荷物を纏めようと準備する。マクベスタもまた、自身に宛てがわれている客室へと荷物を取りに行った。
そんな時、ハイラさんが様々な言葉を口の中に蓄えたような面持ちで声をかけてきた。
「姫様」
「なあに?」
「……本当に行かれるのですね」
「…えぇ、行くわ」
少し手を止めて、ハイラさんの方を振り返る。
絶対にこの決定は覆さない、そんな思いを込めた瞳で彼女を見つめる。
「──ハイラ、これは命令よ。貴女はここに残りなさい」
「ッ?!」
初めて見たハイラさんの顔。驚き、戸惑い、焦る…そんな複雑な表情。
きっと彼女も着いてくるつもりだったのだろう。だけど私はそれを許さない……命令だなんて、今まで一度も言った事の無いような言葉まで使って。
「な、何故…ですか……姫様」
ハイラさんの表情はやがて捨てられた子供のような、見てるこっちの心が締め付けられるものへと変貌した。
ハイラさんにはやって貰う事がある。だからここに残って貰わねばならないのだ。
「私が暫くここを留守にしている間……皇宮を、私の家を守っていて欲しいの。この腐った城で…私が唯一心を休められるこの場所を、心より信頼している貴女に任せてもいいかしら」
ゆっくりハイラさんへと近づいて、私は彼女の手を握ってそう聞いた。
もし全員で長期間皇宮を空けてしまえば、やるべき仕事や掃除が溜まり何かしらの事件が起きる可能性すらある。それではいけない。
だからこそ、今この皇宮にいる誰よりもこの東宮に詳しいハイラさんに留守を任せたいのだ。
「…そう、命令されてしまっては……私に反論する余地など、無いではありませんか…」
私の手を握り返して、彼女は消え入りそうなか細い声で呟いた。
悲しげな瞳で俯くハイラさんの頬に触れ、
「ごめんね。こんな主で」
私は謝った。しかしハイラさんは何度も首を横に振ってそれを否定した。
「いいえ…そのような事はありません。姫様は、私のような者にはあまりにも過分な素晴らしい御方でございます」
「ハイラは本当に大袈裟ね」
「大袈裟などではありません。他ならぬ姫様なので当然の事なのです」
「私は貴女が思う程良く出来た人間じゃないのだけれど…」
そうやって二人で暫く会話をした。これから暫くの間出来なくなってしまうから……その分も今の内に沢山話した。
マクベスタが用意を済ませてこちらに来るまでの間…私はハイラさんと──ううん、ハイラと今後の流れを打ち合わせしたり、今の社交界の流行りを教えて貰ったり、帰って来たら二人でどこかにお出かけしようと約束したりしていた。
そうやって約束を結んだ時のハイラはどこか幼い少女のような表情をしていて、いつもの大人びた美人な印象とは違って新鮮だった。
私としては、この約束がフラグとならない事を祈るばかりであった…。
そしてマクベスタの用意が終わり、私もまた簡単に荷物を纏めて、ついに旅立つ時が来た。
今度は男装もせず、私は私として外に出た。
荷物を持って皇宮を出た時には…空はもう暗く、日が沈みきっていた。
どこからともなくハイラが用意して来てくれた荷馬車で、私達はオセロマイト王国まで突っ走る予定なのだが…ハイラは留守番の為、別で御者を雇わなければならないのだ。
さてどうしようかとマクベスタと二人で考えていた時。楽しそうに馬を撫でてたシュヴァルツが、
「眼帯の人達の誰かは馬車の運転も出来るんじゃないのぉ?」
と発言したので、それに私はナイスアイデア! と親指を立て、シャルに同行を頼む際にどなたかついでに……と決めた。
でも貧民街に行くまでの道は誰が運転するのと言う話になり、あまりにも行き当たりばったりなこの計画に困っていると……またもやシュヴァルツが我々を窮地から脱出させたのだ。
「ひとまず、眼帯の人の家に着けばいいんだよねー?」
「えぇそうね。でもそこまで馬車を運転してくれる人がいないのよね…」
「ふっふーん、ぼくに任せて!」
自信たっぷりな面持ちのシュヴァルツは、私とマクベスタの背を押して馬車の荷台に乗せた。
そして自身もまた同じように荷台に乗り、おもむろに立ち上がってにやりと笑った。
それは、いつものあどけない無邪気な笑みではなく……まるで、皇帝のような絶対的権力者がする悦楽に浸る三日月のような笑みであった。
「ぶっ飛んじゃえーっ!」
彼がそう言い放った瞬間、馬車よりも広く大きい魔法陣が地面に輝きだす。
それは目に痛い程の光を放ち、思わず瞼をぎゅっと力強く閉じた。そして次に目を開いた時には──私達は、貧民街にいた。
それも、前に来た時馬車を止めていた場所に…この馬車とそれに乗る私達は在った。
瞬く間に起きた出来事に頭が追いつかず、私の頭にはいくつもの疑問符が浮かぶ。しかしその疑問は程なくして解消された。
「シュヴァルツ、お前…今何をしたんだ?」
マクベスタが戸惑いを隠さずにそう尋ねると、シュヴァルツはいつも通りの無邪気な笑みを浮かべた。
「えーっとねぇーぼく、一度行った事のある場所にならこの世界のどこにでも行けちゃうんだぁ。座標指定で他のものを送る事も出来るよっ! ……やり過ぎたら魔力欠乏で死んじゃうだろうけど」
「まさか、空間魔法が扱えるのか…!?」
「え? あは、まぁそんなとこー」
シュヴァルツがあまりにも平然と答えたものだから、私とマクベスタはあんぐりとする。
そして当のシュヴァルツは、まるで遠くに投げたボールをしっかり持って帰って来たワンちゃんのように…とにかく褒めてくれと顔に書いてある状態で、瞳を輝かせて見上げてきた。
未だ混乱する頭を必死に落ち着かせながら、よくやったね偉い偉い。とシュヴァルツの頭を撫でてあげる。
シュヴァルツはまるで猫のように蕩けた顔になった。どちらかと言えば犬っぽい子なのだけれど。
そして馬車の中から周りの様子をちらりと見てみると、大勢の人が訝しげな視線を送って来ているのがわかった。
だがそれも仕方の無い事…空間魔法で瞬間転移したみたいなのだから、突然現れた馬車に驚くのは当然だ。
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