だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

63.一通の報せ3

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 真相はまた追々……と一旦この事は置いておいて、私はマクベスタと共にケイリオルさんの所へと向かった。
 シュヴァルツの存在はこの城にいるほとんどの人に明かされていない。そんな状況で連れ回すのは良くないと判断したのだ。なので、彼には私の部屋で留守番をして貰っている。
 私へと下されていた皇宮から出るなと言う命令は解かれ、一応、私はもう王城にも足を踏み入れてよい事になっている。
 だがまぁ、野蛮王女などと揶揄されるようなお飾りの嫌われ王女が突然現れて、いい顔をされる筈も無く。
 すれ違う人や私の姿を見た人達は皆一様にひそひそと小声で話しながら、嫌悪や好奇の視線をこちらに向けて来た。しかしそれも気にせず私は進む。
 しかしふと用事を思い出し、途中で一度足を止め、私は近くにいた侍女に声をかけた。

「ねぇ、そこの貴女。聞きたい事があるから大人しく答えて頂戴?」
「ひぃっ!?」

 私に声をかけられただけなのに、侍女が顔を青くして悲鳴を上げた。
 そんな怯えられるような顔してる…? と不安を覚えつつ、私は目的の為に彼女に聞く。

「ケイリオル卿の執務室がどこにあるか教えてくださる? 今、探している所なのです」
「え、あ……ぁ、ぁあ……っ」
「聞いてるのかしら?」

 目の前の若い女性は顎を震えさせて、カタカタと歯で音を鳴らしていた。今は別に剣も持っていないのに、どうしてこうも怯えられてしまうのか。
 それにしても本当に顔色が悪い。もしかしたら体調が悪いのかも…そんな時に野蛮王女と出会ってしまったから……みたいな?

「ねぇ、貴女…顔色が悪いけど体調が悪いんじゃぁ──」

 酷く青ざめている侍女の顔に手を近づける。しかしその時、突然文官のような男が横入りして私の手首を掴みあげた。

「いっ…た…」
「王女殿下……っ! 貴女と言う方は何の罪も無い侍女にまで手を上げるのですか!?」

 正義感に満ちた面持ちで男は叫んだ。……また? 何を言ってるんだこいつは、何もかもが意味不明なんだが。
 前提として私は手を上げようなんてしてないし。と言うかこいつ不敬では? こう見えて私、一応皇族なんだが?
 掴みあげられた右手首が握り締められ、ちょっとした痛みを覚える。だがまぁ、足を剣で刺された時に比べたら大した事はない。

「皇帝陛下の城に勝手にやって来ては傍若無人に振る舞うなど…! 皇族としての品位に欠けます!!」

 何がしたいんだこいつはと思いつつ、私が黙って男の顔を眺めていると、それをいい事に男はどんどん話を変な方向へと進めて行った。
 と言うか、貴方の言う通りこれでも一応皇族なんだけど? それなのに城に来ちゃいけない訳? もう外出禁止は解かれたんだから勝手でも無いのよ別に。
 苛立ちから歪みそうな表情を必死に正す。
 それにしても…何とも不可解な事に、男の言葉に周りの者達も同意しているらしい。
 これは困った。周りが全て敵じゃないか。
 そう、割と困っていた時…マクベスタが痺れを切らしたように口を切った。

「………この国の者は、皇族への敬服すらまともに出来ないと言うのか? 貴殿が今、無体を働いている相手こそが敬い尊重すべき皇族──帝国唯一の王女殿下だと言う事を、理解していないのか?」

 眉尻を上げ露骨に怒りを露わにするマクベスタの姿に、男はあっさりと気圧された。
 しかし男は手を離さなかった。寧ろ、男の手に込められた力は更に強くなった気がする。
 さてこのままではマクベスタまで野蛮王女と共に謗られる可能性がある。それは避けねばなるまい。
 仕方ない…と小さくため息をついた私は、まずマクベスタに向けて言った。

「別にいいのよ、マクベスタ。私が皇帝陛下と皇太子殿下……あぁ後、この城の人達から嫌われてるのは事実だし、皇族失格と人々に言われているのも知ってるわ。だから私が突然謂れの無い事で貶されようと咎められようも暴力を振るわれようと仕方の無い事なのよ」

 ふと気づいた。よく小説や漫画で見た悪役令嬢達……彼女達が敵に嵌められて断罪される時って、きっとこんな感じだったんだろうなと。
 彼女達の場合このまま断罪追放、またはイケメンによる救いの手があったりするのだが…私はその救いの手を振り払ってしまった。ただ、マクベスタを巻き込みたくなかったから。
 なのでここは何とか一人で切り抜ける必要があるのだが、果たしてどうしたものか。
 色々と言いたい事はあるのだけど、ここで何か行動を起こす程それは悪評として捻じ曲げられた噂が広まる事だろう。貴族社会は大概そんなものだ。
 ならどうしたものか…と頭で考えつつ、次は男に向けて話す。

「貴方は私に何を求めているのかしら。謝罪? それともほんのお気持ち? 謝罪をして欲しいならそう言って頂戴。一体どのような罪状で私は貴方に許しを乞う必要があるのか」
「なっ…それは他ならぬ貴女が分かっている事でしょう?! 貴女は噂同様気に入らない侍女に手を上げようとした、それも何も罪を犯していない侍女に!! そして彼女は貴女に酷く脅えあんなにも顔色を悪くしているのですよ!?」

 男が大きく口を開けて必死に語っているからか、唾が飛んで来そう。
 自分にかかったら嫌だなぁ、もう唾は消滅させとこう。と私はこっそり魔法を発動して男の口から出た液体を瞬時に蒸発させた。
 片手間でそんな事をしながら私は男の熱弁に返す。

「あら、フォーロイト帝国の王城に職を持つ程の優秀な方が根拠の無い噂に踊らされる姿が見られるなんてとても貴重な光景ですわね。自らの発言に責任を持つ立場にある方がそこまで堂々と仰るのですから、常日頃の職務のように確実な裏を取った上で発言されているのでしょう。であれば…確かに、私は噂通りの野蛮王女なのかもしれないわ」

 私はお得意の営業スマイルを作った。そんな私を見て周りの人達は化け物でも見たかのように恐怖していた。
 何せフォーロイトの血筋には心も無ければ人間性も無く感情なんてある筈も無いとまで言われる程、この血筋の人間は人間らしくないのだ。
 よって、感情の機微など無くただ無表情で全てを済ませる我が一族は……笑うだけで周りから恐れられてしまう。皇帝やフリードルを知る者なら殊更。
 私は噂について肯定も否定もしなかった。否定した所で最早意味は無いと悟ったからである。
 だがしかし、別に肯定も否定もしなくても男の威勢を削るぐらいなら容易いものだ。

「罪の無い侍女に手を上げようとしたと言う罪があるから、私はどれだけ手を上げられようと文句は言えないのでしょうね。例えそれが、まだ事実であるとは証明されていないものなのだとしても………えぇ、貴方がこれを罪と断じたのであれば仕方ありません。世間知らずで傍若無人な野蛮王女は、きっと貴方の言う罪を犯したのですから」

 一応、男は私を王女として認識してはいるそうだし…ここまでへりくだって暗に冤罪なんだよと諭せば、聡明な人なら過ちに気づいてくれるだろうと思ったのだが……。

「…っ、だが私も、周りの者達も確かに見ました! 貴女が彼女に手を上げようとした瞬間を!」

 男は諦めなかった。どうやらこの男はどうしても私を悪にしたいらしい。
 笑顔を崩す事無く呆れたように男を見ていると、それに気づいた男が、何でそんな目で見てくるんだ! と言いたげに不機嫌そうに眉を顰めた。

「私の言い分を聞いて下さるかは分かりませんが……それがそもそもの間違いなのです。私は侍女に手を上げようなどとしてませんわ。確かに道を聞こうと彼女に声をかけ、噂の影響かいたずらに怯えさせてしまったのは事実ですけれど…私はただ、あまりにも彼女の顔色が悪かったので体調が悪いのかと確認がしたかっただけですわ」

 少し額に触れて熱があるのか確認したかっただけなのに…どうしてここまでややこしい事になったのか。
 でもまぁ、初対面で額に触れるってのも割とおかしい事よね。これは確かに私が悪いかもしれない。
 だがそれでもこの男は本当にうるさいぞ、そしてしつこい。

「嘘も大概にしてください! あれは確実に彼女に手を上げようとし──」
「王女殿下は何一つとして嘘は仰ってませんよ」

 男がまた大きな口で叫ぼうとした時。突然どこからとも無くケイリオルさんが現れたのだ。これは、まさかまさかの救いの手だ。
 男は開いた口が塞がらないまま固まり、私はケイリオルさんの登場に内心非常に驚いていた。

「ケイリオル、卿……どうしてここに?」
「王女殿下がついに城にお越しになられたと聞きまして、折角ですのでご案内でもしようかと思い…しかしいざ王女殿下を探していると何やら口論が聞こえたもので」
「それはどうも…」

 布で表情が見えない分、ケイリオルさんは身振り手振りで感情を伝えようとしていた。
 そして、チラリとケイリオルさんは固まる男の方を向いて、

「………財務部所属二等文官ボーラス・ゼンド。貴方はいつまで王女殿下に無礼を働いているのか──疾く、手を離しなさい」

 と背筋が凍えるような低く冷徹な声で告げた。
 男…名前なんだっけ、さっき聞いたのにもう忘れた……あー、ボーナスだっけ? ボーナスでいいか。
 ボーナスは慌てて私の手を離した。ようやく解放された手首には赤い痣が出来てしまっていた。
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