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第一章・救国の王女
48.野蛮王女の偽悪計画5
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「次は…こいつはユーキ、ハーフエルフだ。喋ると毒ばっか吐くが気にするな」
「……なんで隠してるのにハーフエルフだってわざわざ言う訳…?」
「あいつ相手に隠す必要も無ぇと思ってな」
「はぁ? あんたがそう思ってても僕はそう思わないんだけど……」
薄桃色の髪のユーキが、ボソボソと文句を零す。確かにディオの言う通り辛辣な人らしい。
前髪も鼻の頭辺りまであり、後ろ髪も肩の少し上辺りまであって、エルフの特徴とも言われる長い耳や美しい顔は見えない。
本当に隠していたようなのだが、ディオが初対面の私にあっさり話してしまったらしい。そりゃあ怒るわな。
しかしディオはユーキの主張を軽く無視して次に進む。
「まぁいいだろ別に。で、次だが…知ってるだろうが、こいつはバドールだ。料理が趣味らしい」
「バドールだ。よろしく頼む」
筋骨隆々のバドールが礼儀正しくお辞儀する。
なんと彼は料理が趣味らしい。うーむ、ギャップが凄い。
礼儀正しくお辞儀されては、お辞儀で返さねばなるまい。と思いながら小さくぺこりとする。
あの夜に会った事があるからか、バドールのターンはすぐに終わった。
「こっちはクラリス。まぁほとんど男だな」
「なっ!? 失礼だな!」
「後あれだ、バドールの女」
「ちょっ…!!? あんた本当に余計な事ばっか言うわね?!」
赤髪ショートヘアの美人、クラリスが髪と同じぐらい顔を真っ赤にしてディオの胸ぐらに掴みかかる。
チラリと横に立つバドールを見ると、同じように頬を赤らめて視線を泳がせていた。
はっはーん、いいじゃないの~。筋骨隆々で料理好きのバドールと美人で男勝り? なクラリスのカップル……うーむ、良き良き。
「離せクラリス、俺は次に移らないといかねぇんだ」
「チッ…」
舌打ちをしながらクラリスはディオから手を離した。
軽く咳払いをしながら、ディオは次の紹介に移った。
「よし、んで次はー…こっちがメアリードで隣のがその弟のルーシアンだ」
「えー本当に仲良くしなきゃだめ?」
「僕はお貴族様と仲良くするつもりなんてないから」
メアリードとルーシアンが冷たい視線を向けてくる。
それを聞いたハイラさんが「何と不敬な…」と呟いたので、私はそれに「気にしないで、ハイラ」と言う。
寧ろ今までの人達がおかしかっただけで、これが普通の反応なのだ。
ただでさえ自分勝手な帝国貴族達は一般市民に嫌われがちなのに…その親玉とも言える皇族だぞ私は。しかも父親は戦場の怪物、無情の皇帝、エリドル・ヘル・フォーロイトだぞ。
確かな為政者だが国民から恐れ敬われるあの男の実の娘が……それも近頃は野蛮王女と名高い私が、市民に好かれる訳がないのよ。
「あいつが勇敢に事を押し進めたから俺達はガキ共を助けられたし、クソ野郎を警備隊に突き出して謝礼金も貰えたんだぞ」
「でも王女なんでしょ?」
「僕達の事を下に見てる…と言うか人とも思ってないんだろ」
「おいてめぇ等!」
ディオがメアリードとルーシアン相手に凄む。それに二人は肩を跳ねさせて怯える様子を見せた。
私の存在のせいで仲がいい筈の人達に不和が生まれるのは凄く嫌だ。
「ディオ、私は大丈夫だよ。疎まれるのも嫌われるのも慣れてるから」
私の言葉に、何人もの人が目を見開く。
しかし今の私にとって、これに対する皆の感想なんてどうでもいい。憐憫も同情もいらない、私は疎まれるのも嫌われるのもどうとも思ってないから。
スカートを揺らして立ち上がり、メアリードとルーシアンの方へと歩み寄る。
「でも…ろくに私の事を知りもしない人に勝手に判断されるのはとても癪だわ。めっちゃムカつく、何勝手に人の事語ってんだって言ってやりたい。だから私に、ちょっと色々話す機会を頂戴」
驚くディオの顔を見上げ私はそう頼む。ディオは少し笑った後、「勝手にしろ」と言った。
ディオの許可も降りた事だ…こうなったらとことん言ってやろう、私の本音を。
「貴方達は貴族が嫌いなのよね? 奇遇だわ、私も貴族って大っ嫌いなのよ。と言うか父と兄がそもそも嫌いだもの」
王女である私から発せられた父と兄が嫌いと言う言葉……それを聞き、言葉の意味を理解した人達の顔が青くなってゆく。
しかしそれも無視して私は続けた。
「私の事を殺そうとするような家族をどうやって好きになれって言うの? 無理に決まってるでしょ。貴族達だって一部を除いて権力と金に目が無い乞食でしか無いじゃない。生きる為に権力や金が必要なのは分かるけれど、貴族達は執着し過ぎだと思うわ。あんなの砂糖に群がる蟻みたいなものよ。ねぇ、貴方達もそう思うでしょ?」
「えっ?」
「は?」
突然問いかけられたメアリードとルーシアンは困ったような声をあげた。
「貴族達はね、一度も社交界に出た事も無ければほとんど人前に出た事も無い私の事をさも全部知ってるかのように話すみたいなの。それもね、私の事ならいくら貶しても皇帝も皇太子も何も言わないからってさー……私、一度も出た事の無い社交界で『皇家の恥晒しの野蛮王女』って言われてるのよね。本当にまともな人間なら、皇帝から何も言われないからって王女の事を貶したりしないでしょう?」
と偉そうに講釈を垂れる私ではあるが、他ならぬ自身もまた噂だけでものを語っているのだ。
実際に社交界でそれを耳に目にした訳でもないのに…さも被害者のように語る。我ながら本当にろくでもないわね。
「帝国の王女なんて肩書きはハリボテなの。確かに見てくれを取り繕う為の金や権限はあるけれど…実際の私は、皇家からも愚かな貴族達からも見下された出来損ない。いつ皇帝に不要と廃棄されるかも分からないゴミなのよね」
私は聞いた側がゾッとするような自虐を嬉々として語る。こんな愚痴、普段なら絶対言えないからね。この滅多に無い機会に、こぞって私は今までの不満を爆発させていた。
そんな私の周りで、絶対にこんな事聞きたく無かったであろう一般市民の皆さんが顔面蒼白で言葉を失っていた。
ちょっと申し訳ないと思ったけれど、あともう少しだけ喋らせて欲しい。
実は一番大事な事をまだ言えてないんだ。
「だからね、メアリード、ルーシアン。私からすれば貴族だから~とかそう言う言葉は──これ以上無い屈辱でしか無いわ。私をあんな愚鈍な外道共と一緒にするな」
嬉しさからニコニコしながら話していたものの、最後に私はその笑顔を引っ込めた。
もちろん、メイシアやシャンパージュ伯爵のように良い貴族がいる事もちゃんと知っている。だがそれでも…野蛮王女の噂の存在が、一定数愚かな貴族がいる事を裏付けているのだ。
さて。ディオのように凄んでみたつもりなのだが効果はあるだろうか……お、メアリードが怯えるように肩を震わせている。
ルーシアンは、そんなメアリードの手をぎゅっと握ってこちらをきつく睨んでくる。
「…っ、じゃあ、僕達を罰するのか? 皇族を侮辱したから!」
「そんな事しないわよ」
「だから貴族は嫌なんだ──って、え…?」
「たかがこれだけの事で罰するとかどれだけ狭量なのよ」
唖然とするルーシアンを見ながら、はぁ。と大きくため息を吐く。
私程寛容な王女、そう滅多にいないわよ?
開いた口が塞がらないルーシアンと代わって、今度はメアリードがこちらを睨む。
「で、でも貴族の人達はアタシ達が近くを通っただけで蹴ったり色々言ってきたりして…」
「だーかーらー、その貴族達と私を同列に語るなって言ってるの」
「でも……」
メアリードが困ったように目を伏せた。私の話を聞いて、少しは考えを改めてくれたのかもしれない。
よぅしもう一押しだ、と私は彼女達に向けて言う。
「貴女達の思う貴族や皇族として私を見るんじゃなくて、今貴女達の目の前にいる私自身を見なさい。確かに私は自分勝手で馬鹿な王女だけど…少なくとも、貴女達の思うような貴族達とは違う事を知って欲しい」
ルーシアンとメアリードが、目を見開いてばっと顔を上げる。
その瞳には私が、私だけが映っていた。
「それでもどうしても貴族が憎いとか、許せないとか、そう思うなら──いくらでも私を憎みなさい。貴族達はどうせ身に覚えが無いとかふざけた事を吐かすでしょうから、貴方達の怨憎が失われないよう、王女として私が矢面になるわ……責任を持って、最後まで貴方達の必要悪でい続けてみせるから」
私は笑って自分の胸を叩く。嫌われるのにも疎まれるのにも慣れている私こそ必要悪と言う存在に適任だと思うのよね。
私にだって傷つく心が無い訳ではないけれど…ま、この血筋のおかげでそれなりの鋼メンタルを得られた気もするし、普通の人にやらせるぐらいなら私がやらなきゃね。
「──メアリー、シアン。歳下の王女殿下にここまで言わせて、満足か」
聞こえてくるものは外の喧騒だけの、静まり返った空間にて。突然、ずっと口を真一文字に結んでいた青い髪の美丈夫が口を開いた。
……ん? てかこの二人、私よりも歳上なの? マジですか?
と変な所で頭に言葉が引っ掛かっていると、彼の言葉にメアリードとルーシアンは涙目で答えた。
「……ぅ…っ、だってぇ…!」
「……僕達、悪くないもん…っ」
しかし青い髪の美丈夫はそんな二人の態度を許さなかった。
「…王女殿下が寛容な御心で許してくれたのだぞ、それなのに謝罪も無しか」
今にも泣き出しそうな二人に向けて厳しく告げる。
だがそれには私も言いたい事があって、空気も読まずに口を挟んだ。
「あの、謝罪はいらないので。二人が言った事は確かに正しい事だし…そりゃあ確かにちょっとはイラッとしたけれど…でも二人に取り立てて責めるような非は無いと思いますよ、私は」
「…本当に宜しいのでしょうか? この二人は王女である貴女に無礼を働いたのですよ」
「私が無礼と思っていないから問題無いのでは? 公の場ならまだしも、ここはディオの家ですし」
美丈夫が切れ長の目で私を見下ろす。私は変わらず笑顔で対応する。
しかしそれも束の間、美丈夫が突然膝を折り目の前で跪いた。私は驚きのあまり、「ぅえっへ?!!」と中々気色悪い叫び声を上げた。
そして、美丈夫が顔を下げたまま話す。
「……メアリーとシアンを許してくださった事、心より感謝致します。私はイリオーデ、慈悲深き王女殿下に忠誠を誓いたく申し上げます」
イリオーデの突然の爆弾発言に、その場にいたほとんどの人が口を揃えて叫んだ。
「「「「「はぁっ!!?」」」」」
……勿論私も叫んだ。何が何だか分からない。
本音を好き勝手声にしてたら子供を泣かせてしまって、終いには初対面のイケメンに忠誠を誓いたいって言われるとか何それ訳分からん!
「……なんで隠してるのにハーフエルフだってわざわざ言う訳…?」
「あいつ相手に隠す必要も無ぇと思ってな」
「はぁ? あんたがそう思ってても僕はそう思わないんだけど……」
薄桃色の髪のユーキが、ボソボソと文句を零す。確かにディオの言う通り辛辣な人らしい。
前髪も鼻の頭辺りまであり、後ろ髪も肩の少し上辺りまであって、エルフの特徴とも言われる長い耳や美しい顔は見えない。
本当に隠していたようなのだが、ディオが初対面の私にあっさり話してしまったらしい。そりゃあ怒るわな。
しかしディオはユーキの主張を軽く無視して次に進む。
「まぁいいだろ別に。で、次だが…知ってるだろうが、こいつはバドールだ。料理が趣味らしい」
「バドールだ。よろしく頼む」
筋骨隆々のバドールが礼儀正しくお辞儀する。
なんと彼は料理が趣味らしい。うーむ、ギャップが凄い。
礼儀正しくお辞儀されては、お辞儀で返さねばなるまい。と思いながら小さくぺこりとする。
あの夜に会った事があるからか、バドールのターンはすぐに終わった。
「こっちはクラリス。まぁほとんど男だな」
「なっ!? 失礼だな!」
「後あれだ、バドールの女」
「ちょっ…!!? あんた本当に余計な事ばっか言うわね?!」
赤髪ショートヘアの美人、クラリスが髪と同じぐらい顔を真っ赤にしてディオの胸ぐらに掴みかかる。
チラリと横に立つバドールを見ると、同じように頬を赤らめて視線を泳がせていた。
はっはーん、いいじゃないの~。筋骨隆々で料理好きのバドールと美人で男勝り? なクラリスのカップル……うーむ、良き良き。
「離せクラリス、俺は次に移らないといかねぇんだ」
「チッ…」
舌打ちをしながらクラリスはディオから手を離した。
軽く咳払いをしながら、ディオは次の紹介に移った。
「よし、んで次はー…こっちがメアリードで隣のがその弟のルーシアンだ」
「えー本当に仲良くしなきゃだめ?」
「僕はお貴族様と仲良くするつもりなんてないから」
メアリードとルーシアンが冷たい視線を向けてくる。
それを聞いたハイラさんが「何と不敬な…」と呟いたので、私はそれに「気にしないで、ハイラ」と言う。
寧ろ今までの人達がおかしかっただけで、これが普通の反応なのだ。
ただでさえ自分勝手な帝国貴族達は一般市民に嫌われがちなのに…その親玉とも言える皇族だぞ私は。しかも父親は戦場の怪物、無情の皇帝、エリドル・ヘル・フォーロイトだぞ。
確かな為政者だが国民から恐れ敬われるあの男の実の娘が……それも近頃は野蛮王女と名高い私が、市民に好かれる訳がないのよ。
「あいつが勇敢に事を押し進めたから俺達はガキ共を助けられたし、クソ野郎を警備隊に突き出して謝礼金も貰えたんだぞ」
「でも王女なんでしょ?」
「僕達の事を下に見てる…と言うか人とも思ってないんだろ」
「おいてめぇ等!」
ディオがメアリードとルーシアン相手に凄む。それに二人は肩を跳ねさせて怯える様子を見せた。
私の存在のせいで仲がいい筈の人達に不和が生まれるのは凄く嫌だ。
「ディオ、私は大丈夫だよ。疎まれるのも嫌われるのも慣れてるから」
私の言葉に、何人もの人が目を見開く。
しかし今の私にとって、これに対する皆の感想なんてどうでもいい。憐憫も同情もいらない、私は疎まれるのも嫌われるのもどうとも思ってないから。
スカートを揺らして立ち上がり、メアリードとルーシアンの方へと歩み寄る。
「でも…ろくに私の事を知りもしない人に勝手に判断されるのはとても癪だわ。めっちゃムカつく、何勝手に人の事語ってんだって言ってやりたい。だから私に、ちょっと色々話す機会を頂戴」
驚くディオの顔を見上げ私はそう頼む。ディオは少し笑った後、「勝手にしろ」と言った。
ディオの許可も降りた事だ…こうなったらとことん言ってやろう、私の本音を。
「貴方達は貴族が嫌いなのよね? 奇遇だわ、私も貴族って大っ嫌いなのよ。と言うか父と兄がそもそも嫌いだもの」
王女である私から発せられた父と兄が嫌いと言う言葉……それを聞き、言葉の意味を理解した人達の顔が青くなってゆく。
しかしそれも無視して私は続けた。
「私の事を殺そうとするような家族をどうやって好きになれって言うの? 無理に決まってるでしょ。貴族達だって一部を除いて権力と金に目が無い乞食でしか無いじゃない。生きる為に権力や金が必要なのは分かるけれど、貴族達は執着し過ぎだと思うわ。あんなの砂糖に群がる蟻みたいなものよ。ねぇ、貴方達もそう思うでしょ?」
「えっ?」
「は?」
突然問いかけられたメアリードとルーシアンは困ったような声をあげた。
「貴族達はね、一度も社交界に出た事も無ければほとんど人前に出た事も無い私の事をさも全部知ってるかのように話すみたいなの。それもね、私の事ならいくら貶しても皇帝も皇太子も何も言わないからってさー……私、一度も出た事の無い社交界で『皇家の恥晒しの野蛮王女』って言われてるのよね。本当にまともな人間なら、皇帝から何も言われないからって王女の事を貶したりしないでしょう?」
と偉そうに講釈を垂れる私ではあるが、他ならぬ自身もまた噂だけでものを語っているのだ。
実際に社交界でそれを耳に目にした訳でもないのに…さも被害者のように語る。我ながら本当にろくでもないわね。
「帝国の王女なんて肩書きはハリボテなの。確かに見てくれを取り繕う為の金や権限はあるけれど…実際の私は、皇家からも愚かな貴族達からも見下された出来損ない。いつ皇帝に不要と廃棄されるかも分からないゴミなのよね」
私は聞いた側がゾッとするような自虐を嬉々として語る。こんな愚痴、普段なら絶対言えないからね。この滅多に無い機会に、こぞって私は今までの不満を爆発させていた。
そんな私の周りで、絶対にこんな事聞きたく無かったであろう一般市民の皆さんが顔面蒼白で言葉を失っていた。
ちょっと申し訳ないと思ったけれど、あともう少しだけ喋らせて欲しい。
実は一番大事な事をまだ言えてないんだ。
「だからね、メアリード、ルーシアン。私からすれば貴族だから~とかそう言う言葉は──これ以上無い屈辱でしか無いわ。私をあんな愚鈍な外道共と一緒にするな」
嬉しさからニコニコしながら話していたものの、最後に私はその笑顔を引っ込めた。
もちろん、メイシアやシャンパージュ伯爵のように良い貴族がいる事もちゃんと知っている。だがそれでも…野蛮王女の噂の存在が、一定数愚かな貴族がいる事を裏付けているのだ。
さて。ディオのように凄んでみたつもりなのだが効果はあるだろうか……お、メアリードが怯えるように肩を震わせている。
ルーシアンは、そんなメアリードの手をぎゅっと握ってこちらをきつく睨んでくる。
「…っ、じゃあ、僕達を罰するのか? 皇族を侮辱したから!」
「そんな事しないわよ」
「だから貴族は嫌なんだ──って、え…?」
「たかがこれだけの事で罰するとかどれだけ狭量なのよ」
唖然とするルーシアンを見ながら、はぁ。と大きくため息を吐く。
私程寛容な王女、そう滅多にいないわよ?
開いた口が塞がらないルーシアンと代わって、今度はメアリードがこちらを睨む。
「で、でも貴族の人達はアタシ達が近くを通っただけで蹴ったり色々言ってきたりして…」
「だーかーらー、その貴族達と私を同列に語るなって言ってるの」
「でも……」
メアリードが困ったように目を伏せた。私の話を聞いて、少しは考えを改めてくれたのかもしれない。
よぅしもう一押しだ、と私は彼女達に向けて言う。
「貴女達の思う貴族や皇族として私を見るんじゃなくて、今貴女達の目の前にいる私自身を見なさい。確かに私は自分勝手で馬鹿な王女だけど…少なくとも、貴女達の思うような貴族達とは違う事を知って欲しい」
ルーシアンとメアリードが、目を見開いてばっと顔を上げる。
その瞳には私が、私だけが映っていた。
「それでもどうしても貴族が憎いとか、許せないとか、そう思うなら──いくらでも私を憎みなさい。貴族達はどうせ身に覚えが無いとかふざけた事を吐かすでしょうから、貴方達の怨憎が失われないよう、王女として私が矢面になるわ……責任を持って、最後まで貴方達の必要悪でい続けてみせるから」
私は笑って自分の胸を叩く。嫌われるのにも疎まれるのにも慣れている私こそ必要悪と言う存在に適任だと思うのよね。
私にだって傷つく心が無い訳ではないけれど…ま、この血筋のおかげでそれなりの鋼メンタルを得られた気もするし、普通の人にやらせるぐらいなら私がやらなきゃね。
「──メアリー、シアン。歳下の王女殿下にここまで言わせて、満足か」
聞こえてくるものは外の喧騒だけの、静まり返った空間にて。突然、ずっと口を真一文字に結んでいた青い髪の美丈夫が口を開いた。
……ん? てかこの二人、私よりも歳上なの? マジですか?
と変な所で頭に言葉が引っ掛かっていると、彼の言葉にメアリードとルーシアンは涙目で答えた。
「……ぅ…っ、だってぇ…!」
「……僕達、悪くないもん…っ」
しかし青い髪の美丈夫はそんな二人の態度を許さなかった。
「…王女殿下が寛容な御心で許してくれたのだぞ、それなのに謝罪も無しか」
今にも泣き出しそうな二人に向けて厳しく告げる。
だがそれには私も言いたい事があって、空気も読まずに口を挟んだ。
「あの、謝罪はいらないので。二人が言った事は確かに正しい事だし…そりゃあ確かにちょっとはイラッとしたけれど…でも二人に取り立てて責めるような非は無いと思いますよ、私は」
「…本当に宜しいのでしょうか? この二人は王女である貴女に無礼を働いたのですよ」
「私が無礼と思っていないから問題無いのでは? 公の場ならまだしも、ここはディオの家ですし」
美丈夫が切れ長の目で私を見下ろす。私は変わらず笑顔で対応する。
しかしそれも束の間、美丈夫が突然膝を折り目の前で跪いた。私は驚きのあまり、「ぅえっへ?!!」と中々気色悪い叫び声を上げた。
そして、美丈夫が顔を下げたまま話す。
「……メアリーとシアンを許してくださった事、心より感謝致します。私はイリオーデ、慈悲深き王女殿下に忠誠を誓いたく申し上げます」
イリオーデの突然の爆弾発言に、その場にいたほとんどの人が口を揃えて叫んだ。
「「「「「はぁっ!!?」」」」」
……勿論私も叫んだ。何が何だか分からない。
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