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第一章・救国の王女
46.野蛮王女の偽悪計画3
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「…お前……本当に貴族なんだな…」
「えぇ、まぁ」
私の事業案を聞いてディオさんが頭を抱えた。
しかしまだ話は終わっていないので、私は続ける。
「話は戻るのですが、建設予定の孤児院で孤児の子供達を受け入れようと思っておりまして。その孤児院の経営の方をこの街の方にお任せしたいんです。孤児院だけでなく大衆浴場の方もですが…」
少しでも働き口を増やしたくて、私は施設の従業員は可能な限り現地の方々を雇いたいと考えていた。
勿論その大元の…店長のような立ち位置に立つ人はこちらで見繕うつもりではあるが……それでも、一人でも多くの人を雇えたらなと思う。
「………もう俺にはお前が分かんねぇよ──なぁ、お前は何でそこまで他人の為に動けるんだ? あの夜と言い、これと言い……」
ディオさんの暗い色の瞳が私を映す。
桃色の髪に寒色の瞳のもう一人の『私』は、とても穏やかに微笑んでいた。
「──自分の為ですよ。最初から、私はただ…自分の目的の為に動いていましたから。私はどうしようもなく自分勝手な偽善者です。皆さんが思うような良く出来た人間では無いんですよ」
今までハイラさんにもマクベスタにも言ってこなかった、私の様々な言動の理由。
「……まぁ、よくある話なんですけどね。私、そのうち実の父か兄に殺されるんですよ」
場合によってはその限りでは無いが、アミレスが若くして誰かに殺されるのはゲームで定められた事。なんとかその運命を変えようと私は奔走しているのだ。
私の正体を知る人達は、その言葉に酷く動揺していた。
だが、私の正体を知らないディオさん達もそれには驚いたようで、
「…実の父と兄に殺される? どう言う事だ、それは」
「家族仲があまり良くない…と言う事だろうか?」
と口々に呟いていた。その疑問に答えるべく、私は軽く身の上を話す事にした。
「父と兄が私を酷く疎み嫌ってるんです。今はまだ父に道具として使い道がある、すなわち不要とされていないので私はこうして生きていますが、それもいつまで続くか分かりません。父に不要とされたら簡単に処理されてしまう使い捨ての道具、それが私だからです」
室内が水を打ったようにしんっと静まり返る。
ディオさんは苦虫を噛み潰したような表情で強く握りこぶしを震わせていた。
ハイラさんは顔を憤怒に歪め、マクベスタは顔を真っ青にしていた。
「ですが私は死にたくありません。親へと惨めに愛を求め続けて結局殺されるような人生は嫌なんです。私は、もう親からの愛も兄からの愛も誰からの愛も要らない…ただ私が幸せになれればそれで十分なんです。自分が無事生き延びて幸せになる為に、私は今まで一人で色々やってきたのです」
淡々と演説する。これは紛れもない私の意思。今までシルフにしか話して来なかった、私の目的。
奴隷商の事も、この貧民街大改造計画も、全部私がただやりたくてやってるだけに過ぎない。
そこに、皆が求めるような優しさや美しさや高尚さは全くない。
「ですのでディオさんの問への答えは──自分の為、なのです。これで分かったでしょう、私は良い人などでは決して無いのです。だって私は極悪非道冷酷無比な血筋の人間…どれだけいい人ぶった所で、結局は偽善者が精一杯ですから」
悪漢達に囲まれた時や、奴隷商の拠点で暴れた時、私はそれを心底感じてしまった。
──この体は、やはり冷酷無比なフォーロイトの血筋なのだと。
何せ、いざ実戦を前にして私の体は人を傷つける事になんの抵抗も悔恨も覚えなかった。
躊躇ってはいけないと意識していたとは言え、私の体は……私の意識までもが、他者を傷つける事をまるで当然のように捉え、本当に躊躇なく攻撃出来てしまったのだ。
まだ人を殺した事は無いのだが、この様子だと人を殺しても変わりないのだろう。
何も感じず、何も思わず、ただ人を殺すだけの化け物になってしまうのだろう…それこそ、我が父、無情の皇帝エリドル・ヘル・フォーロイトのように。
そんな人の心が無い私がどれだけ善人ぶろうが、結局は偽善者が精一杯なのだ。
「…ガキにそこまで言わせるとか、どうなってんだよ……お前の家は…っ」
ディオさんの眉間にどんどん強い皺が作られていく。まぁ、いずれ話す事になる……と言うか、この後話す予定ではあったし、もう私の事話しちゃってもいいか。
シャンパージュ伯爵邸での時のように、私はシルフに魔法を解くようにお願いする。
…ケイリオルさんに正体がバレないようにしろって言われてるけど、今後の事を考えるとここで話しておいた方がいいと思うのよ。
私の髪が銀色に変わった瞬間、ディオさんとラークさんの表情が一気に変わる。声にならない驚愕が、彼等から発せられる。
「な、おま……それ……!?」
「ディオさん達のお察しの通りですよ」
私を指さしてディオさんが魚のように口をパクパクとさせている。
「改めまして……私は、アミレス・ヘル・フォーロイト。一応この国の王女です」
そう名乗ると、ディオさん達が凄まじい勢いで頭を下げてしまった。
ディオさんに至っては、強く額を机に打ち付けていた。
「えっ、ちょ…」
「──今までの数々の無礼、心よりお詫び申し上げます。まさか王女殿下とは露知らず」
「我々の非礼を、どうかお許し願えませんか…王女殿下」
「ま、待ってください別にそんな」
罵倒されたり嫌われたりぐらいは覚悟していたのに、ディオさん達の反応は予想外の……いや、ある意味予想通りのものだった。
二人はかなりまともな大人だった。だからこそ、私が王女と分かってすぐにこのような態度になったのだろう。
「怒るつもりなんて全くありませんよ! そもそも正体を隠してたのは私の方ですし、ディオさん達に非はありません!! だからそうやって頭を下げるのをやめてください!」
机をバンッと叩きながら立ち上がり、私は叫ぶ。
「私相手に敬語を使わないでください。無理に態度を取り繕わないでください。どうか今まで通りに接してください………何があろうと、私はそれを一切咎めませんので!!」
一気に捲し立てた影響か、肩を小さく上下させ浅く呼吸を繰り返す。そして落ち着いてからゆっくりと座り直す。
あまりにも必死な私に、ディオさんは若干引き気味でおずおずと返してきた。
「……本当に皇族なのか?」
「一応は皇族ですけど、少なくともディオさん達の前にいる時はただのスミレとして振舞ってるつもりです。突然王女扱いされても困ります」
「っあー……困ったなァ…」
困ったなと言いながらまたもや頭を抱えるディオさんを見て、私は悪い事しちゃったなと申し訳ない気持ちになった。
そこで私は、肩に乗り移っていたシルフをひょいっと両手で掴んで、小声で話しかける。
「……ねぇシルフ、もう一回魔法をかけて貰えたりしませんかね…?」
「はぁ。本当に行き当たりばったりだねぇ、君は」
「うっ、ごもっともでございます…」
シルフから耳の痛い言葉が飛んでくる。しかしそう言いながらもシルフはちゃんと魔法をかけてくれて、私の髪はまた桃色へと変わっていった。
本当にシルフは凄いなぁ……平然とこんな凄い魔法を使いこなすんだから。流石は精霊さんね。
さてシルフのおかげで私はまたスミレになれた訳だが…何故わざわざ戻ったかと言うと。
「ごほん、これでどうですかディオさん。今の私はどこにでもいるごくごく普通の平凡な女・スミレですよ!」
髪の毛を一房手に掴んで、私はドヤ顔でそうアピールする。
しかしそれはあまり意味を成さなかったらしい。ディオさんは俯かせた顔を上げることなく零した。
「……お前のどこが平凡な女なんだ…ああもう、分かったからとりあえず、俺達をさん付けで呼ぶな。敬語も使うな。つぅかそもそもなんでお前は俺達相手に敬語なんて使ってたんだよ」
「年上に敬意を払うのは当然でしょう?」
首を傾げながら、私はそう返す。それにはその場にいた人達全てが目を丸くしていた…何かおかしい事言ったかしら。
敬意を払うべき相手には敬意を払うのが当然と考える私は、表ではハイラと呼んでいても心の中ではハイラさんと呼んでいる。やっぱりその辺の年功序列的なのは大事にしていきたいのよね、元日本人として。
「…とにかく敬語とさん付けはやめろ、俺達の寿命が縮むんだ」
「………分かったわよ。ディオ、これでいいの?」
ディオさんが何度もそう繰り返すので、私は渋々それに従う事にした。
「おう、それでいい。基本的にはどっちも敬語は無しだ、いいな?」
「別にいいけど」
ディオ達がほっとしたように大きく息を吐く。
私はもう名乗ったので、続いてマクベスタとハイラさんの紹介をする事となった。ハイラさんは見た通りのパーフェクトメイドウーマンなので彼等もあまり驚いていなかったが、マクベスタがオセロマイトの第二王子だと告げると、顔を真っ青にしてたまげていた。
そして肩を小さく震わせながら、
「──王女とか王子が軽率にこんな所に来んじゃねぇーッ!!」
とディオが声の限り叫んでいた。
まぁ、私はともかくマクベスタは賓客だからな…暇してそうだったからって連れて来たけれど、本来こんな所にいるはずの無い存在だし。
だがしかし、これからの事業の事を考えると私が貧民街に来られないというのは些か不便だ。だがディオは貧民街に来るなと言う。ふむ、どうしたものか。
「あっ、そうだ──」
かっこよく指をパチンっと鳴らし、私はディオ達を皇宮に呼び出すのはどう? と提案しようとした。
しかしそれはハイラさんによって妨げられる。
「姫様。彼等を皇宮に招くのは不可能ですよ」
「私の心読んだ!?」
体をひねり、勢いよく彼女の方を振り向く。
ハイラさんは淡々とした様子でそう話すが、どうして当たり前のように私の思考を先読みしているんだろうか、このメイドは。
とハイラさんの能力に恐れおののいた所、ディオ達が気が乗らなさそうな顔で呟いた。
「呼ばれても行く訳ねぇだろ、皇宮とか」
「俺達にはちょっとねー…」
え、来てくれないの……? まぁそりゃあ嫌よね、なんてったって無情の皇帝の家だし…くっそなんで私の父親はあの男なんだ…ッ!
くぅっ! と奥歯を噛み締めていたら、本日の段取りを把握しているハイラさんが、
「姫様、例の件の方はお話されなくても宜しいのですか?」
と重要な件の事を耳打ちして来た。私は「あ」と間抜けな声を漏らしつつそれを思い出す。
そうだった、ディオ達に話さなければならない事があるんだった。…しかし、それを話すにはまだ人が足りない。
「ディオさ…じゃなくて、ディオ。あの夜貴方と一緒に子供達を逃がしてくれた仲間の人達をここに呼んでくれないかしら?」
「アイツ等をか? 別に構わんが、何でだ」
「皆さんに話したい事がありまして」
「ふぅん。ラーク、頼んだ」
ディオが投げやりにそう頼むと、ラークは慣れた様子で「はいはい分かったよ」と言って外に出ていった。
そして暫くして外から賑やかな話声が聞こえてきた。
ギィッ…と軋む木の音と共に家の扉を開けて、あの夜に見た人達が一斉に顔を出したのだ。
「えぇ、まぁ」
私の事業案を聞いてディオさんが頭を抱えた。
しかしまだ話は終わっていないので、私は続ける。
「話は戻るのですが、建設予定の孤児院で孤児の子供達を受け入れようと思っておりまして。その孤児院の経営の方をこの街の方にお任せしたいんです。孤児院だけでなく大衆浴場の方もですが…」
少しでも働き口を増やしたくて、私は施設の従業員は可能な限り現地の方々を雇いたいと考えていた。
勿論その大元の…店長のような立ち位置に立つ人はこちらで見繕うつもりではあるが……それでも、一人でも多くの人を雇えたらなと思う。
「………もう俺にはお前が分かんねぇよ──なぁ、お前は何でそこまで他人の為に動けるんだ? あの夜と言い、これと言い……」
ディオさんの暗い色の瞳が私を映す。
桃色の髪に寒色の瞳のもう一人の『私』は、とても穏やかに微笑んでいた。
「──自分の為ですよ。最初から、私はただ…自分の目的の為に動いていましたから。私はどうしようもなく自分勝手な偽善者です。皆さんが思うような良く出来た人間では無いんですよ」
今までハイラさんにもマクベスタにも言ってこなかった、私の様々な言動の理由。
「……まぁ、よくある話なんですけどね。私、そのうち実の父か兄に殺されるんですよ」
場合によってはその限りでは無いが、アミレスが若くして誰かに殺されるのはゲームで定められた事。なんとかその運命を変えようと私は奔走しているのだ。
私の正体を知る人達は、その言葉に酷く動揺していた。
だが、私の正体を知らないディオさん達もそれには驚いたようで、
「…実の父と兄に殺される? どう言う事だ、それは」
「家族仲があまり良くない…と言う事だろうか?」
と口々に呟いていた。その疑問に答えるべく、私は軽く身の上を話す事にした。
「父と兄が私を酷く疎み嫌ってるんです。今はまだ父に道具として使い道がある、すなわち不要とされていないので私はこうして生きていますが、それもいつまで続くか分かりません。父に不要とされたら簡単に処理されてしまう使い捨ての道具、それが私だからです」
室内が水を打ったようにしんっと静まり返る。
ディオさんは苦虫を噛み潰したような表情で強く握りこぶしを震わせていた。
ハイラさんは顔を憤怒に歪め、マクベスタは顔を真っ青にしていた。
「ですが私は死にたくありません。親へと惨めに愛を求め続けて結局殺されるような人生は嫌なんです。私は、もう親からの愛も兄からの愛も誰からの愛も要らない…ただ私が幸せになれればそれで十分なんです。自分が無事生き延びて幸せになる為に、私は今まで一人で色々やってきたのです」
淡々と演説する。これは紛れもない私の意思。今までシルフにしか話して来なかった、私の目的。
奴隷商の事も、この貧民街大改造計画も、全部私がただやりたくてやってるだけに過ぎない。
そこに、皆が求めるような優しさや美しさや高尚さは全くない。
「ですのでディオさんの問への答えは──自分の為、なのです。これで分かったでしょう、私は良い人などでは決して無いのです。だって私は極悪非道冷酷無比な血筋の人間…どれだけいい人ぶった所で、結局は偽善者が精一杯ですから」
悪漢達に囲まれた時や、奴隷商の拠点で暴れた時、私はそれを心底感じてしまった。
──この体は、やはり冷酷無比なフォーロイトの血筋なのだと。
何せ、いざ実戦を前にして私の体は人を傷つける事になんの抵抗も悔恨も覚えなかった。
躊躇ってはいけないと意識していたとは言え、私の体は……私の意識までもが、他者を傷つける事をまるで当然のように捉え、本当に躊躇なく攻撃出来てしまったのだ。
まだ人を殺した事は無いのだが、この様子だと人を殺しても変わりないのだろう。
何も感じず、何も思わず、ただ人を殺すだけの化け物になってしまうのだろう…それこそ、我が父、無情の皇帝エリドル・ヘル・フォーロイトのように。
そんな人の心が無い私がどれだけ善人ぶろうが、結局は偽善者が精一杯なのだ。
「…ガキにそこまで言わせるとか、どうなってんだよ……お前の家は…っ」
ディオさんの眉間にどんどん強い皺が作られていく。まぁ、いずれ話す事になる……と言うか、この後話す予定ではあったし、もう私の事話しちゃってもいいか。
シャンパージュ伯爵邸での時のように、私はシルフに魔法を解くようにお願いする。
…ケイリオルさんに正体がバレないようにしろって言われてるけど、今後の事を考えるとここで話しておいた方がいいと思うのよ。
私の髪が銀色に変わった瞬間、ディオさんとラークさんの表情が一気に変わる。声にならない驚愕が、彼等から発せられる。
「な、おま……それ……!?」
「ディオさん達のお察しの通りですよ」
私を指さしてディオさんが魚のように口をパクパクとさせている。
「改めまして……私は、アミレス・ヘル・フォーロイト。一応この国の王女です」
そう名乗ると、ディオさん達が凄まじい勢いで頭を下げてしまった。
ディオさんに至っては、強く額を机に打ち付けていた。
「えっ、ちょ…」
「──今までの数々の無礼、心よりお詫び申し上げます。まさか王女殿下とは露知らず」
「我々の非礼を、どうかお許し願えませんか…王女殿下」
「ま、待ってください別にそんな」
罵倒されたり嫌われたりぐらいは覚悟していたのに、ディオさん達の反応は予想外の……いや、ある意味予想通りのものだった。
二人はかなりまともな大人だった。だからこそ、私が王女と分かってすぐにこのような態度になったのだろう。
「怒るつもりなんて全くありませんよ! そもそも正体を隠してたのは私の方ですし、ディオさん達に非はありません!! だからそうやって頭を下げるのをやめてください!」
机をバンッと叩きながら立ち上がり、私は叫ぶ。
「私相手に敬語を使わないでください。無理に態度を取り繕わないでください。どうか今まで通りに接してください………何があろうと、私はそれを一切咎めませんので!!」
一気に捲し立てた影響か、肩を小さく上下させ浅く呼吸を繰り返す。そして落ち着いてからゆっくりと座り直す。
あまりにも必死な私に、ディオさんは若干引き気味でおずおずと返してきた。
「……本当に皇族なのか?」
「一応は皇族ですけど、少なくともディオさん達の前にいる時はただのスミレとして振舞ってるつもりです。突然王女扱いされても困ります」
「っあー……困ったなァ…」
困ったなと言いながらまたもや頭を抱えるディオさんを見て、私は悪い事しちゃったなと申し訳ない気持ちになった。
そこで私は、肩に乗り移っていたシルフをひょいっと両手で掴んで、小声で話しかける。
「……ねぇシルフ、もう一回魔法をかけて貰えたりしませんかね…?」
「はぁ。本当に行き当たりばったりだねぇ、君は」
「うっ、ごもっともでございます…」
シルフから耳の痛い言葉が飛んでくる。しかしそう言いながらもシルフはちゃんと魔法をかけてくれて、私の髪はまた桃色へと変わっていった。
本当にシルフは凄いなぁ……平然とこんな凄い魔法を使いこなすんだから。流石は精霊さんね。
さてシルフのおかげで私はまたスミレになれた訳だが…何故わざわざ戻ったかと言うと。
「ごほん、これでどうですかディオさん。今の私はどこにでもいるごくごく普通の平凡な女・スミレですよ!」
髪の毛を一房手に掴んで、私はドヤ顔でそうアピールする。
しかしそれはあまり意味を成さなかったらしい。ディオさんは俯かせた顔を上げることなく零した。
「……お前のどこが平凡な女なんだ…ああもう、分かったからとりあえず、俺達をさん付けで呼ぶな。敬語も使うな。つぅかそもそもなんでお前は俺達相手に敬語なんて使ってたんだよ」
「年上に敬意を払うのは当然でしょう?」
首を傾げながら、私はそう返す。それにはその場にいた人達全てが目を丸くしていた…何かおかしい事言ったかしら。
敬意を払うべき相手には敬意を払うのが当然と考える私は、表ではハイラと呼んでいても心の中ではハイラさんと呼んでいる。やっぱりその辺の年功序列的なのは大事にしていきたいのよね、元日本人として。
「…とにかく敬語とさん付けはやめろ、俺達の寿命が縮むんだ」
「………分かったわよ。ディオ、これでいいの?」
ディオさんが何度もそう繰り返すので、私は渋々それに従う事にした。
「おう、それでいい。基本的にはどっちも敬語は無しだ、いいな?」
「別にいいけど」
ディオ達がほっとしたように大きく息を吐く。
私はもう名乗ったので、続いてマクベスタとハイラさんの紹介をする事となった。ハイラさんは見た通りのパーフェクトメイドウーマンなので彼等もあまり驚いていなかったが、マクベスタがオセロマイトの第二王子だと告げると、顔を真っ青にしてたまげていた。
そして肩を小さく震わせながら、
「──王女とか王子が軽率にこんな所に来んじゃねぇーッ!!」
とディオが声の限り叫んでいた。
まぁ、私はともかくマクベスタは賓客だからな…暇してそうだったからって連れて来たけれど、本来こんな所にいるはずの無い存在だし。
だがしかし、これからの事業の事を考えると私が貧民街に来られないというのは些か不便だ。だがディオは貧民街に来るなと言う。ふむ、どうしたものか。
「あっ、そうだ──」
かっこよく指をパチンっと鳴らし、私はディオ達を皇宮に呼び出すのはどう? と提案しようとした。
しかしそれはハイラさんによって妨げられる。
「姫様。彼等を皇宮に招くのは不可能ですよ」
「私の心読んだ!?」
体をひねり、勢いよく彼女の方を振り向く。
ハイラさんは淡々とした様子でそう話すが、どうして当たり前のように私の思考を先読みしているんだろうか、このメイドは。
とハイラさんの能力に恐れおののいた所、ディオ達が気が乗らなさそうな顔で呟いた。
「呼ばれても行く訳ねぇだろ、皇宮とか」
「俺達にはちょっとねー…」
え、来てくれないの……? まぁそりゃあ嫌よね、なんてったって無情の皇帝の家だし…くっそなんで私の父親はあの男なんだ…ッ!
くぅっ! と奥歯を噛み締めていたら、本日の段取りを把握しているハイラさんが、
「姫様、例の件の方はお話されなくても宜しいのですか?」
と重要な件の事を耳打ちして来た。私は「あ」と間抜けな声を漏らしつつそれを思い出す。
そうだった、ディオ達に話さなければならない事があるんだった。…しかし、それを話すにはまだ人が足りない。
「ディオさ…じゃなくて、ディオ。あの夜貴方と一緒に子供達を逃がしてくれた仲間の人達をここに呼んでくれないかしら?」
「アイツ等をか? 別に構わんが、何でだ」
「皆さんに話したい事がありまして」
「ふぅん。ラーク、頼んだ」
ディオが投げやりにそう頼むと、ラークは慣れた様子で「はいはい分かったよ」と言って外に出ていった。
そして暫くして外から賑やかな話声が聞こえてきた。
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