だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
46 / 786
第一章・救国の王女

42.わたしは親愛を知った。

しおりを挟む
「………よかった」

 ふと気がつけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
 それに、今までどうしてもぎこちない作り笑いしか出来なかったのに、この時初めて、自然に笑えた気がした。
 胸がとっても温かくて、とても幸せな気持ちになったからかもしれない。
 その後、スミレちゃんは足に刺さった剣を『大丈夫だよ、これぐらい全然平気!』と笑いながら抜き、スカートの裾を破いて止血しようとそこに巻き付けていた。
 ふらふらしながら立ち上がった彼女を、わたしはただハラハラしながら見守る事しか出来なかった。
 そしてスミレちゃんはわたしが燃やした人に大量の水をかけ、生きているかどうか確認していた。男は一命を取り留めているらしい。
 それを聞いてわたしはほっと胸を撫で下ろした。
 あの時はスミレちゃんを助けないとと思い咄嗟に魔眼を発動させたけれど、今改めて考えれば、わたしはまたこの魔眼で人を殺しかけたのだ。
 お母さんと同じように……。
 お母さんはまだ生きているけれど、もしあの男が死んでしまっていたら…わたしはきっと罪悪感に押し潰されてしまっていただろう。
 スミレちゃんを助けようとした事に後悔は無いけれど、魔眼を使った事を後悔して一生引きずってしまうところだった。

 スミレちゃんはここのボスと思しき男を問い詰め、なんと宣言通り人身売買や奴隷取引の確たる証拠の帳簿を入手したのだ。
 その帳簿と一緒に出てきた別の帳簿をパラパラと捲っていると不審な点がいくつかあったので、わたしはそれについて言及した。
 最初はボスらしき男も焦りながら否定していたのだが、スミレちゃんがわたしの言葉を信じてくれたので、わたしは自信を持ってその不審な点を列挙する事が出来た。
 結果は重畳。不正な違法取引である事を最終的に(実家の権威を使ったけれど)認めさせる事に成功し、わたし達はこれらの帳簿持ち、このボスらしき男を引きずってその部屋を後にした。
 その時、スミレちゃんが頬を少し赤くして突然言ったのだ。

「……ありがとう、メイシア」
「急に、どうしたの?」

 それに驚いたわたしは、たどたどしく返事する事となった。…ちょっぴり恥ずかしい。

「助けに来てくれてありがとう…って、さっき言い損ねたから」

 スミレちゃんの綺麗な笑顔が、わたしに向けられる。
 それだけじゃない、『ありがとう』という言葉がわたしに贈られた。
 他でもない…英雄みたいなスミレちゃんから、化け物のわたしに。

「っ、いいの……これぐらい…」

 顔が赤く熱くなるのがわかる。嬉しくて、とっても嬉しくて、初めて嬉しくて泣きそうになった。…初めてかな、二回目かもしれないけれど。

「…それより、スミレちゃんが生きてて…本当によかった」

 そうやって、まるで仲のいい友達のようにわたし達は歩いていた。
 ……まって、だめよ、メイシア。化け物のわたしなんかがスミレちゃんの友達なんてあまりにも烏滸がましいわ。
 そんなの夢のまた夢よ! …でも、夢ぐらい見たっていいよね? ずっと諦めていたんだもの、友達という存在は。だから、今ぐらいは、別に……夢を見てても…。
 もんもんと考えているうちに、例の眼帯の人と合流した。この人もスミレちゃんが心配で戻って来たみたいだった………まぁわたしの方が先だったけどね。えへへっ。
 そして目敏い眼帯の人に問い詰められた結果、スミレちゃんは足を怪我していると自白した。全然平気じゃなかったらしい。
 あの時はわたしに心配かけまいと気丈に振舞っていたのだろう。
 本当は痛いのをずっと我慢していたと言う言葉を聞いて、わたしはそれに気付けなかった悔しさのあまり奥歯をかみ締めていた。
 足を怪我しているスミレちゃんを軽々抱き上げた眼帯の人を見て、わたしは羨ましいと思ってしまった。わたしにも力があれば、スミレちゃんに楽をさせてあげられたのかもしれないと。
 ……家に帰ったら、体を鍛えよう。義手ももっと有効活用出来るように色々と調べよう。
 なんていう風に今後の方針を簡単に決めていると、眼帯の人がわたしに怪我は無いかと確認してきた。わたしが怪我は無いと伝えると、眼帯の人はスミレちゃんに言われ、ボスらしき男の襟を掴んで引きずりながら歩き出した。
 そしてしばらく歩くと、話に聞いていた噴水広場と大勢の子供達の姿が見えてきた。
 その際眼帯の人と一緒に巡回をしていた人が大きく手を振りながら駆け寄って来て、

「良かった、スミレちゃんも無事だったんスね! って、あれ…そっちの子は……」

 とこちらに視線を向けてきた。咄嗟に眼帯の人の後ろに隠れた所、なんとスミレちゃんの口から夢のような言葉が出たのだ。

「この子は…その、私のとっ…友達……の、メイシアです」
「っ!」

 ──友達。スミレちゃんが、わたしの事を友達と言ってくれた。それがあまりにも嬉しくて、夢のようで信じられなくて、眼帯の人の肩越しに見えるスミレちゃんの頭を見上げていたら…スミレちゃんがひょっこりとそこから顔を出した。
 目が合うなり、わたしは何度も頷いた。夢じゃないと実感する為に、何度も何度も頷いたのだ。
 友達という言葉を噛み締めていると、さっきの人がいつの間にかこちらまで回り込んでいて。

「へぇ、そっちの君はメイシアちゃんって言うのか。オレはエリニティ。よろしくねー、メイシアちゃ………」

 ニコニコと明るい笑みを浮かべながら、彼は膝を曲げて目線を合わせてくる。
 馴れ馴れしくわたしの名前を呼んだかと思えば、ピタリと顔と言葉が止まる。

「……運命だ」

 恍惚とした顔で、彼はボソリと呟いた。…なんだかとても嫌な予感がする。
 商人の勘というものはよく当たるものとお父さんが言っていた。そしてわたしも一応商人の端くれ……その嫌な予感はまんまと的中してしまったのだ。

「運命だッ! 俺はついに運命に出会ったぞぉおおおおおおおッ!!」
「っ?!」

 目の前で男の人が叫びだす。その勢いと圧に押されて、わたしは反射的に後退った。怖い、何この人、大人の人怖い。
 しかし後退って出来た距離もあっという間に詰められてしまって。

「メイシアちゃん、あの、何歳かな? 君歳上とかっていけるタイプ? あっ理想のタイプとかがあれば是非教えて貰えたらうれッ」
「やめろこの阿呆が!! ガキ相手に何やってやがる!」
「ぐふぉっ!?」

 眼帯の人が男の人を思い切り蹴飛ばしてくれたお陰で、わたしは目先の恐怖から逃れる事が出来た。

「くそ、あの野郎…いつかやるとは思ってたが本当にガキ相手に……」
「──ディオさん、ちょっと下ろして貰えませんか。後、あの人ぶん殴ってもいいですか。私の可愛い友達に言い寄りやがって」
「…………せめて、お前の怪我が治ってからにしてくれ」

 眼帯の人とスミレちゃんの会話が聞こえてくる。
 確かに怖かったけれど、スミレちゃんが『私の可愛い友達』と言ってくれたからもう全然平気…なんて言ったら、怒られちゃうかな。
 なんて現金な奴なんだ、って思われちゃうかな。
 早く怪我を治してもらいに行こうと催促するスミレちゃんと眼帯の人が、例の司祭様の元へと向かった。わたしもその後ろを追いかける。
 どうやら知り合いらしい司祭様とスミレちゃんが親しげに話しているのを見て、胸がモヤッとした。
 ……なんだろう、これ。どうして心臓がむかむかしてるんだろう。
 治癒が終わり司祭様がどこかに行った後、わたしはスミレちゃんのすぐ側に座って話していた。
 その時だった。

「…ねぇ、メイシア。メイシアは自分の事、好き?」
「……自分の事?」

 スミレちゃんがわたしの左手にそっと触れて、聞いてきた。
 自分が好きかと聞かれれば、嫌いだった。化け物なわたしを、好きになれるはずがなかった。
 答えを言い淀んでいると、スミレちゃんが微笑みながら続けた。

「私はね、メイシアの事が好きだよ。凄く可愛くて、優しくて…こんな私の事を心配してくれた、数少ない……ううん、私の初めての女の子の友達。だからね、大好きなの。貴女の事が」

 世界輝いて見えたような気がした。わたしを好きと言ってくれた彼女の笑顔が、月明かりの下、とても綺麗に輝いて見えたのだ。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...