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第一章・救国の王女
31.奴隷解放戦線5
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正直、そんな気はしてました。
見ず知らずの子供達に慈善で治癒魔法を乱発するようなお人好しな司祭、そうそういないでしょう?
「……スミレちゃん、何でいるの?」
「……リードさんこそ」
ディオさんに抱えられたまま、ディオさんの仲間の方々と挨拶しつつ例の司祭の所に向かったら、さっき脳裏をよぎった顔が目の前に現れた。
あちらもあちらで私の存在に驚いているようだった。…まぁ、こんな所で再会するとは思ってもみなかったでしょうし。勿論私も驚いているとも。
半日ぶりの再会がこんな所だなんて…偶然って凄いな。
「何だお前等知り合いなのか?」
噴水の傍に私を下ろしながら、ディオさんが目を丸くしてそう聞いてきた。
私は噴水のへりに座って、それに頷く。
「はい、昨日の昼間にリードさんの優しさにお世話になりまして…」
噴水のへりに座った私の前で、リードさんが「怪我したんだろう、見せて」と言いながら膝を着く。
私は少しだけスカートをたくし上げて、素足を出す。私の動作に少しだけぎょっとした後、スッ…と視線を逸らし、リードさんは気まずそうな顔を作った。
「怪我って足なのかい…?」
…貴族社会だと一般的に素足を晒すのははしたないと言われている。そりゃあ、貴族かつ聖職者だったというリードさんからすれば、相当な気まずさを感じる事だろう。
気が利かないなぁ、私。
「あぁ…お見苦しいものをお見せして申し訳ございません」
ぺこりと頭を下げる。
すると、リードさんが慌てたようにそれを否定してきた。
「ちがっ、そういう事じゃないんだ! いや今のは僕の言い方が悪かった……君は貴族令嬢だろう、あまり見てしまっては、君が恥ずかしい思いをすると思ったんだ…」
「………リードさんって本当にいい人ですよね、天然モノですかそれ」
「君は何を言ってるんだ…?」
こんな何処の馬の骨とも知れぬ子供相手でも気にかけてくださるとは…割と本気でいい人過ぎないかしら、この人。
私の謎発言も無視せず反応してくれてるし、優しいし面倒見がいい。そして美青年。こりゃあ、将来いいお嫁さん……じゃなかった、良い旦那さんになるだろうな。
気を取り直したリードさんは、早速治癒の方に取り掛かってくれた。私が乱雑に巻いたスカートの切れ端を丁寧に取り、そして傷口を見て彼は目を見開いた。
「…これ、何があったんだ」
傷口から目を離す事無く、リードさんの低い声がそう問うてくる。
私はちゃんと先程の出来事を話した。…剣で足を刺されたのだと。
するとリードさんは下唇を噛むようにして、無言で傷口に手を翳し治癒魔法を発動させた。
暖かな眩い金色の光が傷口を照らす。傷口から出てきたかのように眩い金色の粒子が舞い、瞬く間に傷口が塞がれていく。
初めて目の当たりにした本物の治癒魔法に、私はただただ見蕩れていた。光の魔力を持つ選ばれし者にしか扱えない魔法……とても心惹かれるその魔法に、私は今この時、確かに心奪われていたのだ。
「はい、終わったよ。他には何か無い?」
「……えっ、他ですか」
気がつけば治癒は滞りなく終わり、私の足からは傷口も痛みも完全に消え去っていた。
治癒の終わりを告げたリードさんは、他の傷の有無を尋ねてきた。ここまで来たのだからとことん治してやろう、みたいな感じなのかしら。
それにしてもこの人、子供達ほぼ全員に治癒魔法をかけただけでなく、私にまで治癒魔法を使えるとは……魔力量が桁違いなのでは? 本当に凄い…流石元司祭、とんでもないわ…。
リードさんの魔力量が凄いなぁと思いつつ、私は大男相手に力勝負で負け、手足の骨が折れかけた事も話した。
するとリードさんは頬を引き攣らせながら、私の体全体に回復ヒールをかけてくれた。
そして治癒を終えると、リードさんの怖いくらい優しい笑顔がこちらに向けられた。
「……もうこんな危ない事はしないように。いいね?」
「…はい」
その笑顔のまま釘を刺されてしまい、『はい』としか答えられない雰囲気となっていた。なので私は間を置いてからそう答えた。
リードさんはその答えに満足したようで、普通の優しい笑みに戻りゆっくりと立ち上がった。
その後、リードさんはディオさんに聞きたい事があるとかで、「少し行ってくるよ」とディオさんの所へと向かった。
そうして怪我も治り万全の状態となった私は、そのままへりに座り、夜空を見上げていた。
するとメイシアが静かに近寄って来て。隣に座ったら? と言うと、メイシアは少し照れて頬を赤くしながらちょこん…と私の右隣に座った。うむ、とても近い。
「スミレちゃん、もう怪我は治ったんだよね」
「うん。リードさんのおかげでこの通り怪我は完治しました」
「……よかった。スミレちゃんの怪我は、ちゃんと治るもので」
そう呟いたメイシアの顔に、どことなく影が射す。メイシアの左手は今、義手に重ねられ…その赤い瞳もそこを見つめていた。
メイシアの右手が無いのは生まれつき……あまりにも時が経ち過ぎているせいで、どれだけ高等な治癒魔法を用いても、もはやその右手を復活させる事は出来ないらしい。
…ファンブックでこの情報を見ただけの私に、実際にその状況で生きて来たメイシアの気持ちが分かる筈がない。
だから、この子の気持ちに同調する事も同情する事も出来ない……私がヒロインだったならば、ここで気の利いた言葉の一つや二つや三つ思いついたんだろうけど…生憎と私はどちらかと言えば悪役の王女、冷酷無比なフォーロイトの人間なのだ。
気の利いた言葉なんて言えない。だから私は、私が思うありったけの言葉を伝えるしかない。
「…ねぇ、メイシア。メイシアは自分の事、好き?」
「……自分の事?」
突然の私の質問に、メイシアは猫のように目を丸くした。私はメイシアの左手を取って、それに両手を重ねて言う。
「私はね、メイシアの事が好きだよ。凄く可愛くて、優しくて…こんな私の事を心配してくれた、数少ない……ううん、私の初めての女の子の友達。だからね、大好きなの。貴女の事が」
私の家族は心配なんて言葉を知らない人達だ。そもそも私に関心すら無い。疎まれ、無視され、無いものとして扱われてきた。
私の存在を認めてくれていたのはハイラさんとシルフとマクベスタとエンヴィーさん…ほんの少しの人達だけ。
だけど、それもきっと私が曲がりなりにも皇族だからであって。何の地位も名声も無い私を認めてくれる人なんて、心配してくれる人なんて、誰もいないと思ってたんだ。
だから今日だけで何度も驚いた。街の人達や、リードさん、メイシアも、ディオさんも……皆が私の事を当たり前のように心配してくれたのが、嬉しかった。
私もちゃんとここに存在しているんだって、認められているんだって、そう、感じられたから。
「会ったばかりの私に言われても、信用ならないと思うけど…私は、どんな貴女でも好き。本当はとても男らしかったりしても好き。本当はとても腹黒かったとしても好き。例えどんな姿や一面があっても、私はメイシアの全てを好きになるわ。だって、もうとっくにメイシアの事が大好きなんだもの」
メイシアからすれば私は、昨日会ったばかりの見ず知らずの女だ。だけど私からすればメイシアは、ずっと前から知っていた心優しき少女なのだ。
だから、信じて貰えないだろうけど、長く重ねてきた貴女への想いが私の中にはあるの。
私の言葉に、メイシアは瞳を潤わせた。小さく口を開けたまま、ポロポロと涙を落とす。
「メイシア!? どうして泣いてるの、そんなに私からの好意が嫌だったの…?!」
この会話の流れだとこれしかない。会ったばかりの私に謎の好意を向けられて怯えてしまったのか?!
慌ててメイシアから手を離し、私は頭を下げる体勢に入る。……こんなにあっさりと頭を下げる皇族、そうそういないだろうなぁ。
「ちが…うの、うれしくて、とっても…うれしくて…なみだが、とまらないの…っ」
メイシアは涙に濡れる目元を左手で何度もごしごしと擦った。このままだとかなり赤く腫れてしまいそうで、私は何か無かったかとスカートの中をまさぐった。すると、ポケットの中にハンカチーフが入っていた。
皇宮を出る時、こんなもの入れたっけな…煙幕玉と一緒にズボンから移し替えたのかもしれない。ズボンのポケットにいつも入れてたし、ハンカチーフ。
………それはそうと、今メイシアが嬉しくてって言ってくれた気がするんだけど。私からの好意が嫌だったんじゃなくて、嬉しくて泣いてるの、この子は…?
「…とりあえず、これ使って? 返さなくてもいいから」
と微笑みながらメイシアの目元にハンカチーフを近づける。メイシアは「あり、がとう」と言ってハンカチーフを受け取ってくれた。
そしてしばらく、メイシアが涙を拭いているのを眺めていると…メイシアがそのハンカチーフを握り締め、
「……あのね、スミレちゃん。わたしも…わたしもね、スミレちゃんの事が好き」
花が咲いたような笑顔で、頬を瞳と同じくらい赤く艶やかに染め上げた。
胸がはち切れんばかりに高鳴り、どうしようもなく彼女を抱き締めたいと思ってしまった──というか、抱き締めてしまった。
「すっ、スミレちゃん…っ」
メイシアの小さくて細い体をしっかりと抱き締めると、彼女の困ったような声が耳元に聞こえた。
なんだ、なんなんだこの気持ちは。可愛い…可愛い過ぎる…っ!
これが誰かを愛おしいと思う気持ちなのか。メイシアが可愛いすぎて愛おしいわ…。
猫シルフへと感じる愛情と似たこれは…もしや親愛なのかもしれない。初めての女友達だから特にそう感じているのかも。
本当に、今日、作戦を決行して良かった。確かにドジも踏んじゃったけど、こうやって可愛い友達も出来て、皆を助ける事も出来たし、目的もちゃんと果たせて…十分過ぎるくらい大成功じゃない。
「………二人の空間に割って入るようでかなり申し訳ないんだけど…二人共家まで送っていくから、もう帰ろう?」
ぎゅーっと抱き締め合う私たちに、気まずそうな面持ちのリードさんがそう提案して来た。…家まで送られるのは困るんだけど、どうしたものか。
見ず知らずの子供達に慈善で治癒魔法を乱発するようなお人好しな司祭、そうそういないでしょう?
「……スミレちゃん、何でいるの?」
「……リードさんこそ」
ディオさんに抱えられたまま、ディオさんの仲間の方々と挨拶しつつ例の司祭の所に向かったら、さっき脳裏をよぎった顔が目の前に現れた。
あちらもあちらで私の存在に驚いているようだった。…まぁ、こんな所で再会するとは思ってもみなかったでしょうし。勿論私も驚いているとも。
半日ぶりの再会がこんな所だなんて…偶然って凄いな。
「何だお前等知り合いなのか?」
噴水の傍に私を下ろしながら、ディオさんが目を丸くしてそう聞いてきた。
私は噴水のへりに座って、それに頷く。
「はい、昨日の昼間にリードさんの優しさにお世話になりまして…」
噴水のへりに座った私の前で、リードさんが「怪我したんだろう、見せて」と言いながら膝を着く。
私は少しだけスカートをたくし上げて、素足を出す。私の動作に少しだけぎょっとした後、スッ…と視線を逸らし、リードさんは気まずそうな顔を作った。
「怪我って足なのかい…?」
…貴族社会だと一般的に素足を晒すのははしたないと言われている。そりゃあ、貴族かつ聖職者だったというリードさんからすれば、相当な気まずさを感じる事だろう。
気が利かないなぁ、私。
「あぁ…お見苦しいものをお見せして申し訳ございません」
ぺこりと頭を下げる。
すると、リードさんが慌てたようにそれを否定してきた。
「ちがっ、そういう事じゃないんだ! いや今のは僕の言い方が悪かった……君は貴族令嬢だろう、あまり見てしまっては、君が恥ずかしい思いをすると思ったんだ…」
「………リードさんって本当にいい人ですよね、天然モノですかそれ」
「君は何を言ってるんだ…?」
こんな何処の馬の骨とも知れぬ子供相手でも気にかけてくださるとは…割と本気でいい人過ぎないかしら、この人。
私の謎発言も無視せず反応してくれてるし、優しいし面倒見がいい。そして美青年。こりゃあ、将来いいお嫁さん……じゃなかった、良い旦那さんになるだろうな。
気を取り直したリードさんは、早速治癒の方に取り掛かってくれた。私が乱雑に巻いたスカートの切れ端を丁寧に取り、そして傷口を見て彼は目を見開いた。
「…これ、何があったんだ」
傷口から目を離す事無く、リードさんの低い声がそう問うてくる。
私はちゃんと先程の出来事を話した。…剣で足を刺されたのだと。
するとリードさんは下唇を噛むようにして、無言で傷口に手を翳し治癒魔法を発動させた。
暖かな眩い金色の光が傷口を照らす。傷口から出てきたかのように眩い金色の粒子が舞い、瞬く間に傷口が塞がれていく。
初めて目の当たりにした本物の治癒魔法に、私はただただ見蕩れていた。光の魔力を持つ選ばれし者にしか扱えない魔法……とても心惹かれるその魔法に、私は今この時、確かに心奪われていたのだ。
「はい、終わったよ。他には何か無い?」
「……えっ、他ですか」
気がつけば治癒は滞りなく終わり、私の足からは傷口も痛みも完全に消え去っていた。
治癒の終わりを告げたリードさんは、他の傷の有無を尋ねてきた。ここまで来たのだからとことん治してやろう、みたいな感じなのかしら。
それにしてもこの人、子供達ほぼ全員に治癒魔法をかけただけでなく、私にまで治癒魔法を使えるとは……魔力量が桁違いなのでは? 本当に凄い…流石元司祭、とんでもないわ…。
リードさんの魔力量が凄いなぁと思いつつ、私は大男相手に力勝負で負け、手足の骨が折れかけた事も話した。
するとリードさんは頬を引き攣らせながら、私の体全体に回復ヒールをかけてくれた。
そして治癒を終えると、リードさんの怖いくらい優しい笑顔がこちらに向けられた。
「……もうこんな危ない事はしないように。いいね?」
「…はい」
その笑顔のまま釘を刺されてしまい、『はい』としか答えられない雰囲気となっていた。なので私は間を置いてからそう答えた。
リードさんはその答えに満足したようで、普通の優しい笑みに戻りゆっくりと立ち上がった。
その後、リードさんはディオさんに聞きたい事があるとかで、「少し行ってくるよ」とディオさんの所へと向かった。
そうして怪我も治り万全の状態となった私は、そのままへりに座り、夜空を見上げていた。
するとメイシアが静かに近寄って来て。隣に座ったら? と言うと、メイシアは少し照れて頬を赤くしながらちょこん…と私の右隣に座った。うむ、とても近い。
「スミレちゃん、もう怪我は治ったんだよね」
「うん。リードさんのおかげでこの通り怪我は完治しました」
「……よかった。スミレちゃんの怪我は、ちゃんと治るもので」
そう呟いたメイシアの顔に、どことなく影が射す。メイシアの左手は今、義手に重ねられ…その赤い瞳もそこを見つめていた。
メイシアの右手が無いのは生まれつき……あまりにも時が経ち過ぎているせいで、どれだけ高等な治癒魔法を用いても、もはやその右手を復活させる事は出来ないらしい。
…ファンブックでこの情報を見ただけの私に、実際にその状況で生きて来たメイシアの気持ちが分かる筈がない。
だから、この子の気持ちに同調する事も同情する事も出来ない……私がヒロインだったならば、ここで気の利いた言葉の一つや二つや三つ思いついたんだろうけど…生憎と私はどちらかと言えば悪役の王女、冷酷無比なフォーロイトの人間なのだ。
気の利いた言葉なんて言えない。だから私は、私が思うありったけの言葉を伝えるしかない。
「…ねぇ、メイシア。メイシアは自分の事、好き?」
「……自分の事?」
突然の私の質問に、メイシアは猫のように目を丸くした。私はメイシアの左手を取って、それに両手を重ねて言う。
「私はね、メイシアの事が好きだよ。凄く可愛くて、優しくて…こんな私の事を心配してくれた、数少ない……ううん、私の初めての女の子の友達。だからね、大好きなの。貴女の事が」
私の家族は心配なんて言葉を知らない人達だ。そもそも私に関心すら無い。疎まれ、無視され、無いものとして扱われてきた。
私の存在を認めてくれていたのはハイラさんとシルフとマクベスタとエンヴィーさん…ほんの少しの人達だけ。
だけど、それもきっと私が曲がりなりにも皇族だからであって。何の地位も名声も無い私を認めてくれる人なんて、心配してくれる人なんて、誰もいないと思ってたんだ。
だから今日だけで何度も驚いた。街の人達や、リードさん、メイシアも、ディオさんも……皆が私の事を当たり前のように心配してくれたのが、嬉しかった。
私もちゃんとここに存在しているんだって、認められているんだって、そう、感じられたから。
「会ったばかりの私に言われても、信用ならないと思うけど…私は、どんな貴女でも好き。本当はとても男らしかったりしても好き。本当はとても腹黒かったとしても好き。例えどんな姿や一面があっても、私はメイシアの全てを好きになるわ。だって、もうとっくにメイシアの事が大好きなんだもの」
メイシアからすれば私は、昨日会ったばかりの見ず知らずの女だ。だけど私からすればメイシアは、ずっと前から知っていた心優しき少女なのだ。
だから、信じて貰えないだろうけど、長く重ねてきた貴女への想いが私の中にはあるの。
私の言葉に、メイシアは瞳を潤わせた。小さく口を開けたまま、ポロポロと涙を落とす。
「メイシア!? どうして泣いてるの、そんなに私からの好意が嫌だったの…?!」
この会話の流れだとこれしかない。会ったばかりの私に謎の好意を向けられて怯えてしまったのか?!
慌ててメイシアから手を離し、私は頭を下げる体勢に入る。……こんなにあっさりと頭を下げる皇族、そうそういないだろうなぁ。
「ちが…うの、うれしくて、とっても…うれしくて…なみだが、とまらないの…っ」
メイシアは涙に濡れる目元を左手で何度もごしごしと擦った。このままだとかなり赤く腫れてしまいそうで、私は何か無かったかとスカートの中をまさぐった。すると、ポケットの中にハンカチーフが入っていた。
皇宮を出る時、こんなもの入れたっけな…煙幕玉と一緒にズボンから移し替えたのかもしれない。ズボンのポケットにいつも入れてたし、ハンカチーフ。
………それはそうと、今メイシアが嬉しくてって言ってくれた気がするんだけど。私からの好意が嫌だったんじゃなくて、嬉しくて泣いてるの、この子は…?
「…とりあえず、これ使って? 返さなくてもいいから」
と微笑みながらメイシアの目元にハンカチーフを近づける。メイシアは「あり、がとう」と言ってハンカチーフを受け取ってくれた。
そしてしばらく、メイシアが涙を拭いているのを眺めていると…メイシアがそのハンカチーフを握り締め、
「……あのね、スミレちゃん。わたしも…わたしもね、スミレちゃんの事が好き」
花が咲いたような笑顔で、頬を瞳と同じくらい赤く艶やかに染め上げた。
胸がはち切れんばかりに高鳴り、どうしようもなく彼女を抱き締めたいと思ってしまった──というか、抱き締めてしまった。
「すっ、スミレちゃん…っ」
メイシアの小さくて細い体をしっかりと抱き締めると、彼女の困ったような声が耳元に聞こえた。
なんだ、なんなんだこの気持ちは。可愛い…可愛い過ぎる…っ!
これが誰かを愛おしいと思う気持ちなのか。メイシアが可愛いすぎて愛おしいわ…。
猫シルフへと感じる愛情と似たこれは…もしや親愛なのかもしれない。初めての女友達だから特にそう感じているのかも。
本当に、今日、作戦を決行して良かった。確かにドジも踏んじゃったけど、こうやって可愛い友達も出来て、皆を助ける事も出来たし、目的もちゃんと果たせて…十分過ぎるくらい大成功じゃない。
「………二人の空間に割って入るようでかなり申し訳ないんだけど…二人共家まで送っていくから、もう帰ろう?」
ぎゅーっと抱き締め合う私たちに、気まずそうな面持ちのリードさんがそう提案して来た。…家まで送られるのは困るんだけど、どうしたものか。
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