だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

26.ある男の懸念

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「…アニキはどう思いますか、スミレちゃんの事」

 地下から出て、俺達は今、仲間の元に向かっていた。その時の事だった……エリニティが突然そんな言葉を零した。
 俺はあの桃色の少女を脳裏に浮かべた。
 …突然人の背中に飛び蹴りを食らわせてきたガキ。いざ攻撃を受けるその時まで気配も無く、姿も見えず、完全にこちらの虚をついてきた。
 その片手には女子供には不似合いな長剣ロングソードが握られていて、そのガキは俺を蹴飛ばした後、俺を見下ろして言い放った。

『──子供好きのお兄さん。ここにいる子供達全員を助ける為に、私と取引しませんか?』

 子供らしくない不敵な笑みを浮かべて、ガキは提案してきた。…それにしても何で子供好きってバレたんだ。
 普通俺みたいな無骨な奴を子供好きだとは思わねぇだろ。
 その後このガキは本当に取引を持ちかけてきた。大人の俺達相手に、ガキがどう出るのかととりあえず様子を見ていたら……あの通りだ。
 ここに捕まってる子供達を逃がす為に、俺達の力を貸せと。
 どうやらあのガキにはここのガキ共を逃がす算段があるらしい。あいつの言葉は自信に満ち溢れていて、成功すると確信している。
 …だから俺は真剣に話を聞いていた。いつもならガキの戯言だって笑って聞き流しただろうが、今日はそうしなかった。
 どうしてだかあいつの言葉は信じようと思えた…何でかは俺にも分からん。ただ、何となく、そう思ったのだ。

「……何もかもが意味不明だな。ガキ共を助ける為に自分から奴隷商に捕まって、檻を開けて抜け出してやる事が用心棒の俺達との取引って………はぁ、何であんなガキの言葉を信じちまったんだ俺は」
「可愛い女の子だったからじゃない? やっぱりアニキも男なんだ~」
「うるせぇぞエリニティ」
「いったぁ!?」

 エリニティの頭に拳骨を落とす。小さく悲鳴を上げながら頭を押さえるエリニティを置いて、先を行く。
 エリニティはいつも女、女って……歳下のガキまでも対象に入るのかよ。運命の恋がどうのと騒ぐ割に本当に節操がない。

「ぅ…待ってくれよアニキぃ~!」

 情けない声を発しながらエリニティが追いかけてくる。
 仲間達が待機している場所に向かう途中で奴隷商への報告を終えたバドールと合流し、俺達は仲間達の元へと戻った。
 この建物にある俺達に貸し与えられた一室。用心棒として夜間の巡回と警備を任せられている俺達は、夜が開けるまでその部屋に待機し、交代ごうたいで建物の警備を行う。
 俺とエリニティとバドールが巡回担当。警備は他の仲間達が二人一組で代わる代わる担当している。
 この時間はクラリスとイリオーデか…今部屋に戻ってもあの二人には作戦を共有出来ないのか……ガキ共の護衛を頼まれたのに、よりにもよって戦闘能力が高い二人が不在とは。
 どうやって情報共有したものか。

「戻ったぞ」

 そう言いながら待機部屋の扉を開ける。それぞれ自由に待ち時間を潰している仲間達が「おかえりー」「お疲れ様」と返してきた。
 現在この場にいるのは警備中のクラリスとイリオーデを除いた俺達含め九人。

「ディオ兄、今日はあんまり怒ってないね。子供達があんまり怪我とかしてなかったの?」
「多分そうだったんじゃない? ディオ兄ちゃんの機嫌がいい時って大体そう言う時だし」

 長椅子に腰かけ、足をぶらぶらと揺らしながらメアリードが聞いてきた。
 俺がそれに答えようとした時、メアリードの弟のルーシアンが興味無さげに答えた。

「ほんとだ! 今日の兄貴は元気!」
「……声、でか…」

 黒い毛並みの犬の耳と尻尾を忙しなく動かしながら、ジェジが騒ぎ出す。そんなジェジの隣で、ユーキが煩わしそうに長い耳を塞いでいる。

「…俺の事ぁいいだろ、別に。とりあえず、お前等に話があんだ」
「話か、何かあったのか?」

 俺の言葉に真っ先に反応したのは、俺の相棒のような存在でもあるシャルルギルだった。いつも通り眉間に皺を作りながらあいつはこちらに視線を送る。
 あのガキの事やあいつとした取引の事を話そうと、俺は一度椅子に腰を降ろしてから、

「……信じられないとは思うんだが──」

 そんな言葉で口を切った。
 そして一連の説明を終えると、この手の珍妙な話に弱いラークが腹を抱えていた。

「ふっ……ふふ…まさかそんな事が起きるだなんてね。俺も巡回担当になっておけば良かった」
「馬鹿言うな、お前がいなくて誰がこいつ等の面倒を見るんだ」
「あはは、それもそうだ。いい加減皆親離れしてくれないかな~、皆のお母さん的立ち位置も結構疲れるんだよね」

 笑い上戸のラークは、相当笑ったのか目尻に涙を浮かべながら、藪から棒に愚痴を零した。
 その暴露に、ラークお母さんの子供のような立ち位置にある騒がしい奴等が騒ぎ出す。

「そうだったの!? ラークママはオレ達が嫌になっちゃったのか!?」
「えーやだぁー! アタシ、ママのご飯食べられなくなったら死んじゃう!」
「別にっ、僕は死んじゃうとか思ってないし…でも食べられないのは困るから……」
「えっ!? ラーク母ちゃんの飯食えないのは困るんだけど!」

 ジェジ、メアリード、ルーシアン、エリニティが次々に顔を青くする。メアリードとルーシアンは比較的に幼いからまだしも、ジェジとエリニティは一応もう成人してんだから…もう少し大人らしく振る舞えよ。

「そもそもラーク以外に料理が出来る者はほとんどいないだろう、昔からその手の事は全てラークに押し付けて来たからな」
「その自覚あったんだね、シャル…いの一番に何かと仕事押し付けて来たの君なのに」
「俺がやるよりお前がやる方が被害も少なく何より早い。合理的判断だ」
「…結局、自分がやりたくないだけじゃん……」

 シャルルギルの発言に、ラークは遠い目をした。…確かに俺達は皆、家事の類はあまり得意ではない。貧民街にいた昔から、その手の事は全部ラークに任せて来た。
 誰もかもが、自分に不利な展開になると分かりきっていた為あえて触れてこなかったその問題に、ついにシャルルギルが触れてしまった。藪をつついて蛇を出してしまったのだ。
 シャルルギルが堂々と恥ずかしげもなく言い放ったそれを、ユーキが冷たく一刀両断した。それにバドールも静かに頷く。
 この中だとユーキとバドールも家事担当だからな、思う所があるんだろうさ。

「とにかくだ」

 手のひらをパンッと鳴らして、俺は話を戻す。自由に会話をしていた面々が一斉に静まった。
 そんな仲間達を見渡して、俺は改めて言う。

「俺はあのガキの言葉を信じて、ガキの考えた無茶な作戦に加担する事にした……俺達が、あいつの考えた無茶な作戦を、無茶で無謀なものじゃなくしてやるんだ」

 長剣ロングソードを得物とし、身体能力に優れ、檻の鍵を簡単に開けた、王者の風格を感じさせる変わった女。
 たったの十二歳だってのに大人を頼らず、自分一人で全部何とかしようとする無謀なガキを……ほっとく訳にもいかねぇだろ。
 あいつに頼れる大人がいないのなら、俺達がなってやればいい。ただそれだけの理由で、俺はあいつの提案を受け入れた。
 正直、報酬とかは期待してないしそもそも信じていない。あんなちっせぇガキに金やら地位を与えるって言われて信じられる方がおかしい。
 あんな突飛な事を言い出すぐらい、あいつは大人の力を欲している…それもガキ共を救う為にだ。それなら、同じようにガキ共を救いたいと思っている俺達が手を貸そうじゃないかと。
 そう考えても、なんら不思議じゃあねぇだろ?

「作戦の事は分かった。とにかく、この後子供達を守れば良いんだな? 任せろ、合理的に護衛してみせる」
「シャル兄ちゃん、合理的って言葉言いたいだけでしょ」
「絶対に意味理解してなさそうだね」
「……本当に馬鹿だ…」
「シャル兄が馬鹿ならオレは何なんだ!?」
「はは、ジェジは馬鹿じゃなくて阿呆だから別枠だよ。安心しな」

 仲間達が和気藹々とくだらない会話を繰り広げる。こいつ等、仕事中でも気を抜くとすぐこれだからな…。
 はぁ、とため息をつきながら額に手を当てる。
 ふと、俺は横に立つバドールにちらりと視線を送った。するとバドールは、諦めろとばかりに瞳を閉じて首を横に振った。
 ……まぁ、確かにこいつ等の事はもはや諦める他ない。昔からずっとこの無法地帯っぷりだからな。
 だが、それでいい。こいつ等が自由に己を曲げる事無く伸び伸びと生きていられるのなら、俺はそれでいいと思っている。
 そんな場所を守る為に、俺はいつも戦ってるんだから。

「…作戦決行は数時間後、日付が変わった頃だ。檻の開放の方はあいつがやっとくから、俺達でガキ共を迎えに行ってそのままここから抜け出す。ガキの中には怪我してたり体力が無ェ奴もいる。そいつ等の事も考えると長距離を逃げる事は不可能…近くの噴水広場にまで逃げた後、俺達は全力でガキ共の護衛をする」

 俺がそうやって作戦の概要を説明すると、全員がこくりと一度頷いた。
 作戦決行までまだ時間があるから、クラリスとイリオーデにも共有に行きたい所だが…そう何度も外を出歩いていたら流石に奴隷商の奴等に怪しまれる。どうすればいいだろうか。

「…シアン、少し頼まれてくれるかい?」
「いいよ」

 俺が何か方法は無いかと考えあぐねていると、ラークがルーシアンに小さな袋を手渡して、

「きっと二人共小腹が空いている頃だろうから、これを差し入れとして持って行って欲しいんだ。あぁ、ついでに世間話でもしておいで。二人共暇してるだろうから」

 とやけに穏やかな笑みを浮かべた。
 ルーシアンは何かに気づいたようにニヤッと笑い、部屋を出た。
 ……中々考えたな、ラークの奴。うちで最年少のルーシアンなら、不必要に出歩いててもそう怪しまれない。それも警備担当の仲間への差し入れを持って行くという理由なら尚更。
 話を楽しみ過ぎて帰ってくるのがおかしくなっても、なんらおかしくは無いだろう。
 もし万が一何かあっても、ルーシアンの足なら簡単に逃げられる。…これが、現状で俺達が取れる最良の手段かもしれない。
 流石はうちの参謀。見掛け倒しのシャルルギルとは違うな。
 それから数十分後、ルーシアンが戻って来た。無事クラリスとイリオーデにも作戦の概要を説明出来たようだった。

 ……そして。日付が変わった。俺達は意を決して部屋を出る。
 あのガキは奴隷商の奴等が眠ってるのを期待してたが、あいつ等は毎日明け方まで呑んでやがる。今だってどこかの一室で酒を片手に大騒ぎしている筈だ。
 地下のガキ共が全員逃走したとなりゃ、相当な騒ぎになる……いくらあいつ等が酔ってるとはいえ、騒ぎには確実に気づくだろう。
 だが、その時の為に俺達がいる。俺達は俺達の役割を果たすだけだ。
 問題はあのガキだが………本当に一人で大丈夫なのか?


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