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第一章・救国の王女
25.いざ潜入任務!4
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「…つまり、お前等が逃げ出すのに俺達も協力しろ……って事か」
「理解が早くて助かります、優しいお兄さん」
飛び蹴りを食らわせた後、私は眼帯の男に取引を持ちかけた。
その内容は至ってシンプル──貴方の望みを叶えてあげるから、私達がここから逃げ出すのに協力して。……ただそれだけの取引だ。
この子供好きでお人好しな男ならきっとこの取引に応じてくれる。私はそう確信していた。
何故なら、彼もまたアンディザのサブキャラ…と言うかモブキャラなのだ。
先程私が感じた既視感はズバリ正しく、彼はサラと言う攻略対象が語る過去話の際に少し名前か上がったキャラ。サラにとっても恩人のような人らしく、サラは彼の事を懐かしむように、とても優しい声音で語っていた。
『紫の髪に眼帯を着けたお人好しで子供好きの男』……それがサラの恩人たるディオリストラスの特徴だった。
正直それ以外の情報はほとんど無い。唯一ある情報が…貧民街の子供達に少しでも栄養のあるご飯を食べて欲しくて、金を稼ぐ為に同じ貧民街出身の仲間達と共に裏稼業の雇われ用心棒等をしている。というものだ。……サラがもうちょっと情報を出してくれてたら良かったのに。
だがまぁ、それだけでも十分だ。彼のやんごとなき事情を交渉材料として使うようで少し申し訳ない気持ちになるが、致し方の無い事なのだ。
これが一人でも多くの人を救う最善の道だと思うからね。
「…はぁ、とりあえずそのお兄さんってのやめろ。俺はそう言う柄じゃねぇんだよ」
「じゃあ何とお呼びすれば…」
「名前はディオリストラスだが……まぁ、ディオでいい。呼び辛い名前だからな」
「分かりました、ディオさん。それでお返事の方は期待しても宜しいのでしょうか?」
地べたで胡座をかくディオさんと、その正面で正座する私。勿論一連の話はこの空間にいる子供達全員が聞いていたので、今や全ての檻が興奮や喜びに満ちている。
きっと、子供好きのこの人には、あんな風に泣いて喜ぶ子供達を裏切るような真似は出来ない。狙ってやった事だが、こんな卑怯な手段を取るとか…酷いな私……。
そうやって脅迫紛いのやり方で答えを迫ると、ディオさんは訝しげにこちらを見て、
「…その前に一つ聞きたい。さっき言ったよな、俺達の望みを叶えてやる…って。具体的には何を叶えてくれるんだ?」
真剣な面持ちを作った。
ここで返答を間違えたらいけない。断られる事はないだろうが、それでも今後の関係に響く恐れがある。
だから私は、一度深呼吸をして鼓動を落ち着かせてから答える。
「金と地位──貴方達が望むものを、貴方達に贈ります」
ディオさんの片目をまっすぐと見つめて、私は言い放つ。
私の言葉に、ディオさん達は目を丸くして固まっていた。…どこの誰とも知らない私に急にこんな事を言われても信じられないだろう。だけど、今の私にはこう言う事しか出来ないのだ。
「……金はともかく、地位は今すぐ与えられる訳ではありません。でもいつか必ず、貴方達の望むままに地位を与えると約束します」
剣を片手に髪を揺らしながら立ち上がり、私は彼等に向けて手を差し伸べる。
「絶対に後悔はさせません。だからどうか、私を信じてください。私の手を取り、共に来てください。貴方達の望みは──私が、絶対に叶えてみせます」
その言葉を最後に、この空間は水を打ったように静かになった。
時間が少しずつ、少しずつ、過ぎていく。長いように感じたほんの一分の間、ディオさんが私の手を取ってくれる事だけを信じて待ち続けていた。
…そして、ついにその時が来た。
「………子供にそんな事を約束されるなんてな。長い目で見ろって事か…最後にもう一ついいか?」
「はい」
「何で俺達なんだ?」
ディオさんがニヒルな笑みを浮かべながらこちらを見上げる。
「だって、ディオさん達は子供の為に日々戦っているんでしょう? そんな真っ直ぐな志を持つお強い方達が目の前にいて、助力を仰がないなんて選択肢はありませんよ」
治安の悪い裏稼業の用心棒をやれるような人達なんだから、きっとかなり強いに決まっている。戦力と出来れば相当心強い事だろう。
そう下心満載で私は言ったのだが、予想以上にその言葉はディオさん達に効いたようで…。
「……っはぁ、ここまで言われて断れる訳ねぇだろ…エリニティ、バドール、お前達もいいな?」
「こんな可愛い女の子にここまで言われちゃあね! ここで断ったら男が廃るってもんだ!」
「アンタが決めたのなら俺はそれに従う」
ディオさんの言葉に、エリニティと呼ばれた猫目の男とバドールと呼ばれた筋骨隆々の男が首肯した。
そしてディオさんが、
「…そう言う訳なんで。馬鹿な俺達はあんたみたいな子供の言う事でも、真に受けて信じさせて貰うぜ」
ニッと口角を上げて私の手を取った。
安心と嬉しさが込み上げて来てついにやけてしまいそうな口元を必死に正して、
「お任せを。私の手を取った事、絶対に後悔させませんから」
と大胆不敵に言ってのけてみせる。これぐらい思い切って振舞った方が、きっと彼等とて安心してくれるだろう。
そして、この場にはディオさんとエリニティさんが残り、バドールさんが巡回を終えた事の報告に向かった。
ディオさん達は今自分達がこんな事をしている理由も混じえて身の上話を聞かせてくれた。
ディオさん達はかつての自分と同じような境遇の子供達を放っておけず、子供達に少しでもいい暮らしをさせてあげられるよう、汚い仕事をして金を稼いでいるらしい。…サラのルートにあった情報通りだ。
今回は子爵の何らかの事業の用心棒という契約で、子供達を攫ってきては奴隷として売り飛ばす奴隷商だったとは知らずに契約してしまったらしい。
いざ用心棒の仕事を初めてからその事業の全容を知り、深く後悔したのだとか。それでも金の為にはこの仕事を続けるしかなく、救えない事に酷く苦しみながら毎日子供達に接していたと。
「俺達みたいな奴が働けて金を稼げる場所なんて滅多に無い…だからどれだけ不満があろうとも俺達はここで働いて、その都度ガキ達を見捨てるしか無かったんだ…っ」
ディオさんは悔しさに顔を歪めて、ドンッと握り拳を地面に叩きつけた。
赤く腫れたその拳にそっと手を重ねて、私は冷水を出してそれを冷やそうとする。氷を出して氷嚢を作るのが一番なんだろうけど、氷は出せないからね…。
ポケットにある氷の鍵、絶対に誰にも見せないようにしよう。
「大丈夫です、もう、見捨てなくていいんですよ。貴方達がそうやって後悔に苦しむ必要も無いんです。頑張って、一緒にあの子達を解放しましょう」
「……そうだな。ガキ共を助けよう。それで、具体的に俺達は何をすればいい?」
そして私達は作戦について話し合った。
ディオさん達には逃げる子供達の護衛を頼む事にした。
ここの建物の警備は夜の間ディオさんの仲間が担当しているらしく、逃げ出す事自体は可能だが…その間に奴隷商が来る可能性が無いとも限らない。
もし万が一そうなってしまえば、私一人では子供達を守れない。だからこそ彼等にその護衛を頼みたいのだ。
子供達がある程度安全な所に逃げられるまで、そして保護してもらえるまで、子供達を守って欲しい。
……そう、頼んだ所。エリニティさんが「あのー」と口を切った。
「君も一緒に逃げるんだよね? 何だか今の話には微妙に君の情報が欠けてた気がするんだけど」
あぁ、そう言えば話すの忘れてたわ。その時私は別行動をすると。
「えっと、私はその時ちょっと別行動をさせてもらいます。少しやる事がありまして」
「やる事ってなんだ?」
ディオさんが聞き返してくる。私はそれに小さく頷いて、
「奴隷商を徹底的に潰す為に、証拠を集めようかと。どうやらここの二階にこの建物の管理者の私室があるそうですので、そこをちょちょいと荒らして帳簿とか奴隷取引の記録等を拝借しようと思ってるんです!」
はつらつと答える。私の返答を聞いたディオさんとエリニティさんがぽかんとしている。
「腐ってるとは言え相手は子爵…貴族を相手取るなら確実な物的証拠があった方がいいので。それなら子供達の逃走騒ぎに乗じて色々と貰っちゃおうかなぁと。あ、でも心配は無用です。ご存知の通り隠密行動が出来るので!」
親指をグッと立てて自信満々に言い切る。
この隠密行動で沢山情報を集めて、それを纏めてケイリオルさんに渡す。そうすればあの人が徹底的に子爵を潰してくれるだろうからね!
「……お前本当にガキか?」
「と言うか、君いくつなの?」
あれ、私、何だか年齢疑われてない? 別にサバ読んだりはしてないんだけどな。
「今年で十二歳です」
「全然ガキじゃねぇか…」
「十二歳でそこまで考えて行動するって凄いね…」
そう答えると、二人の顔が驚愕に染まった。いやまぁ確かに、私、歳の割に少し見た目は大人びているから……パッと見で分からないのは仕方の無い事だ。
「…まぁ、とにかく。そう言う事なので、私は別行動を取らせていただきます。皆さんの協力が得られて本当に良かったです……子供達を何とか逃がしてから、もう一度ここに戻って来る必要が無くなって助かりました」
と言いながら私は横の檻の錠にこっそり氷の鍵を差し込んで、カチャリと開ける。そして、扉を開いて中にいるメイシア達に出ておいでと告げた。
勢い良く飛び出てきたシュヴァルツに突進され抱きつかれる。
そのまま勢いで後ろに倒れて頭を打った私は、ちょっとは文句を言ってやろうとシュヴァルツの方を見たのだが、眩しい笑顔で「楽しいね、スミレ!」と言うものだから、何も言えなくなってしまった。
本当に数十分前に会ったばかりとは思えないなぁ…何だか今日はこう言う人とよく出会う日だ。
「……なぁ、あいつ今鍵開けたよな…」
「どうやったんだろう…」
そんな私達の様子を、ディオさん達はえも言われぬ表情で眺めているようだった。
その後、こっそり氷の鍵を使って全ての檻を開けた。その間にディオさん達が仲間の方々に説明しに行ってくださり、私は子供達にこの後の流れを改めて説明した。
ようやく家に帰れると大はしゃぎの子供達に、「しーっ」と静かにするように伝えながら、私はディオさん達が戻ってくるのを待つ。
子供達を外に逃がすのはディオさん達主導で行うので問題無いだろう。私はその隙に姿を隠して証拠集めに行くと。
なんと完璧な作戦か…これは勝ちましたわ…!
「……」
──メイシアが心配そうにこちらをじっと見つめている事に、私はこの時気が付かなかった。
「理解が早くて助かります、優しいお兄さん」
飛び蹴りを食らわせた後、私は眼帯の男に取引を持ちかけた。
その内容は至ってシンプル──貴方の望みを叶えてあげるから、私達がここから逃げ出すのに協力して。……ただそれだけの取引だ。
この子供好きでお人好しな男ならきっとこの取引に応じてくれる。私はそう確信していた。
何故なら、彼もまたアンディザのサブキャラ…と言うかモブキャラなのだ。
先程私が感じた既視感はズバリ正しく、彼はサラと言う攻略対象が語る過去話の際に少し名前か上がったキャラ。サラにとっても恩人のような人らしく、サラは彼の事を懐かしむように、とても優しい声音で語っていた。
『紫の髪に眼帯を着けたお人好しで子供好きの男』……それがサラの恩人たるディオリストラスの特徴だった。
正直それ以外の情報はほとんど無い。唯一ある情報が…貧民街の子供達に少しでも栄養のあるご飯を食べて欲しくて、金を稼ぐ為に同じ貧民街出身の仲間達と共に裏稼業の雇われ用心棒等をしている。というものだ。……サラがもうちょっと情報を出してくれてたら良かったのに。
だがまぁ、それだけでも十分だ。彼のやんごとなき事情を交渉材料として使うようで少し申し訳ない気持ちになるが、致し方の無い事なのだ。
これが一人でも多くの人を救う最善の道だと思うからね。
「…はぁ、とりあえずそのお兄さんってのやめろ。俺はそう言う柄じゃねぇんだよ」
「じゃあ何とお呼びすれば…」
「名前はディオリストラスだが……まぁ、ディオでいい。呼び辛い名前だからな」
「分かりました、ディオさん。それでお返事の方は期待しても宜しいのでしょうか?」
地べたで胡座をかくディオさんと、その正面で正座する私。勿論一連の話はこの空間にいる子供達全員が聞いていたので、今や全ての檻が興奮や喜びに満ちている。
きっと、子供好きのこの人には、あんな風に泣いて喜ぶ子供達を裏切るような真似は出来ない。狙ってやった事だが、こんな卑怯な手段を取るとか…酷いな私……。
そうやって脅迫紛いのやり方で答えを迫ると、ディオさんは訝しげにこちらを見て、
「…その前に一つ聞きたい。さっき言ったよな、俺達の望みを叶えてやる…って。具体的には何を叶えてくれるんだ?」
真剣な面持ちを作った。
ここで返答を間違えたらいけない。断られる事はないだろうが、それでも今後の関係に響く恐れがある。
だから私は、一度深呼吸をして鼓動を落ち着かせてから答える。
「金と地位──貴方達が望むものを、貴方達に贈ります」
ディオさんの片目をまっすぐと見つめて、私は言い放つ。
私の言葉に、ディオさん達は目を丸くして固まっていた。…どこの誰とも知らない私に急にこんな事を言われても信じられないだろう。だけど、今の私にはこう言う事しか出来ないのだ。
「……金はともかく、地位は今すぐ与えられる訳ではありません。でもいつか必ず、貴方達の望むままに地位を与えると約束します」
剣を片手に髪を揺らしながら立ち上がり、私は彼等に向けて手を差し伸べる。
「絶対に後悔はさせません。だからどうか、私を信じてください。私の手を取り、共に来てください。貴方達の望みは──私が、絶対に叶えてみせます」
その言葉を最後に、この空間は水を打ったように静かになった。
時間が少しずつ、少しずつ、過ぎていく。長いように感じたほんの一分の間、ディオさんが私の手を取ってくれる事だけを信じて待ち続けていた。
…そして、ついにその時が来た。
「………子供にそんな事を約束されるなんてな。長い目で見ろって事か…最後にもう一ついいか?」
「はい」
「何で俺達なんだ?」
ディオさんがニヒルな笑みを浮かべながらこちらを見上げる。
「だって、ディオさん達は子供の為に日々戦っているんでしょう? そんな真っ直ぐな志を持つお強い方達が目の前にいて、助力を仰がないなんて選択肢はありませんよ」
治安の悪い裏稼業の用心棒をやれるような人達なんだから、きっとかなり強いに決まっている。戦力と出来れば相当心強い事だろう。
そう下心満載で私は言ったのだが、予想以上にその言葉はディオさん達に効いたようで…。
「……っはぁ、ここまで言われて断れる訳ねぇだろ…エリニティ、バドール、お前達もいいな?」
「こんな可愛い女の子にここまで言われちゃあね! ここで断ったら男が廃るってもんだ!」
「アンタが決めたのなら俺はそれに従う」
ディオさんの言葉に、エリニティと呼ばれた猫目の男とバドールと呼ばれた筋骨隆々の男が首肯した。
そしてディオさんが、
「…そう言う訳なんで。馬鹿な俺達はあんたみたいな子供の言う事でも、真に受けて信じさせて貰うぜ」
ニッと口角を上げて私の手を取った。
安心と嬉しさが込み上げて来てついにやけてしまいそうな口元を必死に正して、
「お任せを。私の手を取った事、絶対に後悔させませんから」
と大胆不敵に言ってのけてみせる。これぐらい思い切って振舞った方が、きっと彼等とて安心してくれるだろう。
そして、この場にはディオさんとエリニティさんが残り、バドールさんが巡回を終えた事の報告に向かった。
ディオさん達は今自分達がこんな事をしている理由も混じえて身の上話を聞かせてくれた。
ディオさん達はかつての自分と同じような境遇の子供達を放っておけず、子供達に少しでもいい暮らしをさせてあげられるよう、汚い仕事をして金を稼いでいるらしい。…サラのルートにあった情報通りだ。
今回は子爵の何らかの事業の用心棒という契約で、子供達を攫ってきては奴隷として売り飛ばす奴隷商だったとは知らずに契約してしまったらしい。
いざ用心棒の仕事を初めてからその事業の全容を知り、深く後悔したのだとか。それでも金の為にはこの仕事を続けるしかなく、救えない事に酷く苦しみながら毎日子供達に接していたと。
「俺達みたいな奴が働けて金を稼げる場所なんて滅多に無い…だからどれだけ不満があろうとも俺達はここで働いて、その都度ガキ達を見捨てるしか無かったんだ…っ」
ディオさんは悔しさに顔を歪めて、ドンッと握り拳を地面に叩きつけた。
赤く腫れたその拳にそっと手を重ねて、私は冷水を出してそれを冷やそうとする。氷を出して氷嚢を作るのが一番なんだろうけど、氷は出せないからね…。
ポケットにある氷の鍵、絶対に誰にも見せないようにしよう。
「大丈夫です、もう、見捨てなくていいんですよ。貴方達がそうやって後悔に苦しむ必要も無いんです。頑張って、一緒にあの子達を解放しましょう」
「……そうだな。ガキ共を助けよう。それで、具体的に俺達は何をすればいい?」
そして私達は作戦について話し合った。
ディオさん達には逃げる子供達の護衛を頼む事にした。
ここの建物の警備は夜の間ディオさんの仲間が担当しているらしく、逃げ出す事自体は可能だが…その間に奴隷商が来る可能性が無いとも限らない。
もし万が一そうなってしまえば、私一人では子供達を守れない。だからこそ彼等にその護衛を頼みたいのだ。
子供達がある程度安全な所に逃げられるまで、そして保護してもらえるまで、子供達を守って欲しい。
……そう、頼んだ所。エリニティさんが「あのー」と口を切った。
「君も一緒に逃げるんだよね? 何だか今の話には微妙に君の情報が欠けてた気がするんだけど」
あぁ、そう言えば話すの忘れてたわ。その時私は別行動をすると。
「えっと、私はその時ちょっと別行動をさせてもらいます。少しやる事がありまして」
「やる事ってなんだ?」
ディオさんが聞き返してくる。私はそれに小さく頷いて、
「奴隷商を徹底的に潰す為に、証拠を集めようかと。どうやらここの二階にこの建物の管理者の私室があるそうですので、そこをちょちょいと荒らして帳簿とか奴隷取引の記録等を拝借しようと思ってるんです!」
はつらつと答える。私の返答を聞いたディオさんとエリニティさんがぽかんとしている。
「腐ってるとは言え相手は子爵…貴族を相手取るなら確実な物的証拠があった方がいいので。それなら子供達の逃走騒ぎに乗じて色々と貰っちゃおうかなぁと。あ、でも心配は無用です。ご存知の通り隠密行動が出来るので!」
親指をグッと立てて自信満々に言い切る。
この隠密行動で沢山情報を集めて、それを纏めてケイリオルさんに渡す。そうすればあの人が徹底的に子爵を潰してくれるだろうからね!
「……お前本当にガキか?」
「と言うか、君いくつなの?」
あれ、私、何だか年齢疑われてない? 別にサバ読んだりはしてないんだけどな。
「今年で十二歳です」
「全然ガキじゃねぇか…」
「十二歳でそこまで考えて行動するって凄いね…」
そう答えると、二人の顔が驚愕に染まった。いやまぁ確かに、私、歳の割に少し見た目は大人びているから……パッと見で分からないのは仕方の無い事だ。
「…まぁ、とにかく。そう言う事なので、私は別行動を取らせていただきます。皆さんの協力が得られて本当に良かったです……子供達を何とか逃がしてから、もう一度ここに戻って来る必要が無くなって助かりました」
と言いながら私は横の檻の錠にこっそり氷の鍵を差し込んで、カチャリと開ける。そして、扉を開いて中にいるメイシア達に出ておいでと告げた。
勢い良く飛び出てきたシュヴァルツに突進され抱きつかれる。
そのまま勢いで後ろに倒れて頭を打った私は、ちょっとは文句を言ってやろうとシュヴァルツの方を見たのだが、眩しい笑顔で「楽しいね、スミレ!」と言うものだから、何も言えなくなってしまった。
本当に数十分前に会ったばかりとは思えないなぁ…何だか今日はこう言う人とよく出会う日だ。
「……なぁ、あいつ今鍵開けたよな…」
「どうやったんだろう…」
そんな私達の様子を、ディオさん達はえも言われぬ表情で眺めているようだった。
その後、こっそり氷の鍵を使って全ての檻を開けた。その間にディオさん達が仲間の方々に説明しに行ってくださり、私は子供達にこの後の流れを改めて説明した。
ようやく家に帰れると大はしゃぎの子供達に、「しーっ」と静かにするように伝えながら、私はディオさん達が戻ってくるのを待つ。
子供達を外に逃がすのはディオさん達主導で行うので問題無いだろう。私はその隙に姿を隠して証拠集めに行くと。
なんと完璧な作戦か…これは勝ちましたわ…!
「……」
──メイシアが心配そうにこちらをじっと見つめている事に、私はこの時気が付かなかった。
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