だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

24.いざ潜入任務!3

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 私、メイシア、ナナラ、ユリエア、シュヴァルツの五人による作戦会議が始まった。
 この中で一番檻の中にいる時間の長いナナラとユリエアの二人が、警備担当の巡回の時間や、この地下空間や地上の建物の大まかな構造を教えてくれた。
 建物の構造は例のデイリー・ケビソン子爵と面会する為に連れ歩かれた際の記憶なので、確かではないとの事。
 だがそれでも、建物の構造が分かるのと分からないのとでは雲泥の差なので、大まかな情報でも非常に助かるのだ。
 二人の話を元に、地面に水を使って地図を描く。こんな感じであってるかな? と二人に確認した所、ナナラが自信ありげに頷いた。どうやらナナラは空間認識能力に長けているらしい。
 地下空間から脱出する手段はとりあえず一つしかなく、私達がここに入る際に通った道のみ。地上の建物は分かっているだけでも最低二階はあり、どこかにデイリー・ケビソン子爵にここの管理を任されている男の私室があるらしい。
 ……人身売買や奴隷取引の証拠になりそうなものは全部そこにありそうね。帳簿の写しとか、何かしらあるだろう。
 皆を逃がすどさくさに紛れてその部屋も荒らさないと。
 その前に、地上の建物に出てから外に行くにはしばらく建物の中を移動する必要があるらしく、敵との交戦は避けられないだろう。…果たして、私一人でここにいる子供達全員を守れるのだろうか。

 次いでこの拠点の警備担当の巡回の時間や人数。こちらはユリエアの記憶力がとても活躍した。
 大体一日に三回、朝昼夜。朝と夜は食料配給も兼ねている。基本的には商品になる子供達が病気になってたりしないかの様子見に来るだけのようで、その際に奴隷商に楯突いた子供が暴行を加えられたり、どこかに連れて行かれて酷い目に遭ったりするそうだ。
 なので子供達はいつもその時間は息を潜めてやり過ごすらしい…。
 その巡回に来る人達は時間帯ごとに固定されていて、朝の巡回が三人、昼の巡回が二人、夜の巡回が三人いるらしい。
 ただ、ユリエア達の話によると、夜の巡回担当の人達は他の奴等と毛色が違うようで、妙に子供達に大して優しいらしい。
 朝と比べて夜は沢山食料がもらえて、怪我等をしていればその人達が簡単な治療をしてくれるとか。
 その話をしている時、シュヴァルツが『多分、あの眼帯の男は子供好きなんだと思うよぉー、大怪我した子供を治療してる時、すごぉく悔しそうな顔してたー』と何気なく呟いた。
 …眼帯で子供好きの男…? 何だろう、ゲームにそんなキャラがいたような気がするんだけど……サラって言うスパイのキャラのルートで出てきたような…。
 しかし私の記憶ではそれ以上思い出せなかった。
 色々とゲームの事を覚えてはいるのだけれど、それでも全部を覚えている訳ではない。そんなに記憶力よくないし。

 気を取り直して、それらの情報を元に作戦を立てる。
 決行は数時間後、夜の巡回が終わり、奴隷商の奴等が寝静まるであろう深夜。
 檻を開ける方法はある。逃走ルートも大雑把にだが定められた。だから本当に、問題は、私が皆を護れるかどうかなのだ。
 それが一番の鬼門である。いくら私がある程度戦えるとしても、流石に大人数相手だと勝機は無いに等しい。
 さてどうしたものかと悩んでいると、いつの間にか私の膝に頭を乗せていたシュヴァルツが、

「それなら夜の巡回の奴等を仲間に引き入れたらいーんじゃない? ぼくの所感でしかないけど、多分、話せば何とかなると思うよぅ」

 と、私の髪を触りながら提案してくる。

「うーん…じゃあそうしようかな」

 そう返すと、シュヴァルツは「そうしな~」と楽しげに笑った。
 でもまぁ、一応、その夜の巡回の人達と話す為にも私は一度檻から出た方が良いだろう。巡回に来た男に襲いかかり、脅しながら話せばきっと首を縦に振ってくれる筈だ。
 そして私はシュヴァルツの頭を退けて立ち上がり、檻の錠の中に水を流し込んでそれを冷やし氷に変えた。
 それを壊れぬように引っ張ると、見事その錠の鍵穴の形の氷が完成していて、それを使って私は檻の扉を開けた。…勿論、氷の鍵は誰にも見られぬよう細心の注意を払った。
 私が鍵を開けて外に出た時、ナナラ達の「えっ」と言う声が聞こえて来た。私は一度振り返り檻の中の皆に向けて、

「…とりあえず、巡回の人達の事もあるから一度鍵をかけておくわね。後でまた、開けるから」

 そう小声で伝えて、通路に積まれている木箱の影に隠れる。今度は全身で全反射を行い、私の姿は周りより見えなくなっている筈だ。
 通路は等間隔で明かりが置かれているから、視界も良好だ。
 そうして待つ事数分。ついに夜の巡回の人達が現れた。ユリエアの情報通り三人の男で、その内の一人が確かに眼帯を……。

「お前等、飯の時間だ。腹減ってる奴は手ェ挙げろ、多めにやるからよ」

 眼帯の男は中くらいの布袋の中からパンをいくつも取り出し、次々に檻の中にそれを置いて行った。
 その度に「怪我は大丈夫か?」とか「頭が痛いのは治ったか?」とか子供達と話していた……子供達もこの男達相手にはあまり怯える様子を見せない。

「ねぇおじさん、わたし達本当にこのまま知らない人のところに売られちゃうの?」
「………そう、だな」
「ここの大人の人達みたいに酷い事をする人達のところにいかなきゃいけないの?」
「…あぁ」
「おじさんはどうして助けてくれないの? とっても優しいのにどうして?」
「…………悪ぃな、俺にも、守らねぇといけないものがあるんだ」

 どこかの檻の前で、眼帯の男は奥歯をかみ締めていた。…まるで、助けたいのに助けられないと言いたげな口調で。
 ──この時には、交渉次第で彼を味方に出来る。そんな確信が私の中にあった。
 悔しそうな面持ちで子供達を見つめる眼帯の男の元に、背が低い猫目の男と筋骨隆々の男が近寄る。

「アニキ~、こっち終わったよん」
「俺の方も終わったぞ」
「そうか…じゃあな、ガキ共。ゆっくり寝ろよ」

 優しい笑みを浮かべて、眼帯の男は子供達に「おやすみ」と告げた。
 そしてその二人と共に、早くも眼帯の男が巡回を終えてここを去ろうとしている。
 私は急いで眼帯の男を引き留めようと物陰から飛び出した。

「待ちな、さいっ!」
「ぐぁっ!?」

 全反射を解除し、眼帯の男の背中目掛けて勢いよく飛び蹴りをかました。…交渉出来なくなると焦ってしまい、手段を選ぶ暇が無かったのだ。
 眼帯の男はそのまま前方に倒れ込み、華麗に着地を決めた私に、夜の巡回の人達と檻の中の子供達の視線が一気に集中する。
 肝をつぶした様子の眼帯の男が、こちらを見上げてくる。
 そんな彼を真剣な面持ちで見下ろしながら私は提案する。

「──子供好きのお兄さん。ここにいる子供達全員を助ける為に、私と取引しませんか?」

 そして私は──ついに、交渉に躍り出た。


♢♢


 昼間はずっと自主練をしていた、と仰る姫様は謎の荷物と共に夕暮れにお戻りになった。
 何処で練習をしていらっしゃったのですか。と窺いたかったのですが、今日はもう疲れたから早めに夕食をとって眠るわ。と姫様が仰ったので私は大人しくその準備にとりかかりました。
 そして姫様のお部屋に夕食をお持ちした際に、重々しい空気を纏う姫様に頼み事をされた。

「ハイラにお願いしたい事があるんだけど…後でいいから、帝都や帝都近郊の町村にある教会や孤児院について調べておいて欲しいの」
「…畏まりました」

 姫様は以前より突飛な事を成される御方ですが、今回もまた、なんの脈絡も無い変わった頼み事でした。
 しかし私は姫様の専属侍女にして、姫様の一番の忠臣。例え姫様にどのような命令や頼み事をされようとも、それを疑う余地など最初からありません。
 なので私は粛々とその命を果たします。姫様が食事を終え、姫様が湯浴みをした後、私は姫様に「お休みなさいませ」と一礼し、姫様より頼まれました調べ物をしに王城へと参りました。
 向かうは各領地や各町等の情報を全て管理する情報部。そこである程度、教会や孤児院の情報を得る事が叶うでしょう。
 しかし私は優秀な姫様の侍女です。ただ情報を得るだけならば誰にだって出来ますが、私はそれで満足致しません。
 姫様がお求めになられているであろう情報をあらゆる観点より予測、推測し、前もってそれらの情報を集め纏めておく……それでこそようやく及第点と言った所でしょう。

「カラス、仕事ですよ」

 人気の無い王城の一角にて、私は誰に話しかける訳でもなく呟いた。
 私の言葉に応えるように、全身黒ずくめの者が数名、音も無く現れる。そしてその者達は私を見上げ、口を揃える。

「お呼びでしょうか」

 私の周りにて膝をつく彼等に、私は命令を下す。

「…近頃帝都で噂になっている少年少女の誘拐事件と人身売買……それらについて洗い出しなさい。今晩中にです」
「はっ!」

 命令を下すと同時に、彼等はまた音も無く姿を消しました。
 ──カラスと言うのは、実家の諜報組織です。当主のあの男があまりにも彼等を有効活用出来ておらず、正直に言って宝の持ち腐れでしたので、あの男に代わり私が彼らを有効活用しているのです。
 彼等もどうやらこれには納得しているようですし。
 カラスに市井での情報収集を任せて、私は当初の目的通り情報部に向かいます。
 そして資料をいくらか見聞していると、予期せぬ人に話しかけられました。

「おや、ハイラさん。こんな時間に情報部へどうなされましたか?」
「これは…ご挨拶申し上げます、ケイリオル卿。少々私用で調べ物に」
「なるほど、調べ物ですか」

 透き通る金髪と顔の布を揺らして、卿は小さくお辞儀をした。それに私は侍女制服のスカートを少し摘み、同じように礼をしました。

「差し支え無ければどのようなものを調べているのかお窺いしても?」

 私が知る事もあるかもしれませんので、とケイリオル卿は付け加えた。
 帝国一の情報通とも呼ばれる卿に聞くのは確かに良いかもしれませんね。私に求められているのは正しい情報であり、私自身が調べ上げたと言った実績などではないですし。
 そう言う訳ですので、ここは一つ、卿の言葉に甘えさせていただきましょう。

「……ケイリオル卿もご存知であろう、近頃帝都を騒がす子供が主な被害の人身売買の件です」
「あぁ、あれですか。その件に関する資料でしたらこちらに──」

 流石はケイリオル卿です。話を聞いてすぐにその資料を探し出してくださりました。
 私はその資料に一通り目を通し、そして姫様のお考えの一端を理解する事となった……。
 ──姫様は、いずれその奴隷商から奴隷にされそうな子供達を救い出すおつもりであらせられる。そして、帰る家の無い子供の為に、教会や孤児院を探しておられるのだと。
 嗚呼っ…姫様は何と聡明で慈愛に満ちた御方なのでしょうか…っ! どうせ皇宮の侍女の誰かがその噂をしていたのでしょう、それを偶然にもお聞きになった姫様が幼き子供達の為に御心を砕くだなんて……流石です、姫様‼︎
 そんな姫様の慈悲が姫様の望むままに子供達の元へと届くよう、私も動きましょう。
 カラスもしばらくすれば報告に戻って来るでしょうし、早ければ明日にでも…。ああでも、先に姫様に調べ上げた情報をお渡しする事が先です。
 命じられた事は、きちんと果たさねばなりませんから………。
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