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第一章・救国の王女
23.いざ潜入任務!2
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檻の中を見渡す。薄暗いからかぼんやりと影が見えるだけなんだが、ここには私以外に子供が四人いる。
この子達も…他の檻にいる子達も全員今夜中に逃がしてあげないと。
「……もう監視とかいないよね?」
ボソッと呟きながら、私は全反射を解除して剣を出す。それには他の子達も驚いたようで、
「な、何してるの…?」
女の子が恐る恐るそう尋ねてくる。私からは、暗くて人影しか見えないのだけれど、少しだけ届く通路の光で、あの子達からは私の姿が見えているのかもしれない。
「──あのね、私はここにいる皆を助けに来たの」
そうだ、私はこの子達を助けに来た。そして諸悪の根源を滅する為に来た。最初こそは他人に任せようとしていたけれど、色々と知ってしまった以上無視できない。
「たす、けに? あたし達を?」
「ええそうよ」
「あなた一人で?」
「…残念ながら私には仲間がいなくて」
そうやって、暗がりから聞こえて来る声と会話を繰り返していると。
「……ふざけないで、あなた一人で何ができるって言うの? 私達と歳も変わらなさそうなあなたが、大人の男達相手に何ができるって言うのよ! 無駄に期待させないで!!」
影が一つ動き出し、女の子が叫びながら近寄ってきた。薄らと見える女の子の姿は…落ち着いた赤褐色の長髪で、なんだか大人びたものだった。
彼女は私の両肩を掴み、必死の形相で迫ってくる。
「それにっ、あなたみたいな可愛い子の方が早くどこかの変態に買われちゃうのよ!? そこの子だって明日の朝には……!」
彼女の視線の方向には、ずっと静かに俯いている女の子がいた。最初に声をかけてきた女の子とも違う子。
「メイシアからも何か言いなさいよ! この子、馬鹿みたいな事言ってるのよ!」
赤褐色の女の子の言葉に、私は一瞬思考を止めた。
そして振り払うように彼女の手を退かして、メイシアと呼ばれた少女の元に駆け寄る。
失礼します、と言いながら俯く彼女の顔を上げて、その顔を至近距離で見つめて私は確信した。
まさかこんな所で会う事になるなんて…だって、この子は──。
「…メイシア・シャンパージュ嬢、ですよね」
彼女はメイシア・シャンパージュ。帝国市場にて頭角を現し続ける商家シャンパージュ伯爵家の一人娘にして、アンディザのサブキャラクター。
人形の如き愛らしい容姿に重苦しい闇を抱く、魔女と呼ばれた少女…。
生まれつき膨大かつ強力な火の魔力を持ち、生まれて直ぐにそれの暴走により自らの右手を失った事により、幼い頃より右手に魔導具の義手を持つ。母親譲りの延焼の魔眼は彼女の火の魔力の力を増大させ、見たもの全てを焼き尽くす事さえ出来る。
──その魔眼は、無詠唱で火の魔法を操る事さえ出来る代物と言われている。
それが、彼女が魔女と呼ばれる由縁。それが、彼女の抱える闇だった。
公式ファンブックでこの設定やメイシアのSSを見た私は、『なんでこのゲームの女の子って皆闇深いの?』と公式の鬼畜さを痛感した。
ゲームではフリードルとマクベスタとサラと言うキャラのルートでのみの登場だったが……この子は、人々から恐れられる事を承知で力を振るった、とても心優しい子なのだ。
それは帝国側の攻略対象のルートに定められたデートイベント雪解祭…その祭の最中、街の広場にて爆発事件が起きる。その事件は帝国に恨みを持つ者達の計画的犯行で、それにより多くの人が重軽傷を負った。
混乱に乗じて行われる犯罪行為の数々…祭りを壊す男達を捕まえようと警備隊は躍起になるが、あまりにも人がごった返し逃げられてしまいそうだった。
その一連の流れを、メイシアはたまたま視ていた。
誰が爆発を起こし誰が犯罪行為をしたのかを。
『…燃えて』
メイシアは己が視たままに、記憶にある男達全てを燃やしたのだ。……これが延焼の魔眼の真骨頂。一度視たものは、記憶に残る限り全て自在に燃やす事が出来る。例え、その時視界に映らずとも。
この恐ろしい魔眼と膨大な魔力があれば…普段それを使っておらずとも、その噂だけで周りから畏怖されてしまう。それこそ──魔女、などと呼ばれて。
突然十人近い男が火に包まれ更に現場は混乱を極める。火だるまとなる男達から人々が逃げ惑う中、メイシアはその場を動かずただじっとそれらを見つめていた。
そこに現れたのが、ヒロインのミシェルちゃんだった。
『こんな所で何をしているの? 危ないよ!』
ミシェルちゃんはメイシアに話しかけた。メイシアはそれに、
『──大丈夫』
と答えて、そして炎を消した。メイシアは男達が死なない程度に燃やすつもりだった。罪は償わせなければならない。その為にも殺す訳にはいかなかった。
だからこそ、ギリギリ死なない段階で炎を消したのだ。
ミシェルちゃんはあれがメイシアの仕業だとは気づかなかったが、フリードルは違った。フリードルのルートではその事についてフリードルが言及し、メイシアはそれを認める。
ここまでが本編シナリオ内で語られた事。ここから先はフリードルのSSのうちの一つ、【魔女狩り】とメイシアのSS【赤い瞳】から抜粋する。
そして、フリードルのルートでのみメイシアは投獄される。騒ぎを起こした男達を捕らえる事に貢献したとは言え、多くの人間を燃やしたのだ。……罪に問われても仕方が無い。
そして突きつけられる。処刑されるか、延焼の魔眼を差し出すか…その二択を。
メイシアは後者を拒んだ。これの所為で苦しんで来たのは確かだが、メイシアは大好きな母親と同じこの眼を大事にしていた。
その為、後者を拒み秘密裏に処刑される道を選んだ──が、しかし。彼女は処刑される前日に自殺した。
『……延焼の魔眼が魔法を使わずとも火を生み出せると、何故誰も知らなかったんだ』
フリードルの言葉に答えられる者はいなかった。
メイシアは魔法封じの牢獄に入れられていたにも関わらず、自身を燃やして自殺した。
…処刑されてしまえば死体がどう扱われるか分からない。死んだ後この魔眼を利用されるぐらいならこの魔眼諸共灰になってやる…そう、たった十四歳程の少女が決意し、自ら業火に身を投じた──。
真夜中に行われた自殺。その業火はメイシアが死んだ後もその膨大な魔力を燃料に燃え続けた。衛兵がそれに気づき駆けつけた時にはメイシアの体は完全に焼き尽くされ、魔眼も原型を留めていなかった…。
その場に残ったものは、メイシアの膨大な魔力を抑制していた魔導具の義手と、少し前まで人だった塊だけ。
一番ヤバいと思ったのは、これを受けてなおフリードルが何も感じていない事だった。メイシアは自分の所為で自殺したようなものなのに……フリードルはただ、『貴重な魔眼が得られず残念だ』としか思わなかったのだ。
これには殺意が沸いた。私がとことんフリードルを嫌っている理由の一つでもある。
…それでも世の中ではここまでの無情さとミシェルちゃんへの甘さのギャップが最高! と騒がれていたけど。理解出来ねぇ…と思っていたのはここだけの秘密だ。
メイシアはアミレスと同じでフリードルによって殺されてしまうので、勝手に仲間意識を感じている。
元々メイシアの事は可愛いしいい子だしで好きだったから、私は今世でもメイシアをフリードルの手から守りたいと思っている。
……というか、メイシアがここにいる事によりこの世界が二作目の世界である可能性が高まったんだが、どうしよう。ミシェルちゃんがフリードルのルートに進んだら私もメイシアもバットエンド確定じゃない…!?
さて。そんなメイシアが今、私の目の前にいます。歳は十一歳程だろうか。
大きくて丸い宝石のような赤い瞳と、藍色の長髪が相まってまさに人形の如き愛らしさの少女。
その右手には義手を隠す為の手袋が着けられている。
メイシアは私に名前を呼ばれて驚いたのか少し目を見開いて、
「どうして、わたしの名前を?」
と呟いた。もう失礼かと思い、私はメイシアの顔から手を離して、それに答える。
「…私も貴族のようなもので。まさか、伯爵令嬢の貴女がこんな所にいるなんて……やっぱり来てよかった」
目に見える所には傷が無さそうたし、多分、まだ酷い事はされてないのだろうと分かって私はとりあえず胸を撫で下ろした。
「メイシア、貴族だったの…?」
「それも伯爵令嬢なんて……」
声をかけてくれた女の子と、赤褐色の女の子が驚いたような声をあげた。赤褐色の女の子は「しかもあなたまで…」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
……ふむ、こっち側に座っていると、確かに通路近くの人の姿が少しは見えるわね。
「本当に、わたし達を助けてくれるの?」
メイシアが私の服の裾をくいっと引っ張る。彼女はかなり無表情だったが、その手は少し震えていた。
そりゃあそうだよね、メイシアはこのままだと明日の朝には売られてしまうんだもの。怖いに決まってる。…本当に今日来れて良かった。間に合って、良かった。
「その為にここまで来たから。安心して、私、こう見えて結構強いんだから」
任せなさい! と胸を叩く。メイシアは不安そうにしながらもゆっくりと頷いた。
そして、メイシアが私を信じてくれた事によりあの二人の女の子も私を信じようと思ってくれたようで、赤褐色の女の子がナナラ、声をかけてくれた女の子がユリエアと言う名前を教えて貰えた。…私はここでもスミレという偽名を名乗った。
私は幸運な事にナナラとユリエアとも少しは打ち解ける事が出来た。
ナナラは五人姉弟の長女だとかで、世話焼きで責任感が強いみたい。
ユリエアはおっとりしていて、ナナラとは幼なじみらしい。先日二人でお使いをしていた時に一緒に攫われてしまったとか…。
いつ奴隷にされるかも分からないこの状況で、無駄に期待させるような事を言う私が現れたものだから、つい声を荒らげてしまったのだと謝ってきた。
これは私が悪いと私も謝った。ロクな説明も無しにそんな事を言っても困惑させるだけだったよね、と。
そうやって話していると、この檻の中にいる最後の子がようやく会話に参加してきた。
「それで、結局、どうやって皆を助けるのー?」
白髪の所々に黒いメッシュの入ったボリュームのある髪に、不思議な感じがする金色の瞳を持つ、明るい声の少年がコロコロコロと転がりながら聞いてくる。
…至近距離だと意外と姿が見えるものね。彼が美少年なのだとよく分かる。
「えっと…とりあえず全ての檻を壊して、皆を逃がして…」
「ふむふむそれから?」
見切り発車で決行したこの計画、奴隷商の拠点に潜入するまでは良かったんだけどその後の事を何も考えていなかったから、今かなり焦っている。
しかし少年を始めとしてナナラもユリエアも興味津々とばかりにこちらを見つめてくる。なので私は、今必死に考える。
「…悪い大人を倒して、警備隊に突き出す?」
最早計画とは言えない計画を恥ずかしさから顔を熱くして話す。
それを聞いた少年は楽しそうに笑う。
「あっははは、いいねぇそれ、単純でとっても楽しそうじゃないか! そういう事ならぼくも一枚噛ませてもらおうかな!」
少年は寝転がったまま、足をバタバタとさせてはしゃいでいた。……キャラが濃いなぁ、こんな子ゲームにはいなかったと思うんだけど…まぁそう言う事もあるか。ゲームにいなかった人なんて既に結構出てきてるし。
ここはゲームの世界ではあるが現実でもある。ゲームで描かれていなくとも、様々な人生や物語が繰り広げられている。
これぐらいキャラが濃い人が普通にいたっていいじゃないか。
「…そう言えば、君の名前は?」
ふと思い出して、私は少年に名前を尋ねた。
「ぼく? ぼくはねー、えっとぉ、そうだなぁ、シュヴァルツって呼んで!」
可愛らしい満面の笑みを咲かせながら少年…シュヴァルツは言った。いやかっこいい名前だなおい。
この子達も…他の檻にいる子達も全員今夜中に逃がしてあげないと。
「……もう監視とかいないよね?」
ボソッと呟きながら、私は全反射を解除して剣を出す。それには他の子達も驚いたようで、
「な、何してるの…?」
女の子が恐る恐るそう尋ねてくる。私からは、暗くて人影しか見えないのだけれど、少しだけ届く通路の光で、あの子達からは私の姿が見えているのかもしれない。
「──あのね、私はここにいる皆を助けに来たの」
そうだ、私はこの子達を助けに来た。そして諸悪の根源を滅する為に来た。最初こそは他人に任せようとしていたけれど、色々と知ってしまった以上無視できない。
「たす、けに? あたし達を?」
「ええそうよ」
「あなた一人で?」
「…残念ながら私には仲間がいなくて」
そうやって、暗がりから聞こえて来る声と会話を繰り返していると。
「……ふざけないで、あなた一人で何ができるって言うの? 私達と歳も変わらなさそうなあなたが、大人の男達相手に何ができるって言うのよ! 無駄に期待させないで!!」
影が一つ動き出し、女の子が叫びながら近寄ってきた。薄らと見える女の子の姿は…落ち着いた赤褐色の長髪で、なんだか大人びたものだった。
彼女は私の両肩を掴み、必死の形相で迫ってくる。
「それにっ、あなたみたいな可愛い子の方が早くどこかの変態に買われちゃうのよ!? そこの子だって明日の朝には……!」
彼女の視線の方向には、ずっと静かに俯いている女の子がいた。最初に声をかけてきた女の子とも違う子。
「メイシアからも何か言いなさいよ! この子、馬鹿みたいな事言ってるのよ!」
赤褐色の女の子の言葉に、私は一瞬思考を止めた。
そして振り払うように彼女の手を退かして、メイシアと呼ばれた少女の元に駆け寄る。
失礼します、と言いながら俯く彼女の顔を上げて、その顔を至近距離で見つめて私は確信した。
まさかこんな所で会う事になるなんて…だって、この子は──。
「…メイシア・シャンパージュ嬢、ですよね」
彼女はメイシア・シャンパージュ。帝国市場にて頭角を現し続ける商家シャンパージュ伯爵家の一人娘にして、アンディザのサブキャラクター。
人形の如き愛らしい容姿に重苦しい闇を抱く、魔女と呼ばれた少女…。
生まれつき膨大かつ強力な火の魔力を持ち、生まれて直ぐにそれの暴走により自らの右手を失った事により、幼い頃より右手に魔導具の義手を持つ。母親譲りの延焼の魔眼は彼女の火の魔力の力を増大させ、見たもの全てを焼き尽くす事さえ出来る。
──その魔眼は、無詠唱で火の魔法を操る事さえ出来る代物と言われている。
それが、彼女が魔女と呼ばれる由縁。それが、彼女の抱える闇だった。
公式ファンブックでこの設定やメイシアのSSを見た私は、『なんでこのゲームの女の子って皆闇深いの?』と公式の鬼畜さを痛感した。
ゲームではフリードルとマクベスタとサラと言うキャラのルートでのみの登場だったが……この子は、人々から恐れられる事を承知で力を振るった、とても心優しい子なのだ。
それは帝国側の攻略対象のルートに定められたデートイベント雪解祭…その祭の最中、街の広場にて爆発事件が起きる。その事件は帝国に恨みを持つ者達の計画的犯行で、それにより多くの人が重軽傷を負った。
混乱に乗じて行われる犯罪行為の数々…祭りを壊す男達を捕まえようと警備隊は躍起になるが、あまりにも人がごった返し逃げられてしまいそうだった。
その一連の流れを、メイシアはたまたま視ていた。
誰が爆発を起こし誰が犯罪行為をしたのかを。
『…燃えて』
メイシアは己が視たままに、記憶にある男達全てを燃やしたのだ。……これが延焼の魔眼の真骨頂。一度視たものは、記憶に残る限り全て自在に燃やす事が出来る。例え、その時視界に映らずとも。
この恐ろしい魔眼と膨大な魔力があれば…普段それを使っておらずとも、その噂だけで周りから畏怖されてしまう。それこそ──魔女、などと呼ばれて。
突然十人近い男が火に包まれ更に現場は混乱を極める。火だるまとなる男達から人々が逃げ惑う中、メイシアはその場を動かずただじっとそれらを見つめていた。
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『こんな所で何をしているの? 危ないよ!』
ミシェルちゃんはメイシアに話しかけた。メイシアはそれに、
『──大丈夫』
と答えて、そして炎を消した。メイシアは男達が死なない程度に燃やすつもりだった。罪は償わせなければならない。その為にも殺す訳にはいかなかった。
だからこそ、ギリギリ死なない段階で炎を消したのだ。
ミシェルちゃんはあれがメイシアの仕業だとは気づかなかったが、フリードルは違った。フリードルのルートではその事についてフリードルが言及し、メイシアはそれを認める。
ここまでが本編シナリオ内で語られた事。ここから先はフリードルのSSのうちの一つ、【魔女狩り】とメイシアのSS【赤い瞳】から抜粋する。
そして、フリードルのルートでのみメイシアは投獄される。騒ぎを起こした男達を捕らえる事に貢献したとは言え、多くの人間を燃やしたのだ。……罪に問われても仕方が無い。
そして突きつけられる。処刑されるか、延焼の魔眼を差し出すか…その二択を。
メイシアは後者を拒んだ。これの所為で苦しんで来たのは確かだが、メイシアは大好きな母親と同じこの眼を大事にしていた。
その為、後者を拒み秘密裏に処刑される道を選んだ──が、しかし。彼女は処刑される前日に自殺した。
『……延焼の魔眼が魔法を使わずとも火を生み出せると、何故誰も知らなかったんだ』
フリードルの言葉に答えられる者はいなかった。
メイシアは魔法封じの牢獄に入れられていたにも関わらず、自身を燃やして自殺した。
…処刑されてしまえば死体がどう扱われるか分からない。死んだ後この魔眼を利用されるぐらいならこの魔眼諸共灰になってやる…そう、たった十四歳程の少女が決意し、自ら業火に身を投じた──。
真夜中に行われた自殺。その業火はメイシアが死んだ後もその膨大な魔力を燃料に燃え続けた。衛兵がそれに気づき駆けつけた時にはメイシアの体は完全に焼き尽くされ、魔眼も原型を留めていなかった…。
その場に残ったものは、メイシアの膨大な魔力を抑制していた魔導具の義手と、少し前まで人だった塊だけ。
一番ヤバいと思ったのは、これを受けてなおフリードルが何も感じていない事だった。メイシアは自分の所為で自殺したようなものなのに……フリードルはただ、『貴重な魔眼が得られず残念だ』としか思わなかったのだ。
これには殺意が沸いた。私がとことんフリードルを嫌っている理由の一つでもある。
…それでも世の中ではここまでの無情さとミシェルちゃんへの甘さのギャップが最高! と騒がれていたけど。理解出来ねぇ…と思っていたのはここだけの秘密だ。
メイシアはアミレスと同じでフリードルによって殺されてしまうので、勝手に仲間意識を感じている。
元々メイシアの事は可愛いしいい子だしで好きだったから、私は今世でもメイシアをフリードルの手から守りたいと思っている。
……というか、メイシアがここにいる事によりこの世界が二作目の世界である可能性が高まったんだが、どうしよう。ミシェルちゃんがフリードルのルートに進んだら私もメイシアもバットエンド確定じゃない…!?
さて。そんなメイシアが今、私の目の前にいます。歳は十一歳程だろうか。
大きくて丸い宝石のような赤い瞳と、藍色の長髪が相まってまさに人形の如き愛らしさの少女。
その右手には義手を隠す為の手袋が着けられている。
メイシアは私に名前を呼ばれて驚いたのか少し目を見開いて、
「どうして、わたしの名前を?」
と呟いた。もう失礼かと思い、私はメイシアの顔から手を離して、それに答える。
「…私も貴族のようなもので。まさか、伯爵令嬢の貴女がこんな所にいるなんて……やっぱり来てよかった」
目に見える所には傷が無さそうたし、多分、まだ酷い事はされてないのだろうと分かって私はとりあえず胸を撫で下ろした。
「メイシア、貴族だったの…?」
「それも伯爵令嬢なんて……」
声をかけてくれた女の子と、赤褐色の女の子が驚いたような声をあげた。赤褐色の女の子は「しかもあなたまで…」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
……ふむ、こっち側に座っていると、確かに通路近くの人の姿が少しは見えるわね。
「本当に、わたし達を助けてくれるの?」
メイシアが私の服の裾をくいっと引っ張る。彼女はかなり無表情だったが、その手は少し震えていた。
そりゃあそうだよね、メイシアはこのままだと明日の朝には売られてしまうんだもの。怖いに決まってる。…本当に今日来れて良かった。間に合って、良かった。
「その為にここまで来たから。安心して、私、こう見えて結構強いんだから」
任せなさい! と胸を叩く。メイシアは不安そうにしながらもゆっくりと頷いた。
そして、メイシアが私を信じてくれた事によりあの二人の女の子も私を信じようと思ってくれたようで、赤褐色の女の子がナナラ、声をかけてくれた女の子がユリエアと言う名前を教えて貰えた。…私はここでもスミレという偽名を名乗った。
私は幸運な事にナナラとユリエアとも少しは打ち解ける事が出来た。
ナナラは五人姉弟の長女だとかで、世話焼きで責任感が強いみたい。
ユリエアはおっとりしていて、ナナラとは幼なじみらしい。先日二人でお使いをしていた時に一緒に攫われてしまったとか…。
いつ奴隷にされるかも分からないこの状況で、無駄に期待させるような事を言う私が現れたものだから、つい声を荒らげてしまったのだと謝ってきた。
これは私が悪いと私も謝った。ロクな説明も無しにそんな事を言っても困惑させるだけだったよね、と。
そうやって話していると、この檻の中にいる最後の子がようやく会話に参加してきた。
「それで、結局、どうやって皆を助けるのー?」
白髪の所々に黒いメッシュの入ったボリュームのある髪に、不思議な感じがする金色の瞳を持つ、明るい声の少年がコロコロコロと転がりながら聞いてくる。
…至近距離だと意外と姿が見えるものね。彼が美少年なのだとよく分かる。
「えっと…とりあえず全ての檻を壊して、皆を逃がして…」
「ふむふむそれから?」
見切り発車で決行したこの計画、奴隷商の拠点に潜入するまでは良かったんだけどその後の事を何も考えていなかったから、今かなり焦っている。
しかし少年を始めとしてナナラもユリエアも興味津々とばかりにこちらを見つめてくる。なので私は、今必死に考える。
「…悪い大人を倒して、警備隊に突き出す?」
最早計画とは言えない計画を恥ずかしさから顔を熱くして話す。
それを聞いた少年は楽しそうに笑う。
「あっははは、いいねぇそれ、単純でとっても楽しそうじゃないか! そういう事ならぼくも一枚噛ませてもらおうかな!」
少年は寝転がったまま、足をバタバタとさせてはしゃいでいた。……キャラが濃いなぁ、こんな子ゲームにはいなかったと思うんだけど…まぁそう言う事もあるか。ゲームにいなかった人なんて既に結構出てきてるし。
ここはゲームの世界ではあるが現実でもある。ゲームで描かれていなくとも、様々な人生や物語が繰り広げられている。
これぐらいキャラが濃い人が普通にいたっていいじゃないか。
「…そう言えば、君の名前は?」
ふと思い出して、私は少年に名前を尋ねた。
「ぼく? ぼくはねー、えっとぉ、そうだなぁ、シュヴァルツって呼んで!」
可愛らしい満面の笑みを咲かせながら少年…シュヴァルツは言った。いやかっこいい名前だなおい。
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