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序章
12.私は運命を知りました。
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その後、私達はそれぞれ仕事を割り振られ早速取り掛かる事となりました。私はたまたま目が合ってしまったからか、侍女長に王女殿下の私室の掃除を任されました。
王女殿下の私室にお邪魔させていただき、私は目を疑いました。
明らかに物が少ないのです。この国唯一の王女殿下であらせられるにも関わらず、王女殿下の部屋には物が少な過ぎるのです。
皇宮…それも王子殿下や王女殿下へは必要経費として、氷金貨約五百枚分程の膨大な予算が毎年与えられている筈なのに、その予算とは明らかに不釣り合いな物の少なさでした。
……何故私がそんな事を知っているかと? 実家にいた頃、あの男の部屋の掃除を押し付けられた際にたまたまその資料を見ただけです。
ただ王女殿下があまり物欲の無い方なだけかもしれません。ですので私は、不躾にも王女殿下に問いました。
………欲しい物があればどうなさるのですか、と。
すると王女殿下はお答えくださりました。
「じじょちょうに言って、氷金貨二十枚分までなら用意してもらえます」
この時、私は確信しました。この皇宮の侍女は──救いようの無い屑ばかりなのだと。
まさか幼い王女殿下に与えられた予算を大幅に横領しているとは…この様子だと余罪はいくらでも見つけられそうですし、どうせ何処かに改竄した帳簿がある事でしょう。
絶対にいつか見つけ出してあの屑共を掃き溜めに棄ててやりますわ………こんなにも純粋で高潔な王女殿下を騙すなんて、恥知らずにも程がある。同じ人間として恥ずかしいです。今すぐ天へと送ってやりたい。
「お教えくださり誠にありがとうございます、王女殿下」
私がそうやってお礼を告げると、王女殿下はきょとんとしていた。そして私の顔を見上げて、
「……はじめてです。そんなふうにおはなししてもらえたのは」
四歳の少女らしく無邪気に笑った。
…は? なんですか、あの屑共は礼儀作法すらままならない愚者なのですか? それとも四歳の王女殿下相手に優位に立っていると優越感に浸る馬鹿なのですか?
あー……久方ぶりに怒りを覚えました。
決めました。王女殿下を舐め腐った屑共は全員皇宮から追い出します。社会的に抹殺します。王女殿下の侍女として、私はあの屑をきちんと処理致します。
そう、これからどうやってあの屑共を廃棄するか考えを巡らせていた所、王女殿下が顔を少し赤くしながらくいっと私のスカートの裾を引っ張って。
「…その、あなたのおなまえは、なんですか?」
「私のですか?」
そう、失礼にも聞き返すと王女殿下はこくりと頷いた。
……昨日の今日で急展開過ぎて、まだ偽名を考えられてないんですが、どうしましょうか。
「私には、王女殿下にお伝え出来る名前が無いのです。申し訳ございません」
膝をつき深く頭を下げてお詫び申し上げる。すると王女殿下はとても悲しそうな表情をお作りになられてしまった。…こんな事なら適当な名前を名乗るべきでしたね。
すると王女殿下が私の両手を握って、
「それじゃあっ、わたしが、おなまえをつけてもいいですか…?」
大きくて丸い、綺麗な寒色の瞳を揺らして言いました。…驚きました。まさかこんな事を言われるとは。
「………勿論でございます。王女殿下より我が名を賜る事が出来るなど、我が一生の誉にて」
王女殿下より名を賜る者など、後にも先にも私だけなのではないでしょうか。そう考えると…ちょっぴり嬉しいですね、特別な感じがして。
そして王女殿下は熟考なされた後、ついに私へと名を下賜してくださった──。
「──ハイラ、というのはどうですか?」
息が、止まるかと思いました。何故その名が…何故その言葉がここで出てくるのかと、戸惑いました。
…それは、あの絵本の主人公の名前。大好きなあの絵本の……。
戸惑いに溺れる私を置いて、王女殿下は続けた。
「その……あなたは、とってもやさしい人だから。あの絵本のしゅじんこうみたいに、こころやさしい人だとおもったんです」
「…っ」
かつての記憶が、いつかの思い出が蘇る。
夜寝付けなくて、お母さんに読み聞かせてもらった絵本。私は…その主人公に憧れていました。
優しくて、強くて、大切な人を守れるだけの力があって。大好きなお母さんを守れない私からすれば、とても羨ましい存在でした。
でもお母さんは絵本を読む度に『貴女は最初からハイラのように優しい素敵な女の子よ』と私に言っていました。
それでもハイラになりたいと駄々をこねる私に、お母さんはいつも『きっとなれるわ。貴女はとっても心優しい子だから』と言って頭を撫でてくれました。
……ハイラのような優しくて強い人になりたい。そんな夢は、もう私の中には無い。なぜなら、もう、私が一番守りたかった人はこの世にいないのですから。
「………っ」
急に目頭に熱がこもり、私は母への感情を溢れさせてしまった。王女殿下の目の前で、無様にも泣いてしまったのです。
つい先日亡くなったばかりの母を思い出して、王女殿下のお言葉に涙してしまった…必死に涙を止めようとしましたが、止まる気配はありません。
とめどなく涙を溢れさせる私を、王女殿下はとても心配して下さりました。
今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の事をあのように評価して下さるのか。今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の心の壁をいとも容易く壊してしまったのか。
今すぐにでも泣き出してしまいそうな御顔の王女殿下に、私は「大丈夫です。すみません、取り乱して」と伝える。
新品の侍女の服の袖を涙に濡らしながら、私は王女殿下に向けて、またもや質問を投げかけました。
「…本当によろしいのですか? 私が、その名を賜っても」
王女殿下のお言葉に意を唱えるなど許される事ではありません。ですが、どうしても確認しておきたかったのです。
私に、その名を名乗る資格があるのかを。
「あなたはきっと…とってもやさしくて、つよくて、たくさんの人をまもれるすごい人になるでしょうから! それなら、ハイラというおなまえがぴったりです!」
王女殿下は私が泣き止んだのを確認してほっと胸を撫で下ろし、新雪のように柔らかく儚い笑顔を浮かべた。
……あぁ、どうしてそんな事が王女殿下には分かるのでしょうか。私が凄い人になれるだなんて──でも、とても嬉しかった。今までの私の努力や積み重ねは全て無意味では無かったのだと分かって、心の底から安心してしまいました。
王女殿下、私は、今一度あの夢を見ても良いのでしょうか。大事な人を守りたいと願っても良いのでしょうか。
もし、それが叶うのなら…私は貴女を守りたい。新たな私と、一度は捨てた夢を今一度与えて下さった貴女を……私はその名にかけてお守りしたいです。
誰よりも純粋で、誰よりも高潔で、誰よりも優しい王女殿下。
会って数十分足らずの私に、そのような資格が無い事は重々承知の上です。それでも私は………ハイラとなるのであれば、その名に相応しく貴女の傍で貴女をお守りしたいのです!
「…ありがたく頂戴致します。本日より私めは──ハイラ、と名乗らせていただきます。これから王女殿下の侍女としてお仕え致します故、敬語もお使いにならなくて結構でございます」
正しく膝を折り、頭を垂れる。
どうすれば王女殿下の傍で王女殿下をお守りする事が出来るのでしょうか。皇宮という果てなき地獄において、少しでも王女殿下に快適に過ごしていただくには、どうすればよいのでしょうか。
考えても考えても答えは出てきません。きっと、今、私の頭がとても興奮と幸福に満ちているからなのでしょう。
興奮でまともに思考する事すら出来ない私に向けて、王女殿下がふにゃりと笑いながら手を差し伸べて来た。
「──ハイラ、きょうからよろしくね」
窓から射し込む光が、王女殿下を照らす。光を背負いながら微笑むそのお姿は……まるで、神話に聞く神の使いのようでした。
私はその手を取りました。不遜にも王女殿下の御手に触れてしまいました。
細くて少し力を入れたらすぐにでも壊れてしまいそうなその手指を見て、私は更に守らねばという意思を固くしました。
一度は諦めて捨ててしまった夢。これが最後だから…夢を見させて欲しい。叶えさせて欲しい。
これから私はハイラとして生きる。あの家の庶子では無く、王女殿下の侍女のハイラとして。
だから最後にもう一度──夢を追う事をお許しください、神よ。
♢♢♢♢
…これが、今より二年程前の話です。私と姫様が運命的な出会いを果たしやはり運命だったのだと証明された日ですね。……違う? 何言ってるんだ? いいえ、私は何も間違った事は申しておりません。
私と姫様は間違いなく運命だったのですよ。でなくてはあのような劇的な出会いは果たさないでしょう。
さて。私が姫様の専属侍女となったのは実は半年前の話なのです。それまでの一年と半年の間、私は姫様の周りに散らばるゴミ屑を一つ一つ丁寧に廃棄していっておりました。
この時の為にあったのだと思う程私の知恵はよく働き、次々に屑を陥れる事が出来て楽しかったです。あの手この手ありとあらゆる手段を駆使し、時に実家の権威を使ってまでして私は彼女達を社会的に抹殺しました。
たかだか十六の私には彼女達の未来を完膚なきまでに潰す事が限界だったのです。
ただその際に厄介だったのがケイリオル卿でした。流石に嘘八百で黙せるような相手ではないので、姫様に割り当てられていた予算の横領について大人しく語りました。
するとケイリオル卿もそれにはかなり怒っていらしたようでした。顔の布のせいで何も分かりませんが。…とまぁ、そのお陰もありまして、私が独断で皇宮二班の侍女を次々追い出したのもそういう事ならとお許しを得ました。
あぁちなみに。私はこの二年で姫様を心から敬愛する事となりましたが…同時に皇帝陛下と王子殿下の事は嫌いになりましたね。心底。
健気で努力家な私の姫様の期待を裏切る豚野郎ですから。……あら、口が滑ってしまいましたわ。
私の口が悪い? それは気のせいですわよ。
姫様とお呼びするようになった経緯は秘密です。私と、姫様の二人だけの秘密。…乙女の秘密を暴くのは良くない事でしてよ?
長話はこのぐらいにして。とりあえず私は、建国祭での城の臨時侍女の仕事を終わらせなければならないのです。この仕事のせいで、熱に魘される姫様の付きっきりの看病が出来ないのですから!
ですのでケイリオル卿も嫌いです。いくら私が優秀だからとこのような命令を下してくれましたね………っ!
早急に終わらせて、すぐに戻りますからね姫様! 貴女のハイラがすぐに向かいますから!!
………私を専属侍女に選んで下さった事、私に名を与えて下さった事、私に夢を見させて下さった事……全ての恩に報いるべく、私はこれからも貴女に尽くします。
愛しの姫様。どうか、これからも貴女のお傍に──。
王女殿下の私室にお邪魔させていただき、私は目を疑いました。
明らかに物が少ないのです。この国唯一の王女殿下であらせられるにも関わらず、王女殿下の部屋には物が少な過ぎるのです。
皇宮…それも王子殿下や王女殿下へは必要経費として、氷金貨約五百枚分程の膨大な予算が毎年与えられている筈なのに、その予算とは明らかに不釣り合いな物の少なさでした。
……何故私がそんな事を知っているかと? 実家にいた頃、あの男の部屋の掃除を押し付けられた際にたまたまその資料を見ただけです。
ただ王女殿下があまり物欲の無い方なだけかもしれません。ですので私は、不躾にも王女殿下に問いました。
………欲しい物があればどうなさるのですか、と。
すると王女殿下はお答えくださりました。
「じじょちょうに言って、氷金貨二十枚分までなら用意してもらえます」
この時、私は確信しました。この皇宮の侍女は──救いようの無い屑ばかりなのだと。
まさか幼い王女殿下に与えられた予算を大幅に横領しているとは…この様子だと余罪はいくらでも見つけられそうですし、どうせ何処かに改竄した帳簿がある事でしょう。
絶対にいつか見つけ出してあの屑共を掃き溜めに棄ててやりますわ………こんなにも純粋で高潔な王女殿下を騙すなんて、恥知らずにも程がある。同じ人間として恥ずかしいです。今すぐ天へと送ってやりたい。
「お教えくださり誠にありがとうございます、王女殿下」
私がそうやってお礼を告げると、王女殿下はきょとんとしていた。そして私の顔を見上げて、
「……はじめてです。そんなふうにおはなししてもらえたのは」
四歳の少女らしく無邪気に笑った。
…は? なんですか、あの屑共は礼儀作法すらままならない愚者なのですか? それとも四歳の王女殿下相手に優位に立っていると優越感に浸る馬鹿なのですか?
あー……久方ぶりに怒りを覚えました。
決めました。王女殿下を舐め腐った屑共は全員皇宮から追い出します。社会的に抹殺します。王女殿下の侍女として、私はあの屑をきちんと処理致します。
そう、これからどうやってあの屑共を廃棄するか考えを巡らせていた所、王女殿下が顔を少し赤くしながらくいっと私のスカートの裾を引っ張って。
「…その、あなたのおなまえは、なんですか?」
「私のですか?」
そう、失礼にも聞き返すと王女殿下はこくりと頷いた。
……昨日の今日で急展開過ぎて、まだ偽名を考えられてないんですが、どうしましょうか。
「私には、王女殿下にお伝え出来る名前が無いのです。申し訳ございません」
膝をつき深く頭を下げてお詫び申し上げる。すると王女殿下はとても悲しそうな表情をお作りになられてしまった。…こんな事なら適当な名前を名乗るべきでしたね。
すると王女殿下が私の両手を握って、
「それじゃあっ、わたしが、おなまえをつけてもいいですか…?」
大きくて丸い、綺麗な寒色の瞳を揺らして言いました。…驚きました。まさかこんな事を言われるとは。
「………勿論でございます。王女殿下より我が名を賜る事が出来るなど、我が一生の誉にて」
王女殿下より名を賜る者など、後にも先にも私だけなのではないでしょうか。そう考えると…ちょっぴり嬉しいですね、特別な感じがして。
そして王女殿下は熟考なされた後、ついに私へと名を下賜してくださった──。
「──ハイラ、というのはどうですか?」
息が、止まるかと思いました。何故その名が…何故その言葉がここで出てくるのかと、戸惑いました。
…それは、あの絵本の主人公の名前。大好きなあの絵本の……。
戸惑いに溺れる私を置いて、王女殿下は続けた。
「その……あなたは、とってもやさしい人だから。あの絵本のしゅじんこうみたいに、こころやさしい人だとおもったんです」
「…っ」
かつての記憶が、いつかの思い出が蘇る。
夜寝付けなくて、お母さんに読み聞かせてもらった絵本。私は…その主人公に憧れていました。
優しくて、強くて、大切な人を守れるだけの力があって。大好きなお母さんを守れない私からすれば、とても羨ましい存在でした。
でもお母さんは絵本を読む度に『貴女は最初からハイラのように優しい素敵な女の子よ』と私に言っていました。
それでもハイラになりたいと駄々をこねる私に、お母さんはいつも『きっとなれるわ。貴女はとっても心優しい子だから』と言って頭を撫でてくれました。
……ハイラのような優しくて強い人になりたい。そんな夢は、もう私の中には無い。なぜなら、もう、私が一番守りたかった人はこの世にいないのですから。
「………っ」
急に目頭に熱がこもり、私は母への感情を溢れさせてしまった。王女殿下の目の前で、無様にも泣いてしまったのです。
つい先日亡くなったばかりの母を思い出して、王女殿下のお言葉に涙してしまった…必死に涙を止めようとしましたが、止まる気配はありません。
とめどなく涙を溢れさせる私を、王女殿下はとても心配して下さりました。
今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の事をあのように評価して下さるのか。今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の心の壁をいとも容易く壊してしまったのか。
今すぐにでも泣き出してしまいそうな御顔の王女殿下に、私は「大丈夫です。すみません、取り乱して」と伝える。
新品の侍女の服の袖を涙に濡らしながら、私は王女殿下に向けて、またもや質問を投げかけました。
「…本当によろしいのですか? 私が、その名を賜っても」
王女殿下のお言葉に意を唱えるなど許される事ではありません。ですが、どうしても確認しておきたかったのです。
私に、その名を名乗る資格があるのかを。
「あなたはきっと…とってもやさしくて、つよくて、たくさんの人をまもれるすごい人になるでしょうから! それなら、ハイラというおなまえがぴったりです!」
王女殿下は私が泣き止んだのを確認してほっと胸を撫で下ろし、新雪のように柔らかく儚い笑顔を浮かべた。
……あぁ、どうしてそんな事が王女殿下には分かるのでしょうか。私が凄い人になれるだなんて──でも、とても嬉しかった。今までの私の努力や積み重ねは全て無意味では無かったのだと分かって、心の底から安心してしまいました。
王女殿下、私は、今一度あの夢を見ても良いのでしょうか。大事な人を守りたいと願っても良いのでしょうか。
もし、それが叶うのなら…私は貴女を守りたい。新たな私と、一度は捨てた夢を今一度与えて下さった貴女を……私はその名にかけてお守りしたいです。
誰よりも純粋で、誰よりも高潔で、誰よりも優しい王女殿下。
会って数十分足らずの私に、そのような資格が無い事は重々承知の上です。それでも私は………ハイラとなるのであれば、その名に相応しく貴女の傍で貴女をお守りしたいのです!
「…ありがたく頂戴致します。本日より私めは──ハイラ、と名乗らせていただきます。これから王女殿下の侍女としてお仕え致します故、敬語もお使いにならなくて結構でございます」
正しく膝を折り、頭を垂れる。
どうすれば王女殿下の傍で王女殿下をお守りする事が出来るのでしょうか。皇宮という果てなき地獄において、少しでも王女殿下に快適に過ごしていただくには、どうすればよいのでしょうか。
考えても考えても答えは出てきません。きっと、今、私の頭がとても興奮と幸福に満ちているからなのでしょう。
興奮でまともに思考する事すら出来ない私に向けて、王女殿下がふにゃりと笑いながら手を差し伸べて来た。
「──ハイラ、きょうからよろしくね」
窓から射し込む光が、王女殿下を照らす。光を背負いながら微笑むそのお姿は……まるで、神話に聞く神の使いのようでした。
私はその手を取りました。不遜にも王女殿下の御手に触れてしまいました。
細くて少し力を入れたらすぐにでも壊れてしまいそうなその手指を見て、私は更に守らねばという意思を固くしました。
一度は諦めて捨ててしまった夢。これが最後だから…夢を見させて欲しい。叶えさせて欲しい。
これから私はハイラとして生きる。あの家の庶子では無く、王女殿下の侍女のハイラとして。
だから最後にもう一度──夢を追う事をお許しください、神よ。
♢♢♢♢
…これが、今より二年程前の話です。私と姫様が運命的な出会いを果たしやはり運命だったのだと証明された日ですね。……違う? 何言ってるんだ? いいえ、私は何も間違った事は申しておりません。
私と姫様は間違いなく運命だったのですよ。でなくてはあのような劇的な出会いは果たさないでしょう。
さて。私が姫様の専属侍女となったのは実は半年前の話なのです。それまでの一年と半年の間、私は姫様の周りに散らばるゴミ屑を一つ一つ丁寧に廃棄していっておりました。
この時の為にあったのだと思う程私の知恵はよく働き、次々に屑を陥れる事が出来て楽しかったです。あの手この手ありとあらゆる手段を駆使し、時に実家の権威を使ってまでして私は彼女達を社会的に抹殺しました。
たかだか十六の私には彼女達の未来を完膚なきまでに潰す事が限界だったのです。
ただその際に厄介だったのがケイリオル卿でした。流石に嘘八百で黙せるような相手ではないので、姫様に割り当てられていた予算の横領について大人しく語りました。
するとケイリオル卿もそれにはかなり怒っていらしたようでした。顔の布のせいで何も分かりませんが。…とまぁ、そのお陰もありまして、私が独断で皇宮二班の侍女を次々追い出したのもそういう事ならとお許しを得ました。
あぁちなみに。私はこの二年で姫様を心から敬愛する事となりましたが…同時に皇帝陛下と王子殿下の事は嫌いになりましたね。心底。
健気で努力家な私の姫様の期待を裏切る豚野郎ですから。……あら、口が滑ってしまいましたわ。
私の口が悪い? それは気のせいですわよ。
姫様とお呼びするようになった経緯は秘密です。私と、姫様の二人だけの秘密。…乙女の秘密を暴くのは良くない事でしてよ?
長話はこのぐらいにして。とりあえず私は、建国祭での城の臨時侍女の仕事を終わらせなければならないのです。この仕事のせいで、熱に魘される姫様の付きっきりの看病が出来ないのですから!
ですのでケイリオル卿も嫌いです。いくら私が優秀だからとこのような命令を下してくれましたね………っ!
早急に終わらせて、すぐに戻りますからね姫様! 貴女のハイラがすぐに向かいますから!!
………私を専属侍女に選んで下さった事、私に名を与えて下さった事、私に夢を見させて下さった事……全ての恩に報いるべく、私はこれからも貴女に尽くします。
愛しの姫様。どうか、これからも貴女のお傍に──。
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