11 / 775
序章
10.ある側近の期待
しおりを挟む
──熱に侵されたからか人格に変化が見られる。
なんと面白い話でしょうか。フリードル殿下よりこの報告を受けた時、私は衝撃を受けました。
不可解で突発的な事象。本来起こるはずの無い変異…それが私の近くで発生したというのです。
確かに人は死を疑似体験すると考えを改め、性格に変化が見られると言います。なので、彼女の事も、有り得ない事では無いのです。
確かに今朝方に私が見た彼女は、かなりの高熱に囚われており、見るも憐れな姿となっておりました。それはもう酷い熱で、このままでは後数日間は病に伏すだろうと思う程でした。
一応、熱によく効くと噂の薬を彼女の専属侍女に渡して早い回復を祈りましたが……まさか半日足らずで回復し、散歩に躍り出る程元気になるとは。あまりにも予想外でしたね。
別にそれは良かったのです。私としても彼女が少しでも早く回復する方が、何かと監視がしやすいですし、眠る者を視透す事は難しいので…。
ただ問題が一つ発生しました。フリードル殿下への態度が明らかに昨日までの彼女のものとは違うのです。…とは言え、それもフリードル殿下から聞き及んだだけなのですが…彼が嘘をついている様子は無かったので、まぁ、事実なのでしょう。
彼女のあまりにも突飛な変化にフリードル殿下はかなり驚かれたようで……表面上は冷静を装っていましたが、その胸中は戸惑いで溢れておりました。
かく言う私も少しばかり戸惑ったものです。まさかあの彼女がフリードル殿下に反抗するだなんて…と。
彼女はとても、心の底から、フリードル殿下と皇帝陛下を愛しておりました。フリードル殿下と皇帝陛下に愛されたいと願っておりました。
それに偽りなど無く、私がこの眼で確かに視てきたものなのですが…どうやら今日の彼女は違ったようです。フリードル殿下や皇帝陛下に嫌われる事を恐れていた彼女が、もし作戦などであっても反抗的な振る舞いをする筈が無い。
……つまり、昼間にフリードル殿下が遭遇し、反抗的な振る舞いをした彼女は正しく彼女であり…その振る舞いも本心からのものであったという事です。
とまぁ、ここまで長々と話してきた訳ですが。
私はフリードル殿下の話を聞いてまず最初に、皇宮の彼女の部屋へと向かいました。すると偶然にも彼女の専属侍女…確かハイラさんでしたか。彼女と出会い、焦る彼女にその理由を聞きました。
何でも、今、彼女はまた高熱に苦しんでいるのだとか。
昼間フリードル殿下が見た彼女は元気な様子だったらしいのですが……一体どういう事なのでしょうか。私が今朝侍女に渡した薬が一時的に効いて、夜になりその効果が切れたとかでしょうか。
…自分で言っておいてあれですが、かなり非現実的ですね。そんな中途半端な効能でしたら、よく効く薬として噂になったりもしないでしょう。
では、何故か。それを考え究明するのが私の仕事です。最も手っ取り早いのは彼女を視る事なのですが、今は眠っているそうですからそれは不可能です。また日を改める事にしましょう。
皇帝陛下より少なからず利用価値があると判断されている事から、彼女はまだしばらくは処分される事もないでしょうし、皇帝陛下にとって邪魔な存在にならない限り私も手を出すつもりはありません。
ですが……どうしてでしょうか、彼女は近い将来に皇帝陛下の障害となる予感がするのです。皇帝陛下の忠臣としては今のうちに処分した方が良いかと思うのですが、ケイリオルという人間としてはもう少し彼女を監視してその謎や変異を解き明かしたいと思うのです。
こう見えて、私、推理小説等が好きでして。良いですよね…一見して不可能な殺人や事件の数々。それを限られた情報から予測し論理建てて犯人を見つけ出す。
胸が踊りますねぇ。過去にそう言った推理小説の探偵の真似事をした事は何度かあるのですが…残念ながら、私からすれば全ての人間は情報を得る為の道具に過ぎず、相手を視ただけで全てが分かってしまうので推理をする必要も無かったのです。
なので今、私はとても嬉しいのです。最低でも一晩…彼女の変異について推理を巡らせる事が出来るのですから!
それも私の力及ばず一晩で究明出来なかった場合はそれ以上も可能なのです。数日間、数週間、数ヶ月間、数年間………一体どれだけの間、私は解けない謎に挑み続けられるのでしょうか。
あぁ、ですから…彼女が皇帝陛下に不要だと思われ処分されない事を祈るばかりです。
皇帝陛下が私に彼女を処分せよと命じられたのならば、勿論私は彼女を処分します。私の感情や趣味よりも皇帝陛下の御言葉の方が重要ですから。
なのでこれはちょっとした、ささやかな願いです。叶おうが叶わなかろうがどちらもでもいい希望に過ぎません。
どうか、貴女の存在価値を示してください。
そうして…皇帝陛下に必要だと、思わせてみせてください。さすればきっと、貴女は処分されず、生きていく事が出来るでしょうから。
突然の変異を見せた貴女にならきっと可能でしょう、存在価値を示す事ぐらい。
……私も、陰ながら応援していますよ。アミレス殿下。
おっと、この名は呼ぶなと皇帝陛下に命じられているのでした。ふふふ、久々に年甲斐も無くはしゃいでしまっているからでしょうか。
それでは私はこの辺りで。調査すべき事や仕事が残っておりますので……。
あぁ、これからが楽しみで仕方ありませんね!
なんと面白い話でしょうか。フリードル殿下よりこの報告を受けた時、私は衝撃を受けました。
不可解で突発的な事象。本来起こるはずの無い変異…それが私の近くで発生したというのです。
確かに人は死を疑似体験すると考えを改め、性格に変化が見られると言います。なので、彼女の事も、有り得ない事では無いのです。
確かに今朝方に私が見た彼女は、かなりの高熱に囚われており、見るも憐れな姿となっておりました。それはもう酷い熱で、このままでは後数日間は病に伏すだろうと思う程でした。
一応、熱によく効くと噂の薬を彼女の専属侍女に渡して早い回復を祈りましたが……まさか半日足らずで回復し、散歩に躍り出る程元気になるとは。あまりにも予想外でしたね。
別にそれは良かったのです。私としても彼女が少しでも早く回復する方が、何かと監視がしやすいですし、眠る者を視透す事は難しいので…。
ただ問題が一つ発生しました。フリードル殿下への態度が明らかに昨日までの彼女のものとは違うのです。…とは言え、それもフリードル殿下から聞き及んだだけなのですが…彼が嘘をついている様子は無かったので、まぁ、事実なのでしょう。
彼女のあまりにも突飛な変化にフリードル殿下はかなり驚かれたようで……表面上は冷静を装っていましたが、その胸中は戸惑いで溢れておりました。
かく言う私も少しばかり戸惑ったものです。まさかあの彼女がフリードル殿下に反抗するだなんて…と。
彼女はとても、心の底から、フリードル殿下と皇帝陛下を愛しておりました。フリードル殿下と皇帝陛下に愛されたいと願っておりました。
それに偽りなど無く、私がこの眼で確かに視てきたものなのですが…どうやら今日の彼女は違ったようです。フリードル殿下や皇帝陛下に嫌われる事を恐れていた彼女が、もし作戦などであっても反抗的な振る舞いをする筈が無い。
……つまり、昼間にフリードル殿下が遭遇し、反抗的な振る舞いをした彼女は正しく彼女であり…その振る舞いも本心からのものであったという事です。
とまぁ、ここまで長々と話してきた訳ですが。
私はフリードル殿下の話を聞いてまず最初に、皇宮の彼女の部屋へと向かいました。すると偶然にも彼女の専属侍女…確かハイラさんでしたか。彼女と出会い、焦る彼女にその理由を聞きました。
何でも、今、彼女はまた高熱に苦しんでいるのだとか。
昼間フリードル殿下が見た彼女は元気な様子だったらしいのですが……一体どういう事なのでしょうか。私が今朝侍女に渡した薬が一時的に効いて、夜になりその効果が切れたとかでしょうか。
…自分で言っておいてあれですが、かなり非現実的ですね。そんな中途半端な効能でしたら、よく効く薬として噂になったりもしないでしょう。
では、何故か。それを考え究明するのが私の仕事です。最も手っ取り早いのは彼女を視る事なのですが、今は眠っているそうですからそれは不可能です。また日を改める事にしましょう。
皇帝陛下より少なからず利用価値があると判断されている事から、彼女はまだしばらくは処分される事もないでしょうし、皇帝陛下にとって邪魔な存在にならない限り私も手を出すつもりはありません。
ですが……どうしてでしょうか、彼女は近い将来に皇帝陛下の障害となる予感がするのです。皇帝陛下の忠臣としては今のうちに処分した方が良いかと思うのですが、ケイリオルという人間としてはもう少し彼女を監視してその謎や変異を解き明かしたいと思うのです。
こう見えて、私、推理小説等が好きでして。良いですよね…一見して不可能な殺人や事件の数々。それを限られた情報から予測し論理建てて犯人を見つけ出す。
胸が踊りますねぇ。過去にそう言った推理小説の探偵の真似事をした事は何度かあるのですが…残念ながら、私からすれば全ての人間は情報を得る為の道具に過ぎず、相手を視ただけで全てが分かってしまうので推理をする必要も無かったのです。
なので今、私はとても嬉しいのです。最低でも一晩…彼女の変異について推理を巡らせる事が出来るのですから!
それも私の力及ばず一晩で究明出来なかった場合はそれ以上も可能なのです。数日間、数週間、数ヶ月間、数年間………一体どれだけの間、私は解けない謎に挑み続けられるのでしょうか。
あぁ、ですから…彼女が皇帝陛下に不要だと思われ処分されない事を祈るばかりです。
皇帝陛下が私に彼女を処分せよと命じられたのならば、勿論私は彼女を処分します。私の感情や趣味よりも皇帝陛下の御言葉の方が重要ですから。
なのでこれはちょっとした、ささやかな願いです。叶おうが叶わなかろうがどちらもでもいい希望に過ぎません。
どうか、貴女の存在価値を示してください。
そうして…皇帝陛下に必要だと、思わせてみせてください。さすればきっと、貴女は処分されず、生きていく事が出来るでしょうから。
突然の変異を見せた貴女にならきっと可能でしょう、存在価値を示す事ぐらい。
……私も、陰ながら応援していますよ。アミレス殿下。
おっと、この名は呼ぶなと皇帝陛下に命じられているのでした。ふふふ、久々に年甲斐も無くはしゃいでしまっているからでしょうか。
それでは私はこの辺りで。調査すべき事や仕事が残っておりますので……。
あぁ、これからが楽しみで仕方ありませんね!
29
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる