だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
7 / 790
序章

6.悪役王女ですが頑張ります!

しおりを挟む
「わぁっ! 見て見てシルフ、凄い綺麗な庭園だよ! きっと庭師の腕がかなりのものなんだろうね」
「本当だねぇ~、それにしても君は本当に賢いね。幼いのに偉いなぁ」

 シルフがふんわりと核心に触れてきたので、私はそれを適当に受け流す。

「まぁ王女だし!」
「確かに王女だもんね」

 シルフはこれで納得してくれたらしい。ありがたいな。
 さて。現在、私達はこの建物の1階にあたる場所にいる。
 しばらく歩いていると宮殿のような開けた通路に出て、その先には一面に広がる美しい庭園があったのだ。色とりどりの花が溢れんばかりに咲き誇り、太陽の光をスポットライトとして輝いている。
 この景色、ゲームで見た事ある! 兄のルートでミシェルちゃんとデートしてた場所だ。つまりこれ聖地巡礼じゃん?!
 と、オタクな私のテンションは一気に跳ね上がり、庭園に向けて駆け出す。シルフが「あっ、待ってよアミィ!」という声を上げていたが、気にせず庭園へと足を踏み入れようとする。が、しかし…。

「…あれ。何で、足が動かないの…?」

 庭園に入る寸前にて、私の足が突然動かなくなった。一歩を踏み出す事が出来ない。後ろに下がる事は出来るが……何故か進む事が出来ないのだ。

「~~っ!?」

 その時。突如、針を刺されたような頭痛に襲われた。
 その場で頭を抱えて蹲り、私は荒くなる呼吸の中思い出す。…いいや、正しくは……アミレスの記憶を見た。
 目の前にはたったの二つしか変わらない兄の姿。
 兄は、アミレスの事を酷く冷たく見下ろしている。
 そして彼は言った。

『あそこは父さんの庭だ。何があろうと、お前だけは入ってはいけない。絶対にだ』

 その言葉はアミレスの中に深く刻まれた。絶対に犯してはならない決まりなのだと、アミレスはその言いつけを守り続けた。
 どれだけあの花々に憧れようと、惹かれようと…アミレスがこの庭園に足を踏み入れる事はその生涯でただの1度も無かった。
 それが兄の言いつけだったからという、ただそれだけの理由で。
 今、どうやらそれが私にも影響を及ぼしているらしい。例え私がアミレスならざるアミレスであろうとも、この辛に刻まれた習慣や思いは残り、そして私にその影響を与える。
 そして恐らく……これはその時々にならない限り私にも分からない事だろう。何がどう私に影響を及ぼすのかは、今のようにその事態に遭遇しない限り分からない。つまり、アミレスの残滓とは私にとって回避不可能のトラップなのだ。

 …さてどうしたものか。まさかこんな障害が残っているなんて。
 確かにアミレスの意思は尊重してやりたいが、いかんせん幸せになる為にはそれすらも犠牲にする必要がある。
 どちらを取るか……不定期に選択を迫られるかもしれないとだけ、念頭に置いておこう。まぁ選択肢があるかも分からないのだけど。
 ようやく頭痛がなりを潜めて、私の頭部に平和が舞い戻る。今までその痛みに周りの声も聞こえていなかったが、どうやらシルフが心配してくれていたらしい。

「アミィっ、アミィ! 大丈夫かい?!」

 私の周りを何度もぐるぐると動き回りながら、シルフは心配そうに声をかけ続けていた。
 私がゆっくりと顔を上げると、光が目の前でピタリと止まり、そこから心底安心したような声が聞こえてきて。

「良かったぁ、無事なんだね。アミィが急に具合を悪そうにしたものだから、ボク、凄く心配したんだよ!?」

 目の前にあるのはただの光の塊なのに、どうしてだか、不安に溺れる人の顔が容易に想像出来た。それだけ…シルフがとても心配してくれているのがひしひしと伝わってきたのだ。
 まだ出会って数時間なのに本当に優しいなぁ、シルフは。

「ごめんね……まだ記憶が戻ったばかりで頭が混乱しているみたい。この景色はこの体には毒のようだから、もう行きましょう」

 どうせ入る事が出来ないのに、こんな探索する場所も少ない所に長居する必要は無い。
 そう思い立ち上がった時、私の体は僅かに震えた。身震いしたのである。
 そんなにも記憶の中の兄に怯えているのか、この体は……とアミレスを少し憐れに思いつつ来た道に背を向ける。
 すると、思いもよらぬ人間と目が合ってしまった。
 私が今行こうとしている道の先に──兄が、立っていた。
 先程まで誰もいなかったのに、いつの間にかあの男がそこに立っていた。

「………庭園の前で何をしているんだ」

 男はこちらを冷ややかに睨んだ。
 アミレスより濃い輝きを放つ銀の髪に青い瞳の、彫像と見紛う美しい少年。
 アミレスより二つ歳上で、アミレスとは血縁関係にあたる実の兄。
 フォーロイト帝国が王太子──フリードル・ヘル・フォーロイト。
 後に氷結の貴公子という通称を戦場に轟かす事となる冷酷な次期皇帝……それがこの男だ。
 そして、アンディザ二作目における攻略対象筆頭。
 ヒロインの愛によって氷の仮面が溶かされるその時まで、決して愛など知らなかった男。
 …この男には最初からアミレスに与える愛なんて持ち合わせていない。どれだけこちらが期待しようが無駄。
 情けも無ければ優しさも無いような男、関わるだけ時間の無駄だし、フリードルと関わる毎にバットエンドが近づくだけだ。
 そう、全てが無駄なのだ。だからこそ今すぐにでもあの男の前から逃げ出したい。一秒たりとも関わっていたくない。
 そんな男を目視した私は、急いで手に持っていたペンや紙をポケットの中にしまう。本はもうどうしようもないので、手に持ったままだ。

「…………申し訳ございません、兄様」

 私としてはとにかくこの場から逃げたかったのに、この体はそれを拒み、お辞儀と共にあの男を『兄様』と呼んだ。アミレスがそれ以外の呼び方を許してくれないのだ。
 私としてはこの男を兄様なんて呼ぶのはとても屈辱的な事なのだが、アミレスの残滓がこれだけは譲れないと勝手に口を動かすのだから仕方が無い。
 フリードルの呼び方はもうどうでもいい、とりあえずの問題は…どうやってこの場から逃げるかだ。
 普段アミレスにどれだけ呼び止められようが無視するような男なのに、どうしてこういう時だけ向こうから関わってくるのか……確かに庭園に入ろうとはしたけど、入れなかったからもう離れようとしていたのよ、私は。

「僕はここで何をしていたのかを聞いたんだ。聞かれてもない事を答えるな」

 フリードルはついに目と鼻の先までやって来て、蔑むような視線をこちらに送ってきた。
 そうは言うけれども、私が謝らなかったら『謝罪すらもまともに出来ないのか』とか言うんでしょ? 手厳しいオニイチャンですこと。
 というか八歳の放つ威圧じゃないでしょう、これ。フリードルのやつこの幼さで既に完成してたのかよ。
 心の中で面倒なオニイチャンに舌打ちを贈り、私はもう一度頭を下げて、

「…散歩をしていた際に、偶然ここを通っただけです」

 決して嘘などでは無い真実を伝える。しかしフリードルは私の言葉などハナから信用していないようで、

「そのような本を持ってか」

 私の手にある本をネタに更に疑いをかけてくる。
 しかし私は、彼に負けるつもりは無い。むしろ勝って逃げてやろう。
 今まで散々アミレスを冷遇して来た仕返しだ。

「別に私がどこで何をしていようと兄様には関係ないかと。そもそも、兄様は私に興味など欠片もないでしょう? 私を疎ましいと思っているのでしょう? ならば、私に関わらないで下さい。私も兄様には関わらないようにしますから」

 顔を上げ、フリードルの瞳を真っ直ぐ見つめながら言い放つ。
 その彫像のような美しい顔に少しの変化が訪れる。それを勝機と見て私は畳み掛ける。

「それでは御機嫌よう、兄様。また会う時まで」

 もう出来れば会いたくないけどね。と思いつつも、微笑みと共にスカートの裾を少し摘んでお辞儀をし、私はフリードルの横を通り過ぎる。
 私の反抗的な態度に呆気にとられたのか、目を点にしたフリードルは黙ったままその場でしばらく立ち尽くしていた。
 その通路を抜ける時に一度振り返ってみたのだが、フリードルはその場から動いていなかった。
 こんなしょうもない事で何を馬鹿なと言われてしまいそうだが、私はふふんと勝ち誇っていた。
 だってあの鼻につく男に言い返せた上に無事に逃げられたんだもの。それだけでも個人的には大金星だ。
 ……ただ父親がそうしているからという理由だけで妹を疎み蔑んでいたこの男に、いざその妹になると苛立ちしか沸いてこない。だがそれでも憎いや恨めしいとは思えないのが、アミレスの残滓の影響なんだろう。

 しかし、だ。そう考えると私が今フリードルに言い返した事はアミレス的には問題無い事なのだろう。
 フリードルを愛していたが、アミレスももしかしたら色々と思う事があったのかもしれない。
 つまりこれからもフリードルとどうしても関わらざるを得ない時は、フリードルとやり合ってもいいと……バットエンドが近づくだけではあるが、もしもの時は仕方がない。その時は私も本気で相対しようじゃあないか。
 決して、今度こそぎゃふんと言わせたいとかいう訳ではないよ。全然そんな事はないよ。うん。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...