だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
1 / 790
序章

0.開幕

しおりを挟む
『……──アミレス・ヘル・フォーロイト。貴様を叛逆罪で処刑する』

 愛するお父様に生まれて初めて名前を呼ばれたのは、人生最期の日。お父様の手で首を落とされる、ほんの数分前のことだった。


 ♢


 母親の顔も知らない。
 父親の愛情も知らない。
 兄の信頼も知らない。
 家族の温かさも知らない。
 世界の美しさも知らない。
 人々の笑顔も知らない。
 人並みの幸福も知らない。

 私は、何も知りませんでした。

 私にあるのは先人達の残した知識や技術。
 お母様譲りでお父様に忌み嫌われている容姿。
 ハリボテのような地位。
 お父様と兄様に認められたいという承認欲求。
 私を愛して欲しいという渇望。

 ただ、それだけだった。

 お父様と同じ銀色の髪、兄様と同じ寒色の瞳。
 こんなにも同じなのに。私の何がいけないのだろう。
 熱に魘されていても、魔法の訓練で怪我を負っても、私は努力を怠らなかった。
 お父様と兄様に認めてもらいたくて、ずっと頑張って来たのに。
 ……結局、私は報われないのです。

 私の渇望が満たされる事はありませんでした。
 私の存在が認められる事はありませんでした。

 それも当然の事です。何故なら私が悪いのですから。
 私がお父様の期待に応えられない不出来な娘だから、お父様に認めてもらえないのです。
 私の努力が足りないから私はまだ認めてもらえない。まだ愛してもらえない。
 どれだけ努力をすれば認められるのか分かりませんが、認めてもらえるその時まで私は努力し続けます。
 それしか、私は生き方を知らないのです。

 生まれて初めてお父様からの勅命を賜った時は、その場で泣いてしまいそうになった。ようやく認められた、ようやく愛してもらえるのだと飛び跳ねて喜びたくなりました。
 でも、我慢しました。お父様は厳格な御方です。なので、はしたない王女は嫌われると思ったからです。
 その時に兄様からも激励の言葉を賜りました。本当に嬉しくて……その言葉たちを胸に、私は勅命を果たしに敵国へと向かいました。

 私は祖国……いいえ、城から出るのも初めてのような世間知らずです。他国での振る舞いにもあまり自信は無かったのですが、お父様の側近の方が色々と教えてくださったので大丈夫でした。
 お父様が腹心の部下を私に付けてくださる程私に期待を寄せてくださっているのだと思うと、とても嬉しかった。
 お父様と兄様の期待に応える為ならば私は喜んで人を殺します。
 面識も無い見ず知らずの少女であろうとも、お父様の御心を乱す者は殺します。
 我がフォーロイト帝国の邪魔となる者は殺します。

 そうすればきっと、私はお父様に認めてもらえるから。

 その少女に罪は無いのかもしれません。ですが、お父様に疎まれるその存在が罪なのです。
 私は罪人を殺します。罪人は許されてはならない。罪人だからこそ死ぬべきなのです。

 そして私は、例の少女を見つけた。

 とても幸せそうで、日々が楽しそうな少女。私とは正反対の沢山の人に愛された少女。
 そんな少女を見てどうして嫉妬せずにいられようか。彼女が羨ましくて仕方が無かった。私に無いものを全て持つ彼女が妬ましくて仕方が無かった。

 ──憎い。お父様の関心を奪うあの少女が。

 だからでしょうか。私は……持てる知識と技術の限りを駆使して彼女を殺しました。側近の方に見守られながら、きちんと御役目を果たしました。
 勅命通りお父様の御心を乱す少女を殺せたので、私は誇らしい気持ちで国に戻りました。

 ──きっとお父様は私を褒めてくださる。
 ──きっとお父様は私を認めてくださる。
 ──きっとお父様は私を愛してくださる。

 ……だけど、国に戻った私に与えられたものは。お父様と兄様からの愛ではなく、叛逆者の烙印でした。
 休戦協定中の敵対する国へと皇帝の側近を連れて行き殺害しようとした大罪人……それが私に突きつけられた罪。お父様の側近の方を殺そうとなんてしておりませんし、これは全く身に覚えの無い罪でした。
 私はお父様の御命令に従っただけなのに、どうして私が叛逆者になっているのですか?
 どうして私が罪人として殺されてしまうのですか?
 私を酷く冷たい瞳で疎ましそうに見下ろすお父様を見て、ようやく、私は悟りました。

 ……──結局、私は認めてもらえていなかったのですね。
 どれだけ努力しても私は愛してもらえないのですね。
 私の努力なんて、全部無駄だったのですね。
 お父様に疎まれる事が罪なのですから、私が罪人なのも当然の事だったのです。

 大好きなお父様。大好きな兄様。私はいつまでも貴方がたを愛しております。
 いつかその愛が返ってくる事を祈って、ずっと愛を抱いておりました。
 それはたとえ死んでしまっても変わりません。
 お父様に殺されてしまうのはとても悲しいですけれど、それでも私は構いません。
 愛するお父様の手で死ねるのならば本望です。
 あぁ、だけど……叶うなら……。

 ──お父様と兄様に、愛されたかったなぁ。


 ♢♢


 こうしてその王女は失意の中死んだ。
 これが彼女の運命だったから。ある乙女ゲームにおいて、その人生全てを悲運に塗り潰された彼女に定められた結末だったから。
 それまでの努力が報われる事は一度もなく、彼女は定められた結末に向かい非業の死を遂げた。

 その物語を見て、【親愛なるお父様へ】の溢れんばかりの儚い愛を知って、嘆く少女がいた。
 もしかしたらそれが全てのキッカケだったのかもしれない。


 ────これは、愛されたいと願う悲運の王女に転生した愛を知らない少女が、彼女の願いと自分の幸せの為に必死に足掻き、そして──……多くの運命を狂わせ、自分なりの幸せを見つけるまでの物語。

しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

処理中です...