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序章
0.開幕
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『……──アミレス・ヘル・フォーロイト。貴様を叛逆罪で処刑する』
愛するお父様に生まれて初めて名前を呼ばれたのは、人生最期の日。お父様の手で首を落とされる、ほんの数分前のことだった。
♢
母親の顔も知らない。
父親の愛情も知らない。
兄の信頼も知らない。
家族の温かさも知らない。
世界の美しさも知らない。
人々の笑顔も知らない。
人並みの幸福も知らない。
私は、何も知りませんでした。
私にあるのは先人達の残した知識や技術。
お母様譲りでお父様に忌み嫌われている容姿。
ハリボテのような地位。
お父様と兄様に認められたいという承認欲求。
私を愛して欲しいという渇望。
ただ、それだけだった。
お父様と同じ銀色の髪、兄様と同じ寒色の瞳。
こんなにも同じなのに。私の何がいけないのだろう。
熱に魘されていても、魔法の訓練で怪我を負っても、私は努力を怠らなかった。
お父様と兄様に認めてもらいたくて、ずっと頑張って来たのに。
……結局、私は報われないのです。
私の渇望が満たされる事はありませんでした。
私の存在が認められる事はありませんでした。
それも当然の事です。何故なら私が悪いのですから。
私がお父様の期待に応えられない不出来な娘だから、お父様に認めてもらえないのです。
私の努力が足りないから私はまだ認めてもらえない。まだ愛してもらえない。
どれだけ努力をすれば認められるのか分かりませんが、認めてもらえるその時まで私は努力し続けます。
それしか、私は生き方を知らないのです。
生まれて初めてお父様からの勅命を賜った時は、その場で泣いてしまいそうになった。ようやく認められた、ようやく愛してもらえるのだと飛び跳ねて喜びたくなりました。
でも、我慢しました。お父様は厳格な御方です。なので、はしたない王女は嫌われると思ったからです。
その時に兄様からも激励の言葉を賜りました。本当に嬉しくて……その言葉たちを胸に、私は勅命を果たしに敵国へと向かいました。
私は祖国……いいえ、城から出るのも初めてのような世間知らずです。他国での振る舞いにもあまり自信は無かったのですが、お父様の側近の方が色々と教えてくださったので大丈夫でした。
お父様が腹心の部下を私に付けてくださる程私に期待を寄せてくださっているのだと思うと、とても嬉しかった。
お父様と兄様の期待に応える為ならば私は喜んで人を殺します。
面識も無い見ず知らずの少女であろうとも、お父様の御心を乱す者は殺します。
我がフォーロイト帝国の邪魔となる者は殺します。
そうすればきっと、私はお父様に認めてもらえるから。
その少女に罪は無いのかもしれません。ですが、お父様に疎まれるその存在が罪なのです。
私は罪人を殺します。罪人は許されてはならない。罪人だからこそ死ぬべきなのです。
そして私は、例の少女を見つけた。
とても幸せそうで、日々が楽しそうな少女。私とは正反対の沢山の人に愛された少女。
そんな少女を見てどうして嫉妬せずにいられようか。彼女が羨ましくて仕方が無かった。私に無いものを全て持つ彼女が妬ましくて仕方が無かった。
──憎い。お父様の関心を奪うあの少女が。
だからでしょうか。私は……持てる知識と技術の限りを駆使して彼女を殺しました。側近の方に見守られながら、きちんと御役目を果たしました。
勅命通りお父様の御心を乱す少女を殺せたので、私は誇らしい気持ちで国に戻りました。
──きっとお父様は私を褒めてくださる。
──きっとお父様は私を認めてくださる。
──きっとお父様は私を愛してくださる。
……だけど、国に戻った私に与えられたものは。お父様と兄様からの愛ではなく、叛逆者の烙印でした。
休戦協定中の敵対する国へと皇帝の側近を連れて行き殺害しようとした大罪人……それが私に突きつけられた罪。お父様の側近の方を殺そうとなんてしておりませんし、これは全く身に覚えの無い罪でした。
私はお父様の御命令に従っただけなのに、どうして私が叛逆者になっているのですか?
どうして私が罪人として殺されてしまうのですか?
私を酷く冷たい瞳で疎ましそうに見下ろすお父様を見て、ようやく、私は悟りました。
……──結局、私は認めてもらえていなかったのですね。
どれだけ努力しても私は愛してもらえないのですね。
私の努力なんて、全部無駄だったのですね。
お父様に疎まれる事が罪なのですから、私が罪人なのも当然の事だったのです。
大好きなお父様。大好きな兄様。私はいつまでも貴方がたを愛しております。
いつかその愛が返ってくる事を祈って、ずっと愛を抱いておりました。
それはたとえ死んでしまっても変わりません。
お父様に殺されてしまうのはとても悲しいですけれど、それでも私は構いません。
愛するお父様の手で死ねるのならば本望です。
あぁ、だけど……叶うなら……。
──お父様と兄様に、愛されたかったなぁ。
♢♢
こうしてその王女は失意の中死んだ。
これが彼女の運命だったから。ある乙女ゲームにおいて、その人生全てを悲運に塗り潰された彼女に定められた結末だったから。
それまでの努力が報われる事は一度もなく、彼女は定められた結末に向かい非業の死を遂げた。
その物語を見て、【親愛なるお父様へ】の溢れんばかりの儚い愛を知って、嘆く少女がいた。
もしかしたらそれが全てのキッカケだったのかもしれない。
────これは、愛されたいと願う悲運の王女に転生した愛を知らない少女が、彼女の願いと自分の幸せの為に必死に足掻き、そして──……多くの運命を狂わせ、自分なりの幸せを見つけるまでの物語。
愛するお父様に生まれて初めて名前を呼ばれたのは、人生最期の日。お父様の手で首を落とされる、ほんの数分前のことだった。
♢
母親の顔も知らない。
父親の愛情も知らない。
兄の信頼も知らない。
家族の温かさも知らない。
世界の美しさも知らない。
人々の笑顔も知らない。
人並みの幸福も知らない。
私は、何も知りませんでした。
私にあるのは先人達の残した知識や技術。
お母様譲りでお父様に忌み嫌われている容姿。
ハリボテのような地位。
お父様と兄様に認められたいという承認欲求。
私を愛して欲しいという渇望。
ただ、それだけだった。
お父様と同じ銀色の髪、兄様と同じ寒色の瞳。
こんなにも同じなのに。私の何がいけないのだろう。
熱に魘されていても、魔法の訓練で怪我を負っても、私は努力を怠らなかった。
お父様と兄様に認めてもらいたくて、ずっと頑張って来たのに。
……結局、私は報われないのです。
私の渇望が満たされる事はありませんでした。
私の存在が認められる事はありませんでした。
それも当然の事です。何故なら私が悪いのですから。
私がお父様の期待に応えられない不出来な娘だから、お父様に認めてもらえないのです。
私の努力が足りないから私はまだ認めてもらえない。まだ愛してもらえない。
どれだけ努力をすれば認められるのか分かりませんが、認めてもらえるその時まで私は努力し続けます。
それしか、私は生き方を知らないのです。
生まれて初めてお父様からの勅命を賜った時は、その場で泣いてしまいそうになった。ようやく認められた、ようやく愛してもらえるのだと飛び跳ねて喜びたくなりました。
でも、我慢しました。お父様は厳格な御方です。なので、はしたない王女は嫌われると思ったからです。
その時に兄様からも激励の言葉を賜りました。本当に嬉しくて……その言葉たちを胸に、私は勅命を果たしに敵国へと向かいました。
私は祖国……いいえ、城から出るのも初めてのような世間知らずです。他国での振る舞いにもあまり自信は無かったのですが、お父様の側近の方が色々と教えてくださったので大丈夫でした。
お父様が腹心の部下を私に付けてくださる程私に期待を寄せてくださっているのだと思うと、とても嬉しかった。
お父様と兄様の期待に応える為ならば私は喜んで人を殺します。
面識も無い見ず知らずの少女であろうとも、お父様の御心を乱す者は殺します。
我がフォーロイト帝国の邪魔となる者は殺します。
そうすればきっと、私はお父様に認めてもらえるから。
その少女に罪は無いのかもしれません。ですが、お父様に疎まれるその存在が罪なのです。
私は罪人を殺します。罪人は許されてはならない。罪人だからこそ死ぬべきなのです。
そして私は、例の少女を見つけた。
とても幸せそうで、日々が楽しそうな少女。私とは正反対の沢山の人に愛された少女。
そんな少女を見てどうして嫉妬せずにいられようか。彼女が羨ましくて仕方が無かった。私に無いものを全て持つ彼女が妬ましくて仕方が無かった。
──憎い。お父様の関心を奪うあの少女が。
だからでしょうか。私は……持てる知識と技術の限りを駆使して彼女を殺しました。側近の方に見守られながら、きちんと御役目を果たしました。
勅命通りお父様の御心を乱す少女を殺せたので、私は誇らしい気持ちで国に戻りました。
──きっとお父様は私を褒めてくださる。
──きっとお父様は私を認めてくださる。
──きっとお父様は私を愛してくださる。
……だけど、国に戻った私に与えられたものは。お父様と兄様からの愛ではなく、叛逆者の烙印でした。
休戦協定中の敵対する国へと皇帝の側近を連れて行き殺害しようとした大罪人……それが私に突きつけられた罪。お父様の側近の方を殺そうとなんてしておりませんし、これは全く身に覚えの無い罪でした。
私はお父様の御命令に従っただけなのに、どうして私が叛逆者になっているのですか?
どうして私が罪人として殺されてしまうのですか?
私を酷く冷たい瞳で疎ましそうに見下ろすお父様を見て、ようやく、私は悟りました。
……──結局、私は認めてもらえていなかったのですね。
どれだけ努力しても私は愛してもらえないのですね。
私の努力なんて、全部無駄だったのですね。
お父様に疎まれる事が罪なのですから、私が罪人なのも当然の事だったのです。
大好きなお父様。大好きな兄様。私はいつまでも貴方がたを愛しております。
いつかその愛が返ってくる事を祈って、ずっと愛を抱いておりました。
それはたとえ死んでしまっても変わりません。
お父様に殺されてしまうのはとても悲しいですけれど、それでも私は構いません。
愛するお父様の手で死ねるのならば本望です。
あぁ、だけど……叶うなら……。
──お父様と兄様に、愛されたかったなぁ。
♢♢
こうしてその王女は失意の中死んだ。
これが彼女の運命だったから。ある乙女ゲームにおいて、その人生全てを悲運に塗り潰された彼女に定められた結末だったから。
それまでの努力が報われる事は一度もなく、彼女は定められた結末に向かい非業の死を遂げた。
その物語を見て、【親愛なるお父様へ】の溢れんばかりの儚い愛を知って、嘆く少女がいた。
もしかしたらそれが全てのキッカケだったのかもしれない。
────これは、愛されたいと願う悲運の王女に転生した愛を知らない少女が、彼女の願いと自分の幸せの為に必死に足掻き、そして──……多くの運命を狂わせ、自分なりの幸せを見つけるまでの物語。
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