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信じる、ということ ⑹

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銃、と呼ばれた武器は軽くて、ひんやりとしていた。冷たい感触がして、取り扱いが分からないリズは困惑して顔をあげる。
そんな彼女に、ヴェートルが薄く笑った。

「使い方はしごく簡単です。まずは安全装置を外し、あとは標的に向かってトリガーを引くだけ」

「え……?え?」

軽い音がする。どうやら、安全装置というものを外したようだった。リズが目を白黒させているうちに、彼はリズに銃を構えさせた。
慣れないながらも手に銃を持つ彼女に、ヴェートルは目を細めた。

「そうです。それで引き金を引けば、弾が打ち出され、対象を貫きます」

「……あまりよく想像ができないわ」

「大砲の小さいバージョンと考えてもらえれば分かりやすいかもしれません」

「!!」

リズは咄嗟に銃を手から落としそうになった。
しかし、しっかりとヴェートルに手を握られていて、銃を取り落とさずに済む。

「これはひとの命を奪う道具ですが、使い方はそれだけではありません。特に、リズのように扱いになれていないひとは、相手に当てることを意識するのでなく……」

「………」

「ただ、トリガーを引くことだけ意識してください」

「……?」

これは、殺傷性の高い武器なのでは無いのか。
リズが訝しく思い顔を上げると、ヴェートルが薄い笑みを浮かべた。

「これをあなたに渡す理由は、時間稼ぎをしてもらうためです」

「時間稼ぎ……」

「はい。銃声の音が聞こえれば誰かしら駆けつけますし、私もまた、向かいます。いいですか、決して相手を打とうとは考えずに、打つことを考えてください」

これはきっと、武器と縁の薄かったリズのために言ってくれているのだろう。リズは武人ではない。人を殺すことはおろか、傷つけることすら抵抗を持つ、ただの一般人だ。そんな人間がいきなり殺傷性に優れた武器を手にしたからと言って本来の用途で使用できるはずがない。
ヴェートルはそれを見越して言っているのだろう。正しく使わずとも構わない、大きな音が鳴る、ベルの類と思うと良い、と。

「……分かったわ。でも、どうしてこれを私に?」

不思議に思ってリズは顔を上げた。

「状況は殿下から説明があったと思います。あなたはリーズリー家の令嬢ですし……何より私が、あなたにこれを持っていて欲しい」

「………」

「そう心配そうな顔をしないでください。あくまでお守りのようなものですよ」

ヴェートルがふ、と笑ったのが気配でわかる。
彼はリズに銃を持たせると、そっと離れた。

「それで……リズの話はなんでしょうか」

「!」

そうだ。リズは話をしようと思っていたのだ。
過去の話、悪魔の儀式の話。

(私は過去に戻っていて……儀式に捧げるために殺された記憶を持つ。ヴェートル様が悪魔崇拝者だとしても、私は死にたくないと、そう伝えるつもりだった)

「………」

だけど、こんな大切な話は落ち着いた時にするべきだ。少なくとも、北方魔術師団駐屯地がこのような状況であるときに話すべきではない。
リズはそっとヴェートルの胸を押し、離れた。

「……いえ、王都に戻ってからにします。大切なお話ですから」

リズの言葉にヴェートルは僅かに眉を寄せた。
だけどリズの声に固い意思を感じ取ったのだろう。ため息をついた。

「……分かりました。それがいい話であるといいことを期待しています」

「………」

リズはそれに答えられなかった。
ヴェートルにとっては恐らく……良くない話だと思ったからだ。

ヴェートルの部屋を出ると、待機していたのかビビアンに捕まったものの、大した話はしていないと言うとビビアンは納得したのか、去っていった。

リズは自分にあてがわれた部屋に向かうと、彼から貰った銃をどこに仕舞うか考えた。ドレスにポケットなどないし、リズはいつもバッグを持ち歩いているわけでもない。

悩んだ彼女は、手持ちのストッキングと靴下留めの間に銃を挟むことにした。幸い、銃は彼女の手のひらより大きい程度。

寝る時は枕元に置いておくことにして、リズはアンの手を借りて入浴すると早々に就寝した。自分ではそこまで疲れていないと思っていても、一週間の馬車旅は結構な疲労を彼女にもたらしたらしい。
ようやく寝台で眠れることに安心して、リズはぐっすりと眠った。
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