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信じる、ということ ⑷
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「………」
ヴェートルが思案するように沈黙すると、その隣でべったり彼にくっついたビビアンが声を出した。その近さに胸がザワザワしたのはリズだ。
今すぐ離れて欲しいと思うし、なんならリズが自分で引き剥がしたいくらいだった。
「支援物資なら私が持ってきましてよ?お使いになられて結構ですわ」
「ビビアン嬢。それは助かるが具体的な量を教えてくれるか?」
アスベルトに尋ねられたビビアンは狼狽えながら彼を見た。ビビアンはアスベルトが苦手なようだ。
「さ、さぁ。詳しいことは分かりませんわ」
「……そう。食糧に加えて、医薬品も必要なんだが、それは?」
「医薬品なんて持ち込んでいるはずがありませんでしょ?でも、食事の質なら保証してよ。ビリー伯爵領は紅茶が有名ですの。美味しい茶葉をいくつも持ち込んできましたわ」
「…………………」
アスベルトの顔にはあからさまに【話にならない】と記されている。
それを見て、デストロイがアスベルトに言った。
「領主から土地を預かってる地主がここにはいるはずですよ。彼に協力を仰いでは」
「既に手紙を出しています。ですが、音沙汰がないところを見るに、何かしら想定外の出来事が起きているのでしょう」
ヴェートルが静かに答えた。
リズは彼らの話を聴きながら、状況の把握に務めた。
(魔術師が運んできた報告書を見るに、現在悪魔病の感染者は三桁を超えて、魔術師も七割程度が重軽傷問わず負傷者が出ている。加えてこの食糧不足。私が王都に戻ってまた駆けつけるでは、到底間に合わない……)
食糧は既に大半が底を尽き、当然医薬品なども不足してきている。
「明日、私は地主を訪ねるためにこの地を出立する予定でした」
「その足でか」
アスベルトが咎めるように言った。
ヴェートルは頷いて答える。さらりとしたアリスブルーの髪が揺れる。
「明日出発すれば、ぎりぎり間に合う計算です。おそらく敵の襲撃は予想されますが、最悪の事態は防げるかと」
「……お前、かなり魔力を消耗しているだろう。確かに高位魔術師のお前なら死にはしないだろうな。だけど、それは死以外の全ての可能性はあるということだ。生きていれば幸運、程度の重症を負いかねない」
「承知の上ですよ」
「……分かった。僕が向かう。この駐屯地で今、もっとも魔力があるのは僕だ。僕が伝書鳩の役割を果たすとしようじゃないか」
アスベルトはため息をついて言った。
リズ、デストロイ、ビビアンは魔力がない。
ビビアンとリズに至っては戦闘力にも乏しい。
アスベルトが地主に会いに行くのが一番勝率があるだろう。
その通りだ。
そこまで考えて、リズはハッとした。
(そうだ……。そうだわ、確か)
慌てて丸テーブルの卓上に広げられた地図を見る。リーズリー領しか記されていない地図は詳しく地名まで書かれていて、記憶を辿る手助けをした。
(確か……この近く、この近くに)
食い入るように地図を見ていたのに気がついたのだろう。対面に座るアスベルトがリズを呼んだ。
「リズレイン嬢?」
「……アスベルト殿下」
ゆっくりとリズは顔を上げた。
「殿下が行く必要はありません」
「……え?」
アスベルトが怪訝な顔をする。
リズはアスベルトではなく地図に視線を落とした。
「この砦のすぐ近くに、リーズリー家が所有する別荘があります。別荘、といっても名ばかりで、実際のところは有事の際に使用する備蓄が積まれています」
「!」
ここまでいえば、リズが何を考えているのかアスベルトにも分かったのだろう。
リズは顔を上げて真っ直ぐにアスベルトに言った。
「私は、リーズリー公爵家の娘リズレイン・リーズリーの権限で、この備蓄を解放します」
ヴェートルが思案するように沈黙すると、その隣でべったり彼にくっついたビビアンが声を出した。その近さに胸がザワザワしたのはリズだ。
今すぐ離れて欲しいと思うし、なんならリズが自分で引き剥がしたいくらいだった。
「支援物資なら私が持ってきましてよ?お使いになられて結構ですわ」
「ビビアン嬢。それは助かるが具体的な量を教えてくれるか?」
アスベルトに尋ねられたビビアンは狼狽えながら彼を見た。ビビアンはアスベルトが苦手なようだ。
「さ、さぁ。詳しいことは分かりませんわ」
「……そう。食糧に加えて、医薬品も必要なんだが、それは?」
「医薬品なんて持ち込んでいるはずがありませんでしょ?でも、食事の質なら保証してよ。ビリー伯爵領は紅茶が有名ですの。美味しい茶葉をいくつも持ち込んできましたわ」
「…………………」
アスベルトの顔にはあからさまに【話にならない】と記されている。
それを見て、デストロイがアスベルトに言った。
「領主から土地を預かってる地主がここにはいるはずですよ。彼に協力を仰いでは」
「既に手紙を出しています。ですが、音沙汰がないところを見るに、何かしら想定外の出来事が起きているのでしょう」
ヴェートルが静かに答えた。
リズは彼らの話を聴きながら、状況の把握に務めた。
(魔術師が運んできた報告書を見るに、現在悪魔病の感染者は三桁を超えて、魔術師も七割程度が重軽傷問わず負傷者が出ている。加えてこの食糧不足。私が王都に戻ってまた駆けつけるでは、到底間に合わない……)
食糧は既に大半が底を尽き、当然医薬品なども不足してきている。
「明日、私は地主を訪ねるためにこの地を出立する予定でした」
「その足でか」
アスベルトが咎めるように言った。
ヴェートルは頷いて答える。さらりとしたアリスブルーの髪が揺れる。
「明日出発すれば、ぎりぎり間に合う計算です。おそらく敵の襲撃は予想されますが、最悪の事態は防げるかと」
「……お前、かなり魔力を消耗しているだろう。確かに高位魔術師のお前なら死にはしないだろうな。だけど、それは死以外の全ての可能性はあるということだ。生きていれば幸運、程度の重症を負いかねない」
「承知の上ですよ」
「……分かった。僕が向かう。この駐屯地で今、もっとも魔力があるのは僕だ。僕が伝書鳩の役割を果たすとしようじゃないか」
アスベルトはため息をついて言った。
リズ、デストロイ、ビビアンは魔力がない。
ビビアンとリズに至っては戦闘力にも乏しい。
アスベルトが地主に会いに行くのが一番勝率があるだろう。
その通りだ。
そこまで考えて、リズはハッとした。
(そうだ……。そうだわ、確か)
慌てて丸テーブルの卓上に広げられた地図を見る。リーズリー領しか記されていない地図は詳しく地名まで書かれていて、記憶を辿る手助けをした。
(確か……この近く、この近くに)
食い入るように地図を見ていたのに気がついたのだろう。対面に座るアスベルトがリズを呼んだ。
「リズレイン嬢?」
「……アスベルト殿下」
ゆっくりとリズは顔を上げた。
「殿下が行く必要はありません」
「……え?」
アスベルトが怪訝な顔をする。
リズはアスベルトではなく地図に視線を落とした。
「この砦のすぐ近くに、リーズリー家が所有する別荘があります。別荘、といっても名ばかりで、実際のところは有事の際に使用する備蓄が積まれています」
「!」
ここまでいえば、リズが何を考えているのかアスベルトにも分かったのだろう。
リズは顔を上げて真っ直ぐにアスベルトに言った。
「私は、リーズリー公爵家の娘リズレイン・リーズリーの権限で、この備蓄を解放します」
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