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確信に触れる ⑶

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過去、リズとヴェートルは婚約を結んでいたが今はそうではない。ふたりにある関係はただの幼馴染というもので、それ以上でもそれ以下でもない。そんな関係でネックレスを渡すはずが──

ヴェートルはサイドチェストの引き出しを開けて、小箱を取り出したようだった。記憶よりも簡素な、白い小箱だ。

「ここ最近、悪魔病の罹患者が増加していることを知っていますか?」

ふとヴェートルが呟いた。

「え?ええ、聞いたことがあるわ」

なにせ、アマレッタからその話を聞いてリズは過去に戻ってると確信したのだから。

「悪魔病が多数発生する辺境にはリーズリー領地もあります。ですから、これを用意しました」

しゃら、と細い音がした。
見れば、ヴェートルは銀のネックレスを手にしている。指先でネックレスをつまみ持ち上げた。

「……ネックレス。どうして」

リズはか細い声で言った。
あまりにも小さな声だったからだろうか。その声はヴェートルまで届かなかったようだ。

(箱は違うけど、ネックレスの形も色合いも……同じだわ。なぜ?どうして?……ヴェートル様は知っているの?私と同じように過去を──)

そこまで思い当たったところで、ゾッとした。
もしヴェートルがリズと同じように時戻りをしているのなら。指先が細かく震えた。

「……リズ?」

「それ……は」

掠れた声でリズは言った。
顔面蒼白となり、血の気の失せた顔の彼女にヴェートルは僅かに眉を寄せる。

「お守りです、と言ってもただのネックレスなのですが」

しゃら、と彼はネックレスを持ち上げて彼女に見せた。銀のチェーンネックレスに下げられた石は、以前見たような水晶玉だった。
硬直したリズに、ヴェートルが手を差し出し静かに言った。

「受け取っていただけますか?」

「……ありがとうございます」

ほぞぼそとした声になってしまったが、リズはネックレスを受け取った。微かな鎖の重みが手のひらに乗る。
過去、何度となく目にして大切にしたネックレスだ。それがまた今、自分の手元にあることが信じられない。あまりにもネックレスを凝視していたからか、苦笑を帯びた声で言った。

「お守りですので、高価な品ではありません。ご令嬢が身につけるには安物すぎます。机の引き出しにでも入れて、しまっておいてくださ──」

「え……?」

ヴェートルの言葉の途中で、リズは狼狽えた声を出した。彼が何を話しているのか全く聞いていなかった。それどころではなかったからだ。

(どういうこと……?どうして?だって)

以前もらったネックレスは向こうの先が透けて見えるくらい透明度が高かった。
だけど今の石は……

(桜色?いえ……薄色、のような)

白にほんのりピンクが混ざったような、そんな色をしている。雪のような白粉がふわふわと舞い揺れているのは変わらず、そこは幻想的だ。
食い入るようにリズが見ていたからだろうか。彼が怪訝な声で言った。

「リズ?」

「っ!」

弾かれるようにリズは顔を上げた。
そして──動揺したような、混乱したような。そんな痛々しい表情でヴェートルを見る。

「あな……あなたは」

リズはごくりと息を飲んだ。

(色が違う。なぜ?意図的に?それとも……?なにか、他に意味がある?分からない)

リズは混乱のまま、思いついた言葉をぽつりぽつりと零した。考えている余裕などなかった。

「あなたも……過去に、戻って……」

「……過去に?」

「!」

リズはハッとした。

(私、何言って……)

これではリズこそが過去に戻ってると教えるようなものだ。彼女は取り繕うようにネックレスを握りしめて顔を上げた。
先程の動揺を飲み込み、笑みを顔に貼り付けた。

「いえ、ネックレスありがとうございます。大切にします」

「……あなたに加護がありますように」

ヴェートルはリズの不注意の発言を深く追求しようとはしなかった。そのことに彼女はほっとしたが、ヴェートルが何を考えているかが気になる。
これ以上話を深掘りされても困る。
リズは話を変えることにした。

「怪我の調子はいかがですか?」

「あまり酷くはありませんよ。落馬した時に足を骨折しただけですので」

ヴェートルは落馬したのか。
リズはこの時初めて知った。

「……不意をつかれたの?護衛は?」

「護衛はいませんでした、訳あって単独行動を取っていましたから」

「ヴェートル様は魔術師なのでしょう?体術は不得手なのではなくて?ひとりでは……危ないと思います」

リズが真っ直ぐに言うと、彼はそんなリズを見て瞳を細めた。

「あなたが私をどう見ているのか分かりませんが…… そこまで軟弱ではありませんよ。さすがに騎士と比べると劣るかもしれませんが……蹴ったり投げ飛ばす程度なら私にもできます」

思ったより脳筋な回答が帰ってきて、リズは虚をつかれたように瞬いた。

「想像がつかないわ」

「そうですか?」

ヴェートルはどちらかというと静かに佇んで魔術の詠唱をしている方が似合っていて、彼が肉弾戦をするのは想像がつきにくい。
とはいえ、彼の口ぶりからするに魔術がなくてもある程度は戦えるのだろう。

「もう帰るわ。安静にしてください」

リズが帰ろうとすると、ヴェートルに呼び止められた。
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