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確信に触れる
しおりを挟むそれからもデストロイは定期的にリズに手紙を送った。
(正直返事も出したくないくらい苦手なひとだけど……アトソン伯爵家はむげにできないとお父様も言ってたし)
仕方なくリズも手紙を返すが、その気のない、素っ気ない内容がほとんどだ。
デストロイはあれ以来も何かと彼女をティータイムや遠乗り、舞台に誘ったりした。四回のうち三回は断るようにしていたが、断りすぎるのも失礼かと思い礼儀程度にリズは彼の誘いに乗っていたが、回数を重ねるごとにデストロイは遠慮がなくなってきた。
今ではリズのきつい性格を『正直なひと』と称するし、『嘘が付けない素直な人ですね』とも言った。
妙にぐいぐいくる男にリズは困惑しっぱなしだ。
(私は彼と結婚するつもりはないのだけど、どうしたら諦めてくれるのかしら……)
リズがそう思っていた時、部屋の扉がノックされた。不思議に思ってリズがそちらを向いた時、彼女の言葉を待つことなく、兄の声が聞こえてきた。
「リズ、いるか?いるな?落ち着いてよく聞け。ベルロニア公爵が襲われて、怪我を負った」
「──」
リズは驚きに息を飲んだ。
気がつけば、扉を開けていた。
「どういうこと?ヴェートル様は怪我をされたの?」
開けた先には、難しい顔をしたロビンがいた。
「仕事中、何者かに襲われたらしい。しばらくは安静が必要だと、アスベルト殿下より連絡があった」
「アスベルト殿下……」
ヴェートルから便りがあった訳では無いのだ。
(ヴェートル様が……怪我?でも、そんなこと)
リズが知る限り、彼が襲われて怪我を負ったなどという記憶はない。
(少しずつ……少しずつ、変わってきている)
未来が変わっている。
デストロイがリズの婚約者に名乗り出した時から──いや、リズがヴェートルの婚約者にならなかった時から、少しずつリズが知る未来ではなくなってきているのだ。
思わず、ぐっと手を握った。
眉を寄せて黙り込むリズを見て、ロビンが言った。
「公には伏せているとのことだが、全治一ヶ月らしい」
「全治一ヶ月……」
どれくらい酷い怪我なのだろうか。
一体、どうしてヴェートルが襲われたのだろうか。いてもたってもいられなくなったリズに、ロビンがため息をつく。
「ベロルニア公爵と懇意にしているリーズリーとしても、見舞いを贈るつもりだ。……リズ、お前が行くか?」
「え……」
「父上から見舞いの使者は俺に、と任されていたが……お前が行きたいなら、お前に任せてもいい」
「………」
ロビンは確かめるような目でリズを見ていた。
リズは静かに混乱した。視線が定まらず、あちこちに忙しなく動いた。手を握ったり閉じたり繰り返し、落ち着かない。
(ヴェートル様のお見舞い。でも、私が行ってもいいの?さんざん、彼を拒絶して避けて……逃げてきたのに)
リズは躊躇したし、動揺した。
だけど躊躇いはすぐに消えた。
会えない理由ばかり考えるのではなく、今、リズはヴェートルに会いたいと思ったからだ。
会いたいという気持ちが強い以上、行動しない理由にはならない。
「お兄様、私が行くわ」
「分かった。明日窺うと先触れを出しているから……ああ、お前、明日はあれか。アトソンの野郎と予定あったんだっけか?」
そうだった。
明日はデストロイが公爵家にくる日だった。
もっとも、リズは快諾してないし押し切られる形となってしまったのだが。リズは形のいい眉を少し寄せた後、すぐに答えを出した。
「お兄様がもてなしてさしあげて。もともと、彼はリーズリーの邸宅に来るとしか手紙に書いてなかったわ。私がいなくてもいいはずよ」
「いや、お前に会いに来るんだろ絶対……」
「中庭を見たいと仰るからご自由にと返しただけで、そもそも、私は案内するつもりなかったもの。明日は教会に行くつもりだったし」
「教会?」
リズは頷いて答えた。
デストロイを避けるための口実でもあったが、彼女は悪魔の儀式について情報を求めていた。
王立図書館ではなにも手がかりを掴めなかったので、女神教の教えが細かく記された書物がたくさん置かれている教会に足を運ぶ予定だったのだ。
「だから、予定を変えるわ。教会ではなくベロルニア公爵家に行きます」
「……。あの男もよく分かんないよな。我が妹ながら、リズのどこがいいのか全く分からない。見た目は綺麗かもしれないが、社交界には見た目も中身も綺麗な女は──少なくともリズより性格のいい女はほかに沢山いる」
「お兄様?」
リズが強く睨みつけると、ロビンは両手を上げた。降参、という意味だろう。
「わかったよ、アトソン伯爵の──えーと、デストロイとか言ったっけ?俺、あいつ好きじゃないんだよな。鼻につくというか……」
ロビンのそれは、女にモテるデストロイへの僻みのように感じたがリズは黙っていた。
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