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変わるもの、変わらないもの 3
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三日後、リズは招かれたアーロン侯爵家のタウンハウスへと向かった。
覚悟さえ決めてしまえば、あとは行動あるのみで、彼女は残された時間制限について考えていた。
(あの『悪魔の日』まであと一年。どうして彼らが私を狙ったのかは全く不明……)
リズがあの日を悪魔の日、と呼ぶのは彼らが悪魔の儀式を行うと言い、リズを生贄に捧げると話したからだ。
まずは、その『悪魔』について調べるべきだろう。
(悪魔といえば悪魔病をすぐに連想させるけど……)
原因不明の未知の病。
感染率は低いが、感染経路すら不明で、その症状は指先からゆっくりと壊死し、最終的には肉体が腐り落ちて死んでしまう、というもの。
悪魔病と、『悪魔の儀式』には何らかの関係があるのだろうか。
そう考えていると、アーロン侯爵家へ着いた。
馬車寄せに馬車を止めて、御者の手を借りてリズは下車した。
「久しぶり、リズ……!元気そうでよかったわ!」
開口一番、アマレッタはリズを抱きしめた。
リズは彼女に挨拶のハグを返しながら、苦笑する。
「ごめんなさい、アマレッタ。少し風邪を引いてしまっていて」
……ということにしてある。
リズは、たちの悪い風邪を引いてしまったので、社交の場には欠席する、という筋書きにしていたのだ。
それも、長く使い続けられるものではないが。
リズの言葉に、アマレッタは眉を下げた。
「もう大丈夫なの?季節の変わり目だものね。さいきん、冷え込みが激しいし……。あ、こんなことしている場合ではないわね。早く行きましょ。あなたが来るって聞いて、シェフが張り切って料理を作ってくれたの」
アマレッタの案内に従って向かうと、庭園の真ん中に造られた東屋には、既にアフタヌーンティーの用意が整えられてあった。
シェフがよりをかけて作った、というだけあり季節のデザートや目を楽しませる色合いの軽食がティースタンドに並んでいる。
執事に椅子を引かれて、リズも席に着く。
熱い湯の入ったポットがワゴンに乗せられて運ばれてきて、令嬢ふたりのティータイムは始まった。
しばらくふたりは食事と珍しい紅茶を楽み、社交界の噂話などに興じていたが、ティースタンドの最下段に乗せられていたサンドイッチが無くなった頃、おそらく頃合を計っていたのだろう。アマレッタが真剣な顔をして声を潜めた。
「……ねえ、リズ。今日はあなたに聞きたいことがあるの」
「あななが何を聞きたいのか、だいたい予想がつくわ」
「あら、それなら遠慮しないで聞いてしまおうかしら。あなた、ベロルニア公爵とはどうなってるのよ」
世間話から始まったティータイムだが、本命はこれだろう。
アマレッタが気になるのも当然だとリズは苦笑した。
「ヴェートル様?それなら、特に何も無いわよ?」
「嘘、婚約の話は?」
リズは返答に困り、紅茶を口にした。
さっぱりとした香りのカモミールティーは、カモミール以外にも何種類かハーブをブレンドしているようで、花の香りがした。
「ちょっと、どういうことなの?あなた、ベロルニア公爵を慕ってらしたじゃない。前だって、次いつ会えるかしら?って私にも聞いてきて……」
リズは、以前アマレッタと会った時のことを思い出した。
あの時のリズは、まだ未来を知る前だった。
ただ、未来への希望と、結婚への夢だけを胸に抱えた向こう見ずで夢見がちな少女だったのだ。
「……ねえ、アマレッタ」
「なあに?公爵と何があったか、教えてくれる気になったの?」
「何も無いわ。それより、あなたに聞きたいことがあるの」
リズが少しだけアマレッタに顔を近づけると、アマレッタも真剣な話だと気がついたのだろう。
ティースタンドの二段目の更皿乗った、スコーンに手を伸ばしていたが引っ込め、膝の上に置いた。
覚悟さえ決めてしまえば、あとは行動あるのみで、彼女は残された時間制限について考えていた。
(あの『悪魔の日』まであと一年。どうして彼らが私を狙ったのかは全く不明……)
リズがあの日を悪魔の日、と呼ぶのは彼らが悪魔の儀式を行うと言い、リズを生贄に捧げると話したからだ。
まずは、その『悪魔』について調べるべきだろう。
(悪魔といえば悪魔病をすぐに連想させるけど……)
原因不明の未知の病。
感染率は低いが、感染経路すら不明で、その症状は指先からゆっくりと壊死し、最終的には肉体が腐り落ちて死んでしまう、というもの。
悪魔病と、『悪魔の儀式』には何らかの関係があるのだろうか。
そう考えていると、アーロン侯爵家へ着いた。
馬車寄せに馬車を止めて、御者の手を借りてリズは下車した。
「久しぶり、リズ……!元気そうでよかったわ!」
開口一番、アマレッタはリズを抱きしめた。
リズは彼女に挨拶のハグを返しながら、苦笑する。
「ごめんなさい、アマレッタ。少し風邪を引いてしまっていて」
……ということにしてある。
リズは、たちの悪い風邪を引いてしまったので、社交の場には欠席する、という筋書きにしていたのだ。
それも、長く使い続けられるものではないが。
リズの言葉に、アマレッタは眉を下げた。
「もう大丈夫なの?季節の変わり目だものね。さいきん、冷え込みが激しいし……。あ、こんなことしている場合ではないわね。早く行きましょ。あなたが来るって聞いて、シェフが張り切って料理を作ってくれたの」
アマレッタの案内に従って向かうと、庭園の真ん中に造られた東屋には、既にアフタヌーンティーの用意が整えられてあった。
シェフがよりをかけて作った、というだけあり季節のデザートや目を楽しませる色合いの軽食がティースタンドに並んでいる。
執事に椅子を引かれて、リズも席に着く。
熱い湯の入ったポットがワゴンに乗せられて運ばれてきて、令嬢ふたりのティータイムは始まった。
しばらくふたりは食事と珍しい紅茶を楽み、社交界の噂話などに興じていたが、ティースタンドの最下段に乗せられていたサンドイッチが無くなった頃、おそらく頃合を計っていたのだろう。アマレッタが真剣な顔をして声を潜めた。
「……ねえ、リズ。今日はあなたに聞きたいことがあるの」
「あななが何を聞きたいのか、だいたい予想がつくわ」
「あら、それなら遠慮しないで聞いてしまおうかしら。あなた、ベロルニア公爵とはどうなってるのよ」
世間話から始まったティータイムだが、本命はこれだろう。
アマレッタが気になるのも当然だとリズは苦笑した。
「ヴェートル様?それなら、特に何も無いわよ?」
「嘘、婚約の話は?」
リズは返答に困り、紅茶を口にした。
さっぱりとした香りのカモミールティーは、カモミール以外にも何種類かハーブをブレンドしているようで、花の香りがした。
「ちょっと、どういうことなの?あなた、ベロルニア公爵を慕ってらしたじゃない。前だって、次いつ会えるかしら?って私にも聞いてきて……」
リズは、以前アマレッタと会った時のことを思い出した。
あの時のリズは、まだ未来を知る前だった。
ただ、未来への希望と、結婚への夢だけを胸に抱えた向こう見ずで夢見がちな少女だったのだ。
「……ねえ、アマレッタ」
「なあに?公爵と何があったか、教えてくれる気になったの?」
「何も無いわ。それより、あなたに聞きたいことがあるの」
リズが少しだけアマレッタに顔を近づけると、アマレッタも真剣な話だと気がついたのだろう。
ティースタンドの二段目の更皿乗った、スコーンに手を伸ばしていたが引っ込め、膝の上に置いた。
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