8 / 75
変わるもの、変わらないもの 2
しおりを挟む「お返事を書くわ。書いたら呼ぶから、下がっていていいわ」
リズの言葉に、アンは頷いた。
アンが部屋を出ると、リズは飾り細工の美しい、見栄え重視のコンソールテーブルへと向かった。
アマレッタの手紙には、誘いが嬉しいということと、ぜひ招待を受けたいという旨をしたためる。
ベルを鳴らしてアンを呼ぶと、リズは父公爵に手紙を持って行ってもらうよう伝えた。
娘の手紙は公爵である父がすべて検閲する手筈となっている。
そして、手紙の内容を確認後、父公爵自らシーリングスタンプとしてシグネットリングを蝋に押すのだ。
アマレッタとのお茶会は三日後。
リズにとって久しぶりの外出となるが、いつかは足を踏み出さなければならないと感じていた。
逃げてばかりではいけない。
現状をどうにかするために、動かなければ、と。
父公爵は夕食の席で、リズの手紙に触れた。
ずっと塞いだ様子で、時にはひどい悪夢にうなされる娘を心配していたのだろう。
「アーロン侯爵家で羽を伸ばしてきなさい」
と父公爵は満足そうに笑った。
その隣に座るリズの腹違いの兄は、優雅な仕草でステーキを切り分けると、呆れたような顔をする。
「反抗期はようやく終わったのか?」
「そんなものではないわ」
兄には、リズの奇妙な行動を思春期特有の反抗期だと思っていたようだ。
腹違いの兄は、リズに良くしてくれるのだが、いかんせん大雑把で、雑なところがある。
「楽しんでらっしゃいね」
最後に母に優しい言葉をかけられ、リズは申し訳ない気持ちになった。
自分はどうやら、家族にとても心配をかけていたらしい。
(もう引きこもるのは終わりにしよう。まだ『悪魔の日』まで時間はあるのだから……。せっかく、時が巻き戻ったのよ。神が与えてくださったせっかくのチャンス。今度こそ違う未来を迎えるの。ただ、殺されて終わりだなんて、そんな終わり方は絶対いや……!)
まだ怖いものは怖いし、ヴェートルに顔を合わせるのは難しいが……それでも、できるところから始めるべきだ。
「お兄様、お父様、お母様」
それぞれ呼びかけると、三人がリズを見た。
リズはできる限り、自然な笑みを浮かべるよう心がけた。
「ご心配おかけしてしまい、申し訳ありません。ですが……もう気を患うようなことはいたしません。今までのように、前を見て、私なりに頑張ってみますわ」
「……空回りするなよ?」
兄のロビンがため息まじりにリズを見た。
呆れたような顔だが、その目はたしかに彼女を心配していた。
「リズ、無理はしなくていい」
「不安なことがあったら、お母様にお話するのよ」
「ありがとうございます」
リズはにっこり笑った。
ただの夢だと思ったものが、自身の体験した過去だと気がついたあの日から、リズは恐れに囚われ身動きが出来ずにいた。
だけど、ただ怖がって震え、うずくまるのはもうやめにしよう。
(今、できることから始めるの)
何よりリズはもう二度と、あんな恐ろしい死を迎えたくない。
83
お気に入りに追加
616
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる