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変わるもの、変わらないもの 2

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「お返事を書くわ。書いたら呼ぶから、下がっていていいわ」

リズの言葉に、アンは頷いた。
アンが部屋を出ると、リズは飾り細工の美しい、見栄え重視のコンソールテーブルへと向かった。
アマレッタの手紙には、誘いが嬉しいということと、ぜひ招待を受けたいという旨をしたためる。
ベルを鳴らしてアンを呼ぶと、リズは父公爵に手紙を持って行ってもらうよう伝えた。
娘の手紙は公爵である父がすべて検閲する手筈となっている。
そして、手紙の内容を確認後、父公爵自らシーリングスタンプとしてシグネットリングを蝋に押すのだ。

アマレッタとのお茶会は三日後。
リズにとって久しぶりの外出となるが、いつかは足を踏み出さなければならないと感じていた。
逃げてばかりではいけない。
現状をどうにかするために、動かなければ、と。

父公爵は夕食の席で、リズの手紙に触れた。
ずっと塞いだ様子で、時にはひどい悪夢にうなされる娘を心配していたのだろう。

「アーロン侯爵家で羽を伸ばしてきなさい」

と父公爵は満足そうに笑った。
その隣に座るリズの腹違いの兄は、優雅な仕草でステーキを切り分けると、呆れたような顔をする。

「反抗期はようやく終わったのか?」

「そんなものではないわ」

兄には、リズの奇妙な行動を思春期特有の反抗期だと思っていたようだ。
腹違いの兄は、リズに良くしてくれるのだが、いかんせん大雑把で、雑なところがある。

「楽しんでらっしゃいね」

最後に母に優しい言葉をかけられ、リズは申し訳ない気持ちになった。
自分はどうやら、家族にとても心配をかけていたらしい。

(もう引きこもるのは終わりにしよう。まだ『悪魔の日』まで時間はあるのだから……。せっかく、時が巻き戻ったのよ。神が与えてくださったせっかくのチャンス。今度こそ違う未来を迎えるの。ただ、殺されて終わりだなんて、そんな終わり方は絶対いや……!)

まだ怖いものは怖いし、ヴェートルに顔を合わせるのは難しいが……それでも、できるところから始めるべきだ。

「お兄様、お父様、お母様」

それぞれ呼びかけると、三人がリズを見た。
リズはできる限り、自然な笑みを浮かべるよう心がけた。

「ご心配おかけしてしまい、申し訳ありません。ですが……もう気を患うようなことはいたしません。今までのように、前を見て、私なりに頑張ってみますわ」

「……空回りするなよ?」

兄のロビンがため息まじりにリズを見た。
呆れたような顔だが、その目はたしかに彼女を心配していた。

「リズ、無理はしなくていい」

「不安なことがあったら、お母様にお話するのよ」

「ありがとうございます」

リズはにっこり笑った。
ただの夢だと思ったものが、自身の体験した過去だと気がついたあの日から、リズは恐れに囚われ身動きが出来ずにいた。
だけど、ただ怖がって震え、うずくまるのはもうやめにしよう。

(今、できることから始めるの)

何よりリズはもう二度と、あんな恐ろしい死を迎えたくない。
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