44 / 55
ロウディオ
エピローグのその前に 3.5
しおりを挟む
─────────────
1月3日
ソフィアが愛おしくて、同じくらい憎い。
きみも僕と同じくらい苦しめばいい。
ソフィアの肩を抱いたのはレンゼル大臣だった。あのハゲオヤジ、立場を理解していないのだろうか?していないんだろう。でなければ王太子妃に気安く触れることなどしないはずだ。
次の議会が、彼の最後の出席日となるだろう。
1月10日
今日は腹が立つ日だった。ヴィンセン伯爵とかいう好色野郎。ソフィアに話しかけるなんて随分調子に乗ってるじゃないか。しかもソフィアは話しかけられて頬を染めていた。彼女には王太子妃としての自覚がないのか?ああ、いらいらする。
1月16日
今日思ったが、ソフィアは紳士のような振る舞いに弱いのかもしれない。思えば僕はいつも軽い空気で彼女に話しかけていた。このままヴィンセン伯爵に取られのは許せない。
慣れないが、まずはソフィアのことをきみ、と呼ぶところから始めることにした。なれない言葉に歯が浮きそうだが、ソフィアは驚いた顔をして、頬を赤く染めた。こんなのがいいのか?よく分からない。僕は距離ができたようで余計苦しいだけだ。
5月6日
香水臭いサンスティ夫人だが、夫を早くに亡くしたからか妙にベタベタしてくる。僕は乱交など興味ないのだから諦めて欲しい。いや、あの手の女が望むのは僕の地位か。あんな下品な女に欲情するなど女神が夫の浮気を許すくらいありえない話だ。
5月10日
会議のおりに子供はまだかといちいち言われるのが鬱陶しい。世継ぎは必要だが、猫の子のようにあちこちで子供を作れば後の王位継承争いが激化するだけだろう。そもそも妻はソフィア以外不要だと言ってるのに、いつになったら理解するんだ?
5月21日
ソフィアがようやく僕を意識した。あのしつこいサンスティ夫人だが、今だけは彼女に感謝している。夜会で、彼女がべたべた距離を詰めるところをみたソフィアが眉を寄せた。
やはり何も言わなかったけど、不快だったということは、僕を少しは好きなのだろうか?僕が好きなのはきみだと告げても、ソフィアは笑うだけで言葉を返しはしない。いつになったらソフィアは僕に愛を返してくれるんだろう。
6月21日
ソフィアは僕が女性と気安く接する時に限って、眉を寄せる。何も言わないけど、明らかに嫌がってるんだろう。言えばいいのに。きみが一言言えば、僕は彼女たちとの触れ合いを一切無くすのに。ソフィアは何も言わない。
8月6日
ソフィアはやはり、泣くところが一番かわいい。泣きそうになる表情を見ると、彼女の愛を感じられる。
8月14日
紳士のように振る舞うと最初こそ顔を赤らめていたソフィアだけど、だんだん寂しげな笑みを浮かべるようになった。
今日の彼女はそれがより顕著だ。
きっと、デーテル夫人との話を聞いたんだろう。デーテル夫人とは確かに話をしたし、気安い空気を作って見せた。ソフィアが誤解しているのは知っている。だけど、誤解させておけばソフィアは僕への愛情を見せる。やめられない。
その日は閨事の日と決まってるわけではなかったのに、つい彼女を抱いてしまった。愛してるよ、と言えば彼女は笑うだけだ。
決して愛の言葉は返さない。腹が立つ。お前が憎い。その細い首をしめてしまいたいと思ってることは、きっとお前は知らないんだろうな。知らなくていい。
僕がきみを殺すか、きみが僕を殺すか。どちらでもきっといい結末になる。そう言ったら、今度こそソフィアは僕を見限るだろう。
─────────
十八歳の日記から二十歳までの日記は似たような文章が続き、さらにその内容は酷くなっていった。香水の匂いをつけて、ほかの娘の存在を匂わせて、ソフィアを抱く。そうすれば、彼女は悲しそうな顔をするから、その時だけ愛を感じた。
歪んでいる。そうとしか言いきれない。
だけど僕は、二十五歳の僕に失望すると同時に、言いようのない恐れを感じた。
二十歳の日記に手を伸ばす。婚姻して二年が経過する。
1月3日
ソフィアが愛おしくて、同じくらい憎い。
きみも僕と同じくらい苦しめばいい。
ソフィアの肩を抱いたのはレンゼル大臣だった。あのハゲオヤジ、立場を理解していないのだろうか?していないんだろう。でなければ王太子妃に気安く触れることなどしないはずだ。
次の議会が、彼の最後の出席日となるだろう。
1月10日
今日は腹が立つ日だった。ヴィンセン伯爵とかいう好色野郎。ソフィアに話しかけるなんて随分調子に乗ってるじゃないか。しかもソフィアは話しかけられて頬を染めていた。彼女には王太子妃としての自覚がないのか?ああ、いらいらする。
1月16日
今日思ったが、ソフィアは紳士のような振る舞いに弱いのかもしれない。思えば僕はいつも軽い空気で彼女に話しかけていた。このままヴィンセン伯爵に取られのは許せない。
慣れないが、まずはソフィアのことをきみ、と呼ぶところから始めることにした。なれない言葉に歯が浮きそうだが、ソフィアは驚いた顔をして、頬を赤く染めた。こんなのがいいのか?よく分からない。僕は距離ができたようで余計苦しいだけだ。
5月6日
香水臭いサンスティ夫人だが、夫を早くに亡くしたからか妙にベタベタしてくる。僕は乱交など興味ないのだから諦めて欲しい。いや、あの手の女が望むのは僕の地位か。あんな下品な女に欲情するなど女神が夫の浮気を許すくらいありえない話だ。
5月10日
会議のおりに子供はまだかといちいち言われるのが鬱陶しい。世継ぎは必要だが、猫の子のようにあちこちで子供を作れば後の王位継承争いが激化するだけだろう。そもそも妻はソフィア以外不要だと言ってるのに、いつになったら理解するんだ?
5月21日
ソフィアがようやく僕を意識した。あのしつこいサンスティ夫人だが、今だけは彼女に感謝している。夜会で、彼女がべたべた距離を詰めるところをみたソフィアが眉を寄せた。
やはり何も言わなかったけど、不快だったということは、僕を少しは好きなのだろうか?僕が好きなのはきみだと告げても、ソフィアは笑うだけで言葉を返しはしない。いつになったらソフィアは僕に愛を返してくれるんだろう。
6月21日
ソフィアは僕が女性と気安く接する時に限って、眉を寄せる。何も言わないけど、明らかに嫌がってるんだろう。言えばいいのに。きみが一言言えば、僕は彼女たちとの触れ合いを一切無くすのに。ソフィアは何も言わない。
8月6日
ソフィアはやはり、泣くところが一番かわいい。泣きそうになる表情を見ると、彼女の愛を感じられる。
8月14日
紳士のように振る舞うと最初こそ顔を赤らめていたソフィアだけど、だんだん寂しげな笑みを浮かべるようになった。
今日の彼女はそれがより顕著だ。
きっと、デーテル夫人との話を聞いたんだろう。デーテル夫人とは確かに話をしたし、気安い空気を作って見せた。ソフィアが誤解しているのは知っている。だけど、誤解させておけばソフィアは僕への愛情を見せる。やめられない。
その日は閨事の日と決まってるわけではなかったのに、つい彼女を抱いてしまった。愛してるよ、と言えば彼女は笑うだけだ。
決して愛の言葉は返さない。腹が立つ。お前が憎い。その細い首をしめてしまいたいと思ってることは、きっとお前は知らないんだろうな。知らなくていい。
僕がきみを殺すか、きみが僕を殺すか。どちらでもきっといい結末になる。そう言ったら、今度こそソフィアは僕を見限るだろう。
─────────
十八歳の日記から二十歳までの日記は似たような文章が続き、さらにその内容は酷くなっていった。香水の匂いをつけて、ほかの娘の存在を匂わせて、ソフィアを抱く。そうすれば、彼女は悲しそうな顔をするから、その時だけ愛を感じた。
歪んでいる。そうとしか言いきれない。
だけど僕は、二十五歳の僕に失望すると同時に、言いようのない恐れを感じた。
二十歳の日記に手を伸ばす。婚姻して二年が経過する。
92
お気に入りに追加
974
あなたにおすすめの小説
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる