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ロウディオ

エピローグのその前に 7

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「何が恋なのか分からない……と。そう仰ったことがあった。私に触れる手は優しかった。だけど……きっともう、その頃には彼は私を見ていなかった。優しさは、時にひどく残酷ね。私は仮初の愛に満たされる日々を演じた」

(何が恋なのか……。そう言って、ソフィアの本心を知りたかったのか……?)

日記しか読んでない僕には分からない。だけどその推測はあながち間違いではないように感じた。僕は確かめるように彼女に言う。

「本当に、未来の僕はお前じゃない女と遊んでた?」

二十五歳のロウディオは、ソフィア以外の娘と体の関係はなかったと日記に綴っていた。あれが嘘でなければ、恋人などうそっぱちだ。自分しか読まない日記に偽りなど記すはずがない。僕はほぼ確信を持ってソフィアに尋ねる。

ソフィアは僕の質問には答えずに、はっと思い直したように謝った。

「昨日はごめんなさい。言うべきだった、私たちのこと。貴方は当事者なんだもの。知っておくべきだったわ」

「…………」

「貴方の言う通り、私たちは上手くいっていなかった。だけど、私たちの間に夫婦の関係はあった……。殿下、もう一度尋ねますが、相手は私でよろしいのですか?」

ソフィアこそ。お前こそ、どう思ってるの?
それが聞きたかった。ソフィアの性格を考えれば嫌だと答えることは無いだろう。彼女なら、義務だと答えることだろう。

「……ソフィアは、僕のことが嫌いじゃないの?」

「嫌い……?」

ソフィアは僅かに自嘲げな笑みを浮かべる。

「嫌いだったら、協力などしていませんわ」

「だけど……。どうして?ソフィアは酷いことされたんだろ。なのにどうして、嫌いにならないの?どうしてソフィアは……!どうして……僕は、そんな……。嘘だ。嘘だよ、ソフィア。きっと嘘だ。僕はだって、ずっとソフィアと」

ソフィアとだけとしか、関係を持っていなかった。
さすがにそれを口にするのは照れが勝っていえなかったし、何より、日記の内容を暴露することは憚られた。突然日記の内容を告白されても、相手が二十五歳のロウディオではなく僕であることにソフィアは混乱するだろう。魔女の呪いがある今、ソフィアに混乱を抱かせるような真似はしないべきだと思った。

「……なにかの、間違いだ」

苦肉の策で、それだけ告げる。

しかしソフィアからしてみれば十三歳の僕が、必死に言い繕って、二十五歳のロウディオを庇おうとしているようにしか見えないのだろう。
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